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その日はいつかやって来る

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16


 やがて休憩になり、外を歩きながら休んでいた私達。 このように監視する事はできても、どんな行動も止める事はできない、何しろこいつは魔神なのだから。

「へえ、こんなとこで子供が遊んでるのか、軍事基地じゃなかったのか?」
「ここは情報部で確保している民家だ、敷地内は管理されているが、一歩出れば安全は保障出来ない」

 安全を保障できないのは住民の方だ。 それにもし、この中で問題が起こるとすれば、弱い部類に入る私とジークだ。 ベスパは現役、パピリオは修行の成果も有り、当時に近い力を持っている。 シルクは一人で魔体に立ち向かって行く勇気と力が有り 神無は言うまでも無い、朧はどうか知らないが…

「何だか弟や妹を思い出しちゃいました。 私がいなくなっても、みんなちゃんとやってるかな…」
「ああ、隊長とおふくろに頼んでおいたから、今頃は「子育てアンドロイド、シルクちゃん」が帰ってるはずだ、霊感のある子でないと区別できない」
「そ、そうですよね、私みたいな慌てんぼより、アンドロイドの方が子育てには向いてますよね、あははっ」

 泣きながら笑っているシルクを、あいつと朧が慰めている。 しかし子供でも、余程鈍感でない限り、素手で鉄棒を曲げる女が生身だとは思うまい。

 そこにボールが跳ねて来て、それを追って子供が走って来た。

「あ、拾ってあげる」

 何の警戒もせず、ボールに向かって駆け寄り、手を伸ばすシルク。 だがベスパもパピリオも奇妙な表情をして、神無の姿はすでに無い。

「やめろっ! そのボールを取るなっ!」

 私の言っている意味が分からなかったのか、シルクはボールを持ってしまった。 近接信管か遠隔か、種類は分からなかったが、今すぐ爆発してもおかしくない。

「大丈夫、ちょっと後ろを向いてくれ」
「え?」

 あいつはシルクを自分の方に向かせて視界を遮り。 パピリオに手招きすると、如意棒が延びて、走って来る子供を空高く放り上げさせた。

 ズバーーーーン!!
 爆弾はボールでは無く、子供の方だった… 弾むような重量の物に殺傷力は無い。 適当な魔法生物に、炸薬を詰め込めるだけ詰めた方が破壊力は大きい。

「逆天号、アク…」
「待てっ! これは我々の警備上の不備だ、謝罪するっ! 犯人は必ず捕らえるから、この付近の住民を疑うのは止めてくれ、逆天号を起動するのはやめろっ!」

 私は軍人として恥ずかしい。 このような勢力に接近を許したのは勿論の事、どれが危険物なのか咄嗟に判断出来なかったのだ。 問題外のシルクは別として、今はベスパやパピリオにすら劣る自分が恥ずかしい。

「良い招待状だったな。 ただ目がな…」
「何? 破片でも入ったか?」

 こいつが自分の目を指差して撫でている、爆発で負傷したのか、まさかこの程度で?

「いや、人形師としては、あの目の作りは許せなかったな。 泥人形の方がまだマシだ」
「何の話だ…?」

 こいつはこれを「招待状」だと知っている。 本気ならここに砲弾を撃ち込んで、何人か負傷者を出す事も出来た。 私やベスパは死んでいたかも知れない。 しかし、こいつは人形の造形の方が気に食わなかったらしい。

「犯人はこのオッサンでちゅか? どうするでちゅ?」

 すでにパピリオとベスパが、建物の上から木の葉のように降りて来た男を取り押さえていた。 爆発物に気を取られている間に、あいつを始末しようとしたのだろう。 恥ずかしながらこちらにも気付かなかった。

「神無も… あの建物から「見てた」のを倒したって言ってる。 連れて行くか、この場で処刑… するのか、魔界の作法を聞いてる」

「こちらから拘束しに行く、まず尋問したい。 神無には帰って来るよう言ってくれ」

 向こうはパピリオ以上か。 どんなセンサーを働かせたのか知らないが、ここに脅威が存在しないのを確認して、見られていただけで、命令系統の上位を押さえた。 元警官の勘と言うより、人間の科学力、いや、こいつの作る人形とは恐ろしい物だ。

「なあ、あの人形作ったの、あんたか?」
「違う」

 自分達の命が狙われたと言うのに、最初の質問はそれか? もしシルクが持ったボールが破裂していたら… 何も起こらなかったんだろうな。 あの人形も、シルクの目の前で破裂して驚かせたり、羽衣が汚れたりしないよう、放り上げただけなのだろう。

「このメンバー、見ただけで勝てないの分かっただろ? お前も死にに来たのか?」

 ここに死にたい奴などいない。お前か、お前はここに死にに来たのか?

「ギタギタにして白状させるか、だめだったら獄門貼り付け晒し首でちゅ」
「死にたい者は他にいる。 そちらの都合が良ければ案内する」

 そうか、こいつの族長か誰か、老衰で死にそうな奴がいるのだろう。 無様に病死させないための最後の戦い。 その相手に、復活した魔神の噂を聞き付けて、挑戦状を送り付けて来たのか。

「行ってもいいか?」
「そうだな… ここまで進入された上、行かなければお前の面子が立たない。 つまり我々の今後の計画にも支障をきたす。 礼儀にも反するしな」
「じゃあ、案内して貰おうか、死にたい奴の所へ」
「分かった」

 その男は、既に両腕を折られていたのか、ベスパに持ち上げられるように立たされた。

「待て、足も折っておいた方が良さそうだな、そいつは武器の塊だ」

 いつの間にか帰っていた神無が、刀の峰を向けて警戒していた。

「作法では案内役は自分で歩かせるんだよ、地雷や罠が無いように先頭をなっ」
「そうでちゅっ」

 パピリオに蹴り出され、よろけながら2,3歩進む案内役。 この時点でこいつらを無理矢理自白させる訳にはいかなくなった。 喋っても良いのは部族と自分の名だけだ。

「罠か、シルクと朧を置いて行っても危ないな、逆天号で行くか」
「それも駄目だ、先方もあれだけの兵鬼を持っている場合は良いが、無い場合は相手を力で捻じ伏せた事になる。 それでは誰も恭順しない… ジーク、我々は早速挑戦を受けた、これから直ちに討伐に向かう、中央に報告し、移動と野営の準備を」
「はいっ、姉上」

 私と同じく、何も出来なかったジークだが、せめて食料や移動車両は情報部から提供しよう。

「じゃあ、カオスフライヤーならいいか? 魔力障壁のあるキャンピングカーもあるし」
「どの程度の兵器だ? お前やカオスの作る物は桁が違い過ぎる」
「武装は無い、空を飛ぶのと、装甲だけだ。 断末魔砲クラスの砲撃でも、1回なら生き残れる」

 ほぼ反則に近いが、武装が無いのなら構わないだろう。 これだけの挑戦状を送った相手だ、人質を取って名を落とすようなタイプは余りいないはずだ。
 ここで下らない罠を使ったり、人質を取る方法もあるが、今後もそう言う評価を受けたい者に限られる。 まあ、中にはベスパのように名乗りを上げて、一人で来るバカもいるが、大抵の者は正面から戦いを挑んで来る。 防衛陣地を構築して、集められるだけの兵器を並べて。

 途中、何度か武装勢力の襲撃を受けた私達。 もし後継者に指定された相手に不服があるなら、今攻め込んで最後の戦いの前に倒さなければならない。
 案内役に続いて歩いたのは、あいつの他、パピリオとベスパだけ。 神無は「このような箱の中で、攻撃だけ受けるのは嫌だ」と言って、上空を飛んで監視していたが、相手側にあれほどの者はいない。 作法には反するだろうが、手出しは禁止されていたので問題あるまい。

 だが所詮相手は小規模な部族、装甲車両すら持っていなかったようだ。 先程から小型の火器の攻撃しか受けていない。 やがて我々は、襲撃を物ともせず、部族の城塞に辿り着いた。

「ここからは徒歩だ、装甲車両で乗り付けて、護衛に守られて入るような臆病者は歓迎されない」
「そうか、ちょっと行ってくる、中で見ててくれ」
「嫌だ、私も行く」

 また神無が同行したがっているが、こいつの場合、魔法生物になるのだろうか? それとも魂のみでサイボーグとして分類していいのか分からないが、妻だと「言い張る」のなら構わないだろう。

「作法の説明をする者も一名同行させろ、私かジーク、ベスパでもいい」
「じゃあ、腐れ縁でワルキューレに付き合って貰おう、他に出たい奴はいるか?」

 既に半泣きになっている朧と、それをなだめているシルクも手を上げた。 戦闘になる度こうなるのか、それとも可愛く見えるように「演技」しているのか、何となくムカツク。

「あたしも行くよ、ポチに死なれたら、アシュ様が復活できなくなって困るからな、(ポッ)いいだろ?」

 口ではそう言っても、まだ余韻が残っているのか、体が離れられないのか、顔を赤らめるベスパ。 あの時の感想を言ったりすると、今度こそ神無に真っ二つにされるぞ。

「あたちも行くでちゅ」

 こいつは邪魔をしそうなので、連れて行きたくないが、もし乱戦になった時、必要になる。 決めるのはこいつだが。

「じゃあ、神無が行ったら反則だろうから、残ってカオスフライヤーを守っててくれ」
「分かった」

 分かってるじゃないか、神無は装甲車両や魔法生物より強力過ぎる。 連れて行けば、売出し中のこいつの評判が落ちる。

「シルク、運転席にいて、いざとなったら、こいつで乗り込んで救助に来てくれ、いいか?」
「はい、叔父様」

 どちらも素直だな、多分、この城塞の中には、こいつに傷を付けられるような物は無いのだろう。

 初めて別の部族の支配する地域に踏み込んだ私達。 これから暫くは、こんな生活が続くはずだ。 最初は病人と老人の始末をしてやって、力を見せ付けて、名を売って行くと良い。

「城塞の入り口では、部族の者に見せるため、どこかから刺客が来る。 大した攻撃ではないが、ここでやられるようなマヌケは招かれざる客だ」
「そうか、パピリオ以外は遅れて付いて来い、今回は誰も掠り傷一つ負わなければ勝ちだ」
「それと、門の前では名乗りを上げる事になっている、そのまま突き破ってもいいんだがな」
「じゃあ、ジークが言ってくれるか、(ボソッ)セリフも少ない事だし」
「分かりました、では僕が… 聞けっ! 薄汚い小屋に隠れている蛆虫どもっ! ここにおられるのは、先日人間界を浄化した魔神! いいや、魔界に自ら堕ちた大天使と言っても良い恐ろしい方だっ! 本来なら、お前達のようなクズの巣に、足を運ぶような方では無いっ! しかし、今日は特別に、お前らの中で一番汚らしい、死にかけの汚物を処分して下さるっ! この温情が分かる知能があるのなら、すぐにその汚い門を開けろっ!!」

 中々良い口上だ、内容はホラを吹いてもいいのだが、本当の事を言っている所が恐ろしい。 口上が終わると、予想通りマジックミサイルの雨が降って来た。 私やジークは盾も使って防いでいるが、他の者には必要無いようだ。

「突き破ってもいいんだったな、パピリオ、やっちまえ」
「うんっ」

 パピリオが如意棒を構えると、どうやったのか分からないが、城塞の門が吹き飛んだ。 こいつも本当に斉天大聖で、法師であるこいつに付き従っているのかも知れない。

「行くか」

 全員飛行可能なので、案内役を抱えて歩兵用の堀を越えて行く。 パピリオの攻撃で待ち伏せしていた奴らも負傷したのか、不意打ちも無かった。 そこで城塞に入ると、案内役が振り返って、仰々しく挨拶を始めた。

「ようこそおいで下さいました、魔神ヨコシマ殿。 我らの族長がお待ちです、城塞の広場を闘技場としましたので、どうぞこちらへ」
「ああ」

 歓声に迎えられると、この部族の女子供まで広場を囲んでいた。 部族の長の最期を見届けるために、全員集まったのだろう。 数千人いるが、初日からこれだけの人数を恭順させる事が出来ればしめた物だ。

「あいつか?」
「そうだ。 衰えたとは言え、これだけの部族を起こした奴だ、油断はするな」

 広場の中央に、屈強「だった」長が立っていた。 ずんぐりした竜のような体で、背丈は二回りは大きく、腕の太さもあいつの胴体より太い。 まあ、死にかけの相手に、何の心配も無いだろうが。

「はっ! やっと来たかと思えば、まさかお前のような骨と皮だけの小僧とはなっ! そんな力でわしに挑もうとは、片腹痛いはっ! ゴフッ、ゲホッ!」

 言葉通り、片腹が痛いのか、少し叫んだだけで腹を押さえて血を吐く族長、もう永くない。

「ここは作法通り、無様な姿を見せないうちに止めを刺してやれ、いいな」
「ああ…」

 私達から離れ、広場の中央に歩いて行くあいつ。 私達は来客の席に案内されたが、あいつが無作法をした時の人質でもある。 余計な事はするなよ。

「死にたいのはあんたか?」
「フンッ! お前のような虫けらに倒されるわしでは無いっ、ゴフッ、この… 数万の血を吸って来た、戦斧を怖れぬのなら… かかって… 来いっ」

 もう口上も言えないほど衰えている、立っているのがやっと、と言う所か。 早く止めを刺してやれ。

「傷よ… 治れ」
「おおっ!」

 今、何をした? 文珠も使わず言葉だけで族長の傷を治した。 あいつの言葉は現実になる、それは神と同等、既に魔神の力を取り戻しているのか?

 いや、それよりもあいつは、敵の傷を治し、情けをかけ、この部族を侮辱した。 こいつらもそんな事のために、わざわざお前を呼んだのでは無いっ! 死を与えるために呼ばれたのだ。

『何と…』
『殺せっ! 客人も全員だっ!』

 広場の空気が殺気立って来た。 これでお前は、この部族全員を敵に回した。 お前に、ここにいる全員を殺せるか? 女子供まで一人残らず… 私達が生きて帰るには、もうそれしか方法が無い。

「何のつもりだっ! わしの病を治すなどっ! 一族を根絶やしにするつもりかっ!」

 口上では汚い言葉を使っていても、族長にはこいつの力が分かっているらしい。 「たった一人でも、全員殺せる」と。
 しかし、私とジークは命を落とすかも知れない、もうすぐ後ろの奴が襲い掛かって来る。 私達を音も無く消そうとしているようだが、簡単にはやられはせんぞ。
 
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