| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第41話 決意。踏み出し

 
前書き
~前回のあらすじ~

綺羅ツバサの提案は、保留となった。UTXと出ても釈然としない気持ちのまま、家の手伝いをしていた。そんな時、店内にいた女子高生は穂乃果を見て、自分は大地の彼女だと宣言する。そして大地の記憶について関わりのある相手だと知る。彼を助けたい───自分と同じ意志を持つ相手でありながら、どうも交じり合う事ができそうになかった… 

 













「…ごめんなさい。わかっているんだよ。本当はいつまでもこのままじゃいけないって。でも、今すぐはダメなんだよ。今、あの人は思い出そうとしているんだから。大地くんのことが大好きなら、大地くんが今苦しんでいるのをわかってあげようよ。大地くんが大切ならそっと見守ってあげようよ、ね?そうして大地くんが助けを求めてきたら、その手を引いてあげればいいんじゃないかな?」
「…」



 穂乃果は彼女に対してそう話す。穂乃果は大くんにたいしてこうしたいから、きっとこうすることが最善の選択だから。
穂乃果がそう言って、そのまま食い下がってくれればいいんだけど、彼女は納得いかない表情で歯噛みしながら眉をしかめている。

 自分も、この子も大くんとどうでありたいか根本的なところは似ている。
”傍に寄り添っていたい”、という思いを胸に、だけどそうであるためにどうするかは全然違う。だから穂乃果たちは対立しているんだ。

この子を否定したいわけではない。大くんにこれ以上重荷を背負わせない方法で彼を支える為の戦いだ。


「もう一度言うね、大槻さん。”私”は、大くんが助けてと言うまで深く干渉はしないよ。私達二人が大くんにどうあって欲しいかは同じ想いだと思うよ。でも、穂乃果は…大槻さんの行動が逆に大くんを苦しめる結果につながりそうで怖いんだ」
「…一人で苦しんでいる様子を見ていることはできません。手遅れになってもおかしくは無いんですよ?」
「それが逆に重圧を与えているんだよ?」
「なんでそんな事言い切れるのですか!」
「”幼馴染”、だからだよ」


間髪入れた穂乃果の発言に、ぐっと言葉を飲み込んでそのまま押し黙ってしまった。











~第41話 決意。踏み出し ~









「ちくわ食いたい」
「唐突に何言ってるのよアンタは。馬鹿言ってないで夕飯の準備手伝いなさいよ」
「……あい」


 実をいうと俺の好きな食べ物はちくわだ。
単なる練り物のくせにあの香ばしい魚系の匂いが俺の鼻孔をくすぐり、そのまま腹の虫として胃へと直下してくる。

 実に魅惑的な食べ物だ。
それがここ最近の騒動やら何やらでコンビニに立ち寄る隙も無く、ただただ肥えた舌がちくわを求めていた。

「母さんちくわ無い?今無性に胃に押し込めたいんだが」
「そんな急に言われてもあるわけないでしょ。明日の夕飯おでんにしてあげるから、それまで我慢なさいよ」
「……あい」


 夏真っ盛りのこの季節に”おでん”はどうなのだろうかと思うけど、基本的に季節関係なく鍋物が出てくる我が家なので、つまりこの疑問もテンプレなのである。
 重い腰を上げてリビングから離れた瞬間、テーブルの上に置いてあった俺のスマホがぶるぶると震えだす。

 誰からだろうか…?
ふと、脳裏をよぎったのはいつもの9人。例外として未遥。他に浮かぶ例としては転校前の数少ない気の知れた友人や教師などなど。

その中から選ばれた栄えある差出人は。



「…『話がある』って、なんだよ穂乃果(・・・)


 いつものように絵文字とかで彩ることなく単純明快に送られてきたその一文は、かなり真面目な用件な気がしてならない。
 
その内容は伺えないが、『なにごと?』とだけ打って反応を見る。


「大地!早く手伝ってよ」
「待てって、大事な連絡が来たんだっつーの」
「大事な連絡?どうせデリヘリお嬢からのお誘いでしょ?」
「…もう母さんは黙って」

 そもそもそういういかがわしい店というのは18禁ではなかったか?と思いながら、届いた新たな通知を見て俺は目を見開いてしまう。






『さっきね、大槻未遥(・・・・)という女の子とお話ししてたんだ』








 数秒の沈黙。一度返信を返さずそのままテーブルの上にスマホを置く。飲みかけのぬるくなった紅茶を一口含むと、ふわりと独特な香りと味が舌と、脳と、心を癒す。
 個人的には紅茶は温かいまま飲むのが通だと思っている。そっちの方が香りが強く湧き出るし、さらに加えて生姜を加えることで身体も温めてくれる万能飲料だ。

 そういえばその肝心な生姜が切れかけていたような気がする。
どうせ飲むときに必要になるから明日にでも時間見つけて買っておこう。


…という現実逃避はこの辺にして。

汚物でも見るかのような目つきでスマホを眺め、特に続きの通知が来るわけでも無いソレを嫌々握ると震えた手つきでフリックする。



『…大槻未遥って誰よ』
『え?大くんのクラスメートじゃないの?』
『なんでお前が接触してんだよ』
『夕方お店に来てたの!それで話しかけられて…ねぇ、今から会って話すことできない?』




 今から、とはいうもののただいまの時刻は19時になったばかり。
何処の家も夕飯の時間で、一家団欒に過ごす家庭が多いだろう。夏だからまだ日の沈みが遅く、若干夕焼け空ではあるものの外出するには面倒な頃合いだ。

母さんからも手伝え手伝えと奴隷扱いされているし、ここは一度キャンセルして───



しかし。

と、文字を打つ手が不意に止まる。

 穂乃果は未遥と対面していると言っている。
あの時の…俺がまだ、向こうの高校にいた時の彼女ではなく、離れて、音ノ木坂に転校し、寂しさのあまり壊れてしまった彼女に、だ。





 果たして親睦を深められたのかどうかが気になるところ。
そうであれば、仮に俺がその場に居合わせたとしても大きな問題へと発展には至らないであろう。

しかし、だ。

 逆はどうか?穂乃果と未遥は一歩間違えれば反りが合わなくて地上に血の雨を降らせる…可能性が無くはない。
 というか、俺は邪魔でしかないのでは?
ごくりと、大きく生唾を飲み込んでフリック操作に戻る。





『…わかった。どこに行けばいい?穂むら?』
『それについては心配ご無用だよ!






───今、大くんの家の目の前だから』






 そのまま通話画面へと勝手に変わり、俺は今度こそ着信拒否してスマホをソファに投げつけた。
ふぅーーーーーっと、露骨な互い溜息を一つ零した直後にけたたましくなる玄関のチャイム。

母さんが、「はいはいどちら様?」とエプロンで手を拭きながら玄関へペタペタ音を立てて向かう。

しばらくして聞こえてきたのは母さんの数十年若返ったかのような高い声と相変わらずなテンションの聞き慣れた声。

俺だけ居留守でも使おうか迷ったがそんな時間は当然無く、やけにはしゃいだ母さんがいつになく陽気そうに声を上げる。

「大地ー!高坂さん(····)来てるわよー!」
「お邪魔します~す!」



聞かぬ振り知らん振り。
無心でキッチンに向かい、食器を取り出しているところを穂乃果に発見されてしまう。


「あー!大くんなんでスルーしたの!?話したいことがあるって言ったよね!」
「知らない聞いてない飯の時間ださっさと帰れ」

 有無を言わさず、まるで野良犬を追い払うかのようにしっしと追い払う仕草を見せる。
気になる案件ではあるが、別に今すぐに話さなければならない事ではないだろう。

「なんで!?気にならないの!?」
「気になるが今すぐじゃなくてもいいだろ!とにかく今はもう帰れ!」
「いーーやーーだーーっ!!」

 俺の背中にコアラのようにしがみついて離さない穂乃果と、それを頑なに拒む俺。
見かけによらず、また特段と大きな穂乃果の胸が俺の背中に押し付けられてふにゅふにゅと形を変えているもんだから困る。非常に困る。
 
 当然思春期真っ盛りの男子高校生。興味ないわけでは無い、むしろありまくりだ。
だけどいくらなんでも時と場所、相手の気持ちを尊重するし、本能に身を任せるだけのサルでもない。

自覚無しの穂乃果から邪念を取り除き、逸らすようにあたりを見渡す。


リビングの扉に寄りかかっている母さんが俺らのやり取りを眺めていた。

…何故か心底嬉しそうに微笑んでいる。
 

僅かに目頭から涙を零して…。







~☆~






…何はともあれ、ひとまず穂乃果も我が家の夕飯をご相伴にあずかることになり、ひとまずの平穏が訪れた。

 特に目立った会話もなく、これ美味しいだの、やれ美味しいだの、俺の母さんからレシピを聞きながら過ごした。
 その時の母さんは本当にテンションが高くて、錯覚にも十代に見えてしまった。もう一度言う、錯覚だ。


 そして食後はそのまま俺の部屋へと直行。
俺の部屋に女の子を上げるのはことりと未遥以来の三人目。


「部屋何もないね」
「前に来たことりや未遥と同じリアクションすんなよ」
「え?ことりちゃんも前に来たの?」
「…まぁ、色々あって」


 まずい、失言だったか。
と、思ったが特に膨れたような反応を示さず、ただ『ふ~ん』と興味なさげに部屋をぐるぐると見渡すだけだった。そして、ある程度見渡した後、もう一度俺の方に顔を向けて一言。




「…エッチな本やこんどーむ(・・・・・)?というのは無いのかな?」
「ブフッ!!!!」


 ガッデム。
穂乃果の口から聞かされるとは思わなかった危険用語に、飲みかけていたお茶が器官の方に流し込んでしまった。

「えっ!?大丈夫?」
「ゲホッ、ゲホ…ウエ、おま…いったい誰の影響だ」
「誰って…希ちゃんが」
「あんのタヌキが…」




 脳裏で『いえーいっ!』と、やってみせたと言わんばかりのゲスな笑みを浮かべた音ノ木学院元副会長が浮かんでくる。その顔が本当に人を煽っているようなリアルな笑みだから心底腹立たしい。

 明日があの人の命日だ、と恨みを込めた言葉を脳裏に住み着くタヌキに投げつけながら、器官に流れたお茶を押し返すように全力でせき込む。


「ゲホッ…ま、まぁ大丈夫。それよりも、その言葉の意味わかって言ってるのか?」
「意味って、こんどーむ(・・・・・)の事?」

 だからJKで初心な女の子がむやみやたらにゴムゴム言うもんじゃありません。
首を傾げて、本当に意味が分かっていなさそうな表情なので…人生何事も経験だ、一つそのゴムとやらの使い道をお前の体に直接教えてやろう……なんてちょっとエッチで変態でR-18的な展開を起こすこともなく。




俺は静かに穂乃果の耳元でその意味を教えることにする。





「コンドームというのはだな。夫と妻が愛し合う…いわゆる…セ───」



 時間はたっぷり一分。
伝え終わった時の穂乃果の表情と言ったら、真姫の髪の毛よりも真っ赤に燃え上がっていて、しばらく俺の顔を見ることができなかったとかなんとか。



 まぁ、年頃の女の子がそういう話に敏感なのは当然なことで。
『なんてことを大くんに聞いちゃったんだろう』と、今更ながらのように部屋の片隅でダンゴムシのように丸くなってしまった。

 結局、話が進まず、何をしに穂乃果はやって来たのかわからずじまい。



「なぁ俺が悪かったから早く用件だけ伝えてさっさと帰ってくれよ」
「あんなこと言っておいて早く帰れって、それこそ酷なんじゃないかな!?」
「先に言いだしたのはお前だろう!?勝手に八つ当たりしないでくれるかなぁっ!?」
「バカ!エッチ!変態!節操無し!ハーレムおじさん!強姦魔!!」
「…酷い言われよう」

 そしてその暴言の大半が無実である。
何処から出てきた節操無し、ハーレムおじさん、強姦魔…。


「うう…なんで希ちゃんは意味を教えてくれなかったんだよぉ~」
「いや、まぁ…後で本人に聞いてくれ。そんな事より早く用件を」
「(大くんも大くんで、鈍いのかそうでないのか…」


若干呆れの混じった穂乃果の呟きを、当然知るはずもない俺は椅子に座り直し、改めて問いただす。


「で?穂乃果は未遥と話をしたってことらしいんだが、何を話したんだ?」
「それは話せない」
「は?」

 予想外の言葉に素直に驚いてしまった。
だけど、穂乃果はそのまま「あ、そうじゃないて」と訂正の言葉を入れる。

「そうじゃなくて、大くんに話したいなと思ったのは、その未遥ちゃんとのやり取りの中身じゃなくて、そこから考えた…穂乃果の答えなんだ」
「…続けて」

 あくまで穂乃果は解答を得るまでの経緯でなくて、解答そのもの、を話すつもりらしい。未遥と何をどう話して納得し、結論を出したのか気になるところであるが。
 それが今後、どう影響してくるのか…。



「まずは、結論から。穂乃果ね…ラブライブ!(・・・・・・)に出場することにしたよ」
「そうか…で、その心境は」
「負けたくない、勝ちたいって、思ったから」

 穂乃果にしては力強い発言。
今まで出場することを拒み、その理由を聞かれてもお茶を濁すばかりであったが彼女だが、一変してその逆の道を進むことを決意した。
 
 心境の変化はわからない。
だが、未遥との一件に置いて、何かがあって、それが発破をかけたという事ぐらいは推測できる。俺が一絡みしているな、という事も。
 

「あの子にも、あの子なりの信念や理由があって行動していることを知った。大くんを助けるために何とかしようと必死にもがいているのを見て、穂乃果だけのうのうと過ごしていくわけにもいかないんだなって実感したんだ」


彼女は、大槻未遥は。

俺が記憶を失っていることを知っている。

俺を好きだということも知っている。

それが単なる愛情だけでなく、正義感から生まれている感情ということも知っている。

言葉にしなくても、行動として表さなくても、自分が大地を守るんだと。

まるで愛する子供を守るかのような気持ちであることも知っている。


「未遥ちゃんはね、大くんの事が大好きなんだって。だから転校しても尚、こうしてアプローチかけてるし、敵と思われた穂乃果にもああして接触してくるから…負けたくないなって、思ったんだ」


 
 それを真正面から吐き出されたのだろう。
それによって触発された穂乃果は別人のように穏やかな笑みを浮かべてこう付け加える。



「でもね、穂乃果もね?あの子には負けたくないんだ」


まるで、何気ない一言のように。















「大くんの事が、好きだから。大地君(・・・)の隣を他の女の人に譲りたくないんだ。もうそれくらい…貴方に夢中なんだ」


 知ってた。気づいていた。
だけど、知らないふりをしていた。特に後ろめたさがあったからというつもりは無い。
ただ、気づいて素直にその感情に思うままに従ったら今までの関係に戻れないような気がしたからだ。

 俺は、それでも穂乃果から視線を逸らさず気持ちを受け止める。


「もう、このままじゃいけないんだって気づかされたんだ。不本意だけど、恋の好敵手(ライバル)に」

穂乃果が浮かべたのは笑顔だけじゃなくて、その中に寂しいものが含まれている。




「別に今すぐ大くんの気持ちが知りたいわけじゃないんだよね。ただ気持ちを伝えて、穂乃果は後ろばかり見ないで前に踏み出す決意をしたんだってことを、知って欲しかったんだ。だからもう悩まないし、立ち止まらない。ラブライブ!に絶対出場して、トップになるんだ。それが今の穂乃果が進むべき道」
「お前…」

 




───もう、あの時(・・・)の穂乃果じゃないんだな…




 不意にそんな言葉がよぎった。
どうして浮かんできたのか俺にはわからない。
 でも、それでもその言葉はしっくりきて穂乃果の新しい道を開くカギとなったように扉が開く。


「だから大くん...」
「なんだ?」

 いつの間にか、俺の目の前に来ていた穂乃果が自分の胸に手をあてて、何かを確認するかのように目を閉じている。


「見てて、穂乃果がどこまで前に進めるか。穂乃果の新しい挑戦を」



太陽。
その言葉の通り、明るく照らされた笑顔を見せて彼女はVサインをする。



悔しいけど、その笑顔はとても可愛くて頬が熱くなるのを自覚した。




───負けない、と。


それは恋のライバル未遥に対しても、スクールアイドルとしてのライバルA-RISEに対しても。
どちらにも宣戦布告した彼女はとても強く見えた。








 
 

 
後書き
大変長らくお待たせいたしました。

ようやく時間系列としてはアニメ二期第一話終了です。
全然アニメ準拠感は無くなってしまいましたが、また別の物語として大地や穂乃果の足跡を見てもらえたら幸いです。

次回もお楽しみに。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧