| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第十一話 決勝戦、見ます その1

 
前書き
大学忙しい・・・ 

 


 戦車道の聖地である東富士演習場では、第63回戦車道全国高校生大会の最後の試合……決勝戦を行うべく大洗女子学園と黒森峰女学園の戦車が集結、大洗女子、八両。対して黒森峰は二十両。計二十八両の戦車が対峙していた。

 その光景を多くの戦車道ファン、メディア関係者、娘の晴れ姿を見に来た者や各学校の戦車道部員、戦車道連盟、などなどその他の多くの見物人が観客席にいた。



 その中には知波単学園の制服を着ている少女たちもいた。

「やっぱり人多いね~」

 のんびりとした声で千冬は言った。左手には屋台で売っていたおやきが入った紙袋、右手にはお焼きがあった。

「そりゃ~決勝戦すからね」

 小百合も屋台で買った焼きそばを食べながら言った。

「祭りみたいだな~あたいはこういう雰囲気好きだな~」
「私も好きよ。こういうの」

 多代もまた屋台で買った、たこ焼きを隣に居る莉乃と共に頬張りながら言った。

「いや~やはりドイツ戦車は良いですな~!大洗には三式中戦車、それに滅多にお目にかかれないポルシェティーガー!あんなレア戦車があるなんて羨ましいです!」

 真依は観客席の前に置かれた大型スクリーンに映し出されている大洗、黒森峰の戦車を見てテンションがあがっていた。

「全く……何を浮かれているんだ……?我々は試合を見に来たんだぞ?」

 ため息混じりに莞奈は言ったが右手には綿飴がしっかりと握られていた。

「試合を見ながら食べるんだよ~」

 莞奈の隣にいた靖香はフライドポテトを食べながらいつもの口調で言った。
 それ以外の若菜と和佳子はカキ氷を、巴と朱音はフランクフルトを食べている。

「まぁ……今日ぐらい良いか」

 いつもなら怒鳴りながら『真面目にやれ』と言う莞奈だったが今日は機嫌が良いのか怒ることもせずそのままでいた。

「かっちゃん、何かあったの~?」
「いや特に何もなかったが、どうした?」
「何か機嫌が良さそうだな~って思ったの」
「そう見えるか?」
「うん!見えるよ~」
「そうか……」

 莞奈はそう言うと顔を下に向け黙りこんだ。しかし靖香にはしっかりと見えていた。


 莞奈が顔を赤らめている姿が!

 靖香はあえて何も言わなかった。言わなかったがものすごくいい笑顔で莞奈を見つめているだけだった。まるで見守るように。

ちなみに莞奈は甘い物が大好きである。



「千冬、来たわよ」

 千冬たちが後ろを振り向くと、ノンナとノンナに肩車されたカチューシャが立っていた。

「以外に来るの遅かったね」
「うぐっ!?……ちょ、ちょっと用事があったのよ……」
「そっか」

 そう一言いうと千冬は席から立ち上がり、カチューシャを見た。
 右目に眼帯をしているため左目だけでカチューシャを見ることになっていたがそれで十分だった。
 千冬の瞳を見たカチューシャは肩をビクリッとさせ、顔を横に向けた。

「じゃあ、行こうか」

 そう言うと千冬は席を離れて一人、歩き出した。それに付いていくようにカチューシャとノンナが歩いて行った。

「お、おい!栗林!どこへ行く気だ?」

 莞奈が声を上げて聞くが千冬は答えなかったが、代わりに小百合が答えた。

「ちょっと大事な話があるんだよ」
「大事な話?ここで話せない内容なのか?」
「そうだね……人が多い所では話したくないんだよ。カチューシャたちが」
「……そうか」

 そう呟くように言うと莞奈は千冬の背中を見えなくなるまで見つめた。








 千冬、カチューシャ、ノンナの三人は試合会場がよく見える丘の上にいた。

「……で、アンナもとい千雪の様子は?」
「………あまりよくない」

 千冬が質問すると、うつ向きながらカチューシャは言った。

「そう……で、まだ続けてるんでしょ?戦車道」
「続けてるけど……」
「ならそれで良い」

 千冬はそう言うと紙袋からおやきを一つ取りだし食べ始めた。
 それを見ながらノンナが言った。

「心配ではないのですか?」

 千冬はすぐには答えず、おやきを食べ終わると口を開いた。

「心配じゃないし、心配する必要はない。だってそうでしょ?理由はどうあれ自分自身の意志で戦車に乗っている。よくないと言っても昔の『私』ほど酷くない……そうでしょ?」
「しかし……これ以上彼女を……千雪を戦車に乗せていては危険です」

 千冬は淡々とした口調で言ったが、ノンナは不安だった。ノンナだけではない。カチューシャもこの場には居ないニーナもアリーナも、千雪の車輌の乗員であるリリア、ミーシャ、ターニャも、その他多くの人が千雪の事を心配していた。


 千雪は文字通り豹変していた。

 大洗戦の後の授業にも出ず、朝から晩までひたすら戦車を動かし、何かに憑りつかれた様に虚ろな目で訓練をし続けている。同じ部屋に住んでいるレーナによれば食事もまともに取っていないという。
 それほどまでに今の千雪は心身共にボロボロになっていた。

 それを知っているはずなのに千冬は心配した様子を見せず、言い放った。

「理由はどうあれ自分自身の意志で戦車に乗っている。よくないと言っても昔の『私』ほど酷くない……そうでしょ?」

 そう言うとノンナは黙ってしまった。黙らざるを得なかった。

 昔の千冬を知っているため何も言えなくなったのだ。勿論カチューシャも昔の千冬を知っている。先ほどからずっと下を向いたままで何も言わない、言えない。

 その二人の姿を見ながら無表情になりながら続けて言った。

「戦う意思があるなら千雪は大丈夫だよ」
「千雪はまだ『負けてない』。私のように惨めな敗北をしていない」

 そう言うと無表情から一転して楽しそうな笑みを浮かべた。

「負けはならないんだ。『栗林流に負けは許されていない』。二人も知ってるでしょ?」



 それはとても楽しそうな笑顔だったが同時にどこか悲しげな笑み。

 そうノンナには見えた。















 西住流師範である西住しほは大会関係者用の観覧席に腰を下ろしていた。その真横に栗林流師範の栗林千秋が座っていた。

 それだけなのに二人の周りに近づこうとする者は、誰も居ない。
 しほは鋭い眼つきで大型スクリーンをじっと見つめ、千秋は相変わらず笑っていた。
 片や鋭い目付き片や笑顔では近づこうにも近づけないし、それだけではない。

 問題は千秋が『栗林流師範』だからだ。
 栗林流は極少数の流派を除いて好意を持たれていない。むしろ多くの敵意を向けられている。理由は色々とあるが挙げるならその戦い方と態度である。
 この場で問題となっているのは態度であり、プライベートならしほを『しほちゃん』と呼んでも問題にはならないが公の場でそう呼んでいるので西住流やその関係者からは嫌な顔をされている。
 彼・彼女らからすれば『目上』である西住流師範に対して失礼な態度を取っているように見えるのだろう。しかし千秋は態度を改めようとしないのでますます失礼な奴と思われ嫌われている。千秋が口を開くたびに場の雰囲気が悪くなるという悪循環が起きていた。
 しかも千秋を含めて栗林流は態度が悪いと思われている。

 まあ本人も門下生も全く気にしていないが。


「そろそろ試合が始まるね」
「そうですね」
「どっちが勝つと思う?」
「……私は黒森峰が思います」

 千秋の質問にしほはさらに鋭い目付きになりながら答えた。
 この試合はただの戦車道の決勝戦ではない。
 大洗女子学園は敗北すれば廃校が決定し、黒森峰女学園は去年の敗北は運が悪かった、黒森峰こそが絶対王者であることを示す試合。
 もう一つは西住みほと西住まほの姉妹対決、つまり西住流同士の戦いなのだ。しほにとっては後者の方が重要なのだろう。

「私は大洗が勝つと思う」
「………何故そう思うんです?」
「勘だよ」
「そう…ですか……」

 それで会話が終わり、二人はじっと大型スクリーンを見ていた。



 数分後、大洗女子学園と黒森峰女学園の開戦を知らせる花火が上がった。



「まほちゃんは森を抜けて一気に潰す気だね」

 スクリーンに映し出された映像を見ながら言った。

「そのようですね」
「しっかり西住流してるね!」
「………」
「まあ~個々の練度は相変わらず低いみたいだけど、それも西住流だから仕方がないね」

 そう言うと後ろから殺気立った人々が千秋を睨みつけ何かを言おうとした。

「千秋さん言い過ぎです」

 しほが遮るように千秋に言うが

「でもそうじゃん。西住流で強いのしほちゃんだけだよ」

 火に油を注ぐ結果となった。

「ふざけるなぁ!弱小流派の分際で西住流を愚弄しおってぇ!」
「師範と知り合いと言うだけで言いたい放題言ってぇ!分を弁えろ!」
「貴様のような輩が戦車道を汚すのだ!恥さらしめ!」

 何人かの西住流関係者が怒鳴りながら千秋を罵倒するがその隣にいたしほは頭を抱えたくなった。
 何故ならこの後千秋が言う言葉が容易に予想できたからだ。

「それで?他に言うことは?」

 千秋は笑いながら自分を罵倒してきた者へ言った。

「それだけなら黙っててくれる?うるさくて試合に集中できない。……お!ポルシェティーガーをみんなで引っ張ってる!」

 面倒くさそうに言うと千秋の視線はスクリーンに集中した。
 その態度が西住流関係者の怒りを招いているのにもかかわらず、興味なさそうに答えを返したため、関係者は更に怒り、青筋を立て、ワナワナと震えていた。
 このまま行けば暴力事件に発展しかねないと判断したしほは、西住流師範として止めようとしたが………



「千秋さまぁぁぁぁぁ!」

 その叫び声が後ろから聞こえ全員が振り向くと何かが千秋に向かって飛んで行った。それを千秋は胸で優しく受け止めた。

「千秋さまぁぁぁ!会いたかったですぅぅぅぅ!」
「くっつき過ぎだよ奈々ちゃん」
「スゥーッハァァ!スゥーッハァァ!スゥーッハァァ!千秋さまの匂いいい匂い!!」
「それは良かった」

 千秋は胸にくっついている者の頭を優しく撫で、くっついている者は千秋の胸にうずくまりながら何か言っていた。
 いきなりの事に千秋としほ以外は思考が追いついていなくただ茫然としていた。
 そうしている内にくっついていた者が千秋の胸から離れた。
 髪型は千秋と同じ腰まで伸ばしたストレートヘア、背丈は150㎝ほどで小柄、そして童顔で満面の笑みを浮かべていた。

「本間奈々!千秋さまの元にただ今推参致しました!!」

 元気よく千秋に挨拶した彼女に対して、周りの人間はやっと事態が把握してきたのか動き始めていた。

「あの、お嬢さん?ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?」

 その中の若い一人が奈々に近づいて話を掛けた。

「あん?関係者だから入って来てんだろ?それぐらいのこともわかんねぇのか西住流のクズ共は?」
「………えっ?」

 あまりにも千秋との態度が違う奈々に何を言われたか理解できない顔をしていた。

「第一、誰に向かってお嬢さんって言ってるんだよ?私に言ってるんじゃないよね?言ってたらぶっ殺すからな」
「き、君?年上に向かってその態度はどうかと思うな~」

 青筋立てながらも大人としての威厳を保とうとしていた若い人は出来るだけ優しい口調で奈々に言ったが……

「うんじゃあお前がその態度を改めろゴミクズ。私はお前より年上で位が上で財力が圧倒的に上だぞ?」
「奈々ちゃんは私と同い年だからね。あと社長だよね?」
「その通りです!千秋さま!」

 奈々の発言に補足するように千秋が言ったがここに居る多くの人が理解できていない顔になっていた。
 しかし少ない人数ながらも理解し奈々が誰なのか分かったのか恐る恐る聞いてきた。

「あの……本間重工業の本間奈々でしょうか?」
「やっと気付いたか馬鹿共。そんな低脳でよく西住流にいられるな?あぁ失礼、西住流全員低脳でしたねぇ!!」
「口が過ぎるよ奈々ちゃん」
「申し訳ありません千秋さま!正直に思っていることを言ってしまいました!テヘッ♪」

 本間重工業とは『ネジから人工衛星まで!』をスローガンにかがげている日本を代表する重工業でありおもちゃのネジから人工衛星のソーラーパネルまで造り上げる巨大企業である。勿論、戦車道の関連商品も多く取り扱い生産している。しかし国内よりも国外に多くの商品を販売しているため、日本国内での知名度はあまり高くない。
 その社長が本間奈々なのである。

 そして栗林千秋の後輩でもある。

「さ、先程はご無礼を!し、しかしいくら何でもそこまで言わなくても良いのでは……?」
「……ふんっ」

 顔を青くしながら謝罪するも、言い過ぎだと暗に言ったが奈々の返した答えは鼻で笑うだった。その態度からは明らかに馬鹿にし見下していることが分かった。

「無能の低脳の馬鹿に、分かるように言っているだけだ。正直に言って何が悪い?それに西住流だから偉いのか?そんなわけない。そこの『殺人未遂犯』はともかく貴様らは大した実力もないのに西住流の門下と言うだけで威張り散らす愚か者ではないか!?貴様らのような者を虎の威を借る狐と言うんだ!分かったか!?バァァァァカァァ!!」

 そう怒鳴ると奈々は千秋の方を向いた。

「千秋さま、そろそろ行きませんと鍋島や池田が待ちくたびれてしまいます。移動しましょう」
「うん、分かった。またね、しほちゃん!私は友達と一緒に試合見るから!しほちゃんも楽しく試合見てね!」

 千秋は席から立ち上がりしほに言うと歩き出し、そのすぐ後ろに奈々が着いていった。

 残されたものはただその後ろ姿を見ることしかできなかった。












 決勝戦は始まったばかりだ


 
 

 
後書き
最終章楽しみ 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧