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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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30部分:南へその六


南へその六

「今レンスターはフリージのブルーム王や王妃ヒルダとその取り巻き達の圧政に苦しんでおります。ですがこの度レンスター王子キュアン様とエスリン様の遺児リーフ様がレンスター城で挙兵なされました」
「リーフ王子・・・叔母上の子で僕の従兄弟の・・・」
「はい。私も参加したのですが多勢に無勢、我が軍はレンスター城にてフリージの軍勢に包囲されてしまいました」
「そしてどうなったの?」
「リーフ王子は私とそこにいる我が妻セルフィナにイザークへ行きセリス様が率いておられる解放軍に救援依頼を求めるよう言われたのです」
「その為に我等二人小舟でレンスター海の荒波を超えここまで来ました。どうか我が主君と祖国をお救い下さい」
 冷静ではあるが真摯な二人の話を聞きセリスはオイフェの方へ顔を向けた。
「オイフェ・・・」
「解かっております。リーフ王子はシグルド様の御親友であったキュアン様とシグルド様の妹君エスリン様の御子息、お救いせねばなりません」
「有り難う。よし、皆!」
 セリスが腰の剣を抜き高々と掲げた。
「これより我が軍はレンスターへ向かう。レンスターの民衆を暴虐の手から解放し窮地に陥っているリーフ王子達を救うんだ!」
 一同もそれに賛同し拳を突き上げおおっと雄叫びを上げる。解放軍の進路は決まった。
「有り難うございます、これでレンスターが救われます」
「僭越ながらレンスターまでの道案内は私達が勤めさせて頂きます」
 グレイドとセルフィナは今にも泣き出さんばかりであった。そしてセリスの手を握った。
「問題は近頃イード砂漠に現われるという得体の知れない賊の一味だな。何とかしないとレンスターに行く前に全滅してしまうよ」
「それでしたら私が」
 セイラムが出て来た。
「あの者達がどういう方法で襲って来るかは良く知っております。あの砂漠を一人で越えてここまで来ました故。お任せ下さい」
「頼むよ」
 この時解放軍の誰もがセイラムの細い瞳が強い決意と若干の辛さで彩られていたのに気付かなかった。気付いたとしてもそれは解放軍と共に戦っていこうという種のものであると感じたであろう。確かに一面においてそれは合っていた。だがより深い一面には触れていないという点で間違いであった。
−バーハラ城ー
 百年前の聖戦によりロプト帝国が滅亡し十二聖戦士達がそれぞれ王や大公となりグランベルを治めることになった時バーハラは十二聖戦士の指導者であり皇帝ガレを光の神器ナーガで倒した聖者ヘイムがそれぞれ大公となったバルド、ウル、トード、ドズル、ブラギ、そしてファラの六聖戦士をまとまるグランベル国王となったのに伴いグランベル王国の王都として定められた。七六〇年の戦乱により六公国が廃されグランベル帝国が建国された時もその地位は変わらずヴェルトマー=バーハラ皇帝家の帝都であり続けた。三重の城壁に囲まれた帝都は二百万を越える人口を擁し、皇帝アルヴィスが鎮座する本城は壮麗な造りで知られている。
 外部は堅固な城壁、内部は白亜の大理石を基に多くの黄金は白金、色とりどりの水晶や宝玉で飾られていた。部屋数は千を優に越え、精強をもってなる炎騎士団と共に帝国の権威の象徴としてグランベル大陸全土を圧していた。その中の一室に暗い影が集まっていた。
「そうか、イザークが陥ちたか」
 黄金と白金の刺繍で飾られた豪奢な丈の極めて長い黒い軍服とズボン、マント、そしてブーツで身を包んだ少年が言った。奇妙な声である。澄んだ高い硬質の美声と同時に肉食獣の唸り声の様な声が同時に発せられている。細く女性の様な身体に雪の様な細い中世的な白面、それとは対照的な深紅の長い髪にルビーの瞳、額には奇妙な紋章がある。白く細長い指には長く伸びた紅い爪が生えている。
「それに呼応し各地で反乱が起こりセリス公子の下に多くの者が集まってきていると」
 周りで蠢く無数の影達が部屋の中央で腕を組み立っている少年に不気味な声で囁いている。見れば部屋は闇夜の様に黒く染められ蛇や蟾蜍、鼠、家守といった生物達が徘徊し、照明のシャンデリラは一つ一つが血の様に紅い水晶で作られた髑髏である。
「ふふふ・・・・・面白い」
 少年は不可思議な声をまた発した。
「再び戦が始まる。今度こそ私が世を支配する」
 少年は髑髏のシャンデリラから下がっている一匹の蛇を掴み取るとその腹を握り潰し、頭をそのまま口に入れ喰った。肉を潰し咀嚼する胸の悪くなる音がし手がドス黒い血で染まっている。
「ミレトスに行くぞ。そして彼の地を他の国より遮断しろ。猫の子一匹たりとも通さぬ程にな」
 影達が頭らしきものを垂れ闇の中に消えていった。部屋には少年一人だけが残った。
「いよいよ私の世界が再び幕を開ける。恐怖と絶望に覆われた世界がな」
 少年は笑った。紅い髑髏に照らされるその影は人のものではなく禍々しい竜のものであった。

 
第一夜  完


                 2003・10・24
 
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