その日はいつかやって来る
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現在、2隻の逆天号が衝突し、壊れたベスパの逆天号を、新しい方が吸収している。 この煙の中から出るのは1隻だけと言ったあいつ。 パピリオの席は空席だが、ベスパはどうなる、殺すなと言ってはいたが…
「ハニワ兵っ、妖蜂を出しなっ、宇宙でも魔力と根性で飛ばせろっ! 逆天号も駄目なら自沈させて、ポチの逆天号も道連れにして異界に沈めてやれっ!」
「だめでちゅ、もう勝手に動いてまちゅよ」
「何っ? コントロールを奪われてる? どうやって」
やがてデッキに上がったベスパ達がモニターに映され、周りを見回して驚いている表情が見えた。
「ベスパちゃん、あれ」
「何だ、あれは? 妖蜂じゃない」
雲霞の如く周囲を飛び交うアンドロイドを見て、呆然としている二人。
「くそっ! ポチの奴余裕かっ? どうして攻めて来ない、妖蜂と戦わせろっ」
「違う、妖蜂はこっちに来い、その船はもうすぐ吸収される。 おまえ達が帰る場所はここだ」
『発進する妖蜂を確認、回収します』
「待てっ、お前らどこへ行くっ!」
古い逆天号から、こちらにに移って来る妖蜂達。 ベスパより強い念波を送る神無か、死んだ逆天号に代わって、こいつに操られているようだ。
「ベスパさんとパピリオさんですね? 横島君が待ってますから、どうぞこちらへ」
そこで二人の前に、大昔のセーラー服にエプロンという、大気圏外では有り得ない服装の女が転移、いや、目では追えない速度で現れた。
「何者だっ! 人間じゃないな? 宇宙でも平気で… そうか、お前も報告にあったアンドロイドかっ」
「はい、私は小鳩っていいます、凄い旧式ですけど、これでも2500マイトぐらいありますから、大人しくしてて下さいね」
「「2500マイト?」」
手伝いと性処理用のセクサロイドが2500マイト… その程度でなければバラバラになるのかもな。 よく生身の神無や朧が持っていたものだ。
「せやっ、よう言うた小鳩っ、お前はもうドジでノロマな亀やないでぇ、これからは魔界で大輪の花咲かせるんやっ」
「あ、これは友達の貧ちゃん、福の神なんです」
「そんな事はどうでもいいっ、ポチはどこにいるっ!」
コバトの胸倉を掴み、恫喝しているベスパ。 現状を認識していないようだが、そいつはお前より強い。
「ええ、これからご案内します。 でも私には余り触れないで下さいね、私の力は機械でも魔物でも壊してしまう「破滅の手」ですから」
「ひっ!」
ほの暗い手の闇を見せられて、本能的に距離を取ったベスパ。 確かシルクにも同じような事を言っていたな「機械に触るだけで壊すタイプ」だと。
「じゃあ、パピリオさんはこちらへどうぞ、ベスパさんは少しお待ち下さい」
「は、離すでちゅっ!」
「パピリオッ!」
パピリオを小脇に抱えると、また消えたコバト。 ベスパも成すすべも無く見送っていたが、気を取り直して、こちらに向かって飛び始めた。
ビュウウン!
「ぐああっ!」
飛び立って間もなく、古い逆天号の上に叩き落されたベスパ。 そこで画面のノイズだと思っていた所から神無が現れた。
「お前は待っていろと言われたはずだ」
「クソッ! その触角? アタシの妖蜂を盗んだのはお前かっ!」
「人聞きの悪い事を言うな、古い宿主が死んだので、新しい宿主に移っただけだ、下を見て見ろ」
神無に指差され、吸収されて行く逆天号の結合部を見ているベスパ。 神無への警戒は怠っていないようだが、見えない所から攻撃されるような相手なら、戦いにもならない。
「あれは… どうして繋がっているっ?」
「さあな? ヨコシマはこう言っていた、「逆天号とアシュタロスの魔体は同時に2つ存在してはならない」と、そして「俺達が交代する時、あいつも沈む、重なって影となって消える時だ」とな」
「何だって?」
理解出来ない言葉に困惑するベスパ、私の報告を読まなかったな。 それとも故意に聞かされずに送り込まれ、ここで死ぬ運命なのか。
「分からないか? ではこれも教えてやろう。 ヨコシマは「俺はアシュタロスだ」とも言った、「どこの誰だか知らないが、俺達を切り分けて、中身も外見も使命も、全部逆にした奴がいる」と」
「ふっ、バカな、あのポチがアシュ様だと、笑わせるんじゃないよっ!」
神無の口を塞ごうと、エネルギー弾を打ち込むベスパだが、そんな物はかすりもしなかった。 2度目は無駄だと教えるように、掌の中で握り潰され、掻き消された。
「認めたくないようだな。 だが魔体、逆天号、南極基地、全ての符号が重なり合っている、それも正反対に。 では私にも教えてくれないか? お前のアシュタロスは、南極で基地を犠牲にしてまで、何を取り戻したかったのかを」
そう聞かれ、驚いているベスパ。 戦いにもならない状況に絶望する奴ではないが、目の前の見知らぬ女が、アシュタロスとベスパしか知らない、千年前に行われた儀式の目的を聞きたがっていたからだろう。
「知らんっ! そんな物は無かったっ!」
「そうか、殺すなとは言われたが、口を割らせる方法はいくらでもある」
ベスパの全ての攻撃を、虫でも払うようにして、ゆっくり近付いて行く神無。
「おっ、お前は何者なんだっ!」
「横島神無、あの人の妻だ」
神無も、月神族とも警官隊隊長とも名乗らなくなった。 迷惑をかけないためか、それとも他の肩書きは全て不要になったのか。
「友人達の遺言を叶えようとしたのか? それとも摩擦を生み出して、この世界の破滅を防ごうとしていたのか?」
「違うっ、違うっ!」
「そうか、時空の彼方に消えた恋人の、魂だけでも取り戻そうとしていたのだな?」
「言うな~~~っ!!」
狼狽して、何の方策も無く、ただ突っ込んで行くベスパ。 図星だったのだろう、分かりやすい奴だ。
「お前の目と表情が全てを語った、ゆっくり眠るがいい」
「う… あ……」
首の後ろに手刀を打ち込まれ、ベスパが崩れ落ちて行った。 神父のように吹き飛ばなかった所を見ると、手加減はできるらしい。
「横島君っ、パピリオちゃんを連れて来たわっ」
「離すでちゅ!」
「ああ、ご苦労さん、危ないから離れててくれるか?」
「はいっ」
パピリオを置くと、また消えたコバト。 あれを目で追えるようになれば、超加速など問題では無くなるだろう。
「よくも逆天号を壊したでちゅねっ! もう許さないでちゅ!」
ハヌマンの所で修行して、多少の力は付けたようだが、旧式と言ったコバトにさえ、易々とさらわれるようでは問題外だ。 さあ、どう戦う?
「よ~う、パピリオ~、久しぶりだな~、直接やり合うのは何年ぶりだ?」
こちらは当時の弱かった頃が嘘のように、恐ろしいオーラを発散している。 船の中からでも、あいつがどこにいるか、どんな力を持っているか感じられる程だ。
「ひっ! お前、本当にポチでちゅか?」
「そうだ、ルシオラと混ざった後、バンパイアの力と、不死の魔法を教えて貰ったけどな」
「人間のくせに、そんな力が付くはずないでちゅっ!」
「どうした? かかって来いよ、お前に借りがある奴が、どうしても戦いたいらしくてな」
そう言って、また魔装して行くあいつ。 パピリオ如きにその必要は無さそうだが、これも遺言か? いや、カオスと同じで経歴まで調べて、叶えたかった夢は全部叶えようとしているのだろう。
「それ、あたちに南極でグチグチと細かい攻撃した弱っちい奴」
「覚えてたか? 昔は女の前で一発でやられて、恥をかかされたそうだからな。 今度はタイマンでやって勝ちたいらしい」
「何回やっても同じでちゅ… そんなの怖くないでちゅ!」
そう言いながら、どんどん後ろに下がって行くパピリオ。 そうだ、逃げられるなら逃げた方が懸命だ。 ベスパのように簡単にはやられるなよ。
「来ないなら、俺から行くぞ」
「ガッ、ガアアアアアッ!!」
そこで恐怖感に負けたのか、獣のような声を上げてパピリオが巨大化して行った。 ハヌマンに教えられた術か? だがどれだけ力を出しても、あいつには及ばない、大人と子供以上に差がありすぎる。
「行くでちゅっ! ポチーーーーッ!!」
「やれるもんならやってみろっ」
ドンッ! ガアアンッ!
発光しながら巨大な如意棒を振り回すパピリオ。 術と言うより、如意棒を持った者を巨大化させる効果があるのだろう。 そして力の源は、皮肉な事にこの逆天号らしい。
「どうしたっ? まさかその程度じゃないだろうな。 本気を出してみろっ」
「ガアアアッ!!」
超加速はしているが、何とか私の目で追える程度だ。 隊長のようなとんでもない速さではないが、あの破壊力は… この船が先に壊れるんじゃないか? それに一発でも食らったら、あいつもただでは済むまい。
「まだまだだな… ダンピールフラッシュ」
「グオオオオッ!」
如意棒はかすりもしないで、パピリオの手の上に立ったあいつが、ダンピールフラッシュを放った。 小さな傷口から血が噴き出し、その血を受けた逆天号が光っている。 これが儀式、あいつらが生贄なのか?
「ウオオオオッ!」
自分の髪の毛を千切って、周りに撒くパピリオ。 ハヌマンの数多い技の一つ、分身か。
「へえ、そんな事もできるようになったのか、俺には教えてくれなかったのに、よっぽど気に入られたんだな」
元の大きさのパピリオや、巨大なパピリオの分身に取り囲まれ、霧になって消えたあいつ。 そこまで追い詰めただけでも立派なものだ。
「あんまりちょこまか動くなよ、間違えて本物を真っ二つにするかも知れないからな」
「ゴオオッ!」
神通棍を鞭にして、順番に分身を倒して行くあいつ、そこで怯えたのか、雲を呼んで逃げるパピリオ。 いや、速度を上げてこちらに突っ込む気だ。
「それでいい、もし逃げてたら、殺す所だった」
「ガアアアアアアッ!」
一息で十万八千里を飛ぶと言われた雲、それが今、全力で突っ込んで来る。
『警告! 超高速の飛行物体が接近! 当該目標に対し、迎撃は許可されていません、耐ショック姿勢を取って下さい!』
逆天号の警告まで出た、パピリオは以前に近い力を持っている。 それを待ち構えるあいつは、魔装を巨大化させた… これは人間の霊力では不可能だ、それにこの力、魔体その物じゃないのか?
「かかって来いっ!」
「ウォオオオオオオオン!!」
ズドンッ!! ゴゴゴゴゴゴッ!
逆天号から離れて迎え撃ったあいつだが、それでも相当な衝撃波が襲って来た。 直撃されていれば、逆天号も沈んでいただろう。
「強くなったな。 ちょっと惚れ直したぞ」
「ガ… グウ……」
如意棒を払われ、鳩尾に肘を打ち込まれて倒れたパピリオ。 素晴らしい、下級魔族の身でありながら、よくぞそこまで自分を鍛え上げた。 負けたとは言え、相手は魔神だ、恥ずべき事ではない、賞賛に値する。
やがて、元通り小さくなったパピリオとベスパを連れ、あいつと神無が戻って来た。
『パピリオ、ベスパ両名の血により、融合のキーワードを受け取りました、間もなく完全体に変化します』
「本当なら「破瓜の血」の方が良かったんだけどな」
「では私の血を使えっ、この体は「新品」なんだろ? コード7を解除して、昔みたいに血が出て擦り剥けるまでしろっ」
「じゃあ私も。 デッキの上でして、終わったら裸で歩き回って、逆天号血だらけにしてあげる」
ベスパ達と浮気されそうで、あいつを睨んで下品な言葉を使う神無と朧。
「いや、先代の乗組員の血でないと、あっちのパスは解除できないんだ。 お前達は魔界に行った後、たっぷり可愛がってやるからな」
「えっ? うん」
「分かった…」
真っ赤になって、また騙されている二人。 周囲に男がいないと、ここまで免疫が無くなるものなのか?
ベスパとパピリオをゲストル-ムで休ませ、暫く経つと逆天号からの放送があった。
『逆天号Aと融合完了、融合の効果により損傷は全て修復されました。 妨害用の雲海より出ます、通信可能になるまで暫くお待ち下さい』
「そうか、ワルキューレ、頼んだぞ」
「うっ…」
名前を呼ばれただけで、何を要求されたかすぐに分かった私。 多分、しもべとしては優秀になったのだろうな。
《聞こえるか?》
《どうなった、報告しろ》
無線鬼を持ち、本隊と連絡を取る。 ほんの少し躊躇したが、私は何故かこう言ってしまった。
《状況終了! ベスパの逆天号が勝った。 偽の逆天号は断末魔砲を被弾して炎上、残骸は異界に沈んだ。 我々は脱出した所を回収され、ヨコシマも確保した、これより帰還する!》
《そうかっ! ベスパ達はどうした?》
《戦闘中に負傷した、ハニワ兵が治療に当たっているが軽傷だ》
《了解、よくやったと伝えてくれ》
誰がこんな馬鹿な報告を信じるのだ? 特に神族は信じるはずが無い。 魔体を操り、惑星規模の浄化を成し遂げた魔神、いや、大天使と言ってもおかしくない奴が、アシュタロスも乗っていない逆天号に負ける訳が無い。 隊長1体でも勝てただろう。
「ご苦労さん、これでやっと任務完了だな」
「本当か? まだ何かするつもりだろう」
「そうだな、第4ラウンドがあるけど、これはすぐだ、船も動かさないで済む」
まだあるのか…… もう、いい加減許してくれ…
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