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その日はいつかやって来る

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06


 GS美神から約千年後、一人になった横島を迎えに来たワルキューレ達が見た物は、過去の知人に似せて作ったアンドロイドと暮らす、哀れな横島の姿だった。

 そこで、神無と朧の最後の願いで召還された魂がアンドロイド達に宿り、暖かい言葉をかけられた横島は、再び友人達に会う方法を探すため、魔界に旅立つ決心をする。

 しかし玄関を出ると、何かの記憶を取り戻した横島は「俺はアシュタロスと対になるよう創られた物」と言い出し、家(逆天号)の引渡しを拒んで、自分達の役目である魔導災害を起こすため、隊長のアンドロイドに戦いを挑み始めた。


《炸薬装着終了、退避します》

 外部モニターに人間の部隊が映っている。 簡易なスーツしか着ていない所から、アンドロイドかサイボーグだろう。 しかし、こいつの概念からすると、どちらも人間では無い。 爆破される前に逃げろ。

「隊長、どこかの馬鹿が、魔力送信アンテナ壊そうとしてますよ、いいんですか?」

「私にそちらの部隊に対する権限は無いのよ」

「宇宙に来ても、「官僚主義は死なず」ですか? 今は民間経営でしたね、早く隊長が全権掌握して下さい。 政治屋は真っ先にあの世行きですから、前より簡単なはずですよ」

「さあ、どうかしら」

《総員退避、爆破と共に突入する》

 やめておけ、状況が変わっているのが分からないのか? 命令だけに従っていると、死ぬのは現場の兵士だ。

「じゃあ、しばらく通信もできなくなります、頑張って下さい」

「今の貴方には言われたくないわね」

「そうですか、次に繋がれば事件は解決していると思いますよ。 でも突入が成功したらもう会えません、さようなら」

 ズズンッ! ドドッ!

 突入が始まった、戦死するリスクが高い突入は、使い捨ての自動兵器だろう。 ここではまだ、こいつの真意は図りかねる。

「行こうか、それと、俺にも家庭用アンドロイドの指揮権はあるのか?」

『はい』

「じゃあ… 魔力が途絶え次第、人間を守らせろ」

 今、何と言った? お前の目的は人間を殺す事じゃなかったのか?

『基本動作と変更ありません。 緊急事態によりパワーブースト、常人の2.5倍のパワーで作動させます』

「そうか、浮きドックともお別れだな、離脱して異界潜行」

『了解、遮蔽開始、魔力障壁展開、作業用外殻をパージします』

 全てのモニターが光に包まれて、外装が破壊されて行く。 光が収まって全景が見えるようになると、この船も以前の逆天号と同じ甲虫の形をしていた。

『外殻廃棄完了、質量分析により逃走が判明するのは時間の問題です』

「ああ、追いかけられるもんなら、来て見ろってんだ」

 まるでサナギから抜け出すように、崩れたドックから異界に落ちて行く逆天号。 こいつは名前通り、天に逆らう醜い羽虫になるのか、それとも人間を守る妖精となるのかはこいつの心次第だ。 今は先程の言葉を信じよう…

「何だ? そんな目で見て。 何か変な事言ったか?」

「…どうして人間を守れと言った?」

「さあ? それが俺の使命だからだろうな。 面白いだろ? 誰も踏みにじりたくないアシュタロスが、部下に魂を集めさせて魔体や逆天号を作る。 踏みにじりたい俺が、人を助けて結晶にされた魂を開放する。 俺達を作った奴は、相当ひねくれてたみたいだな」

「言うなっ、訳の分からない事を言うなっ!」

 こいつはまた、私が聞きたくない事を言おうとしている。 私はまた耳を塞ぎ、聞こえないように大声を出していた。

「さあ、儀式にはちょっと人数が足りないな。 お前達も参加したいか? ああ、分かったよ」

 誰と会話している? まさかアシュタロスか? それとも…

「神無と朧の仮の体を出してくれ、前にセーブした状態でいい」

『了解』

 さっきの月神族と同じボディーが転移して来た、これもダミーか?

「しばらくこの体で我慢してくれ。 魂をロック、ボディーを起動」

『了解』

 小さな駆動音がすると、月神族が目を開き、体が動き出すと、すぐに喜びの表情を浮かべ、飛び掛るようにあいつに抱き付いた。

「ヨコシマッ、またこうやって抱き合えるなんてっ」

「私は自分でこうするの、初めてかな?」

 魂の定着までできるのか? それなら魔法の学習も必要無いだろう。 後は魂さえ召還できれば、こいつの腕で癖や記憶までプログラムして… いや、それでは満足できないんだろうな…

「しかし、雰囲気が変わってしまったな」

「嫌か?」

「いや…、そんな事はないぞ(ポッ)」

「ちょっとワルっぽくっていいかな?」

「そうか、じゃあ装備を付けてくれ」

 ガシッ!

 4セットの服と防具の内、真ん中の一つを握ったまま、月神族達が睨み合っている。

「ルシオラ役は私だ」

「いいえ、私よ」

「髪型は私と同じだ」

「神無の性格とか言葉使いって、どう見てもベスパ役よ」

「何だとっ!」

 ギャー、ギャーーーッ!

 醜い争いを始める月神族、さっきの感動的な場面も台無しだな。

「ほっといていいのか?」

「ああ、この夜、姉妹が争うのも儀式の内だ」 

 姉妹? ベスパとルシオラの事か。

 ギャー、ギャーー

「だって、私の体、ずっと貸してあげたでしょ!」

「うっ…」

 弱みを握られていた方が引いて決着がついた。

「ねえポチ、しよ」

「「何っ!」」

 ルシオラのヘッドギアを着けた朧と言う女が、あいつの膝の上に座って誘惑している。 何故か腹が立つ、気分が悪い。

「バカがっ! そんな場合じゃないだろっ!」

 ベスパの装備を着けた神無が、やたら男っぽい喋り方をしている。 まさか私はパピリオ役なのか? あの帽子を被るときっと言葉使いまで……

「悪いな、その体は人間とすると、コード7に掛かって死ぬようになってる」

「え~~っ! 私だけお預けなんてずるい~っ」

「じゃあ、次の座標修正の時、デッキに上がって地球でも見ようか、それで日が沈む位置になったら…」

「うん。 コード7って、キスしても死なないんでしょ」

「ああ」

 そう聞くと、朧はあいつに膝の上で、猫のように丸まって体を預けた。

「だからそんな場合じゃないだろっ! 配置に付けっ」

「お前も来いよ」

「えっ… ああ、邪魔だっ、朧…じゃない、ルシオラ」

 私の目を気にしているのか、元々そんな性格なのか、足の上に座っても背筋を真っ直ぐ伸ばしている神無。 ベスパ役だからか?

「じゃあ、ワルキューレは…」

「嫌だっ、パピリオ役は嫌だっ!」

「はあ? そうだな、お前が「でちゅ」って言う所も見てみたいな」

 しまった、最初から私はパピリオ役では無かったのだ。 それなのに余計な事を…

「残念だけど、お前は別の役なんだ、しばらく何も無いから、飯でも食って今のうちに寝ておけよ。 二人とも、ちょっと立ってくれ」

「うん」

「わかった」

 そのまま引きずられるように連れて行かれ、「ポチ」と書かれた部屋に通された。 パピリオ達がこいつを呼ぶ時に使う名だ。 こいつの部屋なのか? じゃあ私はこのまま月神族の代わりに…

「ち、ちょっと! まだ早い。 先にシャワーを…」

 妙な事を口走っている私。 多分そのままベッドに寝かされ、服を脱がされても抵抗しなかっただろう。 変だ、おかしい、どうかしている……

「違う、お前の役は当時の俺、逆天号に潜り込んだスパイだ。 ほら通信鬼も使っていいぞ」

「へ?」

「それとこれが、お前の装備だ。 明日からはこのマントと服を着てくれ、逃走防止用の首輪は今着けてやる」

「あっ! いや~~っ!」

 カチャッ

 私は「ポチ」と刻まれた首輪を着けられ、ポチの部屋でエサを与えられた。

「俺の時は腐った肉だったな、気に入らなかったら捨てて、逆天号に何でも頼めよ、結構いい待遇だろ?」

「まあな…」

 目の前には年代物のレトルト食品のパックが並んでいた、 賞味期限とか言う以前に、年号が西暦で、こんな形式の食べ物は、もう存在しない… あいつが出て行った後、私は興味本位で「カレー」と書かれたパックの封を開けて見た。

「うわああああああああっ!!」

『警告! ゲストルームで菌類を多数検出しました。 カビの一種ですが、すでに地上では死滅したタイプです。 一時隔離してエアーをパージします』

「あれ、細菌兵器だったの?」

「いや、多分、学会に報告できる奴だな」

『サンプルを回収、映像をご覧になりますか?』

「いや、捨ててくれ」

「私は、ちょっと見たいかな…?」

『ゲスト同様、一生カレーが食べられなくなります、よろしいですか?』

「やっぱりやめとくわ…」

 私は見た… これはジュネーブ条約とやらに違反している。 捕虜にあんな物を出すなんて……


《事件から一夜、世界各地で暴走したサイボーグが逮捕、停止されました。 OICPOの発表によりますと、テロリストにより月からの魔力送信アンテナが破壊され、機能障害を起こしたとされています》

 翌朝になって、地球からのニュース映像を見ている私達。 昨夜は何かを期待して、用意された部屋の鍵も掛けずに眠ったが、何も起こらなかった。 おかしい… こいつも、私も。 

《事前に出現し、逮捕に協力した死神と名乗る物と、各地に降下したアンドロイドがどこに所属するものなのか、OICPOからも未だ発表はありません。 次は家族を守った家庭用アンドロイド達の話題です》

 一度は眠れずに戻って来て、椅子に座ったまま目を閉じているこいつに、「寝る場所が無いなら私と同じベッドで眠れ」と誘ってしまった。 私は反逆者だ、寝込みを襲おうともせず、違う意味で襲う所だった。 篭絡して自分に従わせようとしたのでも無い、自分より強いオスを見て発情していたのか?

『座標修正、通信が回復しました、隊長からの呼び出しを許可しますか?』

「ああ、ワルキューレもどっかに隠れて報告して来いよ」

「何だと?」

「昔の俺も便所に隠れて通信してたからな、あいつらに見付からないようにしろよ」

 それは圧倒的な戦力を持った余裕なのか、それともこれも儀式の内だと言うのか? 

「おはよう、横島君。 これは全部、貴方の計画通りなの?」

「さあ? 隊長の活躍で上手く解決したんじゃないですか?」

「正直に言いなさい、家庭用のアンドロイドまで使って、人間を助けたのは自分だって」

 その通りだ。 家庭用アンドロイドも、カオスとこいつが作った会社の製品で、先程のニュースのように、モーターが焼けようと、腕がもげようと、「生きている人間」を一人残らず救ったのだ。

「いいえ、それに拘束されたサイボーグって、法的には生きてても、霊的には死んでるんでしょ、何人死にました?」

「逮捕者数なら出ているわ、でも貴方が言う通り、法的には誰も死んでないのよ。 わざわざこの事故を選んで、被害を最小限に抑えたんでしょう、言いなさい」

「はっ、ヒムロ・タダオは、今でもオカルトGメンの一員でありますっ」

 ふざけて隊長に向かって敬礼するヨコシマ、今でもヒムロと名乗っているのか。 なぜ人間を救ったと言わない、私もなぜ弁護する事ができないのだ。

「ふざけないで」

「そうですね、昔は本当に、誰も死なない世界を作ろうって思ってましたよ。 でも無理だったんです、元々人間の霊体なんて、何百年も生きられるように作られてませんから」

「そう… でもこれで「謎の猟奇殺人」も、全部解決するんでしょ? 子供の被害者が多かったものね、見ていられなかったんでしょ」

「さあ? でもノルマ達成には程遠いですね、この次って何でしたか?」

「魔体かしら…」

『左舷1200キロに異界振動、魔体が出現しました』

「やっぱり有りましたね。 今度もバカでも、「地球が丸いから」なんてオチはありませんよ。 衛星軌道からなら直接照準で狙えます」

「そのために貴方が作った軌道リングでしょ、結界始動!」

「何だっ、あれは?」

 地球の全周に魔方陣が作られて行く、人間め、いつの間にこれだけの規模の防御陣を… いや、こいつがこれを用意していたのか。

「ふふっ、あの時も結界なんか通じなかったでしょ。 今度も来て貰いますか? あの人達に」

「やめなさいっ」

「じゃあ、今のGS達でがんばって壊して下さい」

「今は霊力を持ってる人間なんて、誰もいないわ」

「そうですね、人が多すぎて、「魂の無い子供が産まれ、スズメのさえずりも聞こえなくなり」でしたか?」

「だから貴方が終わらそうと言うの?」

「さあどうですか? 通信終了」

『了解』

「待ちなさいっ!」

 この状況でも月神族達は呑気に寝ている、こいつの言う儀式なら、ベスパとルシオラが相討ちになった時間帯だからいいのか? そう言えば昨日、あいつらの部屋が騒がしかったような気がする。

(ふふっ、神無ってヨコシマに開発されすぎて、すぐ*クんだから、勝負は私の勝ちよ)

『魔体の主砲が展開されました、吸引が始まります』

「吸引? 発射じゃないのか?」

『はい、収穫された魂を吸引し、破損していた部分が修復されます。 マスターがエネルギー結晶を破壊した際に浴びた霊破片も、既に回収済みです』

 やはり、こいつがやろうとしていたのは、人類滅亡でもアーマゲドンでもない。 魂の救済と、この世界の保全だ。 そこまでアシュタロスの逆なのか…

「へえ、面白くない事やってるな、お前が作ったのか?」

『はい、八百年前、私が人工幽霊壱号と呼ばれていた頃にボディーを与えられ、マスターに魔体の建造を命じられました。 今はここで土偶羅型人口知能の役を果たしています』

「そうか」

『軌道リングと連動し、回収した魂と使用不能のまま放置された霊破片を回収中です。 回収完了までに一時間。 修復完了までに三時間を要します、それまでお休み下さい』

 こいつが何をしているか、神族は気付いただろう。 しかし人間には分かるまい、あの隊長はどうだ?


「ヒャクメ、あれは何をしてるんです?」

「壊れた魂と使えない霊破片を集めてるのね~。 放出されてるのは、修復されて精製された魂なのね~」

「それではまるで…」

「そうなのね~、魔体じゃなくて、ご神体なのね~~」

 哀れな魂や救われない霊が全て昇天し、魔体?からは、修復されて澄んだ魂が放出されている。 欠けた心が引き起こす醜い欲望や、争いを求めない魂、これでは「始まりの時」と同じではないか。

「お笑いだろ? 悪の心を持って、人を殺したい物に課せられた使命は、人類の守護と魂の救済だったんだ、笑えよ」

「笑えない…」

「そう、笑えないジョークだな」

「だが、アシュタロスはあれを自分の意志でやった、お前もそうなんだろう?」

「昔の俺なら大喜びしただろうな。 もしかしたらあいつもそうだったかも知れない。 喜んで準備してたら、それは自分の一番嫌な事だったんだ。 でも後戻りはできない、坂道を転げ落ちるみたいに前に進むしか無いんだ」

 私は何故泣いているのだ… こいつが哀れだからか? それともこの美しい光景を見て感動しているのか? 分からない、自分の心なのに……

「こいつらも貧しさや病気に負けただけなのに、綺麗な女や男の姿をした魔族に誘惑されただけなのに、それが罪だと? ふざけるな。 俺は神と名乗る傲慢な奴らを許さない、自分こそが秩序だと自惚れる馬鹿共を許さない」

「お前も、神と戦うのか……?」

「ちょうどそのバカが追いかけて来てるな。 魔体に吸わせて材料にしたら、人間用の魂なんかいくらでも作れる。 試してみようか?」

「やめろっ!」 

 あれだけの破壊力で吸引すれば、神族も我々の部隊も全滅だ。 そうなればデタントどころじゃない、両陣営がこいつを狩りに来る。

『警告! 魔体に向けて攻撃がありました』

「「何っ!」」

『弾丸「カオスの魔弓」と断定、軌道リング上の発射地点に「天女の羽衣」を確認、装着者は…「ヒムロ・シルク」です』

「何て無茶なっ!」

 モニターに拡大された映像には、さっき見た幽霊娘が映っていた。 やはり転生していたのか。

《検索、ヒムロ・シルク》

《1300年続く氷室神社の娘。 ヒムロ・タダオからの援助により、養護施設を運営。 主に孤児を育成する事業に貢献、表彰多数。 政財界のプリンセス・メガと親交が厚い》

『魔体から反撃開始。 マジックミサイルの射出を確認!』

「シルクッ!!」

 こいつの顔から、あの薄ら笑いが消えた。
 
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