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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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69部分:悪の巣その二


悪の巣その二

「閣下、如何致しましょう。シアルフィ軍がすぐにでもこちらへ向かって来ますが」
 濃い髭を生やしビロードで作られたコカールという大型で巻きが何個も入り鳥の羽根を出鱈目に付けた帽子を被り無数に切り込みの入ったダブダブの黄色い上着に右が赤、左が青のタイツを身に着けその上には何処からか強奪してきたと思われる古ぼけた胸当てを着けている。手には三日月の戦斧を持っている。レンスターはおろかユグドラル大陸全土にその蛮行と悪趣味な服装で知られるランツクネヒトの者である。
「フン、無駄な事だ」
 レイドリックは鼻で笑った。
「初戦は急に膨れ上がった寄せ集めの兵に過ぎん。そのような兵例え百万来ようとこのダンドラム要塞はびくともせんわ」
 レイドリックはターラ側の城壁の上に立ち悠然と渓谷を見下ろした。そこは狭く大軍が通のは難しいのが一目瞭然であり彼の自信を裏付けるものの一つでもあった。
 翌日朝早くターラの法から騎兵の一団が駆けて来た。どの者もボロボロの身なりであり血が滲んでいる者もいる。先頭にはイリオスがいた。馬の後ろに紫の服を着た長い黒髪の男を縛り横に寝かせ連れている。
「開門!フリージのイリオスだ!」
 イリオスがシアルフィ軍に降ったと聞いていたランツクネヒトの兵士達は驚いたがレイドリックに会わせろ、と引かない彼に根負けし門を開けた。
「成程、それではシアルフィに投降したのは偽りであったか」
 レイドリックは壁も床も黒く塗られた応接間にイリオスを招き陰険そうな眼差しで彼を見据えながら言った。
「うむ、そして奴等の隙を見てここまで逃げてきたのだ」
「どうやら相当酷くやられた様だな」
 イリオスを上から下まで見渡しながら言った。
「まあな。だが戦果はあったぞ。シアルフィ軍の副盟主、イザークのシャナン王子を生け捕りにしてきた」
「何っ、あのシャナン王子をか」
 これにはレイドリックも驚いた。シャナンといえば一騎当千の猛者揃いと言われるシアルフィ軍の将達の中でも最強と噂される男だり十二神器の一つ神剣バルムンクの使い手でもあるからだ。
「どうする?すぐに殺してしまうか」
「いや、それでは面白くない」
 すぐに処刑しようというイリオスの提案を一蹴した。
「すぐにシアルフィの者達がシャナンを取り戻しに来るだろう。シャナンを盾に奴等を誘き出し血祭りにしてくれるわ」
 レイドリックは表情をドス黒くさせ歯並びの悪い歯を出して残忍な笑みを浮かべる。
「成程、それは名案だな」
 イリオスは口では称賛の言葉を出しながらも心の中でレイドリックに対する激しい嫌悪感を感じていた。
「そうだろう、卿は見ているだけでいい。我等神兵軍の戦い方をな」
「ほう、楽しみにしているぞ」
 イリオスはそう言いながら彼を心の中で唾棄していた。
 翌日解放軍が姿を現わした。その数約一万六千、先頭にはレヴィンがいた。
「レイドリック、いるか」
 レヴィンは前に出て要塞に向かって声をかけた。
「何だ、亡国の王よ」
 レイドリックが城壁の上に姿を現わす。隣にはイリオスと縛られているシャナンがいる。
「そこにいる裏切り者とシャナン王子を引き渡してもらおう」
 イリオスとシャナンを指差す。イリオスはふてぶてしい顔でレヴィンを見下ろしシャナンは一切顔に感情を表わさない。
「馬鹿な事を言う。反逆者の分際で」
 レイドリックは露骨に侮蔑の色を表わす。
「よく言えるな、主君を暗殺しレンスター王を奸計で殺害した男が」
 レヴィンも嫌悪感を露骨に顔に出す。双方の間に激しい火花が生じる。だがレイドリックはそれを意図的に外した。
「フン、今卿と言い争いをしても何の意味も無い」
 傍らのシャナンを指差す。
「明朝この男を反逆罪で死罪とする。要塞の屋上、ワルトラウテの像の前でな」
「くっ!」
 レヴィンは歯軋りする。レイドリックはそれを見て満足気に邪な笑みを浮かべた。
「フフフ、かかったな」
 踵を返す。レヴィンは慌てた。
「待て、逃げるか!」
 レイドリックは喚く様に名を呼ぶレヴィンを尻目に得意げな笑みで無作法な敬礼をしたランツクネヒト達に言った。
「迎撃の用意だ。毒の矢で死ぬまで苦しめてやれ」
「はっ」
 ランツクネヒト達は汚い歯を見せニッと笑う。矢にドス黒いものが塗られ城壁の下の解放軍へ向けてつがえられる。レヴィンはそれを見て口惜しそうに城壁を見たが後ろを向き自軍の方へ去っていった。彼の不甲斐無い有様にランツクネヒト達は呆気に取られた。レイドリックも拍子抜けしたが馬鹿にした笑みでそれを見た。だが彼は知らなかった。否、それに気付く筈もなかった。背を向け逃げるレヴィンの顔が笑っている事に。敵同士の筈のイリオスとシャナンが顔を見合わせ笑っている事に。
 
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