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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第40話 表裏一体

 
前書き
前回のあらすじ

綺羅ツバサの意味ありげな発言、高坂穂乃果の強引な態度に困惑しながらも、それらはすべて自分の記憶に関することだと察した大地。そして、綺羅ツバサの口から放たれた小学時代のわずかな思い出とともに明らかとなる二人の接点。

大地の勘違いで話は収まったものの…果たして本当にそうなのだろうか? 

 
......と、いうことで。


A-RISEリーダー、綺羅ツバサは実は中学生の時に宣戦布告してきた強気な女の子で、俺の記憶喪失が云々という件については何も知りませんでしたけど意味深な発言してましたよーというオチで事態は収集した。
さっきまでのピリピリした空気はどこへ消えたのか、各自それぞれの話題で親睦を深めている様子。俺はというと、真姫がにこと一緒に優木あんじゅの元でお洒落の話で盛り上がっている為、空いた席に座って小さく息を吐く。ともかく、心臓に悪い。事実、俺がこうなってるのを知ってるのは希や花陽、未遥だけだと思っている。穂乃果は黒に近い白な為に自ら詮索する必要も無いだろう。完全に親密関係であるμ'sや未遥、本人ですら把握しきれていないんだ。赤の他人である綺羅ツバサが知ってるわけがない。



......と、考えるのはド三流の考えだ。



赤の他人であるからこそ、知っている事実もあるという事を忘れてはいけない。そう、あくまで可能性ではあるけれど。
恐らく、綺羅ツバサは知らない。だけど何かを掠めたのは間違いなくて、その何かがわからないからモヤモヤしている。それに穂乃果のあの態度。やはり握っているのだろう。だけど、





「それで、考えてくれたかしら?高坂穂乃果さん?」



 何を考えてと言われたのかと言うと、第二回ラブライブ!を我らμ`sはどこで行うか、という案件だった。予選は特に場所指定されていないからこその綺羅ツバサからの問いだ。他にも何時に行うとか、楽曲については既存の曲は禁止、つまりオリジナルの曲に限られるなど。恐らく参加希望グループが異常な数になると予想を立てた運営員会が、この時点でふるいをかけようという策略から生まれたものなのだろう。
 しかし、残念ながら俺らは何処でどのような曲を披露するか…という話以前の大問題で頓挫しているのだ。

今、ナウ、現在進行形。

そう、おわかりであろう。リーダー高坂穂乃果の参加辞退宣言がまだ解決していないからだ。







「いやぁ~、それがまだ私たち、参加しようかしないか迷ってまして…」


だから、綺羅ツバサの質問に穂乃果はこう答えるだろうと、内心確信めいた気持ちで二人のやり取りを横目に見ていた。


「…え?」


トップアイドルらしからぬ、間抜けそうな面構えで穂乃果を見る綺羅ツバサも…予想できていたり。





———第40話 表裏一体 ―――









「…ねぇ大くん」
「んー?」
「空ってこんなにも広いんだね。心が澄んでいくようだよ」
「なに黄昏てるんだよ。まったくもってお前のキャラに合ってない」
「ぶーっ、それは酷くない?どちらかというとポケットに手を入れてカッコつけてる大くんの方がキャラに合ってないよ?」


 うるさいよ、とそこで会話は終了。二人は同時に暮れた空を見上げて小さくため息をこぼす。今でも綺羅ツバサの残念がっている表情を思い出す。


『…迷っているってどういうことかしら?』
『ちょっと、私の気持ちに整理がつかなくて。だから、ごめんなさい』


 正直なところ、穂乃果が綺羅ツバサの提案をすぐに断るとは思わなかった。いや、彼女の今の心境を顧みれば断るなんて結果は想像できただろう。前回は…自分の周りを見ない自己中心な行動で招いた失敗と、親友との喧嘩。ともに前を進む仲間への罪悪感も相まっている。今はこそ、修復できたものの自分の行動がまたいつ、どんな風にみんなに返ってくるかわからない。綺羅ツバサの提案を受けた暁にはμ`Sメンバーだけではなく、A-RISEやUTXの学生にも迷惑をかける一大事になりかねない。だから穂乃果はーーー


と、いったところだろうか。俺の考えすぎかもしれないが…うん、考えすぎだな。いくらなんでも穂乃果の行動がそんな広く周りへ悪影響を与えるとは考えにくい。どちらかというと、いい影響を与えるでしかない。念には念を、といったところか。


「穂乃果も考えすぎだと思うけどな」
「え?」
「や、だから人に気を遣い過ぎても息苦しいだけじゃないのかって話」
「別にそんなつもりはないよ?ただ、みんなと歌って踊って、部室でのんびりしてたりの方がみんなに迷惑をかけずに済むからいいなーって思っただけだよ。ラブライブ!を目指すことだけが、スクールアイドルのすべてじゃないよって」
「ふーん…まぁ、穂乃果がそう思ってそれが一番μ`sの為になる一番正しい道だっているなら、別に俺は構わないーーーなーんて、言うとでも思ったか?あほのか」


 今穂乃果の言った”ラブライブ!を目指すことがスクールアイドルのすべてじゃない”という考えには賛同できる。日本中探せば必ずどこかにそういったスクールアイドルも存在するだろう。歌やダンスが好きで、趣味程度に続けるグループ、校内だけで活動するグループ、名ばかりのグループ。みなそれぞれの目的があって始める、当然μ`sだって他のグループとはなんら大差ない。

 μ`sの当初の目的は音ノ木坂学院の存続、それはすでに彼女らの活躍によって完遂された。
そこで俺が前にも考えた原点に戻る。俺らは…彼女らは、”どこへ向かうべきなのか”……。


「その考えが、μ`sの総意だっていうならなんもいいにゃせんが、それはお前だけの考えだろ?自分の行動でことりを傷付けてしまい、μ`sの崩壊を煽るような行動もした。後者は確かに穂乃果に非があったとして、ことりの件はお前じゃなくて、アイツがちゃんと話さなかったからだっての。はき違えって言葉、おわかりで?」
「でも、話せないようにしたのはほのかだよ?」
「あー…まぁ、うん。せやな。それ言われちゃぐうの音も出ない」

言い返せないところを突かれて俺は視線を空に泳がせる。

「そうじゃなくて…もっとこう…みんなの考えもちゃんとくみ取ってだな?それを踏まえて自分の考えを改めたらと俺は言いたいわけだよ」
「みんな…なんて言うかな」
「それを俺に聞くなよ。というか、第二回に参加するって言ってた時点で答えは出たようなもんだ」
「ふーん…」



 俺がそう言うも、穂乃果の心ここに非ずみたいな生返事にちょっとだけカチンとくる。大げさにため息をついて、先を歩くの穂乃果の横を陣取る。まぁ、やる気がないのにそれを強制したところでみんなも楽しめないだろうし…。締め切りまでもう少し時間ありそうだから、とりあえずこの件については保留にし、胸ポケットにつっこんであるスマホを見て時間を確認する。




———じゃ———に…私の———なんて———




 穂乃果が何かを呟いた。いつもの元気な声じゃなく、淀んだ低い声で何か大切そうな事を。だけどこの人ごみの中で彼女の低い声なんぞ正確に聞き取れるはずもない。ただ、とある単語だけは聞き取れて、それが心当たりあるんじゃないかと…ざわめく胸をきゅっと締めて、俺は再度、その言葉を脳内で反芻する。





———許されるべきじゃ…ない?

















~☆~









 大くんと別れてから…ううん、あのA-RISEのツバサさんとの会話があってから、どうしてもあの時(・・・)の光景が鮮明に甦って来て、帰宅途中何度も戻しそうになったのを必死にこらえていた。忘れていたわけじゃない。忘れたいと願っていたのは確かなんだ。でも忘れちゃいけない過去なんだということを夢で、翌日の学校で吐瀉物となって教えてくれる。

———一人の人生を台無しにした罪は重いぞ


 そう、言われているような気がして…帰り道もずっと大くんの前を歩いて穂乃果の歪んだ顔を見せないようにした。
 何がどうしてこうなったのかなんて…振り返らなくても頭にスラスラと言葉が羅列されていく。穂乃果が…あまりにも幼すぎて、馬鹿で、周りの事なんて全く見ないどうしようもない愚か者だったから。


 あの時はちょうどバレンタイン間近の季節。教室で幼き大くんとことりちゃんの会話を見た時から少しおかしいなと穂乃果自身も自覚はあった。毎年、大くんにお菓子やらなにやらをプレゼントしたり、されたりしていた。モテる大くんは、それこそ他の女の子からもらったりしてるのを何度も目撃してるけど、表情は至って苦笑い。穂乃果だけは特別なんだって思える大くんの表情にちょっぴり優越感があったなぁ。でも、ことりちゃんの時だけはリアクションが全然違かった。



『あ、これはことりちゃんがおれにつくってきてくれたんだよ!あったかいよ~』



 満面の笑みを浮かべて、彼はそう言った。今となってはただ単に自慢したかっただけなんだって理解できる。けど、あの時の穂乃果は大くんの心底嬉しそうな表情と真っ白で、とても小学生が手編みしたとは思えない丹精込めて作られた真っ白なマフラーに圧倒されて、ただ吠えることしかできなかった。話が逸れるけど、既にこの時からことりちゃんは被服系の才能があったんだね~と思う。

『ほのかだってつくれるもん!!!!!』

そうして、穂乃果は…二月の薄暗い放課後を一人で駆け出して行った。
…その日、高坂穂乃果は誘拐(・・)された。




 ことりちゃんがいなければこんなことにならなかった。
何回か考えたことがある。ことりちゃんが大くんの前に現れたりせずにいてくれたら、穂乃果は妬んであんな行動せずにいられたのに、なんて。こう考えた時点でもう最低で最悪な人間確定だ。しかも幼馴染の人生を狂わせるという現実付き。もう自分が嫌で嫌で死にたくなって…正直絶とうなんて考えたことだってある。だけど、そんなことを考えていた穂乃果に厳しくも優しく見守ってくれた居るのが今のことりちゃん、海未ちゃんにμ`sのみんな…そして、大くん。

ならせめて、もうこれ以上穂乃果の独断行動でみんなを困らせないようにしたいと考えるのが普通なんじゃないかな?もう嫌なんだよ…誰かを泣かせたり、傷付けるなんて。


…だから、穂乃果はラブライブ!には出場しない。



 家に到着し、すぐにタイムカードを押して、割烹着に着替えてカウンターに入る。
とりあえずラブライブ!のことは忘れて家のお手伝いに集中しようと、大きく伸びをして。


「いらっしゃいませー!」


 現在店の中には穂乃果を含めて5人。年配の方2人に対して接客しているお母さんと恐らく自分と同い年くらいの女子高校生が1人。肩まですらっと降りた藍色の髪はとても光艶めいていて、真姫ちゃんと同じくらい綺麗だなぁって内心呟いてみたり。身長は穂乃果と似たり寄ったり、気持ち自分の方が高いかもしれない。その髪を片耳にかけながら、店の和菓子を念入りに眺めて、それを手に取っては戻す、を繰り返していた。背筋をピンと伸ばしているのでとてもお淑やかそうな女の子で、自分なんかと次元が違うなぁ、と何故かしょんぼり落ち込んでみたり。
 なんで自分が、赤の他人の容姿を眺めて落ち込んでいるのかわからないけど、本当にそんな気分になるのだから仕方ない。



「あ、あのぉ~、すみません」
「はぁ~…パンが食べたい」
「あのぉ~?」
「ひゃいっ!?あ、あぁぁごめんなさい!何でしょうか?」


 女子高生に声をかけられていることに気づかなかった穂乃果は裏返った声と同時に後ろのカウンターの台にお尻をぶつけてしまった。若干の涙を堪えてぶつけたところを擦りながら女子高生に受け答えする。



「あ、えっと。今日お母さんが誕生日で何かお菓子送りたいんですけども、プレゼントとして人気な和菓子ってどういうものですか?」
「そう、ですね…でしたらこちらの羊羹なんてのはどうですか?味はもちろんの事、とても可愛らしいラッピングですので、特に女性の方に人気があります!あとは…”穂むら”特製の”ほむまん”も人気ですよ!」




 知らないと思うけど、これでも一応”穂むら”の看板娘の一人で、長年ここでお手伝いしている身だ。それなりの和菓子の知識もあるし、年齢によってどの和菓子が売れているのかも知っている。いつもは自称猛進ガールだけど、やることはきっちりやっている…つもりだよ?まぁ、妹の雪穂には、しっかりした部分全部持っていかれちゃったけど。

などと、考えていると女子高生はしばらく二つの商品を吟味した後、10個入りの羊羹を二つほど手に取ってレジの前まで持って行く。


「そちらでよろしかったですか。ありがとうございます!」
「はい、2500円ですよね」


と言って女子高生からお金を受け取る。受け取るときに僅かに彼女の手に触れたが、思わず手を引っ込めそうになったところを寸前のところで抑えて、レジに打ち込む。


———恐ろしく手が冷たかったのだ。

 風邪でも引いているのかな?と疑問に思ったが、彼女の顔色にそのような感じを得られず、ただただ首を傾げるでしかなかった。何気ない様子で穂乃果は和菓子を紙袋に入れて、そのまま渡す。同様に手が触れた。今回はわざと触れてみたけど、やっぱりさっきのは勘違いじゃなかった。脳の神髄まで届きそうな冷たい感覚が、少しだけ怖かった。


「ありがとうございました~またお越しくださいませ!」


だけど、平常心を装っていつもの様に、作業のように声を振り出す。最後に彼女はにっこり笑って「ありがとうございます」とだけ言って、背を向ける。

ほっとした瞬間。





「高坂穂乃果…さんですよね?」





女子高生は…こっちを向くことなく、そう言った。何故知っているのかな?と、最初はストーカーを連想したけど、よくよく考えれば穂乃果はμ`sというスクールアイドルの一員だ。自分で言うのは恥ずかしいけど、それなりに名の知られたグループ。顔や名前を知られてもおかしくないよね、と。それならサインとか連絡先交換とか強請られてもおかしくないと呑気に考えていると、女子高生は穂乃果の方をちらりと見た。髪と同じような藍色の瞳がとても濁っているような気がして…



「そう…ですけど」


なんとか返事はできたけど、上擦っている。お構いなしにと彼女は言葉を綴る。



笹倉大地(・・・・)…彼を。ご存知ですよね?ううん、知らないわけがありませんよね?」
「…ええと、君は?」


怖い、の一言に尽きる。くるりと、彼女は振り向いてそういう彼女は、さっきまでのおとなしい雰囲気は何処へ行ったのか、目つきから既に人変わりしている。十中八九、大くんの同級生なのは変わりないと思うけど…瞬間感じた執拗さは一体?




「ここで話すのはよろしくないかと思います。この後時間があればすぐそこの公園で…」
「……」


 無言で頷いた後、彼女は踵を返して店を出て行った。
お手伝いを始めて十分足らずでこの状況。終わるまであと三時間もあるけど、彼女は本当に待つつもりなのだろうか。三時間後、さっきの女子高生が待っていないことを刹那に願いつつ、気持ちを切り替えて手伝いに集中することにした。



あの子と関わっちゃいけない。穂乃果の頼りにならない勘がそう告げていた。

















…あの子はずっと待っていたみたい。

 いないと信じて、待ち時間に飽きて帰ってしまったと信じて、一応お手伝いが終わった後に公園にやって来たけど。残念なことにあの女子高校生はいた。どうしようかと悩んだ末に、もしかすると大くんに関わるとても大切な話があるのかもしれないと思い、あの子の元に歩き出す。先入観で行動するのはダメだよね、まずは相手とちゃんと向き合って話さなきゃ!
 
心の中でそう念じて、第一声は穂乃果から声をかける。


「あの…ごめんなさい、お待たせしました」
「…いえ、全然問題ないです」




 ベンチに座っていた彼女は穂乃果が来たと認識すると、残っていた缶の中身をぐいっと一飲みしてそのまま近くのごみ捨て場に捨てる。制服のスカートを軽く払ってから、穂乃果の前に歩み寄ると軽くお辞儀をしてきた。穂乃果も彼女の行動を見習ってお辞儀。


「初めまして。私の名前は大槻(おおつき)未遥(みはる)、大地君の…前に通っていた高校の同級生で…大地君の彼女です(・・・・・・・・)です」
「………ほぇ?」


今、穂乃果はとてつもなく重要で、聞いちゃいけないような事を聞いた気がする。大くんの…カノジョだって?

「ええと…ごめんなさい、もう一度聞いてもいいかな?」
「私は笹倉大地君の許嫁(カノジョ)です」
「…んんん?」


 首を傾げる。発音というか、聞いているぶんには間違いは無いと思うけど…ううん、そもそものところが間違っているけど、語弊がある方な気がする。気のせいじゃなくて確信?そもそも大くんの彼女なんてできたら、それこそ穂乃果だけじゃなくてことりちゃんや海未ちゃん、花陽ちゃんに絵里ちゃんが黙っていられるはずがない。
 大槻さんは嘘偽りありませんと言いたげな表情で、頬を赤らめてもじもじと体をくねらせている。
これは後で大くんを問い詰めなきゃね、という気持ちを、とりあえず置いといて気になるところを聞いてみることにした。

「それでその…大くんの彼女さんの大槻さんは一体穂乃果、ううん私に何か用ですか?」
「その、”大くん”という呼び方は私の前では慎んでいただけますか?」
「え?あ、うんごめんなさい」
「まぁ…貴方が大地くんとどういう関係かは聞くまでもないですが、一つだけ忠告しておきます」
「忠告?」


はい、と彼女はきっと穂乃果に刃を向けるような鋭い目つきで睨んでは更に近づいてくる。そして彼女は耳元でこう囁いた。



———大地君にちかづくな




と。大槻さんはそれだけ言うと、また初めて見た時と同じような柔和な笑みを浮かべている。その姿が怖かった。鼓動が高まるのを止められず、大きな雫が額を伝って鎖骨に流れ落ちる。


「彼は昔から大きな傷を背負っています。高坂さんには決してわからない。だからこれ以上大地君の心を抉るような行動はしないでください。というか、近づかないでください」
「…私だって、知ってるよ」

多分、大槻さんが言ってることは…

「何を知ってるのです?趣味ですか?特技ですか?嫌いな食べ物ですか?私が言ってるのはそこではありません。今の彼を創り出すところを私は言っているのです」
「だったら———」
六年前(・・・)
「っ!!!」
「まさか、私が知らないとでも思ってたのですか?大地君のことならなんでも知ってます。彼の為に、傷ついた心を癒すことだって。それこそ、肉体的に癒してあげたいとも」



ハンマーで殴られた気がした。背負うべき六年前を話に持ち出されて、それで冷静でいられるわけがないよ。久しぶりにカチンときた穂乃果は思わず大槻さんの肩を掴んでいた。

「やめて!!そのことは触れちゃいけないの!!」
「なんでですか!?大地君を守るのは自分だからとでも言うのですか?癒すのも、救うのも自分だと。貴女が?できると本気で思っているのですか?



———彼を傷付けた高坂さんが!?」





穂乃果を見ているようで見ていない、そのうつろな瞳が怒りをぶつける。確かに大くんを追い込んだのは私だ。でも、だからと言ってそのままにしていいわけがないよ。



「…うん。もちろんだよ大槻さん」
「なんでですか」
「いつまでもこのままでいいだなんて思ってない。多分、けじめをつける日はいつかやってくる。でも、今はその時じゃないんだよ」
「そんなこと言って大地君の隣にいたいだけなんでしょう!?いつかって、いつなの!?そうやって甘い毒に踊らされて、一体どれほど彼を苦しめてきたと思っているのよ!!!!」


大槻さんの悲痛な叫びが、脳に浸透して、落ちた。今、彼女の目から零れ落ちている雫のように。


「…ごめんなさい。わかっているんだよ。本当はいつまでもこのままじゃいけないって。でも、今すぐはダメなんだよ。今、あの人は思い出そうとしているんだから。大地くんのことが大好きなら、大地くんが今苦しんでいるのをわかってあげようよ。大地くんが大切ならそっと見守ってあげようよ、ね?そうして大地くんが助けを求めてきたら、その手を引いてあげればいいんじゃないかな?」






今はこれしか言えない、伝えられない、行動に起こせない。
でも。





今はこれでいいと思ってる。これでいいんだよ。


それが、少しでも目の前の、想い人が同じな彼女に伝わっていればいいなと、穂乃果は思う。


 
 

 
後書き
話はあまり進まず。未遥ちゃんの妄想はどこに向かうのやら…
久しぶりの投稿もあって、本作品がどこへ向かう物語なのか少々見失ってしまったという事案。進路修正も兼ねて、予定と少し違うお話を執筆させていただきました。
穂乃果ちゃんが思った以上に大人びた思考回路を持ち合わせていて、もしかするとキャラ崩壊の心配が…(笑)

もう少し更新速度アップがんばります。
 
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