その日はいつかやって来る
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08
あれから、パピリオの帽子を被ったヨコシマは、蝶ではなく、自分の眷属「電子の妖精?」達で、人間の艦隊を支配して行った。
「オモイカネ、パピパピモードでちゅ」
『了解』
逆天号も、違う名前で呼ばれても平然と答えている。 やがて支配が進むと、あいつの周りを球状に囲んだウィンドウに、『よくできました、パピさんえらい』とか、花マルマークが飛び交っていた……
「ハーリー君、逆天号「C」の運用は任せまちゅ、私は地球の艦隊を押さえるのに手一杯でちゅから」
ハーリー? 誰だ? 月神族はアッチの方向を向いて答えようともしない… 私かっ!
《エンジン臨界っ! 操作不能! このままでは爆沈しますっ!》
《総員退艦っ!》
モニターやウィンドウに映った人間共の船から、次々に脱出して行く乗組員。 残るのは多分、こいつが自由に使えるオートパイロットだけだ。
「中には出て行かないバカがいまちゅね、放り出しなちゃい。 おっと、セリフが違いまちた、「地球圏防衛艦隊司令、貴方を逮捕しまちゅ」でちたね」
正面モニターでは、退避しなかったと言うより、停止したまま放置された幕僚達が椅子の上で倒れていた。 こいつらも脳まで機械化した年寄りで、魔体に吸引されて壊れたのだろう。
「さて、支配も終わったし、下に降りようか。 ワルキューレも見ておくか? それとも仲間の所に帰るか?」
原隊に戻っても、待っているのは尋問と処罰だけだ。 この場所に侵入する貴重な機会は、絶対に来ないような気がする。
「今帰っても処罰されて殺されるのが関の山だ、こうなったら、とことん付き合うしかあるまい」
「そうか、お前が死んだら困るな。 じゃあ、こいつを被っただけで、視点はオカルトICPO本部だ」
私も心配されている… とても嬉しい。 私も月神族のように「特別な存在」なのだ(ポッ)。 ヴァーチャル通信機を渡された私は、座席に座った状態で通信機を被った。
「…今度は地球圏にいる艦隊が全部ハッキングされたわ、反物質弾なんか1発でも落とされたらお終いね」
「すみませんねえ、うちのバカ息子のせいで」
「でも、でも、ヨコシマ君は何か人のためになる事をしようとしてるのね~」
「本当にそうかしら? 報道管制はしてあるけど、一般市民に知られてパニックになるのも時間の問題よ」
「はあ、今度会ったら刺し違えてでも」
ここは地球か? 隊長3体とグレートマザー2体、ヒャクメが会議をしている。
「刺し違えてでもどうするんだ? おふくろ」
「横島君っ!」
「忠夫っ!」
5体のアンドロイドがこちらを向いた、私はヨコシマの視点で見ているようだ。
「どうしてここにっ! でもただのダミーね、今度は何をするつもりなの?」
隊長が話し始める前にグレートマザーが消えると、手刀が目の前で止まっていた。 センサーのスキャンを受けたから、抹殺から情報を聞き出す方に切り替えたらしい…
その後でやっとヒャクメの首がこちらを向いた。 このスピードなら絶対かわせないぞ…
「ほ~ら、いい子だから、あたしの言う事を聞いて、危ないオモチャはすぐにポイするんだよ~」
ネックハンギングツリーの体勢で、優しくたしなめられるヨコシマ。 この家族はこれが普通だったのか?
「終わったらやるよ、でもこの体勢、尋問するのは無理だろ」
「その割にはよく回る舌だねえ、引っこ抜いてやろうか?」
こ、怖い… 戦闘力以外の何かの波動が、精神をガリガリと削って行く。 苦痛に耐える訓練は受けたが、こいつの視線の前では無力だ。
「ほら、これが今、おふくろともめてる外惑星連合様だ。 逆天号の目だからリアルタイムだぞ」
「何だって?」
グレートマザーの前に出されたウィンドウにも、木星や火星を背景に止まっている艦隊がいた。 脅迫の内容も同じらしく、どのニュースも「卑劣な地球人の侵略」と、空襲警報や避難勧告が放送されている。
「この隙に「地球の治安を回復するため」出動するつもりだったらしいな。 どいつもこいつも、カオスのおっさんが作った、理屈も分からない物使ってるからこうなるんだよ」
「宇宙で慣性の法則を無視できるのはカオスフライヤーだけよ。 人工知能だってマリア型を載せてないと戦争にもならないわ」
「だ~か~ら~、何でこんなややこしい事するんだい? 余計こじれただろ~」
「やっぱり横島君っていい人だから、戦争やめさせようとしたのね~~」
そんな簡単な話なら私も苦労しない。 何か、まだ話していない何かがある。
「ようヒャクメ、よく俺に話し掛けられたな。 前に言っただろ? 「今度人間界に来て、俺の前に来たら殺してやる」って」
「だって、だって~~」
「横島君、まだ令子の事を思ってくれてるの? でもヒャクメさんを責めるのはやめなさいっ」
「いいえ、こいつが余計な物を見たから、下らない依頼を持ち込んだから、令子は原子炉抱いたまま、どこか分からない時空をさまよってるんですよ。 だからあいつだけは、まだ一度も転生して来ないんだっ!」
「アシュタロスの残党が発電所壊すなんて、誰も思わなかったんだよ。 あの子は世界を救ったんだ、誇りに思いなさい」
「そんなのどうでも良い、じゃあどうして隊長じゃ無かったんだ。 わざと居ない時を狙ったんだろ? 神族らしい汚いやり方だ」
これが目的か、あの事件の後、行方不明のミカミを探すためなのか? だがこいつは、その黒幕が神族だと確信している。
それまでの「見て見ぬ振り」や、「異常な程の介入の遅さ」「犠牲者は美神令子だけ」、その答えは一つ、「メフィストにルシオラを産ませるのを阻止した」になる。
「令子は人間が滅びた後でないと戻って来れない。 だから地球を滅ぼせば俺は令子に会える」
「あの子はもう助からないわっ、生身でどれだけ放射線を浴びたか…」
「魂だけでもいい、そこにいる神無や朧みたいに別の体をやれば済む事だ。 神無、ヒャクメを刺せ」
サクッ
「あああっ!」
どこかに隠れていた蜂の神無が、ヒャクメの首筋を刺した。 儀式の生贄はヒャクメだったか。
「ヒャクメ、お前にも令子と同じ恐怖を味合わせてやる。 ベスパの毒で霊体を食い荒らされて、たっぷり苦しんでから死ね」
「いやっ、嫌なのね~~っ」
「やめなさいっ! 本当に神族を敵に回すつもりっ?」
「何十億も救ったんだ、こんなの一匹殺しても関係ありませんよ」
「これから何百億も殺すつもりだろ? その前にあたしが、お前を産んだ責任を取って殺してやるよ」
「ああ、今度は南極の上まで来いよ、朧が案内する。 俺に勝てたらヒャクメの解毒剤もボロ船もくれてやる、来なかった時は… ははははっ!」
そこで私の視界も途切れた。 多分、ダミーがグレートマザーに破壊されたんだろう。
「きゃあああああああっ!!」
悲鳴が聞こえたので通信機を外すと、屈み込んで震えていた朧が二人に起こされていた。
「大丈夫だ、俺はここにいる」
「だって… あんな怖いお義母様初めて… ヨコシマをあんなに… あんなにっ!」
「あれはダミーだ、ヨコシマはあれほど弱くはない、私が保証する」
「でも、これから本当に戦うんでしょ? もし、もしあんな事になるんだったら、私、案内なんかできないっ!」
ヒャクメを刺した後に消えた神無と違い、こいつが粉々にされる所を見てしまったのだろう。 朧は戦いには向いていない、足手まといだ。
「分かったよ、もうあいつらは呼ばなくても来る、部屋で休んでていいぞ」
「嫌っ! 一緒にいるっ!」
泣きながら必死にしがみ付いて、離れようとしない朧。 戦闘中にこれをやられたら最悪だな、盾どころか重りになる的だ。
『ドロイド収容完了。 警告、帰到した「唐巣神父」に異常発生、カタパルトデッキにて暴走中』
「タイミングが違うけど、俺の時はケルベロスの檻を壊したんだったな。 ワルキューレ、お前か?」
「違う、お前を邪魔すれば、被害が拡大するだけなのは知っている」
「じゃあ、おふくろか隊長に… いや、神無、腕試しに始末して来てくれ」
「私では適わないぞ? それにお前の大事な神父は倒せない」
「今のお前なら簡単だ、本物の神父はここにいるしな」
首にかかったロザリオを出して、懐かしそうに撫でているこいつ。 お前には全く似合わない代物だが、やって来た事は十字架に張り付けられた男に似ている。 理解に苦しむ事態だ…
「神無に太刀を」
『了解』
装備が置いてあった台に、百キロはある刀が転移して来た。 私でも振り回すには重すぎる。
「体の使い方は分かるな、その太刀も今の腕なら軽すぎるかも知れん、使ってみてくれ」
「分かった、見ていろっ、朧っ」
月神族の平服、白拍子のような格好に太刀を下げ、その場から消えるように走って行った神無。 やはりこいつにも、隊長クラスの力が与えられていたのか? まあ今更、私に遅れを取るような体は渡すまい。
「神父殿、何をしておられるのだ?」
「これは神無さん、横島君がこれ以上悪事を働かないように止めている所ですよ。 手を貸して下さいませんか?」
モニターには雷撃を出し続けている神父が映り、遠巻きに見ていた隊長達が神無に道を譲った。
「断る、ヨコシマは世の為人の為、何事かを成そうとしている、それが分からぬ神父殿でもあるまい」
「それでは仕方ありません、横島君と一緒に天に召されて下さい」
「外との接触は、お主が担当していたな、神にでも操られたか?」
「操られたのではありません、これは私の意思です」
(データ、唐巣神父、約2600マイト。 無制限に放出される雷撃で、周囲に存在する全ての物を焼き払う。 これは過去に出会ったメドーサなる難敵より遥かに強い。 以前の私なら一瞬で消し炭だ)
「元月神族警官隊隊長神無! 参るっ!」
(今私は、電光のような神父の攻撃を、刹那の間隙で全てかわし、加速している。 周りの音が消え、弾け飛ぶものも落下して行く物も止まり、神父の動きすら緩慢に見えて来た)
「やめなさい神無さんっ! 神の意思に逆らってはいけませんっ!」
「問答無用っ!」
(素晴らしい、私や神父のような力が、月に配置された警官達にも備わっているのか。 では私など居なくても月は安泰だ)
「はああっ!!」
(交錯した瞬間、私は神父の形をした物の首を落とし、背中を向けたまま急所である胸の中心を貫いた。 例え同じ体であったとしても、命の息吹の通わない物は弱い。 そしてこの体と太刀は、その思いに答えるよう作られている)
「神父、お主に魂は無かったろうが、迷わず成仏して、正しい姿でヨコシマの元に転生して来い」
(これからは私が、こういった物を始末して行かねばならないのだ。 ヨコシマが手出し出来ぬ友人と同じ顔をした物を… 例えそれがグレートマザーやシルク、朧であったとしても、この手を汚し、あの表情を曇らせる物を全て斬る。 それが私の勤めなのだ)
壮絶な超加速同士の戦いが終わった。 私には見えなかったが、カタパルトデッキを駆け巡る衝撃波と、破壊の跡を追う事はできた。 気付いた時には神無は刀の汚れを拭い、朧がヨコシマを胸に抱き止めて、神父が滅びる瞬間を見せようとしなかった。
「男性型って、神父かクソ親父だけだったのにな。 お前達に嫌われないように世話させるには、丁度良かったんだけど、また弱いのでも作り直すか」
平然と言っているように聞こえたが、朧が離れようとしなかった所を見ると、その胸の中で泣いていたのだろう。 それは暫くして離れた朧の服が濡れていた事によって証明された……
『異界潜行装置、仮修復終わりました、南極上空の基地に移動します』
それから数時間、逆天号は南極の基地に到着した。 そこは他の軌道エレベーターと共に、軌道リングを支えるため、空から南極に向かって降ろされた巨大な塔の頂上。 またアシュタロスのバベルの塔の逆だ…
「行こうか、シルクは俺のダミーが「相手」してるから、このまま閉じ込めておけ」
『了解』
そこで私も立会人として決闘場まで連行されたが、通路には恐ろしい数の窓が並び、嫌な「声」を出していた。
「これは何だ?」
何気なくその一つを覗き込むと、その中は地獄だった。 洪水が世界を覆い尽くし、地殻は砕け、どんな強固な建物も崩れ落ち、天からは巨大な構造物が降って来ていた。
「危ない、吸い込まれるぞ」
危うい所を神無に引き戻されたが、もう少しで魂ごと持って行かれる所だった。
「それは全部、破滅して行く並行世界だ。 俺が成長しなかった世界、アシュタロスが破壊しなかった世界、どれも違う揺り返しが起こって、天変地異で終わって行く。 他にも惑星間戦争、疫病、彗星激突、何でもあるぞ」
まさか、こいつらが存在しないだけで、これだけの世界が、これだけの可能性が消えて行くとでも言うのか?
「これは… お前が作ったのか?」
「いいや、これはただの覗き窓だ。 お前だって神様だから知ってるだろ、いつでも、どこでも、あいつらの気まぐれで「天罰」が起こる。 それとも、あいつらの方針が気に食わなかったから魔族に堕とされたのか?」
「そうだったな…」
確かに、潔く戦って散るならそれも良い。 だが汚いからと言って、汚物のように流されてたまる物か。 奴らのやり方には絶対賛同できん。
「これが断末魔砲の正体か?」
「部分的にな。 でもこの苦痛と、断末魔の叫びを収穫しているのは俺達でも魔族でもない、神族だ」
神無と朧の顔色が変わった、それは月神族や人間が知っていい情報ではない。
「何故だ? 何故そんな事をする必要がある?」
「さあな? 多分、楽しいからだろう」
「うそ……」
違う、奴らにも穢れは必要なのだ。 お前達が食料を生産するように、苦痛と絶望を収穫しなければならない。 人間界もまた地獄なのだ…
『警告、降下艇接近、包囲されます』
「やっと来たな… 神無、隊長とおふくろを迎えに行ってくれ」
「分かった」
ウィンドウには基地周辺が映され、ここは降下艇で包囲されていた、一体何千機のグレートマザーが来たんだ?
「隊長1号、グレートマザー1号、ヨコシマが呼んでいる、ご同行願おうか」
「神無ちゃん、雰囲気が変わったね」
「ああ」
「あの子を止めようとは思わなかったのかい?」
「私はヨコシマを信じる、例えそれが悪であったとしても、魔界の果てまで付いて行く」
「そうかい…」
「私はすでに神父をこの手にかけた、だから貴方と言えど、ヨコシマに歯向かうなら容赦はせん」
「神無さん、横島君は私達「だけ」を呼んでるんでしょ、だったら心配はいらないわ」
「何だと?」
「貴方がベスパ役、朧さんがルシオラ役、ワルキューレさんが当時の横島君「ポチ」、ふふっ、ここに来る途中も笑っちゃったわ」
「何が可笑しいっ!」
「魔体も逆、ここも逆、南極にあった塔の逆なんですもの。 ヒャクメさんの言った通りね、横島君は人のためになる事をしてるのよ。 私達の役目は、せめて思いっきり戦ってあげる事ぐらい、そうでしょ?」
『ご名答~ さあ、待ちくたびれましたよ、何してたんですか?』
ウィンドウ越しに隊長に話し掛けるこいつ。 楽しそうだ、本当に楽しみに待っていたらしい。
「ごめんなさい、どうしてもドクターカオスやピート君役を用意出来なくてね。 人格データはあっても起動は出来なかったわ」
『ええ、あいつらは複製禁止です』
「だから、当時のメンバーは、ほとんどいないわ、これでいいの?」
『いいんですよ、こっちもパピリオはいませんから』
「シルクちゃんはどう? 昆虫採集で無傷で連れて帰ってあげるわよ」
『…………』
本気で悩んでいるな? 置いて行け、あんな足手まとい。
『シルクも… 自己防衛モードになったら、量産型よりは強いですよ、無傷は無理でしょう』
やはりサイボーグかアンドロイドだったか、真空でも平気だったのは、装備のせいだけでは無かったのだ。
『さあ、遠慮しないで奥まで入って下さい』
そう言うと、隊長とグレートマザーが、直通ゲートを使って転移して来た。 記録ではミカミとヨコシマの二人だったが、名前は同じでもその母親とはな… 儀式にはその方がいいのか。
「隊長… 俺は昔から貴方と一度、思いっきり殺りあって見たかった」
「そうね、私もよ」
「このバカッ! 一時でも自分の奥さんだった子の母親と「ヤッてみたかった」なんてっ、どこまで女好きなんだっ! 美知恵さんっ、あんたまで何を言い出すんだい?」
「やめろよ、おふくろ。 ここでコケさせて、その隙に襲うつもりだろ? 俺が自分より強い相手の前で汚い手を使うのは、おふくろ似だからな」
「父親似よっ」
「でも、どちらか一人だけでも、前の貴方より強かったはずよ。 それなのにわざわざ二人も呼ぶなんて、余程自信があるの?」
「ええ、ちょっと加勢を呼びますから、待ってもらえますか。 『虎よ、虎よ、ぬばたまの闇に……』」
あいつが上着を脱ぎ捨てると、何かの呪文を唱えながら変身して行った。 ワータイガーか? いつの間にそんな能力を、それとも遺伝子操作か。
「タイガー君… でも私達に精神は無いわ、タイガー君の精神感応は無力よ」
「あたしも虎を産んだ覚えは無いよっ」
「まあ慌てないで下さいよ。 おっと、おふくろも、変身中に手を出さないのは「お約束」だろ。 もう一人どうしても隊長と戦いたい奴がいるんですよ」
「やっぱり、そうだったのね」
そう言うと、あいつは脇腹にある5つの傷から、黒い爪を一本引き抜いた。
「雪之丞。 目の前にいるのは最高のご馳走だ。 あの時、空母の上にいた隊長と同じ、いや、魔方陣の中にいなくても、あれ以上の力がある地上最強の化け物達だっ! さあっ! 派手にやろうぜっ!!」
傷から抜いた途端、消えて行く爪を握り締め、あいつが魔装して行く。 部屋の前で見たあの写真と同じ色、同じ形に変形している。
「雪之丞君…」
「隊長とおふくろ、これは俺が作った最高傑作だっ! 二人合わせるとハヌマンより強いぜっ!」
「そう… じゃあ小手調べはいらないわね。 行くわよっ、百合子さんっ!」
「あいよっ!」
『同』『期』
奴らのセンサーでも、こいつが自分達より強いと判断したのだろう、すぐに文珠を使って合体した。
キンッ!!
「さあ、私は令子みたいに力の無駄使いはしないわよ。 2,3分なんて言わない、貴方達が満足するまで、たっぷりサービスしてあ・げ・る」
「隊長、おふくろと合体して、言葉使いが下品になってますよ」
「そう? 百合子さんだって楽しそうよ、1体ぐらい私と融合しても困らないから、何回してもいいのよ。 あら、セリフはこうだったわね、「ゴーストスイーパー美神美知恵、横島百合子! 私達が極楽へっ! 行かせてあげるわっ!!」」
「ええ、お願いしますよっ」
魔装したマスクの口が開き、ニヤリと吊り上った、これが奴の望み、雪之丞と言う男の望みだったのか。
キイイイイイイイインッ! ズドンッ!!
「ぐわあああっ!」
奴らが消えた途端、凄まじい衝撃波と熱風が襲って来た。 もう私には見えない、付いて行けない世界だ。
「どうだっ? 雪之丞っ! 楽しいかっ? 楽しいのかっ!?」
「あらボウヤ、もう泣いてるの? 私達ってそんなにイイ?」
「ええっ、最高だって言ってますよっ!」
「雪之丞君もママが好きだったわねっ、さあっ! ママのお仕置きよっ!」
「ぐああっ!!」
大蛇のような神通棍が、周囲をうねって全てを破壊して行く… 私もこの建物の中に隠れていなければ、一瞬であの世行きだ。
「もうお終いっ? それぐらいでイっちゃうなんて、だらしないわねっ!」
ひと際大きい破砕音が聞こえた時、神通棍が収束して巨大なビームのように一箇所を貫いた。 あいつが負けたのか? そう考えた瞬間、喪失感で体を切り裂かれるような思いがして、命の危険も考えず、建物を飛び出そうとした。
「待てっ! ワルキューレッ」
「放せっ! あいつがっ、あいつがっ!」
「ヨコシマは負けはせんっ」
「本当かっ? 本当なのかっ!? 頼むっ、あいつを助けてくれっ!!」
そう言いながら、神無にすがりついて泣いていた私… 足手まといは私だ、弱い、力が欲しい、あいつを守れる力が…
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