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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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68部分:悪の巣その一


悪の巣その一

                      悪の巣
 ターラの北東、アルスターから見て南東にダンドラム要塞はあった。かって聖戦の時マンスターへ進撃した聖戦士達の側面を守る為槍騎士ノヴァは僅かな兵でこの要塞に立て籠り押し寄せるロプト帝国の大軍を迎え撃った。戦いは二月に及び要塞陥落寸前となった。だが今将に陥落しようとしたその時奇跡が起こった。城に剣を持った有翼の天使が舞い降りたのである。その天使はワルトラウテと名乗った。そして満身創痍になり精も根も尽きようとしていた兵士達の傷と心を法力で癒したのである。再び戦えるようになったノヴァと兵士達は敵の大軍を寄せ付けず一週間後マンスターをロプトの手から解放した聖戦士達の援軍が到着しダンドラム要塞とノヴァ達は救われた。この出来事からダンドラム要塞は難攻不落の誉れと共に『聖天使城』と称されるようにもなった。
 以後この要塞はアルスター防衛の要として知られるようになった。それは統治者がアルスター王家からフリージ家に替わってからも変わる事は無かった。要塞には常時兵が配され防備は万全だった。だがレイドリックとランツクネヒトのあまりにも酷い暴虐に怒ったイシュトー王子が彼らをここに閉じ込めてから要塞の評価は一変した。イシュトー、イシュタルの厳しい監視の目をくぐり抜けてレイドリック一味は悪事を働き続けた為人々は何時しかこの要塞を『悪の巣』と呼ぶようになった。やがて兵士達がいける範囲は皆去ってしまい堅固な要塞だけがそびえ立っているという状況となっていた。
「そうか、ターラが落ちたか」
 濃い茶色の髪を後ろに撫で付け顔の下半分に髪と同じ色の濃い髭を生やした男が陰湿な幹事のする低い声で言った。
大柄な身体を丈の長い漆黒のぐんぷくんとズボン、ブーツで包み同じ色のケープを肩に纏っている。軍服の袖には金糸でまるで蜘蛛の巣の様な模様が描かれている。黒く細い剣呑な目付きから彼が邪な考えを常に抱いている人物であると解かる。彼こそレンスター三悪の一人にしてランツクネヒトを率い悪の限りを尽くしてきた男、『黒衣の男爵』レイドリックである。
 この男の生き様程邪悪と言うに相応しいものはない。コノートのさる裕福な騎士の家の長子として生まれ、幼い頃から身体の弱い者や動物を苛めて遊んでいた。長じては弟や従弟達と共に汚いやり方で他人の土地や財産を奪ってきた。コノート王太子に取り入ると彼を唆し平穏だった王宮に継承者争いを起こさせ何時の間にか対抗勢力に担ぎ出された王弟とその一派を密告と冤罪によって粛清した。王が謎の死を遂げ太子が王位に就いて間も無くグランベルを動乱が襲いトラキア軍がマンスターへ侵攻してきた。コノートはレンスターと共同してトラキア軍を追い払う筈であったがレイドリックは密かにトラキアと内通しレンスター王カルフがマンスターへ向かった時に裏切り、カルフ王を卑劣な手段で討ち取りコノート王も毒殺した。
 その後コノートへ兵を進め反対する者はおろか無辜の民衆まで殺戮した。王族や重臣の一族は全てトラキアに引き渡され民衆の前で首を刎ねられた。コノート、いやレンスターの者でこの男を憎まぬ者はいない。
 レンスターの統治者がフリージ家になると王妃ヒルダの腹心となりマンスター領主として悪政の限りを尽くした。重税を課し払えぬ者は飢えた獣の餌とされた。レイドリック配下の者達は街や村に出ては掠奪、破壊、殺戮を行なった。民の怨嗟の声が満ちマンスターは地獄と化した。
 やがてイシュトー、イシュタルがフリージの実権を握るようになるとそのあく逆さを嫌ったイシュトーに配下とその兵全員と共にダンドラム要塞に封じられた。体の良い追放だった。そしてイシュトーとイシュタルの厳しい監視下に置かれたが隙を見ては要塞周辺で悪事を働いた。将に人の皮を被った悪魔であった。
 
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