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ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記

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第十話 頼み事をします!

 
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!  

 
 




 知波単学園には全生徒から恐れられている存在がある。
 堅実で生真面目かつ義理人情に厚く、恐れを知らない知波単の生徒たちが共通して恐れるのである。

 その恐れられている組織の名は……



 風紀委員会である。

 風紀委員会とは、校内の風紀、及び治安を守る委員会のことで、生徒の見本として振る舞い、時に校則違反を取り締まり、時に服装規定の順守、時に校内清掃やボランティア活動等などを行う、どの学校にもある生徒によって組織された委員会活動の一つである。

 しかし知波単学園の風紀委員会は違う。
 やっている事は他校と変わりないが、やり方が強引で直接生徒の部屋に乗り込むこともある。しかも校則を違反したという証拠もきちんと用意しているため、風紀委員に目を付けられたらその生徒は楽しい学園ライフはおそらく送れなくなるだろう。

 さらに『学園の治安と生徒を外部勢力から守る』という名目で軍刀を模した警棒とゴム弾を発射できる銃火器を装備していることも恐れられている理由の一つでもある。

 制服も通常の物とは違い、軍服に似ておりしかもその似ている軍服のモデルは大日本帝国陸軍なのであったため風紀委員はその行動と格好から『憲兵隊』と陰では言われていた。

 その憲兵隊の長の異名は、その苗字と行動力、冷酷さ容赦のなさからこのような異名を言われている。





『カミソリ東條』と






 教室にて

 千冬は窓際にいる生徒のもとへ歩み寄った。

「と~じょ~ここ教えて!」
「またか?少しは自分で考えたらどうだ?」
「考えた結果、わからなかった!」
「そうか……じゃあ見せてみろ。どこが分からないんだ?」

 古めかしい丸眼鏡を掛け茶色でサイドテールの髪型、知的な印象を醸し出す少女は面倒くさそうにしながらも千冬が解らない所を丁寧かつ解りやすく教える。

 一見、どこにでもいる優しいクラスメイトだが、千冬以外に喋り掛ける相手は居なかった。
 何故ならば彼女こそが知波単学園全生徒に恐れられている風紀委員会の長である……


 東條絢芽とうじょう あやめなのだから


 千冬と絢芽は一年生からのクラスメイトであり二年連続で同じ教室で勉学に励んでいる。プライベートでも暇が合えば一緒に遊びに行くなど良好な関係であり、小百合、真依、莉乃たちとは千冬を通じて知り合っており比較的良好な関係を築いている。

「なるほど、こうすればいいんだね!ありがとう東條!」
「どういたしまして」

 千冬やごく僅かなひたしい間柄の友人たちと居る時はいたって普通の女の子はだが、風紀委員長としての姿は全生徒から恐れられている、『冷酷無比で情けをかけず冷淡かつ慈悲もなく、血も涙もない風紀委員長』である。

 その姿を知っていながらも千冬は普通の友人として接してくれることに絢芽は心から感謝している。

 が……少し嫌な点もある。


「ねぇ東條?」
「どうした?まだわからない所があるのか?」
「そうじゃなくて……私と一緒に戦車道やろう!」
「やだ」

 戦車道への勧誘である。

「え~……なんで?」
「……はぁ、千冬これで何回目だ?私に戦車道の勧誘してきたのは?」
「え~っと……15回目?」
「60回目だ!何回言えば分かるんだ私は風紀委員長として忙しいんだ!戦車道をやっている暇なんてない!」
「いやぁ~…東條が居れば心強いんだけどな……じゃあこの話はまた今度にして……」

 絢芽のツッコミを受けると、千冬は話の話題を変えた。

「ちょっと相談したいことがあるんだよね」

 千冬は絢芽の耳元で周りに聞こえない大きさで言った。

「相談?何か悩み事か?」
「まあ……そんな感じかな?だから放課後、時間ある?」
「時間か……じゃあ風紀委員室に来てくれ。私はそこで仕事をしているから」
「わかった!ありがとね!」

 そういうと千冬は自分の席へ戻っていった。









 放課後、千冬は莞奈や多代たちに訓練の指揮を任せると一人で風紀委員室に向かっていた。持ち物は普段から使っているカバン一つ。
 風紀委員室の前まで来ると校内にも関わらず小銃を持ち『風紀』と書かれた腕章を身に着けている風紀委員が二人、歩哨のように立っていた。

「ここは風紀委員室ですが、何か御用ですか?」
「東條に会いに来た。栗林千冬が来たと伝えてもらえるかな?」
「少々お待ちください」

 そういうと一人の風紀委員が部屋へ入っていったが数分もしないうちに帰ってきた。

「どうぞお入りください」
「失礼します」

 扉を開けられ中へ入るとツリ目の少女に絢芽のところまで案内された。
 案内されながらも周りの様子を見ていると、多くの風紀委員が忙しそうに書類を整理したり、歩き回ったりしていた。

「みんな真面目だね」
「ありがとうございます」

 千冬がそう言うと前を歩く少女は、返事を返したのみで会話が終わった。




 四つほど部屋を抜けると『委員長室』と書かれた部屋の前に着いた。

「委員長、栗林さんをお連れしました」
「入ってくれ」

 扉を開けると大きな机の上に山積みされた書類を処理している絢芽の姿があった。

「よく来たな千冬、『わが城へ』ようこそ。赤松、お茶を二つ持って来てくれ」

 赤松と呼ばれたツリ目の少女は一礼すると部屋を出て行った。
 それを確認した千冬は口を開いた。

「随分と立派な城だね」
「そうだろ?ここにはうるさい連中がいないからな」

 絢芽は嬉しそうに自慢したが、立派な部屋だった。床には赤い絨毯が敷かれ、机は重厚な造りで中央には応接間に置かれている椅子やソファー、テーブルがあり、部屋の隅まで手入れが行き届いており、たった一人の為の部屋にしては豪華すぎた。

千冬は、中央にあるソファーに座り、絢芽は机から移動し千冬の正面にある一人用の椅子に腰を下ろした。

「うるさい連中ってのは……生徒会のこと?」
「そうだ。まったくこっちの事も考えずに好き勝手に命令しやがって……!」

 絢芽は生徒会に文句を言うが千冬は仕方がないと思っていた。

「生徒会長があれじゃ~ね………普通の生徒会長だからね」
「良くも悪くも普通だからなこれと言って特徴が無い、あの生徒会長は。っとそんなことはどうでもいい、相談とは何だ?」
「えっとね……」

 千冬が言おうとした瞬間に扉をノックする音が聞こえた。

「入れ」
「失礼します」

 赤松と言う少女がお茶を持って入ってきて、千冬、絢芽の目の前にお茶とちょっとしたお菓子を置き、一礼し再び部屋を出て行った。

「えっとね、ちょっと絢芽たちの力を貸してほしいんだ」
「力……何をする気だ?私たちを使って?」

 絢芽の目付きが鋭くなったが千冬は気にせず続けた。

「ん~……強いて言うなら、改革かな?」
「改革…それはまた大層なことだな」
「そんなことないよ。『変わる時が来た』、ただそれだけだよ」

 そう言うと千冬はお茶を飲んだ。それを見ながらアヤメは顎に手を当て考える素振りをした。

「具体的には何をやればいい?」

 絢芽がそう聞くと千冬はカバンから数枚のプリントを取りだしテーブルの上に置いた。絢芽はそれを手に取り目を通していると段々と口元が歪み始め、読み終わる頃には完全に笑っていた。
 見るものが見れば良からぬ事をやろうとする顔に見えるだろう。

「成る程、成る程……これは千冬たちだけでは出来そうにないな」
「だから『アヤメ』に手伝って欲しい」
「そうか……だが私たちだけでは出来んからな……仲間が少ない」
「じゃあ増やそうか」

 千冬がそう言うと絢芽は笑い言った。

「そうしよう。私も信頼できる人間に当たろう」
「わかったよ。ありがとね!引き受けてくれて!」
「なに、お安いご用さ」

 千冬は笑顔で返し、絢芽も笑顔となり、二人はしばらく笑顔のままだった。






 千冬が帰るのを見送ると絢芽は赤松を呼んだ。

「お呼びでしょうか?委員長」
「来たか、加藤、四方、甘粕、明石の四人を呼んでくれ」
「わかりました」

 赤松が部屋を出てから数分たってから赤松に引き連れられて四人が部屋に入ってきた。赤松はそのまま絢芽の右後ろに着いた。

「どうしたんですか委員長?」
「我々はこれから取り締まりに行くのですが……」

 長い髪を三つ編みにしている少女と一本結びにしている少女が絢芽に聞いた。

「加藤、四方すぐに終わる。甘粕、明石は何かあるか?」

 絢芽は三つ編み少女…加藤と一本結びの少女…四方の質問に答えつつ、その隣に居る甘粕、明石に聞いた。

「いいえ。特にありません」
「いたって暇だね」

 甘粕はお団子、明石はセミショートで赤いフレームのナイロール眼鏡を掛けている。
砕けた口調で返した明石を赤松が睨んでいたが絢芽は気にせず、口を開いた。

「諸君にやってもらいたいことがある」

 その言葉が発せられた瞬間、部屋の空気が緊張感に包まれた。加藤、四方、甘粕の三人は顔が緊張で少しこわばっていたが、赤松は先程と変わらず無表情で明石はのほほんとしたままだった。

「何をやればいいんだい?」

 四人を代表して明石が聞いてきた。

「まずはこれを見てくれ」

 絢芽は全員に見えるように千冬から貰ったプリントを机に置いた。

 そのプリントに目を通した、加藤は顔がますます強ばり、四方は加藤とは逆に獰猛な笑みとなり、甘粕は少し笑い、最後に明石は声を上げて笑った。

 その様子を見た絢芽は満足したように頷き、四人に別々の任務を与えた。
 四人は任務内容が書かれた命令書を受け取り委員長室を後にした。



「本当によろしいのですか?」

 四人が部屋を後にしたあとに赤松が絢芽に質問した。

「何がだ?」
「本当にあの栗林さんは信用できるのですか?もしこの計画が我々を貶める罠の可能性もあるのですよ?」
「罠か……それはないな」
「何故です?」
「あいつは……千冬はそういう人間じゃないからな」
「ならいいのですが……」

 絢芽の答えに不満があるのかムスッとした顔となった。
 それを見た絢芽は苦笑いつつ携帯電話をポケットから取り出した。
 赤松は音を立てないように静かに、絢芽の傍から離れ一礼してから部屋を出ていった。

 絢芽は窓際に立ち外の景色を見ながら電話を掛けた。数回コール音が部屋に響き、止まった。

「もしもし、私です。東條です。……ええこちらは大丈夫です。バレてませんよ。………分かっていますよそのぐらい」

 絢芽の顔は無表情そのもので淡々としながらある人物に報告した。

「そんなことより、『我々』と志を同じくする人物がいました」

 電話口からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

「大丈夫です。その人物は私の親友ですから。それよりその親友から頼み事をされまして、現在実行中の任務と並行して行います。よろしいですね?………分かりました。資料は後でそちらに送ります。……ええ、分かっていますよ。………ではまた、永田さん」

 そう言って絢芽は電話を切った。ふと窓の外を見ると演習場に向かっている戦車の列が見えた。

「千冬も大変だな……あんなに無能共が居るのだから……」

 絢芽の表情は先ほどの無表情から一転して優しい笑みを浮かべていた。



「我らは一蓮托生……私たちは志同じくする同志……私の友達……栗林千冬か」



「やはり面白い奴だよ……お前は」


 絢芽はそう言うと席に戻り、風紀委員長としての仕事に戻っていった。








 『改革』の準備はゆっくりとだが確実に進んでいた。






 
 

 
後書き
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