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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×放火後ティータイム編・その1

 
前書き
 今回はハーメルンで連載中の放火後ティータイムさんの作品『帰っておいで故郷へin鎮守府』とのコラボストーリーとなります。作者さんが高校受験を控えた受験生との事なので今は休載中ですが、戦後を描いた基本ホッコリ系のお話が多めです。 

 

 ここの所内務省の役人やら対抗派閥の懐刀やら、ジジィの政治的な目的に利用されてるんじゃないかと疑いたくなってきた鎮守府同士の交流企画だが、漸く本来の目的を果たせそうな相手がやって来る事になった。青葉の事前調査資料によれば、やって来る提督は就任2年目の新米らしいが中々面白い経歴の持ち主だ。

「まさか陸自から海軍への出向組とはねぇ……」

 そう、陸上自衛隊の自衛官から海上自衛隊ではなく海軍のーーしかも、勝手の全く違うであろう提督になったという変わり者だ。

「志願というよりも、上からの命令で無理矢理……という形のようですがね?」

 調査資料を提出しにきて、そのまま提督との質疑応答に入った青葉が応える。

「ふ~ん……佐世保の上陸阻止戦から提督にねぇ。中々苦労人じゃないの」

 佐世保の上陸阻止戦の話はよく覚えている。2年ほど前に佐世保に深海棲艦の大軍が押し寄せた。折しも大規模作戦の最中で防備が手薄な時期もあり、現場は混乱。新設の鎮守府所属の艦娘85名を含む、数万単位の人命が失われてどうにか押し返した。俺は距離的な物もあって援軍の1隻も出せなかったが、国内で起きた大虐殺に気を揉んでいた。

「らしいですね。その時の佐世保の司令官が殉職されて、陸自の二等陸曹からヘッドハンティングされたみたいです」

 ほぅ、陸自からわざわざ海軍に引き抜くたぁ中々指揮能力が高い人間なのか。

「まぁ、俺だって元は整体師だしな。人間生きてりゃ色々あるさ」

「そうですよねぇ、今じゃあ嫁さん20人超えの種馬状態ですもんねぇwww」

 爆笑する青葉の顔面にケンカキックを叩き込みつつ、何を作ってもてなそうかと俺は思いを馳せた。




 さて、青葉からの報告を受けた数日後、件の提督がやって来る当日となった。訪問人数は2人。提督とその秘書艦かと思ったが、なんと陸自にパイプ役として出向している憲兵隊の艦娘……という事は『あいつ』だろう。やがてゴロゴロと重々しい音と共に、一台の装甲車が鎮守府前に乗り付けた。そこから降りてきたのは、予想通りあきつ丸と、俺に負けず劣らずの体躯をした屈強な男だった。

「自分、佐世保相浦駐屯地所属のあきつ丸であります。本日はにーと陸曹共々、お世話になるであります!」

 ビシッ!とでも効果音が付きそうなくらいキチッとした敬礼をするあきつ丸。ウチの飲んだくれなあきつ丸とは同型艦にはとても見えない。……ウチが特殊すぎるんだな、そうに違いない。

「……というか、NEET陸曹?無職で無気力なのか?」

 あきつ丸の後ろにいる熊のような男は、俺の一言にショックを受けたのか、リアルにorz←こんな感じになっている。

「あぁ、違うのでありますよ。にーと陸曹は元二等陸曹でありまして、所属鎮守府の駆逐艦のおチビさん達が呼び間違えたにーと陸曹が渾名になってしまって……」

 あぁ成る程、と少し納得して苦笑いしてしまった。二等陸曹(にとー陸曹)と呼びたいのをにーと陸曹と呼んでしまい、それが定着してしまったのか。舌っ足らずな電や巻雲辺りがやらかしそうな事だ。

「そりゃ悪い事したな。改めて、この鎮守府の提督の金城だ。宜しくなにーと陸曹」

「あ、はい。どうも……」

 戸惑い気味にだが、握手を返してくるにーと陸曹。…というか本名で呼ばなくていいのだろうか?まぁ本人も渾名で返事してるし、このままでいいか。

「さぁ、積もる話も立ちながらじゃあナンだ。早速店に案内しよう」




 さて、店に案内して2人を座らせたが、提督の方がやっぱりデカい。タッパも俺より少し低い位だし、胸板もかなり厚い。提督ってぇよりも陸戦隊の隊長とか、そういう現場の指揮官だって言われた方がしっくりくる。そんな面構えだ……が、新米だし俺を前にして緊張してるのか、厳つい顔してオドオドしている。なんだかそのギャップがコミカルだ。

「しかしお前さんも大変だねぇ、40過ぎてからいきなり提督になれ、なんてなぁ」

 苦笑いしながらグラスにビールを注いでやる。飲めない訳ではないと聞いていたので、挨拶代わりの乾杯用にな。

「あ、自分まだ32っす」

「32!?その顔でか!」

 あ、やべぇ。また地雷を踏んじまったらしい。にーと陸曹カウンターに肘ついてガックリ落ち込んでるよ。いや、青葉の奴め調査資料にゃ歳なんて書いてなかったモンだから、見た目から歳を四十路と判断したんだが……まさか俺と一回り以上違うとは思わなかった。

「いや、スマン。よっぽど苦労したんだなぁ……」

 その苦労が顔に現れている。主に、毛根の辺りに。見事なスキンヘッドで、顔の威圧感を3割増し位にしている。

「さて、喉も潤した所で注文いいでありますか?」

 ゲフッ、というゲップの音で忘れてた存在を思い出した。所属艦でもないのにくっついてきたあきつ丸。こいつの目的を聞いておかんとな。

「そういやお前さん、このにーと陸曹の艦娘じゃあねぇんだよな?一体何しに来たんだ?」

「よくぞ聞いてくれたであります!」

 ガン!とカウンターにグラスを叩き付けるあきつ丸。カウンターもグラスも傷が入るかも知れんから、あんまり叩き付けるのはご遠慮願いたいのだが、今は黙っておこう。

「実は自分、佐世保の陸自の基地に出向しているのであります」

「おぅ、そりゃさっき聞いたぞ?」

「そこで、海軍にはとてつもなく料理が上手い提督殿が居ると風の噂にきいたのであります」

 何となく解るが、そりゃ恐らく俺の事だろう……改めて言われると照れ臭いが。

「そうしたら陸自の皆さんに、是非ともその料理を覚えてきて欲しいと懇願されたであります」

「いや、別に俺の料理を覚えて帰る必要性は無いんじゃ……」

「それが大アリなんですよ、大将殿」

 そう言って口を開いたのは、にーと陸曹だった。

「……と言うと?」

「実はその、佐世保の陸自基地の炊事係は元艦娘さんでして…」

 そう言って言葉に詰まるにーと陸曹。おいおい、俺の第六感が嫌な警鐘を鳴らしているんだが、料理と艦娘、そしてそれが絡み合ってピンチとなると……

「まさかその元艦娘って」

「……比叡さん、なのであります」

「うわっちゃ~……」

 思わず額を右手で抑えてしまった。ヤバイ。それはヤバイ。本格的にヤバイ。主に陸自の皆さんの生命がヤバイ。それほど比叡の料理はヤバイのだ。

 過去に観艦式にて天皇陛下を乗せた事もある『御召艦』でもある比叡。その烹炊所もそれを扱う主計科も一流であるので、艦娘となった比叡もそれを受け継いで料理上手になる……ハズだったのだが、どこでどんな化学反応が起きたのかもれなくほぼ全ての比叡が、メシマズというレベルを超えた料理を作るようになってしまい、妖精さんも首を傾げて匙を投げるレベル。

 いつしか、誰が呼んだか『汚飯艦』と比叡は陰口を叩かれるようになってしまい、ウチの鎮守府でも厨房などの料理ができるスペースへの立ち入りがかなりの長期間禁止されていた……今現在、ウチの比叡は飯ウマ艦達(俺含む)の努力によって漸く人並みの物を作れるようになったので、立ち入り禁止は解かれたのだが。他の鎮守府の比叡ならばその惨状は推して知るべし、だろう。

「もう、見ていられんのでありますよ……比叡さんの満面の笑みに耐えられず、あの料理(?)を食して倒れていく同僚の姿はっ……!」

「大将殿、俺からもお願いします。これ以上昔の仲間が倒れるのは忍びない」

「……解った。元を正せば海軍の管理不行き届きみてぇなモンだ、俺が責任を持って、お前に料理を教えてやる」

「か、感謝するでありますよぉ!提督殿ぉ!」

 かくして、佐世保からやって来た強面の提督とあきつ丸に料理を教える事になった。 
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