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その日はいつかやって来る

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14

「じゃあ、ベスパが起きる前に最後の仕事だ」

「今度は何をするつもりだ?」

「今のままだったら、帰る道が無いだろ」

 そうだ、確かに帰り道は無くなっている。 地球その物が動いてしまったので、アクセスポイントを再構築しなければならない。 これは大変な作業だ。

「アクセスポイントの修復開始」

『了解、乱れた言葉を再び一つに!』

 何か簡単な事のように言われてしまったが、これも人間だった頃の建設の賜物なのだろう。

 再び軌道リングが作動し、新しい地脈に沿ってアクセスポイントが作られて行く。 バベルの塔が逆なら、その効果も逆。 そうか、この地表に書かれた紋様にはこんな意味があったのか。

『不寛容と、偏見と、独善を消し、新たな秩序を。 聖なるマリアの名の元に!』

 宗教、思想、言語、人種、全ての混乱の元が一つの聖女によって統一されて行く。 余りに当然の事で、人間達も忘れているだろうが、今も子供を育て、教育しているのは全てマリア型アンドロイドだ。

 世界中で母として存在し、男なら一度は恋をして、永遠にその面影を追い続ける。 女でも、母として、理想の女性像として、その姿を真似る。

 既に数世代前から、人間はマリアの名の元に、思想も教育も統制されていたのだ。 そしてこれからは、マリアの亜種、隊長とグレートマザーに支配を受ける事になる。

 それは人間にとって、決して不快な物では無いだろう。 ここにいる「羊飼い」は、この世を去る事になるが…

『ヒトの時間に終わりを、宇宙に撒かれた新たな種に祝福あれ』

 今は我々のために、人間の幸福と快楽のみが収穫されている。 以前のこいつの尽力で、この世には飢餓も貧困も存在しないのだから。

 皮肉な物だ。 神の救世主により支配された時代には、人口の増加や大規模な発展と共に、戦争と飢餓と疫病。 つまり、神が必要とする穢れが収穫され、魔族側の救世主であるアシュタロスが悪しき者達を連れ、その快楽を一身に背負って旅立った後、こいつにより与えられた秩序の元では、豊かさが与えられ、人口の減少と文明の衰退が始まった。

 アシュタロス事件以降、「人間」は減少の一途を辿っている。 人は永遠の命を求め、機械となってプログラムと化し、残った者もマリアに恋をして、永遠の愛を誓った者達は、迫害を逃れて月に登り、同じ機械となって外惑星に向かった。 こうして人類が自然に旅立って行くなら、人間と地球はその役割を終えた事になるだろう。

『機能を失ったマリア達の魂を回収します』

 先日の事故でも、マリアの残骸を持って修理を懇願した者には、いつものように「ドクターカオスの弟子」から知らせがあり、命も財産も投げ打つ覚悟があるなら、「最愛の人」が戻されるのだろう。

 マリアと完全に同化する者、一つのプログラムになる者、別離を恐れず二つのボディーから、新たな亜種を産み出そうとする者。

 永く生きて来たが、この転換期の中心に位置出来た事に感謝しよう。 ただの傍観者ではあったが、どの歴史書にも書かれる事の無い事実を、この目で見る機会を与えられたのだから。

 それとも私は、彼の人の弟子のように、僅かな金貨のために、こいつを売るのだろうか? それとも毒剣で刺し、この命を奪う日が来るのだろうか? そうならない事を祈る。

『以上でドクターカオスの計画が全て終了しました。 新たなアクセスポイントに向けて発進、いえ、帰還します』

「そうか、地球も久しぶりだな」

 まるで、嫌な物でも見るように、自分の故郷を見ているあいつ。 やがて、「ベスパの逆天号」は、南米のアクセスポイントに帰還した。


「逆天号、俺達を出して小さくなれ、俺が「アクティブ」って言うまで眠っていいぞ」

『了解、スリープモードに移行。 以後必要な物資があれば、自動で転送されます』

「ああ、ご苦労さん」

 乗組員全員が外に転移させられ、まだフラフラしているベスパとパピリオも、一緒に外に降ろされた。 そこに、私のバックアップをしていた隊の、指揮官達がやって来てベスパに声を掛けた。

「よくやった、ベスパ。 これは勲章物、いや2階級特進だっ!」

(ああ、もうお腹一杯… 上からも前と後ろからも、「もう入んないっ」てぐらい飲まされたから、アシュ様妊娠してるかな? あ、髪の毛にも精*付いてる)

 駆け寄って来た上官に話し掛けられても、余韻で顔を赤らめたままで、何も聞こえていないベスパ。 その腹は、私と同じように「何か」が詰め込まれて、妊娠初期のように膨らんでいた。

「ベスパはまだ回復していない、爆発で聴力も低下しているので、しばらく待ってやれ」

 フォローを入れて、「ご主人様」のご機嫌を取ろうとした私。 あの頃は、暫くあんな感じだったな。

「そうか、ゆっくり休むといい。 今後の配属も、お前の思う通りにしてやる」

「じゃあっ、ポチの部下がいいっ!」

 その言葉にだけは、はっきり答えてしまったベスパ。 こいつは自分がどう言う状況なのか、全部ばれても構わないらしい。

 しかし、呼び方がまだ「ポチ」だ、きっと私と同じように命令されたんだろう、「これからもポチで呼べ」と。

「何だって? あの人間の部下? あれを部下に欲しいと言う意味か?」

 こいつは本当の馬鹿だ、人間に惑星の浄化や、魔体の建造が出来ると思っているらしい。 それともあれが見えなかったのか、「見えない」ようにされたのか? まあ、どちらにしろ上層部も、使いやすい小役人を出して、生贄にされても構わない部隊を送り出したのだろう。

「どっちでも構わない、でも、これからずっと、ポチと一緒にいたい」

「そうか、これから何か、重要な作戦があるようだからな、お前さえそのつもりなら構わないだろう。 しかし、お前の逆天号はどうする?」

 逆天号が誰の肩に泊まっているかも見えないのか? このままでは「人間」に対して無礼な態度を取りかねない、一言注意して置かねばなるまい。

「ベスパは魔神である「あの方」に同行したいと言っているのだ。 もちろん勝ったのもあの方で、ベスパの逆天号は大破して、あちらの逆天号に同化された。 神族に文句を言わせないため、公式記録では逆に記述されるが、事実を誤認するな。 もし、あの方や同行者に不敬な態度を取れば、この部隊は全滅する。 部下にも徹底しておくようにな」

 もし、神無に無礼を働けば実力で、シルクや朧に乱暴しようとすれば、あいつがアクセスポイントごと消滅させるだろう。 まあ、どんな馬鹿でも、近寄れば勝てないのは分かるだろうが。


「ねえ、ポチ…」

「何だパピリオ? 「女の子の大切な物」を返せって言われても、もう返せないぞ」

 それを聞いて、耳を「象さん」にした神無と朧が近寄って来る。 これが破滅の足音か?

「ううん、本当はこの棒、ポチに渡すようハヌマンに言われたんでちゅ… だからはいっ」

 戦いも終わり、師匠の言いつけを思い出したのか、悲しそうに、とても辛そうに、目を背けながら棒を渡そうとするパピリオ。 

「天界で暴れて来いって意味か? いらないよ、お前が持ってろ。 その輪っか、キンコキョウだったか? それも結構似合ってるぞ …サルみたいで」

「えっ、いいんでちゅか?」

「おいおい、サルって言われたんだから、ちょっとは怒れよ」

「ハヌマンみたいで格好いいでちゅ」

「そうか、お前とは気が合ったんだな、もしかしてデキてたのか?」

「違うでちゅ、鍛錬の時は厳しくても、おじいちゃんみたいに優しくて、暖かかったでちゅ… でもこれだけはポチに渡せって」

「じゃあ一回貰った、だからお前にやる、これでいいだろ? 俺には魔装術もバンパイアの力も有るからな」

「…うんっ!」

 満面の笑顔で棒を受け取るパピリオ、これでもう、こいつは裏切る事は無いだろう。 こうして、魔界を荒らすはずだった男はその役を逃れ、儀式にも終わりが近付いて来た。

「その替わり、一生パピリオの体で払って貰おうかな?」

「いいでちゅよ」

「「「「「何っ!」」」」」」

 胸の辺りを触られても、まだ笑っているパピリオ。 その冗談は神無の前でやるな。

「素で返すな、ここは「エッチ」とか「スケベ」と言って、如意棒で殴るのがお約束だ」

「うん、でもいいでちゅ」

「パピリオ、お前、何言ってるか分かってるのかい?」

「ふふっ、甘いでちゅねアズエル、エディフェルが死んだ後、次郎衛門の妻になるのは、妹のリネットと相場は決まってまちゅよ」

 ちなみに、私は偽*者のリズエルではないぞ。 それは多分、小竜姫だ。 胸の大きさも含めて…

「訳の分からない事を言うなっ、私は既にヨコシマの妻だ。 月神族に苗字は無いが、私の名は「横島神無」だと女王も認めている」

「え~っ、じゃあ私も「横島朧」よ」

「違う、お前は私の予備として体だけ送られたのだ、だから魂の恋人、永遠の本妻は私だけだ」

「なんですって~~っ!」

「あの… 私、前世では何度も、叔父様の妻だったそうです、だから…」

「「お(あなた)は黙っていろ(いて)」」

「ご、ごめんなさい…」

 あの二人に唯一対抗できそうなシルクも、あっさり撃墜されてしまった。 誰かこの抗争を終わらせて、私に休暇をくれ、もうゆっくりと休みたい。 あ… 産休でもいいかも(ポッ)

「じゃあハヌマンは、他の女にに取られる前に、お前が産みなおしてやるか」

「そ… 絶対そうするでちゅ! あたちが教えて貰った技で… また鍛えてやるでちゅ…」

 そう言われ、頭を撫でられると、ボロボロと涙を流し始めたパピリオ。 二人とも、大切な人の復活が望みらしい。

「さっきも思いっきりしたでちゅから、これからデキるまで、また毎日するでちゅ」

 卑猥な手付きをして、あいつの股間を撫でるパピリオ。 このメンバーの前でよく言えたな、命が惜しくないのか?

「なんだとっ! いつの間にっ!」

 刀に手をかけて怒る神無。 こいつがキレれば誰も助からない。

「じゃあ、これから神無が一人で24時間、毎日「すりむける」までして、昔みたいに手で蓋して泣くまでするか?」

「あっ、あれは駄目っ、頭がおかしくなっちゃうから… でも、アンドロイドは使っていいけど、生身の女と浮気しちゃ嫌っ」

 急に女言葉になって、股間を押さえる神無。 さっきの私達のように、もの凄い事をされたんだろう。 もしかして、結ばれた後に死んだと言うのは、ヤリ殺されたのか?

「ポチは一晩中するでちゅから、交代でしても足りないでちゅ。 昔、小竜姫も「もう許して」って毎晩泣いてたでちゅから、タマモとか、そこのおキヌも入れないと、体が持ちまちぇん」

「やっぱりそうだったのかっ」

 他の女達も囲って、次々に孕ませて行ったあいつ。 だがルシオラは産まれて来なかった。 ルシオラの名や、メフィストの名が再び歴史に出て来る時、破滅も共にやって来る。 その予言を信じ、こいつの子や母体となる女を殺し、終局を先延ばしにしようとした愚か者も多かったが、それこそが破滅の引き金だったのだ。

「ルシオラを産ませようとした女は、令子みたいに消されたからな。 神族の小竜姫だったらどうなるかと思って何人か生ませたたけど、ルシオラは産まれなかった。 神族やパピリオには無理なんだろうな」

「私より多いじゃないかっ!」

「私に交代してからも、そんなに産んでない~~っ」

 その後、ルシオラの誕生を阻止しようとした者達も、次第に安心し、予言は間違いか、遥か未来の事だと思い始めていた。 終末の魔女を産み出すのが私だと知るのは、これよりまだ先の事。

「あれっ? どうして覚えてないでちゅか? あたちも何人も産んだはずなのに、どうちて?」

「パ~ピ~リ~オ~、お前もか?」

 また銃を抜いてパピリオに向けてしまった私。 今の実力では適わないが、「お約束」はできるようになっていた。

「パピリオと小竜姫は、別れ際に今の俺が割り込んで、全部記憶を消してから出て行った。 そうしないと、いつ消されるか分からなかったし、人間とのハーフも孫も、200年と経たないで死んだ、辛いだけだから思い出さなくていい」

 子供や孫とも死に別れたこいつ。 これが地球を離れた理由。 メトセラとは、人間として死ねないとは、時に苦しいものだ。 下級魔族でも、寿命を短く設定されている者以外は、人間との交配を避けるようになっている。 愚かな人間と交わる者も少ないが、何より、こうなる事が分かっているからだ。

「じゃあ三蔵様、孫悟空も入った所で、ありがたい御経でも貰いに行きますか? サタン様の所まで」

「誰が三蔵だっ、そんな任務じゃない、我々の任務は後ほど発令される。 さっさとアクセスポイントに入れっ」

「そうか、人間界ともお別れだな。 最後にこう言ってから行くんだったかな? 覚えてろよっ、また帰って来て暴れてやるからなっ!」

 こうして… よ~~~~~やく魔界へと旅立つ事が出来た私達。 この大きな事件は記録から完全に抹消されたが、私の心の傷として残る出来事だった。

 化け物のようなアンドロイド達と、二人の元月神族とシルク。 こいつを中心とする特異な空間が、このような大事件を引き起こすのだろう。

 これからの私の任務は、こいつの監視と教育になるが、そろそろ許してくれ。 今後は胃に穴が空くような事態が二度と起こらない事を期待する。
 穴を開けるなら違う場所を… いや、何でも無い、レポート終了。
 
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