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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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261部分:炎の剣その二


炎の剣その二

 月まで届くかと思える程の巨体、幾千年を経た樫の様な首、岩石の如き手足、無数の生物の様に蠢く筋肉、毒を滴らせる象牙色の牙と爪、蝙蝠の様な翼、地獄の炎の如く殺意と憎悪に赤く燃える眼、鋼鉄より固く星も月も人の心さえも塗り潰してしまうような漆黒の鱗、目の前にいるこの怪物が何であるか三人はすぐにわかった。
「暗黒神・・・・・・。遂に姿を現わしたな」
 セリスがその巨体を見上げて言った。
「ヨクゾ我ガ影に気付イタ、バルドヨ、褒メテヤロウゾ」
 地の底から響き渡る獣の様な声であった。獣が人の声色を真似ているような、そんな声であった。
「今までユリウス皇子の身体を器としその心を幽閉しこのユグドラルを暗黒教団の世にしようとしていたのは貴様だな」
「ククク、如何ニモ。何レソノ心モ喰ライ我ガモノニセント欲シテオッタガ。ダガ貴様等三人ヲ倒シソノ力ヲ取リ組メバ良イダケ。ククククク」
「クッ、貴様ァッ!」
 今までクグツとして操られてきた憤りであろうか。ユリウスは怒りの表情でフェンリルを放った。
 悪霊達が無気味な唸り声をあげロプトゥスへ襲い掛かる。全て竜の急所を直撃した。ユリウスはそれを見て勝利を確信した。だがすぐにその確信は驚愕に変わった。
 魔竜ですら一撃で倒してしまうであろうユリウスの闇の魔法を暗黒神は何事も無かったかのように受けていた。
 笑ったようにも見えた。長く鋭い牙が連なる暗黒神の口が開いた。
「無駄ダ。闇ノ権化デアル我ニ闇ノ魔法ハ効カヌ」
「くっ!」
 ユリアがナーガを放つ。巨大な光球が暗黒神を直撃する。しかしそれすらも効果は無かった。
「ナーガノ力サエモ今ノ我ニハ無力。最早我ヲ阻ムモノハコノ世ニハ無イ」
 口をさらに大きく開いた。爪をゆっくりともたげる。
 三人はそれぞれ散った。そして暗黒神を取り囲んだ。死闘が始まった。
 全てを消し去るような闇の息と爪、そして巨体を武器に襲い来る暗黒神に対し三人はそれぞれの卓越した技量と見事な連携で闘った。
 ユリウスは闇の魔法から炎の魔法に切り換えていた。父の血を受け継いだのであろう。その腕と動きはシアルフィ城でのアルヴィスを彷彿とさせるものがあった。
 ユリアもナーガを放ち続ける。冷静かつ的確に狙いを定め撃つ。徐々にではあるが効果が表われてきたようだ。
 セリスの剣技はここでも冴え渡っていた。暗黒神の攻撃をかわすと素早い動きで剣撃をいく太刀も浴びせる。そして離れ飛び込み再び攻撃を繰り出す。何時にも増して見事な剣捌きであった。
 死闘は幾時も続いた。つきがその輝きを弱め夜の闇の帳が次第にその幕を開けていく。その白い世界と黒い世界の狭間の中で三人と竜の闘いは一進一退のまま続いていた。
 階段からレヴィン達諸将が上がって来た。誰も欠けてはいない。天主での最後の戦いに勝ったのだ。
 だがまだ戦いは終わってはいない。彼等は今目の前で行なわれている最後の光と闇の戦いを見守っていた。
「ユリウス皇子、目覚めましたね」
 サイアスは果敢に魔法を放つユリウスを見て言った。
「ええ。今まで己を縛っていた忌まわしい呪縛から解き放たれ本来の自分を取り戻しています。もう心配はいりませんね」
 クロードが言った。
「ユリア、成長したな。もうこれで一人で立つことが出来る。なあオイフェ」
「え、ええ」
 オイフェはレヴィンの言葉に顔を赤らめた。
 一同がとりわけ注目していたのはセリスであった。一太刀一太刀ごとにその剣は速さと威力を増していく様であった。次第に暗黒神を追い詰めていった。
 ティルフィングに白い炎が宿ったように見えた。その炎は刀身全体を包み暗黒神を撃ちはじめた。
「オイフェ、シグルドの母は確かバーハラ王家の者だったな」
 レヴィンはその白く燃え盛る剣を見てオイフェに問うた。
「ハッ、前王アズムール様の妹君エルダ様であらせられます」
「そうか、だからか」
「えっ!?」
 オイフェは思わず声をあげた。
「セリスはバルドだけではない。ヘイムの血も強く引いている。二柱の神の血を強く受け継ぐ者はそれだけ強力な力を持っているのだ」
 レヴィンは一同に対して言った。
「レーヴァティンの話は知っているな」
「はい。炎の神ローゲが自らの治めるムスペルムヘイムの居城の奥深くに保管している剣ですね。ラグナロクの時ワルキューレの一人ブリュンヒルテの手で放たれるという」
 サイアスが答えた。
「それが今セリスが手にしている剣だ」
「えっ!?」
 これには一同驚いた。
 
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