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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百十話 見えないものその一

                 第百十話  見えないもの
 観覧車の頂上に向かうまでにだ、井上さんはニキータさんに観覧車の中から見下ろせる風景を見つつこんなことを言った。
「先程海の話をしたがな」
「うん、ここのね」
「本当に海が好きなのだな」
「見るのも泳ぐのも好きだよ」
 ニキータさんは井上さんに笑顔で答えた。
「いつもね」
「冬の海もか」
「あっ、冬はね」
 この季節についてはだ、ニキータさんはこう言った。
「悪いけれどね」
「そうだったな、ブラジルだからな」
「うん、熱帯だから」
 この気候だからだというのだ。
「冬は知らないの」
「そうだったな」
「そうした季節もある国があるって聞いてたけれど」
「それでもだな」
「見たことはないよ」
 実際にその目ではというのだ。
「海もね」
「冬の海もか」
「どんなのか知らないよ」
「そうか、日本の冬の海は暗い」
「そうなの」
「青いことは青いがこうした青さではない」 
 マリンブルー、コバルトブルーも入ったその濃いサファイアを溶かした様なその海を見ながらの言葉だった。
「暗い、重い重さだ」
「鉛みたいな?」
「黒がかなり多い青だ」
「沈んだ青なのね」
「そう言っていい」
「ここの海も神戸の海も」
「どちらの海もだ」
 つまり日本の冬の海はというのだ。
「沈んでそしてだ」
「暗いのね」
「そうした海なのだ」
「ううん、そうした海はね」
「あまり見たくはないか」
「そう思ったよ、僕」
 ニキータさんは井上さんに素直に話した。
「やっぱりこの奇麗な澄んだ海が見たいね」
「夏の海か」
「日本に来たての時に見た海もよかったけれどね」
 春の海だ、今思うと懐かしい。思えば八条荘での生活がはじまって僕の日常は大きく変わった。
「それでもね」
「この海もだな」
「好きだよ、けれどね」
「それでもか」
「冬の海はね」
 聞いたその海はというのだ。
「好きになれそうもないね」
「そう言うと思っていた」
「そうなの」
「君の性格からするとそうした海、いや冬自体がだ」
「好きじゃないっていうのね」
「寒いのは苦手だな」
「多分」
 寒いという感覚を知らない言葉だった、このことはイタワッチさん達東南アジアの娘達も同じだ。暑い場所に生まれると。 
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