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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第42話 合宿に向けて?

 
前書き
~前回のあらすじ~

大地の家に乗り込んで穂乃果の新たな決意をする。ラブライブ!に出て優勝すること。それが今彼女にできることであった。 

 


翌日。











「合宿よ!!!!」








 昼休み、みんなで部室に集まってご飯を食べようという緑のアプリでのやり取りが、俺と穂乃果が大事な話をしている水面下で執り行われていて、仕方なく購買で買ったパンを片手に部室にやって来た。

 俺が最後だったらしく、わきあいあいとガールズトークで花を咲かせている中部室に入るのは少々気まずかった。
 席に座り、ペットボトルの紅茶を飲んで一息つき、一つ目のパンの袋を開けたところで等々に巨乳で金髪な魔女が叫び出した。


「…あ、すまん。ソース落とした。にこにこ、ティッシュ取ってくださいな」
「いいけど、何よその呼び方。バカにしてるの?」
「もちろん」

 俺が座る向こう側でぎゃいぎゃい怒り狂った声が聞こえるけど、真姫が暴れん坊を制しているようで特に被害があるわけではない。
 花陽がちらちらと金髪巨乳を気にしているけど、当然誰も反応することはない。
花陽のように気にしている子もいるけど、それでもやはり相手にしていない。

相手にしていないというか、どうリアクション取るべきか戸惑っている模様。

「大地、勉強の方は順調ですか?」
「え?まぁ…いつも通りかな。少なくとも計画通りに進んでるからそういう点に関しては順調。最近は集中力的なものが低下しているなと」
「そうなんですね。でしたらみんなと勉強してみてはどうですか?私も続かない時は穂乃果やことりと一緒に勉強してますから」
「(穂乃果の場合はほぼ強制的にさせられているんだけどね)」


 ぽつり、と。
誰にも聞こえないように呟いたつもりなのかもしれないけど。地獄耳なのか、そうでないのかは別として海未の耳に届いてしまったが最後。


「穂乃果…」
「ひぃっ!?なに海未ちゃん?笑顔なのに怖いよ?どうしたの?」
「私との勉強がそんなに楽しいのですね?では今日も敢行しましょうか」


 ひぇぇぇぇぇ!、と席を立って狭い部室の中を駆け巡る。真姫とにこはいちゃついて、穂乃果と海未の追いかけっこをオロオロしながら眺めることり。『私たち無関係』オーラを放出しているりんぱな。
 そんな中、希はというと。


「えりち、泣かなくてもええんよ?大丈夫、ウチもいきなりすぎてついていけんかったから」
「…泣いていい?」






いつも通り、平穏な日常。






~第42話 合宿に向けて?~









「で、何をするために合宿するんだ?」


 まぁ、大まかな予想はできるが。
それでも本人の口から聞くべきだと、俺は確認の意を込めて問いただす。


「それはもちろん次のラブライブ!に向けた準備をするために決まってるじゃない!」
「具体的には?」
「それは~……」

 途中で言いかけて言葉が止まる。
視線を宙に泳がせる絵里を放っておいて、いざ合宿をするとして何をすべきか具体的な案を模索する。

 模索し始めてすぐに浮かんだのは今回の新規ルールの一部。
”現存する楽曲の利用は認めない”というルールがあるのでまた一から新曲を作る必要がある。とはいえあまり時間もない。作詞、作曲、振り付け……それらを考えた上で更に数曲を考案しなければならない。
 

 つまり合宿でやることは……と、考えたところである程度の予定は決まった。
ただし、それを実行するとは言っていない。

「まぁ、まずは日にちと場所を決めてからだよな。やることなんてそれから決めればいいわけだし」
「前回は海だったから、今回は山かにゃ?」
「……海未(・・)は私ですが?」
「そういうボケはいいから、つか海未も海未でそれ気に入ってるだろ」



 いつぞやの真姫の別荘(正確には数ある別荘の一つ)で披露した無意識で渾身なボケを、今回は狙ってぶち込んできた。しかし、”今回も”見事に一蹴される始末。

落ち込んでがっくりと肩を落とす彼女を完全無視して話題を引き戻す。


「まぁ、無難に山でいいんじゃないか? もう少しで涼しくなるし、この時期海って結構辛いんじゃね?」
「そうね、どこか合宿できそうな施設はあると思うし、来月上旬あたりに行うと考えても今週中には具体案を決めておきたいわね」
「いや、ちょっと待ちなさいよ」



「と、ここで我がスクールアイドル研究部のマスコットキャラクターである矢澤にこが申し出る———」
「どぅあ~れがマスコットキャラよ!!! それに変なナレーション入れなくていいから!!」


 流石にこれ以上弄っても先には進まないので、肩をすくめておとなしく行き先を見守る。
いつもの定位置についたにこは、背後のホワイトボードをくるりと一回転し、真っ白なそれにすらすらと文字を書き連ねていく。

「本気で話し合うならこうしてまとめた方がわかりやすいでしょ?」






 なんともわざとらしい言い訳を言っては、今出た意見を丁寧にまとめるあたり、流石部長だと思う。
場所、決行日、持ち物、資金、合宿時にすることなどをまとめた上で、それを自分のスマホでスクショしていた。


「まぁ、こんなもんでしょ。これを明日でにも大地が現地に連絡してくれればオッケーね」
「や、俺?」
「当たり前でしょう?サポート役としてのお仕事よ」


 ぴょこんとお下げを揺らしながら腰に手をあてるにこ。
まぁ別にそれは構わないが、と思いかけたところでふと、とあることを思い出してそれをそのまま口にした。





「そういや真姫」
「……なに?」
「別荘、山の方にもあったりしないか?」
「あるわよ」

 ビンゴ。やはりそうでしたか。
以前海に行った時にそれらしい事を呟いていたような気がしたから口にしてみたが。ということは宿泊費を浮かせることができるな、と間違いなく全員が考えるだろう。一応スクールアイドル研究部も、人数や実績も認められているため、生徒会の方からかなりの額の部費の援助を受けている。

 とはいえ、衣装代やライブに向けた準備費、あるいは交際費などもそこから支出されるために極力抑えたいところではある。
 だから真姫という、彼女に決して言いたくないし言わないが、こうしたお金持ちのお嬢様がいるだけで資金面において大助かりなのであった。

「ほんと?それなら助かるなぁー! 宿泊費を含めると今月の部費が底を尽きかける寸前だったし、宿泊費として使わない分を衣装代に回すことができるから、今度のライブも可愛い衣装作れそうだもん!」

 ことりが書類と電卓を交互に見比べて、嬉しそうに両手でパンと叩いてはしゃぐ。
……そして今初めて知ったが、部費の管理もことりがしていたのか。

 いや、最近になって『俺らの部費は誰が管理しているのか?』という、かなり……いや。非常に大事なことを疑問に思っていたが。
 まさかそれすらもことりがしているとは思わなかった。
衣装作りに振付作成、部費の管理、練習。更には学生の本業である勉強やアルバイトもしている彼女だ。


「(……あれ?もしかして全部ことりに頼りっぱなし!?)」



 衝撃のあまりゴンッ! と、机に額をぶつけるもお構いなしに頭を抱える。
当然みんなから変な目で見られるが気にしない、というか気にならないくらい衝撃を受けていた。


───俺の必要性とはいったい……!


 俺はサポート役、言い換えるとマネージャー。
彼女らの健康管理の他にもなるべく負担をかけないように裏方の仕事をするのが本来の俺の役目であって、ただ彼女らの一番近くで応援するだけの存在ではない。そんなのはそこらへんに転がっているファンでもできる。

なのに、気づかずにいるなんで何たる失態だよちくしょうめ。


「……ことり」
「ん? なぁに?」
「俺に後で付き合え(・・・・)
「……付き合うって、え?えぇっ!? そそそんなまだ早いよそういうのは!!」


 早いというのは部費の管理の仕事が、ということだろう。
俺はまだ彼女の力になれないとでもいうのか?
 

「早いも何も、遅すぎたんだよことり。今まで気づいてやれなくて…ごめんな?」
「え、や、あの。は、恥ずかしいからみんなのいるところで言わないでよぉ~」

 顔を上げるとなぜかことりが両手で顔を隠しているし、でも指の隙間からちらちら見える瞳が俺の方を見ているし。
 そして何故か真姫や凛、にこ、それに希を除いた全員が俺の方を睨んでいる。

「わ、ワルカッタヨ! ことりの気持ちに気づいてやれなくて! 申し訳ないって思ってるさ!」
「や、そこじゃないでしょアンタの気づくべきことは」


え? と矢澤パイセンに指摘されて眉をひそめる。

「何に気づいてないっていうんだよ」
「えぇ? あーこの状況で気づいていないならいいわ。鈍感おじさん」
「おい、おじさんは聞き捨てならねぇぞ」


 呆れにも似たため息を大きくこぼしながら、水性ペンをホワイトボードに貼り付け、そのままどかりと自分の席に座る我が部長。
 周りを見渡してもやたら残念なものを見るかのような視線で俺を見るから、俺が悪い事でもしたのか錯覚してしまう。




「まぁいいや。とにかくことり、後で時間作ってもらえない?部費の管理について色々教えて欲しいんだが」
「それは構わないけど……え?なんで?」
「そりゃあ色々とことりに任せっぱなしだし、これじゃあ俺のいる意味なくなっちまうからこういう裏方の仕事は俺に任せて欲しいという見栄を張りたいだけ」


話をそらしながら本題へと華麗に戻す。


「え?あれ?」
「ん?どうした?」


 が、しかし。
俺とことりの間に何か齟齬が生じていたらしく、ことりは書類と俺の顔を交互に見比べている。
そしてとある結論に至ったのか、『もしかして』という表情で俺の方を再度見る。


「その、もしかしってさっきに『付き合って』というのは……そういうこと?」
「ことりが何を考えてたのかは知らないけど、そういう事。部費の管理の仕方を教えて欲しいからという理由で───」


 言いかけたところでことりは今日一番の盛大なため息をこぼす。
まるで『うわぁ私勘違いしてたようわぁ』とでも思っていそうな大きなため息。

 一体何を勘違いしていたのか気になるところではあるが、俺の経験上むやみに尋ねると地雷を踏みかねない。ここは穏便に流そう、という結論に至った。


「ま、まぁ勘違いは誰にでもあるからな。気にすることじゃないぞ、多分」
「鈍感」


 ことりに真顔でそう言われ、ダイレクトに心へと突き刺さった。
悪いことも間違ったことはしていない……はず。むしろみんなの為を思っての提案のどこに間違いなどあるのだろうか……。
 つまり、そう言われるのは甚だ遺憾である。


「うん、知ってたよ。みんな大地くんがこういう男の子(・・・・・・・)だってことは」
「おい、こういうってどういう事だよ。って待て、みんなあからさまに納得して頷いてるんじゃねぇぞ」

 




 
~☆~






「───まぁ、甲斐性もないのに9人も女の子を侍らせている大地は置いといて」
「おい絶壁、今なんつった」
「殴るわよ」

 各々が食事を済ませたところでほっと一息。
そんな中、にこは眉間にしわを寄せて。いかにもブチ切れ寸前でそう言う。
流石に「すまん」とだけ言って口を閉じた。

「ったく。大地のせいで話が進まないじゃない。もう10分しか休み時間無いのに」

 俺のせいかよ! という文句を押しとどめて、何か言いたげなにこは腕を組み直して視線を今度は穂乃果に向ける。
 当の本人は最初だけ話に混ざったかと思うと、もう完全にパンを食べることだけに集中していて、にこから視線を向けられていることに気づいていない。
そして、にこが何が言いたいかを瞬時に察する。それを俺が口にする前に彼女は穂乃果に尋ねる。


「ねぇ穂乃果。昨日のアレ(・・)……本気?」
「ふも?」

 例のランチでパックなパンを口にくわえながら振り向く姿はもはやいつもの事で、誰もそれについて言及せずに様子見している。
 

アレ(・・)って、”ラブライブ!に参加するよ”って話の事?それならホントだよ!」
「なんで?昨日まで参加を拒んでいたアンタが一晩で心変わりしたみたいに急に参加するって言いだして。理由が気になるんだけど……」
「理由……」





 理由と言われて黙り込む。
大好きなパンですら、机の上に置いて暗くなる彼女を見て、にこは『なにかあった』と瞬時に察したように見える。






「そうだね。穂乃果にも負けられない理由ができた、っていうのが理由だよ」
「負けられない、理由……」


穂乃果の言葉を反芻するように復唱する。


「……穂乃果は、ここで足踏みしているわけにはいかないんだってことを昨日思い知ったんだ。失敗するのが怖くてずっと立ち止まっていたいって思ってた。思い出作りの為にスクールアイドルやったっていいじゃないって」

 穂乃果は以前失敗した。
失敗する怖さを味わった。ことりとすれ違い、周りの景色を無視してただひたすらに目標だけを達成するために。
 実際失敗して、生み出したのは亀裂と後悔だけであとは後退。

「でもね、穂乃果は失敗しても自分の思い通りの結果にならなくても諦めずに何かを成し遂げようとしている人を見てきた」

それは、穂乃果が辞めても続けていたにこ、凛、花陽。

喧嘩しても穂乃果を見捨てようとしなかった海未。

みんなと進む道じゃなくて、将来の夢を叶えるために一人の道を進もうとしたことり。

どうしてもみんなとスクールアイドルを続けたくて裏で必死に動いていた絵里に希。

そして……

 転校しても尚、救いたいという想いを募らせ、空回りしてもその意中の人を第一に考えてずっと心配していた未遥。


「そんな人たちに負けられないって思ったから……穂乃果は目指すよ。”ラブライブ!”に」



見ると穂乃果の目つきは変わっていて、普段の彼女からは計り知れない決意を感じた。
こんな穂乃果を見るとは思わなかったのだろう、にこだけでなく、たまたま彼女の正面に席取っていた凛や花陽、真姫までもがびっくりしていた。

 






「…今度は、ちゃんとにこの期待に応えなさいよ」


 だからだろう。
にこも同じように、あの時の……加入前に見せてくれたアイドルへの想いを語っていた時と同じような目つきで。声色で。表情で。態度で。

にこはそう言った。



 瞬間に昼休み終了のチャイムが鳴る。
最後に穂乃果はにっこり笑って。


「ほらみんな!授業始まるから戻ろうよ!!」






残り一か月。





ラブライブ!の東京予選が始まる。




 
 

 
後書き
合宿に向けた最後のまとめ回です。

短いですがお許しを。 
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