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ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜

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260部分:炎の剣その一


炎の剣その一

                       炎の剣
 ユリウスの右手が前に大きく出される。開かれた五本の指のそれぞれの爪から黒い瘴気が放たれる。
 セリスとユリアは左右に跳びその瘴気をかわした。ユリウスはそれに対し右手で十字を切った。
 床から十字の形で瘴気が噴き出す。二人はそれもかわした。
 ユリアが巨大な光球を放つ。ユリウスも黒い瘴気の球を放つ。
 黄金色の光と暗黒の闇が撃ち合った。凄まじい衝撃を辺りに飛び散らせ光と闇は相殺された。
 セリスが両手にティルフィングを持ち渾身の力で剣撃を繰り出す。ユリウスは左手に瘴気を纏わせた。その瘴気は蛇の様にしなりティルフィングを受け止めた。
 逆に黒い蛇が鎌首を擡げセリスに襲い掛かって来た。セリスはそれを撃ち返した。撃ち返された蛇は地に落ち床を黒く溶かした。
 ユリウスが両手を大きく掲げた。すると黒い天から無数の夜の天よりも黒い闇が生じそれがセリスとユリアに降り注いだ。
 セリスはティルフィングで、ユリアはナーガの結界でその黒い雨を防いだ。防がれた雨は床に落ちると蒸気と胸に来る悪臭を放ちつつ床を溶かす。
 ユリウスの力は二人を圧倒していた。その邪悪な暗黒神の力は二人の攻撃を全く寄せ付けず逆に二人を次第に追い詰めていった。
 ユリウスの手から放たれた複数の黒い流星をセリスは後ろに跳びかわした。
 セリスは着地し考えた。このままでは勝てないと。ミレトスの時とは比べものにならない。最早ユリウスは暗黒神そのものとなっているようだ。
 その禍々しく変貌した容姿がそれを物語っている。瞳も牙も爪もまるで暗黒竜の様だ。
 だがそれはいつも魔力を発動する時に生ずる様だ。普段は人の姿と全く変わらない。
 邪悪で全てを飲み込む様な気は普段から強く発せられている。しかしミレトスでの闘いの時の気は完全に消えていた。
 バーハラ城でユリアを手にかけようとした時もそうであったらしい。何かに必死に叫びながらもがき苦しんでいたのも同じだ。
 そういえばユリウスの声が人のものと獣のものの二つが同時に聞こえるのは何故だろうか。この様な事は有り得ぬ筈だ。
 レヴィンは言った。神器はそれぞれ自分の心を持つと。ならば暗黒神の力が込められた暗黒竜の書も己が心を持つ。暗黒竜とガレの心が混ざり合った暗黒神の心が。
 ふと考えた。ユリウスは器に過ぎず暗黒神に操られているだけではないだろうか。だとすれば彼を倒すべきではない。
 だが確信が持てなかった。ユリウスが次の攻撃を放たんと構えを取ったのだ。セリスは咄嗟にユリウスを見た。
 その時彼の足下を見た。影が月の光に映し出されていた。その影は人のものではなかった。禍々しく笑う竜のそれであった。
 確信した。自分の考えは正しかったと。為すべきこともわかっていた。
「ユリア、ユリウスの足下を狙え!」
 ユリアはすぐにそれに従った。光の球をユリウスの足下に向けて放った。
 右手に瘴気を貯めそれを雷光の様に放とうとしていたユリウスであったがユリアが光球を放って来たのに対し跳んでかわそうとした。
 光球はユリウスの身体にはかすりもしなかった。だがその影は別であった。
 光が床に映るユリウスの影を直撃した。するとユリウスの状況が一変した。
 床に着地できず転げ落ちるとそのままもがき苦しみだした。
 瞳から竜眼が消え爪が引っ込み牙も無くなっていた。指で喉を掻き毟り口から泡を吹き出し野獣の断末摩の様な呻き声を出し激しく痙攣している。
 全身からあの禍々しく邪悪な気が消え去った。それまでドス黒かった表情も一変し穏やかなものとなった。
 ユリウスはしゃがみ込みつつ二人の方を見た。その顔には最早敵意も殺意も無かった。
「セリス皇子・・・・・・ユリア・・・・・・!?」
 声も少年の声であった。元の高く張りのあり力強さに満ちそれでいて澄んだ声であった。
「元の自分を取り戻せたな」
 セリスはそれを見て言った。ユリアはユリウスの下へ駆け寄った。
 そっとその両手で抱き締める。その瞳に涙が浮かんできた。
「ユリア、済まない。私は・・・・・・」
「良いのです、兄様は暗黒神に操られていただけです。そして今こうして私の下に戻って来て下さいました。それだけで、それだけで・・・・・・」
 兄を強く抱き締めつつ涙をとめどなく流す。
「ユリア・・・・・・」
 ユリウスも涙を流した。その涙が手の甲に落ちた時炎よりも熱く感じられた。
「油断するな、二人共。戦いはまだ終わってはいないぞ」
 セリスの言葉にハッとした。消えた筈のあの気が感じられた。そちらを振り向いた。そこには見た事も無い様な巨大なおぞましい怪物がいた。
 
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