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機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第三の牙

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第一話 悪の色

 
前書き
書いてみました。さて、今回はどこまで長続きするよやら(笑)
感想をくれると嬉しいデス!感想をくれたら二話目を更新するかも……? 

 

 鉄の花は散った。
 
 火星の地で咲き誇り、火星の地で枯れる。それは自ら望んだ結末とも言える。
 だが、それでも鉄の花の根が途絶えた訳ではない。
 まだ、根は残っている。鉄の花が枯れようと命が途絶えた訳じゃない。
 
 俺達は、まだやれる。
 
 これは、不幸な結末を迎えた物語の新たな始まりの物語である。
 
 
 
 
 
 
 XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
 
 「───目覚めろ、バエル……いや、アグニカ・カイエル」
 
 男はモビルスーツのコックピットの中で呟いた。
 ガンダムフレーム。コードネーム«ガンダムバエル»
 厄祭戦を終わらせ、ギャラルホルンを築き上げた英雄の乗っていた機体。男はその英雄の乗っていた機体に乗っていた。
 ガンダムフレームは阿頼耶識という特殊なシステムを用いており、普通の人間では動かすどころか起動することさえできない。
 そう、そのはずだ。
 なのに。何故、ガンダムバエルは『起動』したのだろう。
 「そうだ、それでいい」
 男は不敵な笑みを浮かべ言った。
 阿頼耶識インターフェース良好。
 システムオールグリーン。
 あの戦闘の後、大破したと聞いていたが問題ない。むしろ、機体の性能は格段に上がっている。鹵獲後、機体の修復と改修を重ねたのだろう。
 グリップを握りしめ、ガンダムバエルの性能を認識する。
 阿頼耶識を通じて機体の特性、特徴を把握し────それを機体から肉体に引っ張り出す。
 「────ン、グッ」
 機体の情報量に脳は付いていけず、男は吐血した。その量は微々たるものでモビルスーツの操縦に支障はきたさないと判断し改めてグリップを握り締める。
 
 各関節部の同調完了。
 
 閉じていた瞼を開くと、視界の先には仮想のウィンドウが投影されていた。
 これが、阿頼耶識システムの力……。
 まるでモビルスーツが自分の躰の様な錯覚。手を動かせばモビルスーツの手も動かせるような。そんな感覚だった。
 実際、手を動かすような感覚でモビルスーツを動かせるのだろうと男は実感した。
 だが、その前に。
 「まずは、この鎖を断ち切らねぇとな」 
 ガンダムバエルを固定するように巻かれた鋼鉄の鎖。
 情報にあった『天使の鎖』と呼ばれる対モビルアーマー用の鎖だろう。
 厄祭戦時代、モビルアーマーを抑え込む時に使用された当時の副産物。それをガンダムバエルを固定する為に使っているとは……。
 関節部を重点的に固定されており、これを外さない限りモビルスーツを動かすのは無理そうだ。
 だが、それは普通のモビルスーツだったらの話だ。
 「バエル────お前の力を見せてみろ」
 男は阿頼耶識を通じ、バエルに命じた。
 動かせるの訳がない。
 いかにガンダムフレームでも対モビルアーマー用の鎖で固定されていては動くことすらままならないだろう。
 ────ッ。
 一瞬、バエルを固定する鎖が揺れた。
 ────ピッ。
 一瞬、バエルを固定する鎖が波打った。
 ────ピキッ。
 バエルを拘束する鎖の一本が弾け飛んだ。
 「いいぞ……もっとだ」
 片目から血を流す男。
 阿頼耶識のフィードバックの影響だ。
 阿頼耶識を通じてモビルスーツの外部状況を脳で処理しているのだ。当然と言えば当然の結果だろう。むしろ、男はこの程度でコイツを動かせるなら問題ない、とさえ思っている。
 「暴れろ」
 その一言を終えた直後。
 ガンダムバエルを固定していた鎖は全て断ち切られた。
 バエルの両手には二本の剣が握られている。どうやら、頭が判断するより直感でバエルを操作し鎖を断ち切ったようだ。
 「これが……ガンダムフレーム」
 その力は圧倒的。
 人の力ではなし得ない禁忌の力。
 己の躰を動かすより軽く、素早く肉体『モビルスーツ』に一瞬、戸惑いを感じるが。男は一度、深呼吸し……右眼を閉じた。
 どうやら目を閉じていても、モビルスーツのメインモニターは脳内で投影されるようだ。目を閉じているのにモビルスーツの見ている景色が脳裏に映る。
 変な気分だ。
 片目は閉じているのに見えている。
 「さて、ぶっ壊すか」
 ガンダムバエルは二本の剣を構え────。
 
 十五年の封印を断ち切った。
 
 
 
 
 
 「────き」
 
 「────つき」
 
 「────かつき」
 
 「────あかつき」
 
 「────アカツキ」
 
 「────暁!」
 
 その呼び掛けに向くりと起き上がる。
 左右を見渡すと俺を見てくすくすと笑っている奴らと「何度も起こしたのに……」と後ろの席で呟いている少女。そして、俺の前で立ち尽くしているオッサン。
 「あ、先生。おはようございます」
 「おはようございます、じゃない!
 お前は何度、注意すれば真面目に授業を受けるんだ!」
 「はぁ、すいません」
 一応、先生に謝っておく。
 だが、その謝り方が気に食わなかったのか。
 「お前はそう言って何度も何度も!真面目に授業を受ける気があんのか!」
 「いえ、全然」
 「lalalalalalala!!
 ────ッ。もういい、座れ……」
 「はーい」
 はぁ、と溜め息を付きながら先生は教卓に戻っていく。先生も懲りないなぁ。何度も何度も俺を叱って飽きないのかな。
 なんて考えながら俺は席に着く。
 すると後ろからトントンっと指でつつかれた。
 チラッと後ろに振り返る。
 「なに?」
 「なに、じゃないわよ。毎回毎回、怒られてるのになんで反省しないの?」
 先生に聴こえない程度の小声で少女は言ってきた。
 えっと……名前、何だったかなぁ。
 俺が先生に怒られる度に話し掛けてくる変な奴だ。確か────。
 「グラグラ?」
 「? なにそれ?」
 「いや。アンタの名前だった、と思う?」
 
 「私の名前はグライアよ!!」
 
 と大声で言ってきた。
 うるさいなぁ……耳元で叫ぶなよ。
 耳がじんじんするだろ。
 「うるさい……そんな大声で言わなくても聞こえてるよ」
 「アンタが私の名前を間違えて覚えてるからでしょ!
 この前だって私の名前を間違えるし!ホント最低!」
 「知らないよ。アンタの事なんて興味無いし、覚える必要もない」
 「アンタねぇ!」
 勢いよく立ち上がる少女。
 ていうか、なんで泣いてるの?
 目元から零れる数滴の雫。もしかして俺が悪いのか?
 解らない。解らないけど多分、俺が悪いのだろうと理解する。それに母さんも言ってたな。
 ────女の子を泣かせたら承知しないからね!
 これは謝るべきなのかな。俺が悪いかは解らないけど俺が原因で泣いてしまったのなら謝るべきだ。
 「その、ごめん」
 一応、頭を下げておく。
 すると少女は。
 「謝るくらいなら名前を覚えてよ!今度、私の名前を忘れたら許さいんだから!」
 人差し指を俺に向けて少女は言ってきた。
 「解った。覚えるよ。
 えっと、グライア……なんだっけ?」
 「グライア ネーミス!」
 「うん。解った、グライア」
 グライア ネーミス。
 俺の席の後ろで俺が怒られる度に俺を怒る女。よし、覚えた。
 「おーい。お前ら?」
 ん?っと教卓に目を向ける俺達。
 そこには今にも血管がブチ切れそうな先生が立っていた。
 「授業の邪魔だ!廊下で立ってろッ!」
 
 「あぁ、人生で初めて廊下に立たされたわ……」
 「ごめん。なんか、俺のせいで」
 「ホントよ。今度からはちゃんと真面目に授業、受けてよ」
 「それは解らないけど。出来る限りアンタに迷惑を掛けないようにするよ」
 「アンタじゃない。私の名前は?」
 「グライア……ネーミス」
 「よろしい!」
 ふんっとそっぽ向く、グラグ……グライア。
 なんで怒ってるのか、なんでさっき一瞬だけ笑ったのか、俺には解らない。
 やっぱり、俺が変なのかな。
 最初は周りの奴らがおかしいと思ってたけど、時間を歳を重ね、周囲の奴らと俺は何処か決定的に違うってことに気付き始めた。
 例えば、こんな事があった。
 アレは数年前の事だ。
 母さんとの買い物帰り。
 道端で、死んだ仔犬を抱きかかえて泣いている女の子を見つけた。
 その女の子はひたすらに泣いていた。
 母さんはその女の子に駆け寄り、一緒に泣いた。
 それを見て、俺はどうも思わなかった。
 ────女の子と母さんはなんで泣いてるの?
 俺は二人に問い掛ける。
 女の子は泣き喚き、俺の言葉は耳に届いていない。
 母さんは────俺を抱き締め、耳元で囁いた。
 「やっぱり、貴方はあの人の子ね……」
 あの人……の子?
 その時は誰の事か解らなかったけど恐らく、俺が産まれる前に死んだ父親の事だと思う。
 あの頃の俺は自分の世界が、自分の全てが、この世界の全てだと思っていた。だから、女の子と母さんが泣いているのを見て……何とも思わなかったし、何も感じなかった。
 女の子と母さんはいつ泣き止むのか。俺はただ、そう思いながら母さんの胸に抱かれていた。
 この頃から俺は異常だったらしい。
 まぁ、俺が異常だと自覚し始めたのは最近だけど。
 「ねぇ、アカツキ」
 そっぽ向きながら話し掛けてくるグライア。
 「ん、」
 「いや、その……アカツキは。
 なんで、」
 「?」
 「なんでもない!」
 まだ、怒ってるのか。
 なんか理不尽な気もするけど、またさっきみたいに怒られるのは嫌だな。
 かといってこのまま立って時間を過ごすのは退屈だし……。
 空でも眺めていよう。
 廊下の先、窓ガラスの向こうに見える雲一つない青空。学校でつまらない授業をするより空を見る方が俺は好きだ。 
 タメになるような、ならないような授業を一日、何時間もして他の奴らは疲れないのだろうか。俺は耐えられない。だから、自然と眠りに就いている。何も考えず、瞼を閉じて無になりたい。
 「は……ぁ。眠い」
 「アンタ、さっきまで寝てたのにまだ眠いの?」
 「あぁ……ね、」
 「ちょっと、立ちながら寝るなんてやめてよね」
 あ、一瞬寝てました。
 いかんいかん。瞼を擦り、睡魔を遠ざける。
 顔でも洗えば少しはスッキリするんだろうけど勝手に歩いたらまた怒られるだろうし。ここは空でも眺めながら時間を潰そう。
 「……アンタ、何処見てるの?」
 「空だよ」
 「何かあるの?」
 「いや、特に何も」
 「じゃあ、なんで見てるの?」
 「そう言われると……なんでだろ」
 「訳わかんない」
 「多分、俺は空を眺めるのが好きなんだと思う」
 「なんにもない空を?」
 「だって。今、この目で観ている景色は今しか見られないじゃん。だから、だと思う」
 「さっきから思う、思うって……アカツキは本当に好きなものはないの?」
 「本当に、好きなもの?」
 「心から欲しいって思えるもの。将来なりたいもの。思う、じゃなくてそう思えるものはないの?」
 「……グライア、お前って難しい事を言うんだな」
 「えっ。そうかな?」
 そっぽ向いていた体を俺に向けてグライアは言った。
 なんで、ちょっと笑顔なんだ?
 「今の俺にはないと思う」
 「また、思う……。まぁ、無いなら仕方ないけどさ」
 「そういうグライアはあるの?
 やりたい事、将来なりたいもの?」
 「あるわよ。私はね、料理人になりたいんだ」
 「へぇ、なんで?」
 「理由は色々あるけど。一言で言うなら感動したから、かな」
 「感動?」
 「うん。アカツキって地球のニホンって国のお料理を食べたことある?」
 「んぅ……ないと思う」
 「私ね。小さい頃、一回だけ地球に行ったことがあるんだ」
 「へぇ、地球に」
 地球……小さい頃、クーデリアに連れられて行ったことがある。その時は確か、アメリカって国に数日間、滞在してたんだっけ。
 あんまり覚えてないけど無駄に建物が大きかったのを覚えている。
 あ、食べ物も美味かったな。特にハンバーガーとポテト、それとコーラって飲み物はとても印象に残っている。
 家でも似たような食べ物を母さんが作ってくれるけど……なんか違うんだよな。
 似てるけど別の食べ物って感じだ。
 美味しいけどあの美味しいさと比べたら別物だ。
 「アカツキはサカナって食べたことある?」
 「……サカナ?
 なに、それ?」
 「地球の食べ物だよ。
 ウミっていう大きな水溜まりに住んでるんだって」
 「大きな……水溜まり?」
 頭の中で想像するけど、大きな水溜まりに住んでいる生き物?
 想像できないし、想像もつかない。
 少しだけの、その地球のニホンって国のサカナって生き物に興味が湧いてきた。
 「それで、そのサカナなんだけど。焼いても美味しいし、生でも美味しいの!生で食べる時はサシミって言うらしんだけどそれが凄く美味しくて!」
 焼いても美味しい。
 生でも美味しい。
 聞くだけで腹が減ってきた。
 「ショウユっていう調味料を少し付けて食べると……もう、絶品でほっぺたが落っこちるかと思っちゃた!」
 「……美味しそう」
 「それでねそれでね!」
 楽しそうにニホンという国の事を語るグライア。
 それから俺達は授業の時間を終えるまでずっとニホンの事について話し合った。
 四季と呼ばれる四つの季節達。
 暑かったり、寒かったり。心地いい太陽の光に照らされながら地べたで眠る心地良さ。互いの持つ知る限りのニホンという国の情報を話し合うのは楽しかった。
 「お前達、反省したか?」
 「はい、しました」
 「しました」
 「……相変わらずの態度だなアカツキ」
 「はぁ、すいません」
 誠意の欠片も伝わらない謝罪。
 先生は重い溜め息を付き。
 「今度からは気を付けるように……それとアカツキ。お前宛てに手紙が届いているぞ」
 そう言って机の引き出しから四角形の紙を取り出し、俺に差し出してきた。
 「手紙?」
 「今のご時世で紙媒体の手紙を見られとは思わんかったよ」
 俺はそれを受け取り差出人の名前を確認する。
 差出人は……クーデリア・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン。もう一人の母さんからの手紙だった。
 「クーデリア・オーガス・ミクスタ・バーンスタイン……?
 それって、火星連合議長の名前じゃあ…………」
 「ん、なんだグライアは知らないのか?」
 先生はそれを平然のように。
 「コイツは、その火星連合議長の息子だよ」
 「えぇぇぇぇえ!?」
 「うるさいなぁ。そんな驚く事でもないだろ」
 また、耳の奥がキーンっとする。
 「え、でも、ぇぇ……。
 アカツキの名前って暁 オーガスじゃあ……?」
 「長いから。省略してた」
 「長いからって……そんな理由で、」
 「まぁ、どうでもいいじゃん」
 「どうでもよくないよ!
 ……ぁぁ、なんか混乱してきた」
 「お前ら、職員室では静かにな。
 他の先生方にも迷惑だからな」
 そう言われると周りの先生達からの視線を感じる。
 それを感じ取ったグライアは「お、お騒がせしました……」と小声で呟いた。
 「とまぁ、要件は済んだし。お前らも帰れ」
 シッシっと手を振ってくる先生。
 「は、はい。それでは失礼します。ほら、アカツキも!」
 「あ、失礼します」
 「おう。じゃあ、また明日な」
 そして俺達は職員室を後にした。
 廊下での帰り道、グライアは俺と距離を取ったり開いたりして俺の様子を伺っていた。
 「なに?」
 「い、いや。その、アカツキ……君は」
 「なんで、君呼び?」
 「え、だって……」
 「普通にアカツキって呼んでよ。君とか様とか堅苦しいし」
 「そっ、そぉ……なんだ」
 「もしかして、俺を恐がってる?」
 「そ、そんなことは!」
 「そう、ならいい」
 さっきまで普通に話せてたと思うけど俺の母さんの存在を知って、グライアは俺の視線を逸らすようになった。
 前にも、こんなことが何回かあった。
 俺の母さんの名前を知ると急に表情を青ざめて俺から離れていく。
 俺の母さんはそんなに凄いのか……と改めて実感させられた。昔は母さんが何をしているのか、よく解らなかったけど今なら少しは分かる。母さんはとても凄い人だ。
 時の人とも称されるほどの功績を出し、火星を一つにまとめあげた。若い頃は(今でも充分、若いけど)革命の乙女って呼ばれてたらしい。
 それくらい、クーデリアは凄い。
 子供の俺でもクーデリアは凄いと思う。
 でも、他の奴らはクーデリアの存在を、母さんの存在を恐怖した。
 なんで、恐がってるの?
 クーデリアは悪いことなんてしない。とても優しくていい人だ。それを恐がるなんて他の奴らはどうかしている。
 「じゃあ、俺はこっちだから」
 「あ、うん。またね、」
 あの態度、あの話し方だと。
 明日からは話し掛けて来ることはないだろう。また、俺から離れていく。
 慣れた、と言えば聞こえはいいかも知れない。でも、仲良くなれたかも知れない人達を俺はどれだけ失ったのだろうか。
 俺の母さんが、偉くなかったら。周りの奴らは俺と普通に接してくれるのだろうか。
 別に、一人が寂しいとは思っていない。それに一人ってわけでもない。家に帰れば母さんが居る。近所のうるさい姉妹も居る。母さんの友人だって居るんだ。
 俺は一人じゃない。
 なのに、なんで────。
 「そんな、悲しそうな顔をしてるんだよ」
 鏡に映っている俺の顔は、何処か悲しげだった。
 自分と母さん達だけが解る俺の数少ない表情。他の人からすれば何を考えているか解らない顔付きに見られているらしいけど俺だって人間だ。怒ることもあれば笑うこともある。
 そして、悲しくなることも。
 「でも、俺……」
 自分の頬をつねったり、引っ張ったり、指でつつく。つねったら痛いし、引っ張ったら伸びる。指でつついたら後が残る。
 「なんで、」
 やっぱり、俺はおかしい。
 
 「なんで、笑ってるんだろう?」
 
 
 
 「ただいま」
 扉を開き、靴を脱ぐ。
 他の家では靴を履いたまま家に入るらしいけど。うちは靴を脱ぎ、家に入る。なんでも、地球の何処かの国のマナーらしい。
 まぁ、色んな所を歩いた靴で家に入るのは汚いよな。
 玄関に入ってすぐの隣に掛けてあるスリッパに履き替え、廊下を進む。
 「あ、お帰りアカツキ」
 母さんの声だ。
 でも、何処から……。前後左右を見渡すが、母さんの姿は見当たらない。
 「ここ、ここ。上だよ」
 「上?」
 言われるがままに視線を上に向けるとそこには二階から俺を見下ろす母さんの姿があった。
 「お帰りなさい」
 「ただいま、母さん」
 「晩御飯、もう少しで準備できるからもうちょっと待っててね」
 「解った」
 短いやりとりをし、俺は自室に向かう。
 そういえば────。
 ポケットの中にしまいこんだ手紙の事を忘れていた。
 なんで、クーデリアは家じゃなく学校の方に手紙を送ったのだろう?それも電子メールではなく紙媒体の手紙で、
 「……なんだろ」
 家に送ってこなかったって事は母さんに見られたくないもの……なのだろうか?
 ────母さんに見られたくないもの?
 クーデリアはなんでわざわざ学校に手紙を送ってきたのかは解らないけど、これは母さんに見せない方がいいな。
 自室の扉を開け、鍵を閉める。
 これで誰も入ってこれない。
 俺はベットに座り、手紙を開封した。
 中身は……紙切れが一枚と。
 「ペンダント?」
 小さな宝石らしきものが埋め込まれたペンダントが入っていた。
 装飾はとくにされておらず、高そうには見えない。けど、その宝石はとても綺麗だった。
 「手紙の方は……」
 折りたたまれた一枚の紙を開く。
 そこにはクーデリア自身の手で書かれた文字で埋め尽くされていた。
 「手書きって……まぁ、クーデリアらしいけど」
 その手紙の内容は────。
 
 ────暁。進学、おめでとう御座います。入学式に参加出来なくてごめんなさい……。私は今、仕事で地球のニホンという所に居ます。
 
 「……ニホンって、グライアが言ってた」
 
 ────今はナツという時期らしく、とても暖かいです。日差しも強く、気温は30度を超える勢いです。
 
 「へぇ、そんなに暑いんだ」
 
 グライアも言ってたな。
 ニホンには四つの季節があるって。
 そのうちの一つ、それがナツと呼ばれるものだ。
 
 ────アトラ、お母さんと仲良くしていますか。
 
 「うん。多分、大丈夫」
 
 ────貴方の事です。母さんには迷惑を掛けている事でしょう。
 
 「……そうかな、そうかも、」
 
 ────でも、貴方は優しい子です。
 
 「……」
 
 ────身体には気を付けて、無理をしてはいけませんよ。母さんが困っていたら暁、貴方が母さんを護るのです。
 
 「解ってるよ、クーデリア」
 
 ────今の仕事が終わったら一度、火星に帰ります。その時は真っ先に家に駆け付けるので楽しみにしていて下さい。お土産を沢山持って帰ってきますから。
 
 「お土産、楽しみだなぁ」
 
 ────暁、貴方に会う日を心から待ち望んでいます。
 
 「俺もだよ」
 
 ────PS 学校の先生を困らせてはいけませんよ。
 
 「……」
 
 なんか、学校に手紙を送り付けた理由が分かった気がする。
 あれ、でも……。
 「このペンダントは?」
 手紙を端折って呼んだけど、このペンダントについては特に何も書かれてはいなかった。
 ペンダントを吊り下げ、宝石を凝視する。
 やっぱり、綺麗な石だな。
 っと思ったその時。宝石を固定している金属部分に何か、文字らしき物が彫られている事に気付いた。
 宝石を近付け、なんと彫られているのか確認するが……。
 「……読めない」
 どこの国の文字なのか、それを読むことができなかった。
 でも、この文字って────。
 「俺の、名前に似ている?」
 もしかして、これは漢字?
 俺の名前のアカツキは漢字で書くと暁って読むらしい。火星では珍しい表記なので殆ど使われることはないが、恐らくこれは漢字だろうと判断する。
 何故、俺が漢字の存在を知っているのかは、またいつかの機会で。
 「漢字で書かれてるぽいけど、なんて書いてあるか全然、読めない」
 俺は自分の名前の漢字しか解らないし。
 母さんに聞いてみようか……。
 いや、駄目だ。クーデリアはこの手紙を家にじゃなく、学校に送ってきたんだ。その意図が解るまで母さんに見せるのは止めておこう。
 「これは……どうしよう」
 ふりこのように空を左右に揺れるペンダント。
 これも母さんに見せない方がいいかも知れない。とりあえずは学校の鞄の中に入れてれば見つからないだろう。
 「アカツキー、ご飯出来たよぉ」
 「今、行くよー」
 ────腹、減った。
 そう考えると、さっきまで考えていた事を忘れられる。
 
 
 
 テーブル一杯に載せられた料理の数々。
 母さんは料理好きだから毎日、色んな料理を作ってくれる。俺はそんな母さんの作るご飯が好きだ。
 「うん、美味い」
 「ふふっ。まだまだ沢山あるから一杯食べてね」
 「うん」
 母さんは俺の顔を見て笑っている。
 「ん? 俺の顔になんか付いてる?」
 「何も付いてないよ」
 「じゃあ、なんでさっきから俺の顔を見て笑ってるの?」
 「あ、ごめん。もしかして気にしてた?」
 「いや、気にしてる訳じゃないけど。なんで俺を見て笑ってるかなって思って」
 そう言うと母さんは優しく微笑んで。
 「アカツキを見てると嬉しいの」
 「どういうこと?」
 「あんなに小さかったのに、こんなに大きくなってくれてお母さん、嬉しい」
 「でも、俺。母さんより身長、低いよ」
 「そういう意味じゃないの。ホント、そういう所はあの人そっくりなんだから」
 「あの人って、」
 「貴方のお父さんよ」
 ────俺の、父さん。
 詳しくは知らないけど俺が産まれる前に死んだらしく、俺は父さんに会ったことがない。
 「ねぇ、父さんってどんな人だったの?」
 「珍しいわね。貴方が、父さんの事を聞いてくるなんて」
 「俺に似てるって言ってたけど。どこら辺が似てるの?」
 「そうねぇ……。顔もそうだし、髪型もそうね。髪の色は私に似たけど」
 エヘヘへへっと笑う母さん。
 写真で何回か父さんの顔を見たことあるけど、そんなに似てたかな。
 「話し方もそうね。ご飯も沢山、食べるし」
 「へぇー。そうなんだ」
 あんまり、似てないような気もしながら俺は母さんの話しを聞いた。
 父さんの話をする母さんは楽しそうで……何処か悲しそうだった。
 父さんといた頃の記憶と父さんを失った事実を同時に思い出すからだろう。悲しいのなら無理に話さなくてもいいのに……なんて事は言えず、俺は母さんの話を最後まで聞いた。
 俺の父さんだった人の話を。
 
 話を聞き終える頃にはテーブルの上の料理を全て食べ終えていた。
 どうやら、俺は話を聴きながらだとご飯を食べる速度が早くなるらしい。
 単純に、心のどこかで父さんの話を聞きたくなかったからかも知れないけど別に、話を聞くのは苦では無かった。
 いや、もしかしたらその逆だったのかもな。
 本当は、父さんの話を聞けて嬉しかったのかも知れない。
 ホントの所は自分でもよく解らない。
 やっぱり、俺って変なのかもな。
 
 
 
 
 ×××××××××××××××××××××××
 
 地球 ギャラルホルン総司令部。
 
 一人の若い兵士は、その一瞬を。
 その光景を目の当たりにしてしまった。
 こんなことなら、今日は裏から警備すれば良かった。なんで、今日に限って真面目に見回りしてんだよ、俺!
 男の視線の先。
 空を舞う、ガンダムフレーム。
 若い兵士はその機体を知っている。
 いや、ギャラルホルンに入隊しているなら誰だって知っているだろう。
 白を基調とする装甲。
 二本の剣を腰に納め、翼を連想させるバックパック。
 単独での飛行能力を有しており、その機体性能は現存するガンダムフレームの中でも指折りの性能とされる。
 「────ガンダム、バエル!?」
 なんで、どうして?
 アレは15年前の戦いで喪われたはずだ!
 「本部に、連絡を……!」
 混乱しながら兵士は胸元の通信機を手に取る。
 「本部、こちら006部隊所属────」
 ガガガガガッ。
 電波状況が悪いのか、通信機が機能していない!?
 若い兵士は目の前の状況と情報を整理できず混乱していた。本来なら気付けるミスもこれでは気付けられない。
 モビルスーツの放つエイハブリアクターの周波数により、通信機器の電波が妨害されているのにも気付かず、兵士は通信機に何度も、何度も声を荒らげた。
 「クッソ! このポンコツ!」
 通信機を投げ捨て、兵士は走る。
 走った所で何になる? 兵士はそう自問自答し、全速力で走った。
 このままバエルの元まで向かっても何もすることは出来ない。だが、そこで立ち止まって何もしないよりはマシだ。
 ガンダム バエルは腰にマウントされている剣を抜き放つ。
 そして、その剣を天に掲げ。
 
 「聴け、」
 
 ノイズ混じりの声がガンダムバエルから放出された。ノイズ入り混じる声は低音で、恐らくガンダムバエルに乗っているのは男だ。
 
 「俺は鉄華団 団長『オルガ・イツカ』だ」
 
 ────鉄華団?
 確か、15年前に殲滅されたテロリスト集団の名前だ。
 そして、そのテロリストのリーダー格の名前が、オルガ・イツカだ……。
 「オルガ……イツカ。
 でも、その人は────」
 ────15年前に死んでいる。
 そして、オルガ・イツカの死後。リーダーを喪った鉄華団は内側から崩壊していったと歴史の教科書では記されている。
 もし、本当に。
 その鉄華団の、15年前にギャラルホルンの手によって滅ぼされたテロリストの統率者本人だったら。そして、そのオルガ・イツカが生きていたのなら……。
 「ギャラルホルンの象徴。
 ガンダム バエルは貰っていくぞ。コイツは俺を選んだ。そして、お前達ギャラルホルンはバエルに見放された」
 オルガ・イツカと名乗った男は声を荒げ。
 「俺は、お前達を許さない。
 これは『俺達』からの宣戦布告だ!」
 ガンダム バエルは更に高度を高め。
 その存在を知らしめるように浮遊する。
 「なんて、高さだ……」
 その高度に、唖然する。
 ギャラルホルンの最新鋭モビルスーツでも、あの高さまで飛翔することは敵わないだろう。
 300年前に喪われたロストテクノロジーは現在の科学技術を凌駕すると言われているが……。
 「アレが、ガンダムフレームの力……」
 圧倒的な存在感。
 観る者を魅了させ、他者を屈服させる。
 王者の風格を纏い、弱者を寄せ付けない荒ぶる獣。近付くことが恐れ多い。若い兵士は、自分の使命を忘れ、ただただ王者を眺めていた。
 ────ガガガッ、ガガガッ!!
 突如、モビルスーツのライフル音が響き渡った。
 「アレは……グレイズ、」
 今では、現役を退いだ二世代前のギャラルホルン主力機『グレイズ』
 汎用性が高く、十七年経った今でも各地のギャラルホルン支部で愛用されており、その機体性能は信頼できる。
 だが、あの高さのモビルスーツ相手に戦闘を挑むのは無謀と言えよう。
 ────ガガガッガガガッガガガ!!!
 ライフルの弾丸は届かない。
 仮に弾丸が届いたとしてもモビルスーツの装甲を傷付けることは不可能だ。
 モビルスーツの装甲は特殊な塗料でコーティングされている。その塗料はモビルスーツのカラーを彩るだけでなく、エイハブリアクターが稼働中に発するエイハブ粒子に反応し装甲の強度を上げる。それにより、モビルスーツは絶対的な防御力を有しているのだ。
 近距離射撃で無い限り、モビルスーツの装甲は破れない。だが、グレイズはライフルを乱射する。
 ガンダム バエルは浮遊したまま動かない。
 当然だ。当たっても機体にダメージはないんだ。避ける必要が無い。
 「無駄な事を、」
 グレイズはスラスターをフル稼働させ、ガンダム バエルに向かってジャンプした。
 無論、ジャンプした所でガンダム バエルの足元にすら届かない。
 だが、距離を詰めたことより。
 「ほう、」
 ガンダム バエルにライフルの弾丸が届いた。
 損傷は無い。だが、装甲に傷を付けることが出来た。その事実はオルガ・イツカを名乗る男を少し、ほんの少し驚かせた。
 「まさか、この高さで当てられるとはな。褒めてやるよ」
 
 「だから、これはご褒美だ」
 
 ガンダム バエルが動いた。
 バエルはグレイズ目掛けて急降下する。
 その速度は凄まじく、重力に引かれ降下するグレイズを追い越し、グレイズの着地地点で静止した。
 あの高さ、あの速度で、急降下するなんて自殺行為だ。だが、あのモビルスーツは、あの男はそれをやってのけた。
 そして、腰にマウントされている剣を抜き放ち────。
 「俺達、『鉄華団』の第二幕開演だ。
 華麗に散ってくれよ?」
 グレイズは真っ二つに切断された。
 「嘘、だろ……」
 エイハブリアクターの影響下にあるナノラミネートアーマーを切断するなんて……。
 絶対的防御力を誇る装甲をガンダム バエルは断ち切った。どうすれば、どうやれば、モビルスーツの装甲を────モビルスーツを真っ二つにできるんだよ!?
 有り得ない光景を目の当たりにし若い兵士は更に困惑する。
 現実を直視できない。
 これまでにモビルスーツ同士の戦闘を何度か見たことはある。演習場でモビルスーツに乗り、操縦したことだってある。だからこそ、目の前の光景を否定したい。
 あの動きは人間じゃない。
 さっきの急降下だって一歩、間違えれば地面に激突していた。それを地面すれすれで静止し、何の躊躇も躊躇いもなくグレイズを真っ二つにするなんて……人間業じゃない。
 「化物……ッ!」
 王者の風格を漂わせた化物。
 
 ガンダム バエルは堕ちた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 

 
後書き
完全に、二次小説です。もし、三期をしてくれるならこんな感じにして欲しいなぁという願望にかられ書いてみました。
誤字脱字が多いと思いますが、最後まで読んでくれると嬉しいです!
感想をくれたら更に嬉しいです! 
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