魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic24-B列車砲ディアボロス攻略戦~Mother & Daughters~
前書き
クイント・ナカジマ戦イメージBGM
閃の軌跡Ⅱ「Blitzkrieg」
https://youtu.be/tg39RYFupQ4
†††Sideスバル†††
あたしとギン姉のお母さんであるクイントと、血の繋がりはないけどあたしやギン姉の妹に当たるノーヴェとディエチとウェンディ、そしてデルタの防衛している列車砲と装甲列車。その攻略を任されたのは、あたしとギン姉、ヴィータ副隊長とティアとアリサさん、加えて合流したチンクさんとセインの7人。
「お母さん・・・!」
あたしとギン姉の前に居るのは、亡くなったと思われてたあたし達のお母さん。ヴィータ副隊長たちのご厚意で、あたしたち娘でお母さんを救うことになった。
「なるほど。私とあなた達だけのバトルフィールドか。娘たちが向こうで待っているから、早く片を付けさせてもらうね」
お母さんはそう言って両腕に装着した、あたしやギン姉の “リボルバーナックル”と瓜二つのデバイスのカートリッジをロードした。あたしとギン姉も、“リボルバーナックル”の「カートリッジロード!」を行う。
「・・・やっぱりソレ、私のデリンジャーナックルと同じ物だよね。この前の地下水道での戦闘の時から気になっていたけど・・・。どこで手に入れたの?」
そう言って構えを取るお母さんに、ギン姉が「後で教えてあげます」そう答えて構えを取った。あたしも遅れて構えを取って「絶対に助けるから!」そう伝えた。
「なるほど。モヤモヤさせて私の気を逸らさせようという腹ね。戦闘には心理戦も必要だし、良い手だと思う」
ノーヴェと同じデザインで色違いのローラーブーツ、確か地下水路の戦闘の時に“ソニックセイバー”って呼んでたソレを両脚に装着してるお母さんは、「ただまぁ、それが私に通用するかどうかは判らないけど・・・ね!」って、踵部分にあるジェットノズルから魔力を噴射させて高速で接近して来た。
「スバル!」
「うんっ!」
あたしの“マッハキャリバー”と、ギン姉の“ブリッツキャリバー”も魔力を使って高速で前進。お母さんへ真っ向から向かって行く。
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は狂人に操られし愛おしき母親クイント
・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
あたしとギン姉は、地下水路でのものや局員時代だった頃のもの、実家に残されてた学生時代のもの、お母さんの戦いを知るために集められる映像を集めて、反復視聴して頭に叩き込んだ。そして思い至った感想は、強い、さすがお母さん、だった。
「「せいっ!」」
お母さんの左拳とギン姉の回し蹴りが衝突した。その間にあたしがお母さんの背後に回り込んでの「せやっ!」ローキックで右太腿を狙う。けど当たる前に、「っく!」藍色に輝く小さなトライシールドが展開されて、あたしの蹴りを防いだ。
「次!」
足を降ろしたギン姉の声に反応して、あたしも足を降ろしてすぐさま2撃目を打ち込もうとする。それより早くお母さんは「次が楽に打ち込めるって?」あたしに裏拳を繰り出して来た。上半身を反らして躱して、すぐに上半身を跳ね上げる。真っ先に視界に入ったのは、「はっ!」ギン姉が“リボルバーナックル”による左の正拳突きをお母さんに繰り出して、お母さんが左手の平で受け止めた様だった。
「はぁぁぁぁッ!」
すかさずあたしも、ナックルスピナーを高速回転させた右の“リボルバーナックル”による拳を繰り出した。お母さんはあたしに背中を向けていたけど、「むぅ・・・!」余裕で右手の平で受け止められた。
「必ず私を挟み込むような位置取り。たった二度の攻防だったけど、すぐに考え至ったわ。・・・この程度で!」
「「いたっ・・・!」」
お母さんがあたしやギン姉の拳をギュッと握りしめてきたから、思わず痛みに悶えてしまった。お母さんはさらにそのまま、“ソニックセイバー”のローラーを駆動させて高速旋回。ジャイアントスイングのようにぶんぶん振り回された後・・・
「っ・・・!」
ギン姉がまず放り投げられて、「わっ・・・!」続けざまにあたしも宙に放り投げられた。目の前にはギン姉。ぶつかる、って思ったところでギン姉が「ウイングロード!」を発動して着地して、「っと!」あたしを抱き止めてくれた。
「あ、ありがとう、ギン姉・・・!」
――ウイングロード――
「うん。って、お礼はまた後!」
ギン姉がウイングロードの先端を下方に向けて伸ばした。お母さんがウイングロードをこっちに向かって伸ばして来てるからだ。そしてギン姉とお母さんのウイングロードの先端が激突して、バキバキってお互いに崩し合って止まった。
「「はぁぁぁぁぁッ!」」
ギン姉とお母さんが真っ向から突撃し合って、あたしもギン姉の後ろを追走する。スタンバイするのは、あたしの憧れの人であるなのはさんの砲撃魔法から名前を取らせてもらった、あたし唯一の砲撃魔法。
「せやっ!」「っらああ!」
2人は同時に跳び上がって膝蹴りを繰り出して脛同士が激突。ガツンと激しい衝突音が轟いた。ギン姉は宙に居る中でお母さんの両肩を鷲掴んで、ウイングロード上に押さえ込んだ。砲撃の準備は完了。ここでギン姉はお母さんの両肩を掴んだまま前転して、仰向けのお母さんの体が露わになった。
「ディバイン・・・!」
お母さんが反応して行動を起こす前に、左拳の前に作り出していた魔力スフィアをお母さんのお腹に押さえ付けるために拳を振り降ろそうとした時、お母さんが「惜しい。私の足を押さえるべきだった」って、“ソニックセイバー”のジェット噴射を利用して「っぐ!」あたしのお腹に右の爪先を打ってきた。
「かはっ・・・!」
あたしは空中に蹴り上げられた。お母さんはその勢いのまま首を支えに倒立して、自分の肩を鷲掴んでるギン姉の両手を払って、首だけを使っての跳ね起き。そこしかチャンスが無かったこともあって、あたしは「バスタァァァァーーーーッ!」砲撃を放った。
「おっと♪」
お母さんはギン姉のウイングロードから飛び降りることで回避して、地面に激突する前に「ウイングロード!」を発動した。あたしの砲撃は、ウイングロードを破壊しただけで終わった。あたしもすぐにウイングロードを発動して着地して、「げほっ、げほっ」蹴られたお腹を押さえて咽る。
「スバル!」
「ギン姉。ごめん、当たらなかった?」
あたしの砲撃はギン姉の至近に着弾していたから、ほんの少しでもダメージを与えていたらって・・・。あたしの心配に「私は大丈夫。立てる?」そう答えて、ギン姉が手を差し伸ばしてくれたから「うん。何とか」手を取って、立ち上がらせてもらう。そしてウイングロード上を疾走しながら、あたし達の元へ向かって来るお母さんに目を向ける。
「行くわよ、スバル!」
「うんっ!」
あたしとギン姉もそれぞれウイングロードを伸ばしつつ空を駆け回る。そして接近したところに、あたしは強化した拳による「ナックルダスター!」をお母さんに打ち込む。対するお母さんは、「うん。筋は悪くないね」右手の平でガシッと受け止めるんじゃなくて、そっと五指で包み込んだ。そのままあたしの拳に逆らうことなく、右腕を引いて後ろに受け流した。
「ただ、真っ直ぐ過ぎるのはカウンターの餌食になるから、気を付けること♪」
受け流されたことであたしは、お母さんの右脇を通り過ぎるように前進。そしてすれ違いざま、お母さんがそんなアドバイスをしてきた。鼻の奥がツンとして泣きそうになった。そんなあたしの顔のすぐ前に、お母さんのウイングロードが縦に走った。
――キッカースコルピオ――
直後、お母さんの左脚がウイングロードを走って来て、踵部分があたしの顔面目掛けて来た。お母さんが得意とするウイングロードを使っての蹴り技レールスラッシャーの1つで、元はサソリ蹴りっていう技だ。咄嗟に左腕を顔の前にまで上げて、「あぐぅ・・・!」なんとかガード。
「反応も、うん、悪くない。地下水路の頃とは大違い」
だけどその蹴りの重さに上半身が反って、あたしは慌てて体勢を立て直そうとする。それより早くナックルスピナーが唸る右の“デリンジャーナックル”による拳を、あたしの顎に目掛けて振るってきた。痺れる左腕は上がらない。伸びきってた右腕をガードに使うために戻してる中で・・・
「せえええええい!」
――ナックルバンカー――
あたしの左側からギン姉がウイングロードで疾走しながら突っ込んで来て、ピンポイントでお母さんの右腕に一撃を打ち込んだ。拳の前面に展開した硬質フィールドごと相手に衝撃を打ち込む魔法で、相手のシールドやフィールドを抜いてダメージを与えることが出来る。
「っく・・・!」
お母さんが初めて呻き声を漏らした。お母さんの右拳はあたしの顎から逸れて、ギン姉はあたしの上を跳んでお母さんと一緒にウイングロード上から落ちた。体勢を立て直し終えて、あたしは「ギン姉、お母さん!」ウイングロードを下方に向けて伸ばしつつ疾走。
「ふんっ!」
「たあっ!」
2人はウイングロード上で殴り合いを繰り広げてた。お互いに一歩も引かない苛烈な拳に打ち込み合い。ギン姉の拳は、お母さんの手の平に受け止められたり、頭を逸らすことで躱されたりしてる。対するお母さんの拳は、ギン姉の頬やお腹にちゃんと打ち込まれてる。
(ギン姉、どうして・・・!?)
事前に話し合った作戦じゃ、1対1ではお母さんと戦わない、って決めてたのに。ギン姉はお母さんの左拳を右頬に受けて、体が横に向きそうになったその勢いで右拳をお母さんの頬に打ち込んだ。そして体を前に向ける中で左拳をお母さんの反対側の頬に打ち込もうとしたけど、それは右腕ガードに拒まれた。それで止まらないギン姉は、すぐに右拳でお母さんの鳩尾を攻撃。お母さんは僅かに動きを止めたけど・・・
「っ・・・! ふふ・・・!」
不敵な笑みを浮かべて、すぐに反撃。フックでギン姉の頬を狙うけど、ギン姉は頭を引いて空振りさせて、すかさずお母さんの頬にもう1発打ち込んだ。でも一切よろけないお母さんもお返しと、ギン姉の頬に目掛けて右拳を繰り出したけど、「はあっ!」ギン姉は額で受けた。
「っ!」「ぐぅ・・・!」
額の骨と手の骨、どっちが丈夫なのか。答えは額の方。それはサイボーグであるあたし達にも当てはまる。だからお母さんが痛そうに右手をぶらぶらさせてる。ギン姉の額は真っ赤で少し涙を浮かべてるけど、お母さんほどのダメージは入ってないはず。
『ギン姉!』
『ごめん、ちょっと試してみたかったの。今の私が、母さんとどこまで接近戦で付いて行けるか・・・。もう一度コンビネーションで母さんを追い詰めよう』
『うんっ!』
ギン姉は最後に、左上段蹴りをお母さんの頭部に目掛けて打った。今、お母さんは右手を痛めてるからすぐにはガード出来ない。なんて甘い考えだったことを、あたしとギン姉は知る。お母さんは右上段蹴りでギン姉の蹴りを迎撃。“ソニックセイバー”の踵部分にあるブースターの推進力が、お母さんの蹴りの威力を底上げしてたこともあって、打ち負けたギン姉が体勢を崩したところにお母さんは「たあ!」後ろ回し蹴りを打って、ギン姉を蹴り飛ばした。
「きゃああ!」
「ギン姉! リボルバー・・・!」
ナックルスピナーを高速回転させて生み出した衝撃波を“リボルバーナックル”に纏わせる。お母さんは「知らない技。・・・面白い!」最初は目を丸くして、すぐに笑みを浮かべた。お母さんが知らなくても当たり前。
「キャノン!」
だって纏わせてた衝撃波ごと拳を打ち込むこの技は、あたしのオリジナルだから。高速突進からのあたしの一撃を見て、「さっきのアドバイス、出来れば活かしてほしかったんだけど・・・」お母さんはそう嘆息した。あたし馬鹿だけど、お母さんからの初めてのアドバイスを無視するほどじゃないよ。あたしの右側に移動して死角に入ろうとするお母さんの前で急停止。
「フェイント・・・!?」
「せやぁぁぁぁぁッ!」
そして改めて、回避した先のお母さんへ向けて一撃を繰り出す。お母さんは「っく・・・!」両腕を上げて顔面をガードした上でバリアを張った。構わずにあたしはバリアを殴って、「うぉぉぉぉッ!」勢いを止めることなく押し続ける。
「これは・・・!」
お母さんの張ったバリアを粉砕して、そのまま打ち込もうとしたけど、お母さんは後退してウイングロードから飛び降りることで躱した。新しいウイングロードを展開される前に、あたしは追撃に入る。お母さんを追って下降して、右拳を振り上げつつカートリッジロード。
「ナックルダスタァァァーーーーッ!」
ウイングロードを発動したばかりで疾走の出来なかったお母さんのお腹に打ち込んだ。
「ぐふっ・・・!」
殴り飛ばされたお母さんは落下するんだけど、途中でまた別のウイングロードを展開。だけど今みたく疾走するより早く「まだですっ!」ギン姉が飛び上がって来て、「ぐぅ・・・」お母さんの背中に左拳を打ち込んだ。
「スバル!」
「ディバイィィン・・・!」
体の前方に作り出した魔力スフィアを殴って「バスタァァァーーーーッ!」を放った。着弾直前にギン姉は空中回し蹴りでお母さんの背中をを蹴り上げて、確実に当たるようにしてくれた。離脱したギン姉の側を、砲撃に呑み込まれたお母さんが通り過ぎて行って地面に墜落した。
「お母さん・・・」
あたしとギン姉は、お母さんが墜落した側に降り立ってモクモクと立ち上る砂煙を見詰める。今の内の新しいカートリッジを装填しておく。これで終わっていてくれたらいいんだけど・・・。
≪魔力反応が増大して行きます!≫
≪AAA-・・・AAA・・・AAA+・・・S-!≫
あたしの“マッハキャリバー”、ギン姉の“ブリッツキャリバー”から報告が入ると同時、砂煙が一瞬にして散った。姿を見せたのは、藍色の魔力を螺旋状に放出してるお母さん。両腕の“デリンジャーナックル”や両脚の“ソニックセイバー”のスピナーを高速回転させていて、クラウチングスタートの体勢を取った。
「行くよ」
ドンッ!ていう轟音と派手な砂塵を立ち上らせたお母さんが、超高速であたしとギン姉の元に突進して来た。真っ先にギン姉に接近して、左腕を大きく振りかぶった。明らかな大振り。カウンターとしてギン姉の繰り出した正拳が先制しそう。
――ストームファング――
けどお母さんは、左腕を引いた勢いを利用して上半身を捻りながら深く伸脚しつつ、後ろ払い蹴りでギン姉を足を払った。ギン姉の体が宙に浮いたところに、立ち上がりながらの回し蹴りで「かはっ・・・!」空いていた左脇腹を蹴って吹っ飛ばした。払い蹴りからの回し蹴りっていう、お母さんの連撃技・ストームファングだ。
「次はあなたよ」
また超高速で突進して来たお母さん。迎撃はダメ。カウンターを食らう確率が高すぎる。横や後ろに移動しても追い付かれる。
(だったら・・・!)
あたしはその場でジャンプしてウイングロードを発動しようとしたところで、「えっ・・・?」足首を掴まれて、そのまま背中から地面に叩き付けられた。
「あぐ! げほっ、ごほっ」
「はっ!」
「っ!」
お母さんは一回転した後、あたしを地面すれすれを滑空するように放り投げてきた。しかも仰向けだったから、「いたっ!」背中から落ちてゴロゴロと転がる。起き上がり途中、もうすぐ目の前にお母さんが来ていた。
――ハウンドダッシャー――
直感だった。お腹に向けてアッパーを繰り出されたって頭が判断する前に、両腕を咄嗟にお腹の前にクロスさせてガード。
「ぐぅ・・・!」
ガード越しに伝わる衝撃に、両足が浮いたのが判った。間髪入れずに「っか・・・?」顎にアッパーを受けて視界が揺らいで、体がさらに宙に浮いた。そして最後にお母さんは、仰向けで後ろに倒れ込み始めたあたしに、ベリーロールからの打ち降ろし蹴りを繰り出してきた。揺れる視界の中、避けられない、って諦めかけた時・・・
≪Wing Road !!≫
“マッハキャリバー”が左脚側だけにウイングロードを発動してくれて、その意思で走った。今のあたしから反撃が来るとは考えてもいなかったみたいで、お母さんはあたしのオーバーヘッドキックを「あぐっ!?」お腹に受けた。
≪Rail Slasher !≫
あたしの足元から頭上へ向かって落ちてくお母さんに対して、“マッハキャリバー”はウイングロードを∩字に展開して、お母さんの頭上に通した。そして“マッハキャリバー”の意思による打ち降ろし蹴りをまた「ぐっ!」お腹に打ち付けた。勢いよく地面に落ちたお母さんを横目に、あたしはそのままウイングロードに着地した。
≪大丈夫ですか?≫
「ぅ・・・あ、う、うん。ありがとう、マッハキャリバー。おかげで助かったよ」
≪お気になさらず。あなたを守り、共に走るのが私の望みですから≫
「マッハキャリバー・・・。うんっ。あたし達は――」
「相棒だから!」≪相棒ですから≫
視界の揺らぎが治まってきた中で、「ギン姉・・・!?」の姿を探す。ギン姉は脇腹を押さえて地面に伏せてた。急いでギン姉のところに降下して、「大丈夫!?」駆け寄って手を伸ばそうとして、「いっつ・・・!」左腕が動かないことに気付いた。
(お母さんのアッパーをガードした時に・・・?)
でも指先はなんとか動くから、神経ケーブルや人工筋肉が断裂したわけじゃないっぽいし、触った感じからするとフレームが歪んだわけでもないっぽいから、一時的な麻痺だと思う。そう言えばさっきのアッパーの前にも、お母さんの攻撃をガードしてたし・・・。
「スバル・・・。私は、大丈夫・・・。痛覚を遮断すれば、もう少しの間は戦える」
よろよろと立ち上がるギン姉を動く右腕で支える。痛覚の遮断は、あたし達の最後の手段だった。人と同じように痛みを感じるあたし達だけど、意図的に遮断することが出来る。痛みを無視できるから無茶も無理も出来るけど、致死レベルのダメージを受けてもすぐに判らないってデメリットがある。
「はぁはぁ・・・、母さんは?」
「えっと・・・」
お母さんが墜落したところを見ると、ゆっくりとだけど両手を付いて上半身を起こしてた。防御力が異常に高い。地下水路での戦闘の時は、あたしとギン姉の拳は掠りもしなかったから判らなかったけど、この戦いで判った。打った時の感触は明らかに人のものじゃない。今さらな事実確認だけど・・・。お母さんもやっぱり、全身をサイボーグ化されてる。
「スバル。ルシルさんから預かったカートリッジ、アレを使いましょ」
ギン姉が提案したのは、出撃前にルシルさんから預かったカートリッジを使おうというもので、ルシルさんの強大な魔力が封じ込められてる。使用上の注意とかが出されるレベルのカートリッジ。
「純粋魔力攻撃であるディバインバスター。それに懸けましょう、スバル」
「強過ぎるから、あんまり使いたくなかったんだけど・・・」
「持久戦になると、正直・・・勝てないと思う」
ギン姉は自分の“リボルバーナックル”から、首や肩をグルグル回してるお母さんへと目を向けた。そしてまた放出した魔力を、“デリンジャーナックル”と“ソニックセイバー”の高速回転させたナックルスピナー4つに纏わせた。その状態で右腕を引いたから・・・
「っ! スバル!」
「う、うんっ!」
あたしとギン姉は左右に散った。30m近く離れてる中で腕を引いた。さっきみたく高速突進からの拳撃っていう可能性の中に、遠距離攻撃っていう可能性も生まれたから。あたし達の直感は正しかった。ほぼ同時、お母さんは「ストライク・・・イーグル!」引いてた右拳を前方に突き出して、スピナーに纏わせてた魔力を砲撃として放った。砲撃は地面を抉りながら向かって来たけど、なんとか避けられた。
「止まっちゃダメ!」
続けて引いた左腕を見て、ギン姉から忠告が入る。でもお母さんは前に突き出すんじゃなくて、自分の足元目掛けて左拳を打ち込んだ。え?って疑問符が脳裏に浮かんだ直後、お母さんの周囲の岩盤が大きく捲れ上がって、いくつも出来た岩石の塊がお母さんの姿を隠した。
「・・・?」
これから何が起こるんだろうって警戒していると、直径5mほどの岩塊がゆっくりと浮いて行くのが判った。よく見ればお母さんが岩塊を持ち上げてた。そして岩塊をあたしの方へ向けて放り投げた。確かに大きいけど、避けてしまえば大丈夫って判断して動こうとしたら・・・
「レールスラッシャー!」
お母さんが飛び上がって、片足だけをウイングロードに走らせての高速蹴りを岩塊に打ち込んだ。それでお母さんの狙いが判った。粉々に砕け散った岩塊は、小さな石礫になってあたしの元に殺到して来た。
「トライシールド!」
降って来る範囲が広過ぎて思わずシールドを展開。シールドにガツンガツン当たる石礫の中、「お母さん・・・!」がすぐそこにまで迫って来てた。でもギン姉も一緒に来てくれて、あたしに殴りかかろうとしてたお母さんにショルダータックル。お母さんは吹っ飛んだけど、受け身を取ってすぐに立ち上がった。あたしは石礫が治まったとことで、ギン姉と一緒にお母さんへと突進。追撃に入る。
「「ナックル・・・」」
あたしは右の“リボルバーナックル”のスピナーを、ギン姉は左の“リボルバーナックル”のスピナーを高速回転させる。そして圧縮した魔力を纏わせての一撃、「ダスタァァァァーーーーッ!」を、お母さんへと同時に繰り出した。するとお母さんも、両腕の“デリンジャーナックル”のスピナーを高速回転。魔力を圧縮して拳に纏わせて・・・
「ナックルダスタァァァァーーーーッ!」
同じ技を繰り出して来た。お母さんの右拳がギン姉の左拳と、お母さんの左拳があたしの右拳と激突。その激突で生まれた衝撃波が、あたしの髪を大きく靡かせた。
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」」
あたしとギン姉は一歩も退くことなく、“マッハキャリバー”と“ブリッツキャリバー”のローラーを利かせて全力前進。でもすぐにローラーが空転し始めた。対するお母さんの“ソニックセイバー”のローラーはしっかりとグリップが効いてるみたいで、あたしとギン姉を押し返してくる。
「マッハキャリバー!」「ブリッツキャリバー!」
≪≪Absorb Grip≫≫
グリップ力を強化する機能をオンにすることで、空転を抑えることに成功した。でも完全に拮抗したことで、後にも退けなくなっちゃった。だからあたしとギン姉は「ギア・セカンド!」相棒の出力をさらに向上させるモード2に移行させた。それでようやくあたしとギン姉は、「くっ・・・!」お母さんを押し返し始めることが出来た。
「そう。なら・・・、ソニックセイバー!」
「うわぁぁぁぁ!」「きゃぁぁぁぁ!」
“ソニックセイバー”の踵部分にあるブースターが起動したかと思えば、押し返してたあたしとギン姉を一瞬にして吹っ飛ばした。背中から地面に激突することのないように、クルッと空中で後転することでなんとか両脚で着地。顔を上げた時、真っ先に入ったのはお母さんの右手。お母さんは右手であたしのジャケットを、左手でギン姉のジャケットを引っ掴んでジャンプ。
「せやぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「あっ、ぐぅ・・・!」「ぅあ・・・!」
そして着地と同時に、あたし達を背中から地面に叩き付けた。一瞬、呼吸が出来なくなった。さらにお母さんは仰向けに倒れてるあたし達に向かってエルボードロップ。呼吸を整える前にあたしは横に転がって躱した。ギン姉も同じようにして避けてた。
「かはっ、はぁはぁはぁ・・・!」
「う~ん、今のを避けちゃうかぁ。ごめんね。もっと楽に気絶させてあげたかったんだけど、もうちょっとだけ苦しませちゃう」
ギン姉と一緒に立ち上りながら、そう言って構えを取るお母さんを見詰める。あたしも、ようやく動くようになった左腕と合わせて構えを取る。ギン姉は『私が隙を作るから、その間にお願い』念話でそう伝えてきた。
『・・・うん!』
あたしはその場から後退して、ギン姉が1人でお母さんと交戦に移った。あたしは急いでルシルさんから貰ったカートリッジを“リボルバーナックル”に装填する。ルシルさんの魔力の効果が発揮できるのは、あたしのリンカーコアの容量、使用する魔法、魔力運用力、総合して最大3分。ルシルさんからは伝えられた。
「マッハキャリバー、リボルバーナックル。・・・行くよ!」
≪いつでも!≫
「カートリッジロード!」
ルシルさんの魔力が全身を駆け巡る。リンカーコアが暴走してるような感じで、全身が熱くなってく。思わず「うおおおおおおおッ!」叫んだ。全身から魔力が溢れ出す。これがSランク以上の領域なんだ。
「でぇぇぇぇい!」
今までに出せたことのないほどの速度で、お母さんへと突撃する。体の前方に魔力スフィアを作り出そうとしたところで、お母さんと殴り合いをしているギン姉に呼びかけようとした時、「あぐっ!」ギン姉がボディブローを受けて殴り飛ばされた。
「っ! リボルバー・・・!」
ギン姉がお母さんの足止めを出来なくなったことで魔力スフィアの生成を中断、急遽スピナーを高速回転させて、生み出した衝撃波を拳に纏わせる。
「はぁぁぁぁぁッ!」
お母さんは 両腕の“デリンジャーナックル”のスピナーを高速回転させて、まず右拳を打ってきた。あたしは迎撃じゃなくて、お母さんのカウンターを真似ることにした。お母さんの拳を左手の五指で包み込むようにして、左後ろじゃなくてわざわざ右後ろへと受け流す。するとちょうどお母さんの胴体が、あたしの右拳の真ん前に来ることになる。
「キャノンッ!」
――プロテクション――
「ぐぅぅ・・・!」
お母さんのお腹に目掛けて打った一撃だったけど、バリアに拒まれた感触を得た。でも「せぇぇぇぇいッ!」構わずに右拳を振り抜く。ガシャァンとバリアを打ち砕いて、「がはっ!」お母さんのお腹に直撃させることに成功。急いでもう一度、魔力スフィアを作り出して左拳前に保持。
――ウイングロード――
空中にまで殴り飛ばされたお母さんはウイングロードを展開して着地して、「げほっ、げほっ・・・!」お腹を押さえて咳き込んだ。ごめんね、お母さん。痛いよね。でも・・・。
――スバルも、ホントは強いんだから――
「お母さん・・・」
――だってスバルは、お母さんの娘でギンガの妹なんだぞ――
「お母さん・・・!」
――大好きだよ、スバル――
「お母さん!」
「やるじゃない!」
お母さんは貫手にした両手の手首を高速回転させて、まるでドリルのようにした。しかも魔力を纏わせてるからかなり厄介かも。あたしも「ウイングロード!」を発動して、お母さんのところへと疾走する。
「リボルバー・・・!」
「一撃必倒!」
お互いにあと数歩で拳が届く距離になったことで、「ギムレット!」お母さんの両手の貫手が先制で繰り出された。あたしは回避じゃなくバリアのプロテクションを張ることで防ぐ。お母さんの攻撃は貫通性能がすごくて、もう第一関節から先の指があたしのバリア内に食い込んでる。
(お母さんもバリアか何かを張ってるかもしれないけど、撃つならもうここしかない!)
たとえ防がれたとしても、今のあたしなら3連発くらい余裕で撃てる。それほどまでにルシルさんの魔力が強い。
「ディバイン・・・バスタァァァァーーーーッ!」
左拳前に保持してた魔力スフィアを前方に置いて、右拳で殴って砲撃として放射した。同時にバリアを解除して、お母さんの両手の貫手と激突。あたしはすぐに魔力スフィアを作り出しつつ、お母さんの背後に向かって跳び上がった。その直後にあたしの砲撃が、お母さんの貫手で粉砕された。
「バスタァァァァーーーーッ!」
――ディバインバスター――
2発目をお母さんの背中に向けて放つ。
「まだまだぁぁぁーーーーッ!」
――リボルバーギムレット――
お母さんは旋回しての遠心力いっぱいの貫手を繰り出して、あたしの砲撃を真っ向から迎撃。その結果、ドリルと化してる貫手に穿たれた砲撃が「拡散・・・!?」された。だけどお母さんの左手の指全部が折れてるのが見てとれた。
「左がダメでも、もうこれで終わりよ!」
魔力スフィアを作るするより早くお母さんの右の貫手が、お母さんのウイングロードに着地したばかりのあたしに迫った。でも“マッハキャリバー”がバリアを即座に展開してくれたおかげで直撃だけは免れたから、急いで魔力スフィアを作り出す。
(間に合え・・・!)
「砲撃を撃たせる前に終わらせる!」
そんな時、お母さんの背後にギン姉が跳び上がって来た。そのまま跳躍してからの「キャリバー・・・!」打ち降ろし蹴りで、「ぐっ!?」お母さんの右肩を蹴った。あたしに集中し過ぎてたのかお母さんはまともに受けて、ガクッと体勢を崩して上半身を反り返らせた。ギン姉は打ち降ろし蹴りの勢いを利用して横向きのまま宙で一回転。
「キャリバァァァァーーーーッ!」
「ごふぅ・・・!」
そしてお母さんのお腹に左拳を打ち込んだ。お母さんはウイングロードに背中から叩き付けられた。あたしはギン姉がお母さんの肩を蹴った時にはもう動いていた。ギン姉はお母さんを殴った勢いであたしの方に向かって来たから、あたしはギン姉のさらに上に向かって跳んだ。
「スバル、お願い! お母さんを・・・!」
「ディバイン・・・バスタァァァァーーーーッ!」
お母さんの直上から3発目の砲撃を発射。何も出来ずに砲撃に呑まれたお母さんはウイングロードを突き破ってそのまま地面に激突して、大きな魔力爆発に呑み込まれた。あたしとギン姉は、またお母さんが起き上がって来ないかって警戒しながら地面に降り立って、お母さんが墜落したところに近付く。
「お母さん・・・」「母さん・・・」
クレーターの底にお母さんは仰向けで倒れていて、完全に意識を飛ばしていた。お母さんを撃破したことを確認したあたしとギン姉は、“リボルバーナックル”を装着してる側の手の甲をコツンと打ち合わせた。
後書き
ナマステ。
はーっはっはっは! 丸々1話をVSクイントに使ってしまったぜい。まぁその分、次話ではあまり文字数を気にせずにVSデルタとVSベータを書けそうです。
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