八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百十話 見えないものその二
「そうだと思うよ」
「そうか、だがな」
「僕は冬自体がなんだ」
「好きではなさそうだな」
「そうね」
「しかし冬は冬でいいものだ」
井上さんはここでニキータさんにこうも言った。
「寒いが過ごしていていいことも多い」
「そうなの」
「是非一度過ごしてくれ」
「それじゃあ」
「その海もだ」
冬の海、暗くて沈んだ鉛みたいな海もというのだ。
「波も荒いが見ていて悪い景色でもない」
「見ていい景色なの」
「だから安心するのだ」
「沙耶香が言うのならね」
ニキータさんは井上さんへの信頼を背景に答えた。
「楽しみにしているね」
「神戸の冬もいいしな」
「雪が降って」
「そうだ、その雪も奇麗だし神戸にもイルミネーションがある」
このハウステンボスと同じくだ、むしろ僕達神戸の人間にとっては神戸のイルミネーションをイルミネーションだ。
「悪いものはない」
「寒くてもなのね」
「冬の景色も世界も悪くはない」
「成程ね」
「そちらも楽しみにしておいてくれ」
「今からなのね」
「夏からな、そしてだ」
井上さんはここでだ、景色からだ。
観覧車の現在位置を確かめてだ、こうも言った。
「さて、いよいよだ」
「頂上ですね」
「そこに着くな」
僕に笑顔で話してくれた。
「もうすぐな」
「そうですね」
「そしてだ」
「それからですね」
「そうだ、よりだ」
「いい景色が見られますね」
「何もかもが見られる」
こう僕に言った。
「ハウステンボスのな」
「海とですね」
「どちらもな、それが楽しみだ」
「そうですよね」
「そうだ、しかしだ」
「しかし?」
「そこから降りていくが」
観覧車の宿命だ、頂点までいきそしてそこからゆっくりと降りていく。円形で回って上下していくのでそうなるのは必然だ。
「しかしだ」
「降りていく時の景色もですね」
「好きだ」
井上さんは乗った時と同じことを僕に話した。
「そちらも楽しみだ」
「そうですよね」
「うむ、しかしだ」
「まずはですね」
「頂上だ」
一番上だというのだ。
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