魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic24-C列車砲ディアボロス攻略戦~Scylla 1~
†††Sideヴィータ†††
列車砲と装甲列車を防衛する戦力の中で、特に危険だって判断したデルタを、「おら、こっちだ、付いて来い!」なんとかティアナ達のところから引き離せた。デルタの安っぽい挑発に乗ったフリをして、わざわざ挑発だってし返してやったんだ。これで引き離せなかったら、あたしは恥ずいことに。
(見た目通りの子供で助かったぜ)
あたしの後ろを追翔するデルタを俯くようにしてチラッと見る。ヘッドのデカさはコンパクト状態の“ギガントフォルム”と同じくらいで、柄が150cmくらいある先切金槌(片方が平面で、片方が尖ったヤツだ)を武器としたデルタは、陽気な声で「待て、待て~!」って大声を上げながらハンマーをブンブン振り回してやがる。とここで、デルタの方を向いて良かったって思うことが起きた。
「ケラウノス! Go !」
“ケラウノス”っつう名前らしいハンマーのヘッド部分が分離して、振り回されてた勢いであたしんところに飛んで来やがった。ハンマーヘッドの左右の下部にはブースターのようなモンが2基ついてて、その推進力を使ってるからか速度がトンデモねぇ。
「っと・・・!」
急いで上半身を反らして軌道を変更して、足元から迫ってたヘッドを躱す。ヘッドの中央には30cmくらいの槍のような穂があるから、刺突攻撃も出来るわけだな。ヘッドと柄を繋いでんのは、赤色に光り輝くエネルギーケーブル。あたしの体の側を通り過ぎてったヘッドがデルタんところに戻る前に・・・
「今の内だろ、これ!」
――テートリヒ・シュラーク――
180度方向転換してアイツの元に向かう。“アイゼン”の柄を両手で握りしめて繰り出すのは、ハンマーフォルム状態で相手をぶっ叩く一撃。デルタは柄を握ってる右手をクイッと動かすと、背後からヘッドのブースター音が迫って来てんのが聞こえてきた。だがその前に・・・
「おらぁぁぁぁぁッ!」
お前をぶっ叩く。振り被ってた“アイゼン”をデルタ目掛けて振り抜く。さぁ、避けんのか防ぐのか、どっちを選ぶよ。デルタが選んだのは、「んな!?」あたしが想像してなかった選択肢。アイツは左手でパシッと受け止めやがった。
「うおっ!?」
そんでそのままあたしをぶん回して、地面に向かって放り投げやがった。宙でくるっと回って体勢を立て直す。デルタは“ケラウノス”の先端に在る穂先をあたしに向けて、フンッて鼻で笑いやがった。
「スキュラ一の力持ち! それが、このデルタ! デルタに打撃技は通用しないから!」
堂々と宣言するデルタ。力持ちなだけで、あたしの一撃を無傷で止められるわけがねぇ。となると、奴自体が恐ろしく頑丈なんだって話になってくる。
「ま、それがどうしたって話だがな!」
――シュワルベフリーゲン――
前方に魔力弾を8発と展開して「おらぁ!」“アイゼン”で打って射出してすぐに、あたし自身も突撃する。デルタの膂力と頑丈さをしっかり見極める必要がある。ハンマーフォルムでどれだけぶっ叩いても平気ってんなら、攻め手を変えるだけだ。
「効かないよ~!」
デルタは“ケラウノス”のヘッド部分をまた分離させて、フレイルのように体の前でグルグル回転させることで魔力弾を弾いた。さらに魔力弾を4発と“アイゼン”で打って射出する。それも弾かれちまうが、その隙にデルタの真横を通り過ぎる。
「お?」
「もう1発!」
振り被ってた“アイゼン”をデルタの背中に向けて振るう。両腕は柄を握っていて塞がってたから、碌に防御も出来ねぇで「あいたっ!」の一言を発して地面に向かって墜落。そんで激突。轟音と一緒に砂塵を舞い上げた。
(硬ぇ・・・!)
デルタをぶっ叩いた時の感触が人のそれとは全然違う。スバルやギンガの訓練、シスターズとの模擬戦の時に得た感触とも違う。一番似てる感触は「アムティス・・・」のような、圧倒的な頑強さ。
「古代ベルカから生きる騎士の力って、こんなものなんだ。痛いだけで死ぬほど痛いわけじゃない。ほら、次、次♪」
デルタは砂埃の付いた服をパッパッと払い、終わると“ケラウノス”を肩に担いで膝を曲げた。あたしは“アイゼン”を「ラケーテンフォルム!」に変形させて、デルタの迎撃に備える。
「そいやっ!」
上空に居るあたしのところにまで跳んで来た。“アイゼン”のブースターを点火して、その場で旋回。そんでデルタへ向かって突っ込む。デルタは振りかぶられてた“ケラウノス”を「どっせぇい!」振るって来た。
――フェアーテ――
両脚に高速移動用の小型竜巻を発生させて、突っ込むんじゃなくて急停止するために使う。目の前を通り過ぎる“ケラウノス”のヘッド。直後に来る2撃目より早く・・・
「ラケーテン・・・ハンマァァァーーーーッ!」
ブースターを利用しての再旋回したあたしの一撃を、先制でデルタの脇腹に打ち込んだ。アイツは「むぅぅ・・・!」吹っ飛ぶことなく、「マジか、おい」その場で耐えやがった。
「おおおおおおおッ!」
それでも“アイゼン”のブースターを抑えることなく振り抜くつもりでいる中、「よいしょっと」デルタが両手で“ケラウノス”を高く掲げた。あたしは「チッ」舌打ちして、ブースターを停止させて即座にデルタから後退。その直後に“ケラウノス”の一撃が降り降ろされた。
「もう1発!」
避けたところでブースターを再点火してデルタに再度一撃を打ち込もう、って思ったんだが。アイツは“ケラウノス”を振り降ろした勢いで一回転して、両脚の踵落としを繰り出してきた。
「っく・・・」
――パンツァーシルト――
頭上にシールドを張って踵落としを防御。一瞬にしてヒビを入れられちまったが、離脱するのには十分な時間稼ぎになった。後退した直後にシールドが破砕された。
「わぁ~~~~!?」
「は?」
踵落としと振り回される“ケラウノス”の運動力によってデルタはその場で大車輪。デルタはどうやら空戦は不慣れなようで、碌に姿勢制御も出来てねぇ。が、「悪ぃな」あたしは問答無用で攻撃を加えさせてもらうことにした。“アイゼン”のカートリッジをロードして「ギガントフォルム!」へと変形。
――コメートフリーゲン――
そんで作り出した物質弾に魔力を付加して、「おらぁッ!」“アイゼン”で打って射出した。物質弾はアッサリとデルタに直撃。アイツは「ひゃぁ~ん!」って悲鳴を上げながら、また地面に向かって墜落して行って、ドーン!と墜落した。
「効かぁぁ~~~ん!」
だがすぐに“ケラウノス”を振るって砂塵を吹っ飛ばすデルタの姿が見えた。あたしの持つ射撃系で最も威力の高ぇコメートでも、大してダメージを与えられてねぇって結構ショックなんだが・・・。
「空戦はやっぱり難しいなぁ・・・。おーい! 降りて来てさー! 陸戦限定にしない~?」
なんか、マジか~、って言いたくなるような提案をしてくるデルタに、「お前が上がって来い!」って返す。わざわざ向こうが有利になるような真似をするほど、あたしは馬鹿じゃねぇよ。
「じゃあいいもん! 無理やりにでも地上に墜としてあげるから!」
何を言うかと思えば。空戦もろくに出来ねぇような奴が、20mと離れたあたしを力尽くで降ろすことなんて出来るわけが・・・。なんて呆れてたところに、デルタの足元にテンプレートが展開された。こっからアイツも本番ってわけか。“アイゼン”の柄を両手で握りしめて、どんな中遠距離攻撃が来ようとも対応できるように身構える。
「IS発動! ショックブレイカー!」
デルタはくるくると旋回を始めて、そんで6周くらいした後・・・
――エアプレッシャー――
「飛んでけぇ~い!」
なんて言いながら急停止した。頭ん中に?マークが浮かんだところで、目の前の空間がグニャッと歪んだ。直後、「ぐはぁ・・・!?」気付いたらあたしは、どっちが上か下か右か左かも判らない程度に錐もみ状態で吹っ飛ばされてた。急いで体勢を立て直す。
(今のは、空気砲か・・・!)
鼻血を左手で拭いながら今の攻撃を考察する。受けた感じから、風圧の壁を相手に叩き付けるっつうシャルの烈風刃を思い出したしな。つっても範囲が絞られてて、攻撃性が烈風刃より高ぇ。
「えいやー! そいやー!」
――エアプレッシャー――
だが見切った以上はもう食らってやるかよ。その場に留まることなく空を翔け回りながら、少しずつ地上に居るデルタの元へと降下。アイツは空気砲を撃つのやめて、あたしの迎撃のために“ケラウノス”の柄を両手で握って構えた。
(ショックブレイカー。名前通りのスキルだとすりゃ、衝撃波を対象に打ち込んでダメージを与えるもんだろう)
ハンマー自体にも重量っつう攻撃力があるが、問題はやっぱりスキルだ。どっちにしろ直撃だけは避けねぇとな。デルタは“ケラウノス”を頭上に掲げて、「どっせい!」地面に向けて振り降ろした。打撃点から発生した衝撃波が周囲を走ったのが見て判った。アイツの周囲の地面に四方八方に亀裂が入ると岩盤が一気に捲り上がって、「うお!?」そんなデケェ岩盤があたしの方に倒れ込んできた。
――ギガントハンマー――
岩盤を“アイゼン”でぶっ叩いて破砕する。細けぇ石礫や砂塵があたしの周囲を覆い隠す中、砂塵の壁の向こうから“ケラウノス”を振りかぶったデルタが突撃して来た。けど「目がぁ~!」どっかのグラサン大佐みたいなことを言って、眉間にしわが出来るほどに目をギュッと瞑ってる。
「危ねぇな、おい! 目を瞑ってぶん回すんじゃねぇよ!」
振り回した勢いのまま旋回して遠心力を加えた“アイゼン”を、ちょうど目の前を上から下へ通り過ぎてった“ケラウノス”の側面に打ち込んだ。
「ひゃ!?」
ガキィーン!と甲高い金属音を響かせて、“ケラウノス”を持ったデルタを吹っ飛ばす。これで打ち止めじゃねぇぞ。デルタを追って飛び、振り上げた“アイゼン”を「せいっ!」直下に居るアイツに振り降ろす。
「きゃんっ!?」
地面にめり込むデルタに「悪ぃな。もう1発打ち込むぞ」そう伝えて、その場で前転してもう一度“アイゼン”を打ち込んだ。周囲に砂塵や大小の岩石を撒き散らして出来たクレーターの底で、アイツは大の字で倒れてた。
「さて。・・・どうだ? まだやるか、デルタ?」
「くぬぬ・・・。もちろんなのさ!」
“ケラウノス”を支えにして立ち上がったデルタ。その銀の瞳はギラリと輝きを増しているが、ポニーテールにしてたオレンジ色の長髪は解けて風に靡いて、着てたベストとブラウスは完全に破けてるから、白い肌と黄色いブラジャーを晒してボロボロだ。
「つうか、なんか着ろ! あたし1人でおんなじ女だからって、上半身がブラだけって!」
「別に恥ずかしくなんてないし。それに服なんてただの飾りだもん!」
デルタが10mほどの高度まで跳び上がって、高速で前転しながら落下して来た。“ケラウノス”のヘッドに赤く輝くエネルギーが付加されてるところを見ると、これまでとはまた違うガチの攻撃って考えるのが妥当だ。余裕を持って飛び上がりながら後退。その直後にデルタは、ヘッドの尖った方を地面に打ち込んだ。
「わっしょーい!」
――イラプションブレイク――
さっきみたくデルタを中心に四方八方に亀裂が入ったが、地面が捲り上がることはなかった。その代わり亀裂からエネルギーが壁のように噴出した。挟み込まれるような形で噴出したエネルギーの壁の衝撃波であたしは「うく・・・!」体勢を崩しちまって、尻から地面に墜落。
「いって~」
「つ~かま~えたっ♪」
デルタがエネルギーの壁を飛び越えて来て、上半身を起こしたばかりのあたしへ向かって突っ込んで来た。あたしの左右はV字のエネルギー壁。後退は出来ねぇ。前進あるのみだ。起き上がり途中に前へ向かって跳び込んで、左手を付いてクルっと前転。
「そぉーい!」
ガキィーンと金属音がしてすぐにバキバキって地面が割れる音がした。石礫とかに備えて、すぐ背後に単面防御でのバリア・パンツァーヒンダネスを展開。アイツの方へ振り返る中で、バリアに石礫がぶつかってきた。
(壁は消えてんな)
あたしの逃げ場を封じてたエネルギーの壁は全部消えてる。追撃されねぇうちにさらに距離を取らねぇと。デルタの方に体を向けながら後退。アイツは“ケラウノス”を振り被った状態で「逃がさないよ!」あたしに向かって突っ込んで来た。まずは引き付けろ。ここいらで決めねぇと、巡航ミサイルが撃たれっぱなしのままだ。
「えいりゃぁぁぁぁぁッ!」
デルタが“ケラウノス”を横薙ぎに振ろうとしたのを見てすぐに、トンと地面を蹴って跳ぶ。足元を“ケラウノス”が通り過ぎると同時に「ギガントハンマー!」を横薙ぎに振るって、アイツの右肩を打った。
「むぅ・・・!」
吹っ飛ぶデルタを追撃するために飛んで、ドサッと地面に落ちて「おわぁ~!」ごろごろ転がるアイツの直上へ。さらに「ギガントハンマー!」を右上腕に打ち込んだ。地面にめり込んだアイツは「いったいなぁ、もう!」それでも起き上がろうとするから、「だったら投降しろ!」とは言いつつ、さらに“アイゼン”の一撃を打ち込んだ。
「むぎゅ――」
“アイゼン”のハンマーヘッドを持ち上げると、「やっべ、やり過ぎたか・・・?」右腕全体が大きくひしゃげたデルタが倒れてた。だっつうのに「投降なんて・・・!」左手を付いて上半身を起こしやがった。
「おいおい、もうやめろって! 右腕、潰れてんだぞ!」
「腕の1本くらい、なんてことないもん! それにどうせこのデルタは、スペアボディだし」
聞き捨てならねぇセリフを吐きやがった。今まで戦ってたデルタが「スペアボディだ?」ってことは、オリジナルのボディがどこかに居るってことになるわけだが・・・。
「そうだよ。本物のデルタはちゃ~んと脳みそ積んでるけど、このデルタは脳みそじゃなくてAIを搭載した自立型の完全機械体なの。無茶だって無理だって何だって出来る。だからね・・・!」
デルタが無事な左手だけで“ケラウノス”を肩に担ぎ、あたしの元へ突っ込んで来た。ただのAIだから無理も出来る。その上での突撃。となると・・・。直感が働く。あたしは「コメートフリーゲン!」を1発打ち放って迎撃。
「往生際が悪いよ!」
そっくりそのまま返せるセリフを吐いたデルタは“ケラウノス”を振り降ろし、フリーゲンを叩き潰した。両手持ちじゃなかった所為か、アイツの左腕の肘から先がブチブチと千切れた。その最中に“アイゼン”をハンマーフォルムに戻してカートリッジを排莢、そんで新しく装填してすぐに全弾ロード。
「うりゃぁぁぁぁぁッ!」
両腕がダメになったってぇのにデルタは突っ込んで来る。そんで飛び掛かって来たから「パンツァーヒンダネス・・・」を発動する。さっきみたく単面防御じゃなくて、あたし自身を囲う多面体の完全防御でだ。アイツはバリアの表面にガツンと額を打ちつけた。
「この戦いの記録、オリジナルのお前に反映されんのか?」
「もっちろん♪ ま、あなたはここでどうせ終わるだろうけど」
「やってみな」
ニコッと満面の笑顔を浮かべたデルタは・・・やっぱり自爆した。
†††Sideヴィータ⇒アリサ†††
――ISヴァイオレントトレーナー――
ベータの振るう紫色に輝くエネルギーの鞭。最初は右手の1本、両手持ちで2本、そして今じゃ両手合わせて「18本・・・!」の鞭による空間攻撃を繰り出して来てる。鞭と言うよりは蛇に近くて、地面を這って足元も狙ってくる。
「ブレイズロード!」
両脚に炎を纏わせて、巻き付いてきた鞭を焼き払う。高魔力と高火力でベータのエネルギーを相殺、または粉砕できるのは幸いだわ。にしても「すぐ再生するわね~」焼き払った2本の鞭はすぐに元通り。
「私のISはヴァイオレントトレーナー! あなたのような野蛮な人間を調教するためのスキルよ!」
「そっくりそのまま返すわよ、野蛮人って言葉! ノーヴェ達を巻き込んであたし達を吹っ飛ばそうとして! あの子たち、体は機械でも脳や心は人なのよ。それなのに・・・!」
――イジェクティブ・ファイア――
銃剣形態バヨネットフォームの“フレイムアイズ”の銃口から炎熱砲を撃つ。ベータは自身の前方に18本の鞭を網状に張って、あたしの砲撃を弾いて防御した。ああして鞭同士で繋がると一気に硬度が増すのよね~。分散されてるエネルギーを収束してるからなんでしょうけど・・・。
「ホント、ウザいわ!」
――フレイムバレット――
「あなたこそ、早々に散りなさい!」
網状の鞭の隙間を狙って火炎弾8発を撃ち込むと同時に「ブレイズロード!」両脚の炎をロケットのように噴出させて、ベータの直上へ向かってジャンプ。火炎弾は隙間を狭めることで防いだわね。
「フリンジングボム!」
銃口先に火炎球を発生させて、ベータの直上に向けて発射。火炎弾を防いだばかりの鞭が今度はアイツの頭上に移動して、まるで花弁が閉じるように動いて火炎球を包み込んだ。あたしは逆立ち状態のまま足元に魔法陣の足場フローターフィールドを展開、ソレを蹴ってベータの背後に突っ込む。
――フレイムバレット――
火炎球を封じ込めて花の蕾のような形になってる鞭の隙間から黒煙がボフッと漏れてきた。その隙にさらに火炎弾をベータの背中に向けて連射。ボロボロと崩れてく鞭を切り捨てたベータは新しく鞭を生成して、ペチンペチンと火炎弾を払い退けた。
「よっと!」
飛行魔法を発動して急上昇。ベータは「逃がさない!」両手に持つ18本の鞭をあたしに向かって振るって来た。地上では避けるのが難しい軌道でも、空中だと楽に避けられるわね。けどここで「しまった!」馬鹿な事をしたって気付いた。
「いかん、アリサ!」
装甲列車の兵装破壊を任せてたチンクに言われるまでもない。装甲列車の屋根に設けられてる二連装砲台の砲門の前に来てしまってた。ベータが厭らしい笑みを浮かべてるのが見えた。あぁ、誘導されたのね。調子に乗り過ぎちゃったわね~。
「粉々に吹き飛べ!」
砲撃発射の前兆である砲門の奥に白い光が生まれた。チンクも兵装破壊に苦労してるっぽいし、「フレイムアイズ!」ついでに破壊してやるわ。銃口を砲撃発射直前の砲門に向けて「フレイムバレット!」を発射。
『チンク、援護お願い!』
――プロテクション――
『任せろ!』
チンクに念話を繋げて、あたしに向けられるベータの攻撃をどうにかしてもらうように頼む。そしてすぐに前面にプロテクションを展開。直後にあたしの火炎弾と砲撃のエネルギーが爆発した。
「くぅ・・・!」
爆炎と黒煙が視界を覆う。さらに砲台の金属片と思われる物もガツンガツンと当たってくる。ここで『今すぐ離脱しろ!』チンクから警告が入った。その切羽詰まった声色にあたしは従う。バリアを展開したままで急速後退すると、「おっと!」今いたところに砲撃が通過した。
『サンキュ、チンク!』
砲撃の衝撃波で黒煙が吹っ飛んで、あたしが破壊した砲台の無残な姿が露わになった。バチバチと火花やモクモクと黒煙を上げていて、完全にひしゃげてる。これでやっと1基か・・・って、「チンク! 全然壊せてないじゃない!」ちょっぴり怒る。
「すまない! しかしどうやら・・・私とは相性が良くないらしい」
「相性って・・・。触れた金属を爆発物に変化させるっていう、アンタのスキル以上に相性の良いのなんて無いでしょ・・・!」
ベータに向かって投げナイフ・“スティンガー”を投擲しまくるチンクがそんなことを漏らした。するとベータが「そう簡単には壊せないと思え!」そう言って、“スティンガー”を全て鞭で叩き落とした。続けて鞭を槍のように刺突攻撃として一斉に繰り出して来た。あたしは宙で避けて、チンクもステップを踏んで回避し終えた。
「列車砲ディアボロスや装甲列車オルトロスとケルベロスは特別な機能を持った装甲を有している! 容易く貫けるとは思うな!」
だそうだ。チンクがベータの鞭による攻撃を躱しながら装甲列車に近付こうとしたけど、「何あれ・・・」まるで強烈な突風に押し返されてるような感じで、ある一定の範囲から先に進めてない。さらに“スティンガー”を投擲するけど、すぐに押し戻されるように後ろへ吹っ飛んだ。
「だったら!」
――イジェクティブ・ファイア――
砲台に向けて火炎砲を撃って着弾させる。直撃によって爆炎と黒煙が上がった。けどすぐに、その砲台から砲撃が放たれてきた。AMFとは違う形で魔力を弾いてるわね。確かに装甲は特別のようだわ。そんな数ある砲門からは砲撃が立て続けに発射されて、遥か北――応援の陸士部隊へ向かってく。
「ああもう!」
“フレイムアイズ”の銃口を、さっきみたく砲門へと撃ち込もうとするんだけど、「させない!」ベータがまぁ邪魔してくるわけで。18本の鞭であたしとチンクを払い落とそうとしたり、貫いてこようとしたり、さらには砲撃の射線上に誘導しようとしてきたりする。
「チンク!」
「オーバーデトネイション!」
チンクの周囲に20本近い“スティンガー”が展開されて、一斉にベータに向かって射出された。あたしはタイミングを見計らって、半球型のバリア魔法「サークルプロテクション!」を発動。
「え・・・?」
バリアでベータを閉じ込めてやった。直後に“スティンガー”が一斉に爆破されて、バリア内に爆炎と黒煙が満ちた。そしてすぐにその威力に耐えきれずにガシャァンと割れて、外に炎と煙が溢れる。
「やったのか、アリサ?」
「どうだろ。装甲列車の砲撃が止んだとはいえ、それだけでベータを無力化できたなんて思うのも早計。ヴィータの方は・・・」
列車砲の有する巨大レールガン・ウォルカーヌスからまた巡航ミサイル2発が発射された。そのことからデルタもまだ終わってないってことよね。ヴィータを相手に粘れる奴なんて、そうそう居ないって思ってたんだけど・・・。
「来るぞ、アリサ」
「オッケー。フレイムアイズ、クレイモアフォーム!」
≪今さらかよ!≫
銃剣形態バヨネットから大剣形態クレイモアへと変形させて、柄を両手で握りしめる。両手からだけじゃなくて腰からも鞭を9本(まるで九尾の狐みたいね)と伸ばしたベータを見詰める。銀の両目は一際強く輝きを増してた。完全にブチキレモードって感じ。
「はっ!」
チンクが両手の指に挟んでた“スティンガー”8本を投擲すると、ベータは左手の9本の鞭で絡め取る。だけどチンクのスキルによって“スティンガー”は爆発して鞭が吹っ飛んだ。そして右手の9本をチンクに伸ばす。それをあたしは「たぁぁぁぁぁッ!」“フレイムアイズ”で一気に寸断する。次に向かって来るのが九尾の鞭で、槍のように一直線に突っ込んで来る。
「デストラクト・・・!」
まずブレイズロードで両脚だけじゃなくて全身を炎で覆う。んで、“フレイムアイズ”の柄を持った両手を脇に持って来て突進体勢を取る。そして「ディターレント!」炎の推進力を以って相手に突撃する。向かって来てた鞭はあたしの全身を覆う炎によって焼き払われてく。
「なに・・・!? この!」
再生した両手の18本の鞭が伸びて来て、半物質化してる魔力の剣身に絡みつかせてあたしの突進を食い止めようとしたけど、「無駄よ!」その全てを灰塵へと変えさせる。
「ぐお・・・!」
“フレイムアイズ”で貫いたベータを仰向けに倒れ込ませて、「あたしの勝ちよ、ベータ!」地面に縫い止める。念のために全身を覆う炎を解除しないままにしておく。
「おのれ! 私の身体に、たとえ非殺傷設定とは言え刃を刺し込むなんて・・・!」
――ヴァイオレントトレーナー――
両手と腰の鞭27本があたしを貫き、絡ませ、打とうとしたけど、あたしの炎の前には無力。あたしの体に届く前に焼き払われる。ベータの表情は怒りに満ち満ちてたけど、「なんてこと・・・」ようやく抵抗をやめた。
「さぁ、ベータ。装甲列車の砲撃を止めなさい」
「こんな無様、こんな醜態、こんな・・・!」
ガシッと“フレイムアイズ”の剣身を両手で鷲掴んだベータ。ああもう。呆れながらあたしは「チェーンバインド」を発動しようとしたところで、「逃げろ、アリサ!」チンクの警告。ウィーンと機械音が耳に届く。音の出所は装甲列車の砲台で、今のあたし達を狙える砲門すべてが向いた。
「ちょっ、何を考え――」
言い切る前に砲撃が発射された。急いでラウンドシールドを張って、砲撃を防ぐんだけど「ぅぐ・・・!」その威力に思わず呻く。なのはのバスターやルシルのアダメルを食らった感じ。しかも非殺傷じゃなくて物理破壊だから、魔力消費が激しすぎよ。
「アリサ・バニングス。あなたをここで討てれば、それだけで私の汚名は返上できる!」
「馬鹿! アンタ、あたしと心中する気!?」
「私はベータのスペアボディ。頭に詰まっているのも脳ではなくてAI。ここで私が壊れようともオリジナルには一切のダメージは無く、また別の機体がロールアウトして、今度こそあなたを殺す!」
AIってことはサイボーグじゃなくてアンドロイド、女性型だからガイノイドか。なら無理して護る理由も無いのだけど。でもいくらガイノイドだからって、殺していいわけじゃないとも思うし・・・。
――ディープダイバー――
「ごめんね~、アリサ」
「っ!? セイン!?」
いきなり背後に声を掛けられて、グイッとジャケットを引っ張られて仰向けに倒されそうになった。そしてそのまま地面の中に引っ張り込まれる。僅かな潜行の果て、あたし達は装甲列車から30mと離れたところに浮上した。
「アリサさん!」
「ティアナ・・・」
チンクの側には“クロスミラージュ”を携えたティアナが佇んでた。ティアナとセインには、逮捕したノーヴェとディエチとウェンディの安全確保の為に退かせてたけど、戻って来たってことはあの子たちの避難は済んだのね。
「お前ら!」
「おーい!」
「みなさーん!」
続けてヴィータとスバル、バインドで拘束されたクイント准陸尉を肩に担いだギンガが合流した。みんなの無事を確認し終えてホッと安堵したんだけど、「くそっ。やっぱ本物を押さえねぇと止まらねぇか!」巡航ミサイルやエネルギー砲撃は留まることなく発射され続ける。
「これより列車砲を管制しているオリジナル・デルタ、および装甲列車を管制しているオリジナル・ベータを確保する!」
「セイン。クイント准陸尉を、ノーヴェ達と同様に陸士部隊へ預けて来てくれ」
「りょ~かい! ギンガ、クイント准陸尉を預かるよ」
「あ、はい。お願いします、セイン曹長」
セインはここでもう一度離脱。クイントさんを背負って地面に潜行してくセインを見送ったあたし達は、「行くぜ、お前ら」ヴィータを先頭にして列車砲と装甲列車の元へ走る。そして5m範囲に入ったところで、「っ!」異変は起きた。
「なにこれ~!」
「何か、不思議な力で押し返される・・・!?」
「一体何なのだ、これは・・・!」
スバルとギンガが、さっきのチンクみたく突風に拒まれてる感じになった。それだけじゃない。あたしやヴィータ、それにティアナは、スバル達よりは装甲列車に近付けてるけど、ある“モノ”だけが進入を拒まれた。
「アイゼン・・・!」「クロスミラージュ・・・?」
「フレイムアイズ・・・」
そう。デバイスだけがスバル達と同じラインで止められた。これってひょっとして「磁力・・・?」よね。今は大小さまざまな鉄片となってしまった元ベータをチラッと横目で見る。
「磁力・・・。なるほど。機械の体だから私やギンガにスバルは装甲列車に近付けないのだな」
「デバイスも、特殊な物とはいえ金属だから抵抗を受けるんですね・・・!」
あたしとヴィータとティアナはデバイスを一旦、待機形態へと戻す。するとなんの抵抗を受けることなく装甲列車の至近に近付けた。問題は車内でもデバイスが使えないかも知れないってことなんだけど。さすがにそれはないわよね~。内部なんて機械だらけなんだろうし。でも・・・。
「(ベータやデルタ、クイント准陸尉たちが磁力の影響を受けてなかったってことが引っ掛かるわね。まぁともかく)あたしとヴィータが内部に突入。他のみんなは装甲列車の砲台を破壊し回って。装甲表面じゃなくて、タイミングは難しいけど砲門内部に撃ち込めば、ああいう風に破壊できるわ」
あたしが運良く破壊できた砲台を指を差す。火花も黒煙も治まってるガラクタな砲台。ギンガとスバルとティアナは「了解!」首肯してくれた。チンクは1本の“スティンガー”を目の前にまで持って来て「どこまで通用するかは判らないが・・・。承知した」って応じてくれた。
「よっしゃ! 行くか!」
「ええ!」
そしてあたしとヴィータは、列車砲の前方に連結されてる装甲列車に設けられてるドアへ向かう。レバーハンドルをガチャガチャ動かすけど「やっぱロックされてるわね」開かなかった。鍵穴も当然無いし・・・。
「どれどれ」
物理破壊設定での炎を右手に纏わせて、「フンッ!」ドアを殴ったけど、「あいたた!」炎の効果はまったく働かず、ただ痛い目に遭っただけだった。ヴィータも「おら、開けろ!」どっかの借金取り立て屋みたくドアをゴンゴン叩くけど、それでも開かない。
「仕方ないわね。・・・ヴィータ、ちょっと下がってて。フレイムアイズ!」
待機形態の“フレイムアイズ”をドアと装甲の間に狙いを定めるように持って来る。そして「ファルシオンフォームで起動」させる。直後にものすごい抵抗を受けるけど、その前にドアと装甲の隙間に剣身を差し込んだ“フレイムアイズ”を使って、「おりゃぁぁぁぁ!」無理やりドアをこじ開けてやるわ。
≪カートリッジロードォ!≫
「タイラントフレア!」
剣身から爆炎を噴き上げさせて、内部からドアを吹っ飛ばすと同時に“フレイムアイズ”を待機形態に戻す。それで磁力の影響を受けずに済む。あたしとヴィータは顔を見合わせて頷き合って、こじ開けた入口から装甲列車内に侵入した。
「やっぱ広いわね」
「日本の電車より二回り以上あるかんな~。この装甲列車」
天井や壁や床にはぎっしり機械が詰め込まれてもなお、あたしとヴィータが並んで歩ける。向かうのは列車砲。装甲列車の砲台はギンガ達が何とかしてくれるだろうしね。優先するのはミサイルの発射停止よ。で、列車砲の車内へと続くスライドドアが自動で開いて、1歩足を踏み入れると・・・
「きっつ!」「うお!?」
とんでもなく濃いAMFが満ちていた。あたしとヴィータは一瞬で変身を強制解除されてしまい、一気に血の気が引いた。変身すら解除される中で、もし迎撃戦力と遭遇したらって。
「心配すんなって。向こうだって、車内で暴れようだなんて考えちゃいねぇだろ」
「そりゃそうでしょうけど。今のあたし達じゃ、ただのナイフで刺されただけで死ぬわよ」
「そん時は、あたしが庇う。あたしの方が死に難いしな」
「普通に逃げるわよ、その時が来たら」
重い体を必死に動かして、装置やら機械部品なんかで一気に狭くなった列車砲内を中腰で歩く。そして列車砲の中心付近に辿り着くと、1つのスライドドアが目の前に。ヴィータを顔を見合わせて、一緒に近付く。
『ここまで来ちゃったんだ、ヴィータ』
プシュッと開いたスライドドアの奥にあった円形の部屋の中央には、天井や床を埋め尽くすほどの赤色と青色のケーブルに繋がれたポッドが1基。そのポッド内にまで伸びてる細いケーブルをうなじや背中に取り付けた、素っ裸な「デルタ・・・」がそこに居た。
「IS発動。マグネティックドミニオン」
「「っ!?」」
背後から女の子の声が突然して、背中をポンっと叩かれた。振り向きざまに「ちょっ・・・!」グイッと触れられてもないのに強い力で引っ張られて、「かはっ」壁に叩き付けれた。
「スキュラ五女、イプシロン。イプシロンは、人間でありながら磁石になった気分はどうです?って訊ねてみます」
まさかもう1人いたなんて。これって「最悪・・・」な状況だわ。
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