提督はBarにいる・外伝
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提督はBarにいる×zero-45編・その4
「そういえば、大将は提督という仕事についてどうお考えで?」
出したパスタ全てを平らげ、ドクターペッパーも4本目に突入した吉野中佐が唐突に口を開いた。
「ん……どう、とは?」
俺は次の一品の為に茸を刻んでいた手を止め、吉野中佐の方を向いた。
「貴方の戦歴を見ました。これだけの数の艦娘を抱えていながら、過去の轟沈はただの一隻。貴方は激戦区である南方に、一大帝国を築いている」
「おいおい、穏やかじゃねぇな。まさか俺がクーデターでも起こすと思ってんのか?」
前にも話したような気がするが、ウチが大所帯なのは必要人員だ。この南方に散らばる鎮守府の纏め役としちゃあ、人手は幾らあっても足りない位だ。
「まさか。貴方は大局を見通せないようなバカじゃあない、だからこそ、貴方が艦娘という存在をどう捉え、どう扱っているかを知りたい」
吉野中佐の目は真剣だ。傍らにいる時雨も耳をそばだてている。
「どう捉えてるか?ったってなぁ……あいつ等は一人一人が軍艦並みの戦闘力を持ち合わせた兵士、それ以上でも以下でも無ぇだろ?」
「とは言え貴方は複数の艦娘と関係を持ったジュウコン提督だと聞きましたが?」
「それこそあいつ等の自由意思だよ。俺からケッコンを強制した事はない」
俺はそう言いながら調理を再開した。事実、錬度99になった艦娘には指輪を見せながら説明をし、拒否したければ拒否しても構わないと伝えているし、何人かの艦娘は拒否したり保留したりしている。その場合にはお祝いとして金一封や休暇等、俺が整えられる範囲での褒美を出す事にはしているが。
「俺が自ら惚れたのは金剛一人だ。他の連中には俺から迫った事はねぇぞ?まぁ、『来る者は拒まず』だがな」
カッカッカ、と笑って見せるが吉野中佐は黙り込んだままだ。
「大体、艦娘なんてのは酷く曖昧な存在だよ」
細かく刻んだエリンギとしめじ、それに細く切ったベーコンとミックスビーンズをバターを溶かした鍋で炒めていく。
「その出自は色々言われているよな?かつての軍人達の国防への思いが艦魂に影響したとか、深海棲艦の突然変異じゃねぇかとか……詳しくは俺は知らん。だがな、俺は作った奴に言いたいね、人間を象ったのは失敗だろうぜってな」
「……は?」
吉野中佐はキョトンとしている。隣に座る時雨も目が点だ。
「だってそうだろ?人間なんて種として誕生してから20万年、少しずつ進化をしながら未だに同じ種族で滅ぼしかねないような争いしてんだぞ?そんなの元にしたら不安定な存在になるに決まってんだろ」
俺は具材を炒めながら、木べらを振り回しつつ持論を展開する。……おっと、具材が炒まって来たな。牛乳と生クリームを加え、塩、胡椒、コンソメで味を整えて…と。
「けどな、俺はそんな不安定な存在だからこそ価値があると思ってる。俺に惚れる?結構じゃないか、俺を思い、それが生存本能に繋がってしぶとくなるなら俺は何でも利用するさ」
そう、仲間が沈んであれだけの思いをするのは一度だけで沢山だ。その為なら俺は何と言われようと、あいつ等を沈めずに勝つ為の『仕事』を切実にこなす。それだけだ。……ソースが煮立って来たな、予め茹でておいたショートパスタを鍋に投入し、味の決め手である粒マスタードとコク出しの粉チーズを加えてよく混ぜ、パスタが温まったら盛り付けて完成だ。
「指揮官は使える者は全部使って戦略を立て、勝利を拾うだけよ。料理と一緒さ、何事も下準備が肝心ってな……『キノコのクリームスープパスタ』お待ち!」
そう言いながら俺は完成した料理を2人の前に差し出した。会話しながら作ってたから行程が解りにくかっただろうから、作り方や分量をもう一度書き出しておく。
《マスタードが決め手!キノコのクリームスープパスタ》
・パスタ:100g(種類はお好みだがショートパスタ推奨)
・エリンギ:大1本
・しめじ:1/2パック
・ベーコン:2~3枚
・ミックスビーンズ(水煮):1袋(100g位)
・バター:20g
・牛乳:300cc
・生クリーム:100cc
・コンソメ顆粒:大さじ1
・塩、胡椒:少々
・粒マスタード:大さじ1
・粉チーズ:お好みで
まずはパスタを茹でておく。スパゲッティでもいいが、ペンネやマカロニ、貝殻型パスタのルマコーニなんかも良いだろう。熱湯に塩を入れて、茹で時間は袋の通りに。
エリンギとしめじは一口大よし少し小さめに刻んで、ベーコンは細切り。ミックスビーンズはよく水気を切っておこう。
鍋にバターを溶かし、ベーコン、ミックスビーンズ、キノコ類を炒めていく。具材に火が通ったら、牛乳、生クリームを加えて塩、胡椒、コンソメで味付け。後から調整が利くように、薄目の味付けでいいぞ。焦げないようによく混ぜながら、茹で上がったパスタを加えて一煮立ち。
粒マスタードと粉チーズを加えて味見。マスタードを加えると味に締まりが出るからな。最後に塩、胡椒で味を整えて盛り付けたら完成。
「成る程、よくわかりました」
「大将は艦娘を料理同様食べちゃってる(意味深)訳だね」
「あ、バカ!」
時雨の強烈な鋭いツッコミが入る。吉野中佐が慌ててフォローしようとするが、俺はそれを制する。
「上手い事言うなぁ。ま、事実だから反論はせんよ」
さて、お次は何を作ろうか。
「ねぇ大将、僕ラザニアが食べたいな」
再び時雨からのリクエストが入る。
「お前さんも何かリクエストはないのか?吉野中佐」
「え、俺すか?じゃあ……和風のグラタンなんて出来ます?」
「『ラザニア』に『和風のグラタン』ね……あいよ」
《煮込んで作る!鍋ラザニア》
・パスタ:80g
・牛豚合い挽き肉:200g
・玉ねぎ(大):1/2個
・セロリ:適量
・人参:適量
※セロリと人参は同量で、合計が玉ねぎと同じ位になるように
・ナス(小振りの奴):1本
・ほうれん草:1株
・ホールトマト:1缶
・水:200cc
・レッドペッパー:小さじ1/2
・ガーリックパウダー:小さじ1/2
・コンソメ顆粒:小さじ1強
・塩、胡椒:適量
・オレガノ(あれば):適量
・ピザ用チーズ:適量、しかしガッツリと
普通ラザニアといえば帯状の広いパスタのラザニアとミートソース、ベシャメルソース、チーズ等を重ねてオーブン焼き上げた料理が一般的だが、今回は鍋1つで煮込み料理として味を再現してみようと思う。
まずは野菜から。玉ねぎ、セロリ、人参は出来るだけ細かい微塵切りに。フードプロセッサーを持っているなら、使うのが楽だぞ。食感を残したいなら多少粗めでもOKだ。ナスは
ヘタを取り除き、縦に細く櫛切りにする。ほうれん草は食べやすい大きさにざく切りで。
野菜が支度できたら炒めていくぞ。鍋にオリーブオイルを引き、玉ねぎ、人参、セロリを炒めていく。野菜がしんなりしてきたら軽く塩を振ってかき混ぜながら更に炒める。軽く焼き目が付いたら一旦取り出して、油が足りなそうなら少し足して、合い挽き肉を炒めていく。
肉の色が変わって来たら、ナスを入れて更に炒める。ナスに火が通ってくったりしてきたら、一旦取り出しておいた野菜と、ホールトマト缶を潰して入れる。全体を軽く混ぜたら、水、塩、胡椒、レッドペッパー、ガーリックパウダー、オレガノ、コンソメ顆粒を加えて味付け。
軽く一煮立ちさせて全体が馴染んで来たら、パスタ80gを茹でずに投入。今回はリボン型のパスタ・ファルファッレを使ったが、ペンネやマカロニ等、好みのショートパスタでいいと思うぞ。パスタを加えて全体を混ぜたら、蓋をして中火にしてからパスタの袋に書かれた茹で時間煮込む。
煮込んだらざく切りにしておいたほうれん草を加えて再び蓋をして軽く蒸してやる。ほうれん草がクタッとしたら全体をかき混ぜてから、仕上げにピザ用チーズを全体に回しかける。ケチらずどばっと、ガッツリかけるのが美味しさの秘訣だ。後はかき回さずに三度蓋をして、チーズがとろけたら完成。
《隠し味は〇〇!?鱈と焼きネギの和風グラタン》
・お好みのショートパスタ:60g
・鱈の切り身:1切れ
・ネギ:60g
・バター:20g
・小麦粉:大さじ2
・牛乳:400cc
・味噌:小さじ1/2
・ほんだし:少々
・ピザ用チーズ:適量
・パン粉:お好みで
まずは当然ながらパスタを茹でる。グラタンだから定番はマカロニだが、他のショートパスタでも十分美味い。お好みの物を袋の通りに茹でておく。
ネギは一口大のぶつ切りに、鱈も食べやすい大きさにカットしておく。
フライパンにオリーブオイルを軽く引き、ネギを焼いていく。焼き目が付いたら鱈加えてサッと炒めて、バター、小麦粉を加えて焦がさないように混ぜる。
バターと小麦粉が馴染んでとろみが出てきたら、牛乳を数回に分けてかき混ぜながら加えていく。全部入ったら軽く煮立たせ、味噌、ほんだしで味付けし、味見。薄かったりしたら塩、胡椒で調整。
グラタン皿に移し、上にピザ用チーズをたっぷりと。表面をカリカリにしたいなら、お好みでパン粉も少しだけ振る。後はオーブントースターでいい感じの焦げ目が付くまで焼き上げたら完成。
「はいお待ちどう、『鍋ラザニア』と『鱈とネギの和風グラタン』だ」
二人はそれぞれフォークとスプーンを持ち、料理を頬張る。出来立てアツアツを口に入れ、ハフハフ言いながら食べる。これから寒くなっていく日本でならうってつけの料理だろう。二人は身体の熱を取り去るように、グラスに注がれたドリンクを飲み干すと、
「「ご馳走さまでした!」」
と挨拶した。
「はいはい、お粗末さん」
喰いも喰ったりパスタを7皿か。少々食べ過ぎな気もするが、まぁ良いだろう。
「いや~マジで美味かった」
「ホントだね、提督にしておくには惜しい人かも」
よく言われるが何だかんだ俺はこの仕事を存外気に入ってるんだ。クビになるかくたばるかしない限りは、やめるつもりはねぇよ。
「さて、そろそろ帰るか時雨君」
「そうだねおとっつぁん、皆心配してるだろうし」
しかし今は真夜中、出発は明朝でもいい気がするが。
「ご心配なく、自前の揚陸艦で来てるので」
そう言って立ち上がる吉野中佐と時雨。そうまで言われると俺は見送る他ない。
「ま、お互い長生きして敵対なんてする事は無いようにしましょうや」
「あぁ、また飯でも食いに来な」
俺はそう言って吉野中佐と握手を交わし、コミカルなやり取りを交わす二人の背中を見送った。
「でもやっぱり、前にも会ってる気がするんだよなぁ……歳か?俺も」
多少のモヤモヤ感を心の中に残しながら。
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