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その日はいつかやって来る

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05


 現在こいつは人類の敵と自称している。 やろうと思えば今までにいくらでも機会があったはずだ。 今はブラフなのか本気なのか、見極めなければならない。

『オカルトGメン本部から通信です、遮断しますか?』

「いや、繋いでくれ」

 またウィンドウが表示され、画面の向こうにも「隊長」が現れた、こいつも1体じゃなかったんだな。

「呼んだかしら横島君、一体何をしているの?」

「はっ、逆天号を接収に来た、魔族、神族と交渉中です」

「それはね、脅迫って言うのよ、すぐにやめなさいっ!」

 またウィンドウから手が伸びて、奴の胸倉を掴んだ。 手が出せるのは標準の仕様らしい。

「嫌だなあ、逆天号は地球防衛の要ですよ。 安全装置で地球に向かって撃てないのなんか、建造に関わった隊長が一番良く知ってるじゃないですか」

「貴様っ、そうだったのかっ!」

「でも貴方なら、安全装置ぐらい、すぐ解除できるでしょ?」

「そりゃまあ、設計者ですから」

「…………」

「それと戦闘用ドロイドと、降下艇の準備もやめなさいっ!」

「そっちもロボット3原則がありますよ。 人間を殴れるのは、隊長と、おふくろと、マリア……は動かなくなりましたね」

「じゃあ、何故こんな事をっ」

「逆天号が無くなったら、こっちから地球に送ってる魔力が尽きて、全身サイボーグ化して生き残ってる連中が魂を無くして狂い出します。 その後は魂欲しさに普通人を殺して行くはずですよ。 世界中、各家庭が戦場になりますね」

「何ですって?」

「隊長、よく聞いて下さい、これも歴史の必然なんです。 俺が現世で課せられた使命も、アシュタロスと同じで、魔導災害を起こす事だったんですよ」

「誰がそんな」

「よく分かりませんけど、俺の中の俺が教えてくれました。 無視して魔界へ行ってもいいんですけど、俺がやらないと、また「宇宙の意思」とやらで、別の災害が起きるだけです」

「貴方がやらなければどうなるの?」

「カオス式予測機では、地球で極移動が起こって、軌道リングが崩壊すると出ました、もっと悲惨ですよ」

「何だとっ!」

「そんな大事故が起こるなら、どうして早く連絡しなかったのっ!?」

「ついさっき始まったんです。 神無と朧が最後の願いで俺の呪いを解いてくれた時から、因果律の歯車が動き始めたみたいで… それに事前に対策すると、対策されていない所で災害が起こります」

「被害予測は?」

「はい、これから3億7千万人が、たった1度の事故で死ぬと出ました」

 ほとんど「神罰」クラスの被害じゃないか… 人類史上最大だな。

「じゃあ、貴方を殺せば、その事故は収まるのかしら?」

「いいえ 逆天号も残りますし、最後の魔体もあるはずですから、止めるのは難しいでしょうね」

《聞こえているか? こいつは本気だ。 神族と連絡は取れたか?》

《あちらも混乱している。 お前が失敗すれば、まず人間の部隊から突入する、「迅速に」行動しろ》

《不用意な発言はするな、全部奴に聞かれている》

 そこで私は奴の後頭部に銃を突き付けたはずだった… 

《撃てない… 失敗した、私はすでに奴に支配されているらしい》

《状況が不明だ、詳細を報告せよ》

《銃を抜いたが銃口は私に向いている、このまま撃てば自滅するだけだ、別の方法を考える》

《……了解》

 無様だ… だが私を支配するとは、こいつは一体何者なんだ? もう人間じゃないのは確かだ。


「止める方法は無いの?」

「そうですね… 俺はそういう(しゅ)に縛られてるみたいですから、昔あった事を再現して、順番にほどいて行けば何とかなるかも知れませんよ」

「それも別の貴方が教えてくれたの」

「ええ、こいつは楽しんでるんですよ、みんなが慌てふためいてる所を見て笑ってます」

「そう、でも解呪しようにも、地理的な条件も、周りの人材も昔と全く違うわね」

「でも順番は逆になるみたいですから、これから出る魔体を今のGS達で壊して下さい。 壊せればですけど」

「弱点は同じなの?」

「知りません、俺は作った覚えはありませんから。 その次は地上に復活した魔物を何とかして下さい」

「コスモプロセッサーは?」

「それも知りません。 それと俺からドロイドの操作を奪うなら今のうちですよ。 降下させて200年以上生きてる奴を捕まえて行けば、対策済みと見なされて、サイボーグの暴走は無くなるかも知れません」

「貴方にコントロールを奪われない保証は」

「これ以上俺が正解を言うと、被害が広がります、これはそう言う儀式ですから」

「そう… 全部私か百合子さんの人格プログラムにしてしまえば、貴方の指令をキャンセルできるのかしら?」

「そうでしょうね、俺としては金持ちから死ぬ、この事故の方が好きだったんですけど…… 残念です、俺が気付いたんでドロイドは渡せなくなりました。 もう死んでるはずの奴ら、狩って行きますけどいいですよね? これで3億人カウントできれば、多分何とかなりますよ」

「やめなさいっ! そんな事をすれば、アンドロイドの評価は永遠に回復しないわっ!」

「普通の人間なんてもう地球にいないでしょ、それにアンドロイドがやるんじゃありませんよ、きっと…」

 パーパッパ、パパーッ!

 ファンファーレが鳴って、別のウィンドウが開いた。

「愚かなる人類にども告げるっ! 私は死神サイ・ジョーであるっ! いつまでも死を拒み、生き続けているサイバー共、私は貴様らを迎えに暗黒の死の世界からやって来たっ! 出でよっ、我が眷属どもっ!」

「あれっ? 俺いつの間にこんなの用意してたんだ? ははっ、ケッサクだっ、ははははっ、こいつ西条じゃないかっ! はははははははははっ!!」

《妙な放送が始まった、まず人間の部隊が突入する、逃げろ》

《了解》

 駄目だ、私は何故か逃げられないのを知っている。 きっとこの場で全てを見届けるのが私の役目なのだろう。

「さあ、最初の一手は何にします?」

「そこに展開している部隊が突入するわ」

「無理ですね、無条件で入れるのは、もうワルキューレと小竜姫だけです。 条件付きで入れるのは、ヒャクメ、パピリオ、ベスパぐらいですか? 他は入ろうとしても霊体データで弾かれます」

《聞こえたか? 突入は無駄だ》

《すでに決行された、お前の命も保証できない、遮蔽物に身を隠しておけ》

「シルクちゃんは入れないの?」

「あの子を巻き込むつもりなら、本気で戦争しますよ」

「分かったわ、あの子の事になると怖いのね」

「ええ」

 シルク? 誰だ… 絹? さっきの幽霊娘が転生しているのか? そこで私は通信鬼を取り上げられた。

「邪魔が入りそうだ、ダミーを2体ほど出してくれ」

『了解』

「ダミー、小竜姫をパーキングまで「持って来い」」

『イエッサー』

 小竜姫は物扱いか、このままでも神族に寝返るとは思えんが、我々の味方でもない。

《神族が移動している、警戒しろ》

《了解》

 何故報告しないのだ、私は… 

「何をするつもりだ」

「敵を欺くには?」

「味方から…」

「そうだ、1体、ワルキューレになれ、1体、俺になれ」

『イエッサー』

 向こうから私とこいつの偽者が、小竜姫を持って飛んで来た。 目の前に置かれた小竜姫の髪の毛を掴んで顔を上げさせると、閉じられていた目が開いた。

「聞こえますか小竜姫様? 貴方が来た時にはもう、俺はワルキューレと契約してたんです。 でも俺は最後にパピリオに会いたくなった。 そこで抵抗してたら、もみあってる内にワルキューレの銃が暴発して神無が死んでしまいました。 貴方も消耗してたので倒されて、俺は連れて行かれる途中です。 さあどうします?」

「…追いかけます」

 小竜姫も操っているのか? 本当に何者なんだ… 

「お前達はパーキングで待て、やられたら無線鬼で報告しろ」

「「イエッサー」」

「さあ小竜姫様、貴方は通路を走って来て俺達を見付けた。 俺が呼んでますよ「助けて下さい」って、どうしますか?」

「…超加速っ!」

 こいつに命令されたように、虚ろな目をした小竜姫が加速して飛んで行く。

 パンパンパンッ! ザシュッ!

「ぐあっ!」

 私の偽者が小竜姫に斬り倒された。 甘いな、何故止めを刺さない?

「さあっ、逃げますよ横島さんっ! 動かせるボートはありますか?」

「これですっ!」

「運転は私がします! 『聞こえますか? 横島さんを確保しましたっ! 今から出ますので保護して下さいっ!』 行きますよっ、しっかり捕まっていて下さいっ!」

 ヒュウウウウウン ズドンッ!

 ボートのGキャンセル以上の加速で奴らが出て行った。 中々いい手際だが、私はあれほど簡単に倒されはしないぞ。 加速されても何とかする自信は有る。

《何が起こった!?》 

《やられた… 小竜姫にヨコシマを奪取された》

《何だとっ?》


「逆天号、ドックからパーキングまでを廃棄して爆破する。 その隙に遮蔽して逃げるぞ」

『了解』

「ついでに小竜姫の入室キーを解除してくれ」

『解除しました、緊急退避して来た場合の処置は?』

「入れるな」

『了解』

「おい、私はあのまま名誉の戦死なのか?」

「1日経てば、また英雄になるかも知れないし、俺と一緒に宇宙の藻屑かもな」

「そうか…」

 ここで何故怒りが沸いて来ないのだ? 私の名誉は傷付けられ、戻った所で査問を受けるだろう。 ずっと操られていたと弁明するつもりか。

「ブリッジへ移動、隊長のフリーズ解除」

『了解』

 転移させられると、この船の艦橋に入ったが、そこだけは、とても近代船とは思えない内装で仕上がっていた。 以前の逆天号を再現したのだろう。

「随分用意がいいのね、世界中で死神が出現したわ。 貴方、召還術は苦手じゃなかった?」

「さあ、食わず嫌いなだけで、別の俺なら出来るのかも知れません。 それにそいつらって、黒いローブを着て、鎌を持っただけのガラクタじゃないですか?」

「警官や軍隊が適わない相手を、ガラクタなんて呼ばないで」

「隊長なら神通棍で一撃じゃないですか、切り口を見せて下さい。 やっぱり骨組みだけのオモチャだ、自然分解のオマケ付きですから弱いですよ」

「私は予備も入れて、地球上に35機しかいないのよ。 AクラスのGSドロイドも3000機程度、全然足りないわ」

「じゃあ、こちらのは必要なくなったので差し上げます、装備は隊長と同じですから、霊体でも効くと思いますよ」

「逆天号、降下艇発進! ドロイドの人格プログラムは百合子さんで起動!」

『了解』

 こいつにも命令権限があるのか? もしかすると私にもあるのかもな…

「そうですね、おふくろは戦闘能力値は低めですけど、絶対拒否権がありますから。 でも隊長みたいに整然と行動しませんよ、命令だって聞くかどうか」

「構わないわ、百合子さんは私まで支配された時の切り札よ。 この世から貴方のアンドロイドを一掃してくれる」

「ええ、でも俺だって、家庭用にまで手は回せませんよ、今のは本当のオモチャですから。 それにこの事件って案外あっさり解決したでしょ、もうすぐ終わりますよ」

「それまでに一体、何人死ぬのかしら?」

「ですから、そいつらはもう人間じゃありません、呪いが掛かった生き人形ですよ」

 奴がまた笑っている、魔族らしい微笑だ。 だが私はその表情を見て震えていた……
 
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