機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第三の牙
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第二話 未来と過去
前書き
難しいことを書くのは苦手なんじゃあ!どう表現すればいいのかわからんぜよ……自分の中では理解できてもこれを読者の皆様に理解してもらえるか、無茶苦茶不安なのぜ!
誤字脱字があれば直します!
感想を書いてくれたら次話を投稿するかも…?
「おはよう、アカツキ」
「……」
朝の挨拶。学校の、クラスの奴にされたのはいつ以来だろう。しかも、その挨拶は俺の後ろの席のグライアからだった。
「挨拶くらい返しなさいよ」
グライアは自分の席に座りながら言う。あれ、なんで話し掛けてくんの?
昨日のあの態度からするにもう、俺には話し掛けてこないと思ってたのに。
「ねぇ、聴いてる?」
「聴いてるよ、うるさいなぁ」
「聴こえてるなら最初から返事しなさいよ。なんでそんなに無愛想なの?」
生まれつきです。
「そんなんだから、皆から距離を置かれるのよ」
「……」
俺、なんでこんなに言われてるの?
ていうか、昨日より態度が大きくなってる。俺の母さん クーデリアの存在を知った時は俺の事を恐怖してたのに……。
「昨日、出された宿題はやってきた?」
「やってない」
「なんでやってないのよ!
昨日あれだけ怒られて、まだ懲りてないの?」
「そう言われても、興味無いし」
「言い訳無用!
まだ、先生来るまで時間あるから一緒にやるわよ」
グライアは自分の席の椅子を俺の椅子の隣まで持ってきて座った。
「えっ、」
「えっ、じゃない。宿題のプリントは?」
「……確か、鞄の中に入れてたと思う」
鞄の中をあさり、筆箱とくしゃくしゃになったプリントを取り出した。
「なんでこんなにくしゃくしゃなのよ!」
「知らないよ。勝手にくしゃくしゃになってた」
「アンタねぇ……。
まぁ、いいわ。早く終わらせましょ」
グライアはくしゃくしゃになったプリントを開き、問題の解説を始めた。
「ここは……うん、そう。それで、そこを……そうそう」
グライアの教えた方は先生よりわかり易く、立ち所にプリントの空白は埋まっていった。
と言っても、先生の授業を真面目に受けたことないからグライアの教え方が上手いかなんて解らない。
でも、分かりやすいことは確かだ。
授業の大半を寝て過ごす俺でも、あっという間にプリントの空白を全て埋めることが出来た。
「やれば出来るじゃない。
ちゃんと勉強すれば私より頭良いかも……」
「そんな事ないよ。グライアの教え方が上手だったから出来た」
────ん?
なんか、視線を感じる。
周りを見てみると、クラスの連中は俺達の事を見ていた。
そして、俺の視線に気付くと周りの奴らは目を逸らした。
「?」
なんだ?
「アカツキもやれば出来るんだから今日からは真面目に授業を受けなさい!」
「ん、あぁ」
「ちゃんと聴いてるの?」
「聴いてるよ。それより、そろそろ席に戻ったら? そろそろ先生が来ると思うけど」
「え、もうそんな時間?
あ、ホントだ。早く戻らないと」
グライアは自分の椅子を持ち、素早く自分の席に戻った。
「はぁ、おはよう」
重たい溜息を付き、先生はやって来た。
「さて、出席とるぞぉ。
取り敢えず、皆居るかぁ?」
席に空席がない事を確認し、先生は出席表に記入する。
「んんじやぁ、朝の朝礼から始めるぞ」
クラス委員長は立ち上がり。
「起立、」
そして一斉にクラスの生徒が立ち上がった。
「礼、」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
一礼し、委員長の「着席、」の発言で席に座る。
「今日は特に言うことはないから。早速、授業を始めるぞぉ」
先生は教科書を開き。黒板に書いてある文字を見て。
「あ、そういえば今日提出の宿題があったな。今日はそれの答え合わせもするから机の上に出しておくように」
クラスの皆は一斉にプリントを机の上に出した。
俺も、さっきやったし一応出しておこう。
「んじゃあ、答え合わせ始めんぞぉ。前から順番に黒板に答えを書きにこーい」
出席番号一番から立ち上がり、二番、三番と黒板に問題の答えを記入していった。
そして、ついに俺の番がやってきた。
「えっと……これでいいかなぁ」
プリントを見ながら黒板に答えを記入する。
すると、それを見た先生は。
「アカツキ、お前……宿題やってきたのか?」
驚いた表情で言ってきた。
「え、はい。一応」
やってきたと言うより、さっき教えて貰って出来ただけど。
そう言おうとした矢先、先生は俺の頬をつねってきた。
「先生……痛いです」
「夢じゃない」
「そういうのって、自分の頬をつねるもんでしょ」
「じゃぁ、俺のほっぺたをつねってくれ」
「分かりました」
俺は先生の頬を軽くつねる。
「……痛い、」
「そりゃ、つねられてたら痛いでしょ。先生もいい加減、離してください」
「お、ぉぉ。すまん」
互いに頬を赤くしながら頬をさする。
先生は夢でも見ているような表情だった。
「え、じゃあ。夢じゃないの?
ホントに宿題やってきたの?」
「まぁ、一応は」
「そのプリント、見せてくれ」
俺はくしゃくしゃのプリントを差し出した。
先生は一問目から最後の問題まで見通し。
「全部、合ってる……?」
「へぇ。全部、合ってるんだ」
「おぉ、アカツキィッ!!」
先生はいきなり抱きついてきた。
苦しい……オッサン臭い。なんで、そんなに喜んでるんだ?
「お前ぇ……俺はやれば出来る子だって分かってたぞぉ」
「先生、なんで泣いてんの?」
「嬉しいからに決まってんだろぉ!
言っても言っても、言うことを聞かない問題児が宿題を!それも空白無しで全問満点!こんなに嬉しいことが他にあるかよぉ!」
「知らないよ。そんなことより、早く離して」
「ウォォォォッ、アカツキ!!」
俺は、どうやら褒められているようだ。
それを見てガッツポーズを決めるグライア。中年のオッサンに抱きつかれるのは嫌だけど……褒められるのは嫌じゃなかった。
今日は眠らず、授業を受けていた。
相変わらず、授業に興味は持てないけど自分で問題を解いてノートの空白を埋めるのは意外と楽しかった。
だが、授業を真面目に受けていなかったツケが回ってきた。
「……」
解らない。
さっきとは問題の解き方が違う。
問題の解き方は教科書に書いてあるけど、それを解くために必要な公式がよく解らずにいた。
「困ったなぁ」
空を眺め、肘を付いた。
いかにノートの空白を埋めるのが楽しくても問題が解けなかったら意味がない。
はぁ、と溜息を付くと。
────トントンっ。
背中を数回、指でつつかれた。
後ろに振り返ると、グライアはノートを差し出してきた。
「ん?」
「問題、解んないでしょ。これに解き方が書いてあるからこれを見て」
小声で、先生には聴こえないようにグライアは言った。
「でも、これが無いとグライアは問題、解けなくなるんじゃあ」
「ふっふっふっ。この程度の問題ならノートなんか見なくても余裕よ。ほら、早く。先生に気付かれちゃう」
「……分かった。ありがと」
ノートを受け取り、感謝の言葉を述べる。
綺麗なノートだ。汚れ一つない。
俺のノートとは大違いだ。
ノートを開き、書かれている内容を確認すると。
「字、綺麗だな。それに……わかり易い」
勉強の教え方も上手くてノートもわかり易い。これなら解けなかった所も解けそうだ。
────ん、これって……。
今やってる問題の解き方が簡単にまとめられていた。
字も新しい。さっき、書かれたばかりのようだ。後ろにチラッと振り返るとグライアは小声で「別に、アンタの為に貸してやったんじゃないんだからねっ」と顔を赤くする。
どうやら、俺の為にわざわざ問題を解くための公式をグライアなりにわかり易く書き留めてくれたようだ。
これは、後でちゃんとお礼しなきゃな。
「……へぇ」
まずは解らなかった所を見直して、問題の解き方を考える。そして、グライアのノートに書かれた問題の解き方と見比べ自分のノートに記入した。
これで、合ってると思う。
確信はないけど。難しい問題を解けた達成感は感じられた。この調子でやってない問題もやっていこう。
……。
…………。
………………。
…………。
……。
気付けば休み時間になっていた。
勉強に夢中になりすぎて休み時間を迎えるなんて人生、初めてだ。
「どう、解んない所は解けた?」
いつの間にか、俺の隣に立っていたグライア。
「うん。グライアのおかげで解らない所は全部、出来たよ」
「別に、アンタの為にノートを貸した訳じゃないんだからねっ」
「それでもだよ、ありがと」
グライアのノートが無かったら途中で投げ出してただろうし感謝している。
「ま、まぁ。私は当然の事をしたまで、だから……ほ、他に解んない所は無かったの?」
「うーん。強いて言うなら、ここの問題とかかな。解き方はグライアのノートを見て解ったけど計算の仕方がちょっと……」
「あぁ、そこね。そこはここをこうして。そこをそうすれば……ほら、」
「あ、簡単に出来た」
やっぱり、グライアは人にものを教えるのが得意なようだ。俺みたいな馬鹿でも理解できるし、何故か勉強を楽しく感じた。
「凄いな、グライアは。まるで学校の先生みたいだ」
「それって、褒めてるの?」
「うん。純粋に凄いって思った」
「そ、そう。ありがと……」
そう言って少し横に顔を向けるグライア。少し、顔が赤くなってる。熱でもあるのかな?
「そのノート、私はもう使わないからあげる」
「え、いいの?」
「いいわよ。その代わり、ちゃんと授業を受けること!いいわね!」
「うん。解った」
そうしてグライアは自分の席に戻っていった。
「……・・・•••・・・・・・」
また、視線を感じる。
クラスメイト達からの視線だ。
昨日もそうだけど、なんで俺を見るんだ?
そして、俺と視線が合うとそっぽ向く。
「……?」
まぁ、いいか。興味無いし。
ギャラルホルン 特別会議室。
ギャラルホルンの中でも絶大的な権力を誇る者のみ入室を許可されるここは神聖な聖域のようなものだった。一般兵は入室不可能、警備兵のみ立ち入りを許可された空間……なのだが、今ここに集まっているのは様々な分野で活躍するスペシャリスト達だ。
数年前、ギャラルホルンは内側から変わっていった。
力を誇示するだけの軍隊ではなく、力を分かち合い、皆で協力する道をギャラルホルンは選んだ。そうすることで民からの信頼も良好な関係となり、今では本物の本当の世界平和を目指し日々、活躍している。
そして、今回の議題は────。
「ガンダム バエルが鉄華団を名乗る何者かに強奪された……」
ギャラルホルンの象徴とも言えるガンダム バエル。
15年前の戦いで機体は喪われたとされていたが、機体は秘密裏にギャラルホルンの手で回収され、ギャラルホルン総司令部の地下深くに封印されていた。無論、その事はここに集まっているの者達全員、知っていることだ。
故に、その点に関しては驚くことはない。
だが、ガンダム バエルが鉄華団を名乗る何者かに手によって強奪されたとあっては────。
「一体、どうやってガンダム バエルを……?」
ここに集まる者全て、驚きを隠せずにいた。
秘匿され続けていたガンダム バエルの存在を知り。それを奪取した鉄華団 団長 オルガ・イツカを名乗る謎の男。
不可解な謎と疑問が入り交じり、ザワつく会議室。15年前に死んだとされる鉄華団のオルガ・イツカ。死体は確認されておらず、生きていても不思議ではないが……何故、今になってこのような反抗に出たのか?
あのオルガ・イツカは本人なのか?
それともオルガ・イツカを名乗る偽物なのか。いや、それは別段、大した話ではない。今回の議題はオルガ・イツカの生死ではなく、ガンダム バエルの強奪経緯だ。
15年前のクーデターのように悪用される可能性が高い。
ガンダム バエルはギャラルホルンの象徴。バエルに認められし者はギャラルホルンを統べる者とさえ言い伝えられている。その存在を悪用し、ギャラルホルンを地に貶めようとしているのなら────。
「無駄な事を、」
それは呆れた声だった。
呆れ過ぎて思わず、言葉を口から零してしまった。
ギャラルホルン総司令 ラスタル・エリオンは溜息を付く。
バエルが誰の手に渡ろうと今のギャラルホルンには何の痛手もない。
15年前ならいざ知らず、今のギャラルホルンの内情ならガンダム バエル程度の存在では揺るぎもしない。
それなのに、ここに集まる者達の殆どは血相を欠いている。
今のギャラルホルンにこの手の揺さぶりは通用しないというのに────脆弱な者達だ。
そんな事よりも今は鉄華団を、オルガ・イツカを名乗る何者かを議題するべきだろうに。
今のギャラルホルンにガンダム バエルの存在[カード]は無意味に等しい。恐らく、オルガ・イツカを名乗る男もそれは理解しているはずだ。それでもなお、ガンダム バエルを強奪する理由はなんだ?
そして、その強奪の手口も曖昧だった。
潜入された形跡は残っておらず、死人も出ていない。あるとすれば怪我人と大破したモビルスーツ一機のみ。それ以外は何も無いのだ……。
報告によればガンダム バエルを逆奪した者は「鉄華団のオルガ・イツカ」と名乗り。我々、ギャラルホルンに『宣戦布告』を宣言した。
と、ここまでしか未だに解っていない。
謎ばかり……だが、これはいい機会だ。
これを機会に、ギャラルホルンは更に巨大化できるかも知れないとラスタル・エリオンは判断した。
民主主義を導入したギャラルホルン。
民の言葉を聞き入れ、民と共に歩む軍隊。
新たな障害の存在を国民に促し、これをギャラルホルンの手で討ち取る。そうすればギャラルホルンの地位は更に高まる事だろう。
あくまで、テロリストを討ち取る為の名目でギャラルホルンの利益を上げる。
これで立ち前は充分だ。
ラスタル・エリオンは愚か者共に発言しようとする、その時だった────。
「皆さん。どうか落ち着いて、冷静になって下さい」
特別会議室に響き渡る女の声。
火星連合議長 クーデリア・オーガス・ミクスタ・バーンスタインだ。
「ガンダム バエルの奪取。確かに、ことは唯識事態です。ですが、今は『バエル』奪取の真意を汲み取るべきだと私は判断します」
それを聴いた哀れな男は。
「真意を……汲み取る?
ギャラルホルンの象徴である、バエルを奪取した意味をですか……?」
それを聴いた哀れな女は。
「それなら明確じゃないですか。バエルはギャラルホルンの象徴。それを手にしたという事はギャラルホルンの……」
女はそこで己の口を閉ざした。
当然だ、その先の事を言えばこの場からつまみ出されるのは明確。女は下を向き、発言を止めた。
そして、クーデリアは動き出す。
「ギャラルホルンの象徴。
ガンダム バエルの存在は大きい。ですが、それは愚像に過ぎません」
彼女は今、とんでもない発言をした。
その発言を耳にした者の表情は唖然。あまりの発言に椅子から転げ落ちる者もいた。
「ガンダム バエル。アレは過去の栄光、過去の遺物です。それを奪取された程度で畏怖する貴方達を私は見るに堪えません」
またもや、とんでもない発言。
ある男は口をパクパクと魚のように開かせ。
ある女は滝のような汗をかき、顔のメイクが崩れていた。
そして、ある男は────。
「全く、その通り。その通りだ。
クーデリア・ オーガス・ミクスタ・バーンスタイン」
男は、ラスタル・エリオンは、パチパチっと拍手で賞賛していた。
「皆様、少し冷静になって考えてみて下さい。たかが、モビルスーツの一機がテロリストに奪取されただけ。それほど悩まれるような事ではありませんよ」
「し、しかしアレは────」
「ギャラルホルンの象徴?
えぇ、確かにアレはギャラルホルンの『過去』の象徴です」
男は、ラスタル・エリオンは微笑んでいた。
まさか、このような展開になるとは思ってもみなかった。退屈な会議が一変し、興味をそそられるものとなった。
「確かに。ガンダム バエルの、アグニカ・カイエルの存在なくしてギャラルホルンの存在は有り得なかった。ですが、それは過去の事。現代においては何の意味も成さない」
ラスタル・エリオンはギャラルホルンの長とは思えない発言を淡々と述べた。
「私達にとって一番大切なものは今です。いちいち過去に囚われていてはこれから先の未来も見えてはきませんよ」
「ですが、過去あっての今です!」
小童(こわっぱ)は立ち上がり大声で言った。
その威勢はいい。だが、ここに立つにはまだ早い。
「では聞くが。貴君は、栄光ある未来と栄光のあった過去。どちらを取るかね?」
「……え?」
「なに、簡単な質問だ。
未来と過去。二択のうち、どれを選ぶ?」
実に単純な質問に若い男は戸惑う。
いや、この質問の意味を理解したからこそ解答に躊躇しているのだろう。
「未来はこれから先の事。
過去はこれまでにあった事だ。
ギャラルホルンを築き上げた千代達が未来を選択し続けたからこそ今のギャラルホルンがある。今のギャラルホルンは未来を選択し続けた結果なのだよ」
「……」
「貴殿の言い分も解らなくもない。だが、過去の栄光に囚われるな。今はガンダム バエルよりも、鉄華団 オルガ・イツカを名乗るテロリストの話をしようではないか」
そう言うと、若い男は黙ってその場に座った。
その表情は、納得は出来た。否定もできない。だが、それでも……と言いたげな顔だった。
だが、それでいいとラスタルは思った。
若い男はあの男に似ている。仲間を想い、部下を想い、国を護りたいと一心に願っていたあの男に。だからこそ、一度立ち止まり考える機会を与えた。あのままいけば、あの若い男はあの男の末路を辿ることになる。あの男の同じ思想を抱いてしまう。
あの男……イオク・クジャンと重なって見えるのは歳のせいだ。そう、老いぼれの押し付けだ。
儚げに残る、記憶の片隅。
ラスタルは己を支持し続けてくれていた男を思い出す。今はそんな事を思い出すべきではないと解っていても彼の事が頭から離れない。
ラスタルはティーカップに注がれた熱いお茶を一口。
────今は、鉄華団 オルガ・イツカを名乗るテロリストの議題に集中せねばな。
そう決心し、ラスタルは頭の中で渦巻いているイオク・クジャンを振り払った。
だが、まぁ。
この会議が終わったら、墓参りに行こう。
そう、思った。
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
………………………………。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
会議は数時間に渡り行われ、最終的には二つの意見に別れた。
一つは鉄華団 オルガ・イツカを名乗るテロリストと奪取されたガンダム バエルの捕獲。
二つ目は交渉による和解。
二つ目は不可能に近いものだが、極力の戦闘を避けることを優先するなら選択肢としては間違っていない。
だが、それは選択肢としてだ。
火星連合議長 クーデリア・ オーガス・ミクスタ・バーンスタインは一つ目の意見。鉄華団 オルガ・イツカを名乗る偽物とガンダム バエルの捕獲を支持した。
現実的な判断、理想よりも現実を忠実に見た判断と言動で会議を盛り上げ、二つ目組の意見を論破した。
ラスタル・エリオンもクーデリアの意見に賛同した結果。ギャラルホルンはテロリストの捕獲とガンダム バエル奪還の方針で話を進めていくこととなった。
そして会議は終了する。
クーデリアは次の仕事に向かおうとするその時だった。
「少し、お時間宜しいかな?」
そう言ってきたのはギャラルホルンの代表を勤めるラスタル・エリオンからだった。
「えぇ、少しなら構いませんよ」
クーデリアは分単位で刻まれたスケジュール帳を確認し言った。
流石、火星連合議長と言うべきか。そのスケジュールはハードそのもので睡眠をとる時間なんて殆どないであろう。だが、それを苦とは欠片ほど思っていないクーデリアの顔を見るとラスタルは自然と笑みを零してしまう。
「?」
「いえ、なんでもありません。
あぁ、立ち話も何です。少しの間ですがアチラで座って話すとしましょう」
そこは海の見える綺麗な所だった。
太陽の眩しい光、空を舞う鳥達。
観ているだけで心を癒される光景にクーデリアの頬は緩んだ。
「いい景色でしょう」
「えぇ、やはり地球は美しい所ですね。何度来て、何度見ても、そう思います」
「それはよかった」
「それで、お話というのは?」
「おっと、そうでした。
すっかり忘れていた。申し訳ない」
何処まで本気なのか解らないラスタルの言葉に惑わされることはないが、悩まされるクーデリア。
そして、
「クーデリア・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン。貴女は何故、捕獲の意見を推したのですかな?」
「何故、とは」
「いえ、少し疑問に思っただけですよ。昔の貴女なら、私は二つ目の意見を推すと思った。ただ、それだけの事ですよ」
「……」
これは些細な、どうでもいいことだ。
今のクーデリアとは違う考え方だと思ったからこそ言っただけのことだ。
真っ当な応えなど期待はしていない。だからこそ、答えを知りたい思ったラスタル・エリオンは質問した。
「別に、応えたくないならそれでも構いません。老いぼれの気まぐれだと思ってください」
はははっと笑うラスタル。
そして、短い沈黙を破り。クーデリアは口を開いた。
「多分、私は……許せなかったんだと、思います」
「許せなかった?」
「はい。鉄華団を名乗る偽物を、オルガ・イツカを……団長さんを名乗る偽物をこの目で見てみたい、そう思った……ただ、それだけなんです」
口ごもりながらもクーデリアは言い切った。
「鉄華団の名を名乗り、ましてや死んだはずの団長さんの名を語る……そんな不届き者を許せる訳がない……」
それは、感情論だった。
鉄華団を、オルガ・イツカを名乗る偽物を許さない。ただ、それだけ。
まるで子供じみた発言だ。
だが、悪くない。
納得し難い理由だが、それも一つの選択肢だ。
そして、それを利用しギャラルホルンの地位を高めようとするラスタルも大して代わらない。
互いに利害は一致している。
それなら、納得がいかなくとも利用し協力しあえる関係を維持し続けられる。
「解りました。お手間を取らせてしまって申し訳ない」
「いえ、私も……その、」
「構いませんよ。今は、まだ、それで」
そう言い残しラスタル・エリオンは去っていった。
クーデリアは空を見上げ。
「貴方だったら、どうしていましたか?
────三日月、」
届くことのない言葉を、届くことのない人に向けて、彼女は呟いた。
最近、勉強を楽しいと思え始めた。
ちょっと前までの俺は勉強に興味を持てず、授業中を寝て過ごしてたけど……今、思えばなんでこんな楽しい時間を寝て過ごしてたんだろ、と疑問に思う。
そして、俺の周りの環境も変わった。
「アカツキ、ここの問題なんだけどさ」
「あぁ、そこはここを足して。
そこを消せば……ほら、」
「ホントだ。解けた……」
「アカツキ、俺もちょっといい?」
「いいよ。少し待ってて」
「アカツキ、俺も俺も」
「分かった。一人ずつ教えるから、そこに並んで」
俺の席の周りが、騒がしくなった。
原因は数日前に遡る。
グライアからノートを貰ったあの日、宿題のプリントの抜き打ちテストが行われた。
その内容は宿題だったプリントの内容を少し変更したものだったのだが、クラスの奴らは苦戦し、半分以上が平均点だった。
それなのに、俺はクラスで唯一の満点を採ってしまったのだ。
あの時の先生はウザかったなぁ。
いきなり抱きついてきて号泣し始めるんだけらたまったもんじゃない。
でも、嫌では無かった。
褒められた……のが、嬉しかったのだろうか。自分でもよくは解らないけど少し、身体の奥底が熱くなった気がした。
昼休みになるとクラスの奴らは、テストで解けなかった問題の解き方を教えてくれと頭を下げてきた。
最初は面倒だから嫌だ、と断ったけどグライアの奴が「いい機会じゃない、教えてあげなさいよ」と意地悪な笑顔で言ってきたので、しぶしぶ教えることにした。
グライアにはノートを貰った借もあるし仕方ない。
そう、これは仕方ないことだ。
それなのに……なんで、俺は今もコイツらに勉強を教えているんだろう?
こんな面倒なことしなくてもいいのに。俺は、なんで?
「まぁ、いいけどさ」
勉強するのは楽しい。
皆で勉強するのも……楽しい。
それなら、いいんじゃないかな。
適当な理由を付け、俺は目の前の問題に集中する。
解き方は解っている。
だが、それをどうやってわかり易く人に伝えるかを考える。
「ここもそう。これは一回、全部足してから引くんだ。そしたら余計なものは全部、消えるだろ?」
「おぉ、分かりやすい!」
「そこはさっきと逆。
一旦、全部引いてから足すんだ」
「なるほど……解った」
「グライア、そこ間違ってるよ」
「え、嘘」
俺と一緒に解らないところを教えてくれているグライア。色んな奴らの問題を教えてるから混乱したのだろう。
「あ、ホントだ」
そして。すぐそのミスに気付き、答えを訂正した。
「ふぅ、疲れた。
今日はここまでにしよう」
俺は椅子に深く座り込む。
人に勉強を教えるのってやっぱり大変だなぁ。
「アカツキ、教えてくれてありがとな!」
「ホント、助かったよ」
「じゃ、また明日な!」
そう言って教室を出ていくクラスメイト達。
やっと……休める。背筋を伸ばし、机に倒れ込んだ。
「……疲れた」
「お疲れ様。アンタも大変ね」
「ホントだよ。なんで、俺がこんなことしなくちゃいけないんだ?」
「頼られてる証拠じゃない。
それに、アカツキは勉強を教えてるの楽しそうだけど」
「そんなこと……ないと思う」
否定はしない。
「まぁ、いいじゃない。クラスの皆と仲良くなれて勉強も出来る。まさに一石二鳥ねっ!」
「一石二鳥って……まぁ、そうなのかな」
勉強をするのは楽しい。
そこも否定しないけど。クラスの奴らと仲良くは……できているのかは疑問だった。
でも、そうだなぁ。
こんな日が、ずっと続けばいいな────と思っている自分は嫌いじゃない。
後書き
今回は一話に比べて短いですん...(lll-ω-)チーン
書くのって楽しいけど時間があっという間に過ぎていくから恐いんご……。
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