魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic24-A列車砲ディアボロス攻略戦~Sycorax 1~
†††Sideティアナ†††
列車砲・“ディアボロス”と装甲列車・“ケルベロス”と“オルトロス”の破壊を任された機動六課のヴィータ副隊長、アリサさん、スバル、ギンガさん、そしてあたしは、第零技術部のチンク二尉とセイン曹長と共に、列車砲へと攻撃を仕掛けることに。
『ヴィータ副隊長。装甲列車の先頭部分から、クイント准陸尉らが降りて来たのが確認できます。武装を持っているので、おそらく迎撃態勢に入っているのかと思われます』
あたし達をヘリでここまで乗せて来てくれたアルトさんから、相手の状況を知らせる通信が入った。アルトさんは装甲列車の対空兵装に巻き込まれないように、下がっていたはずなんだけど・・・。
「判った。ありがとな、アルト」
『はいっ。では、これより現空域より離脱します。皆さん、お気を付けて』
アルトさんとの通信が切れる。スバルとギンガさんの母親であるクイント准陸尉、それにチンク二尉とセイン曹長の妹にあたるノーヴェ達が武装した状態で姿を見せた。それはつまり「やっぱバレるよな、そりゃ」ヴィータ副隊長の言う通り、あたし達の迎撃をするためだって考えていい。
「逆に言えば、装甲列車の兵装で門前払いされるよりはマシというわけだ」
チンク二尉がそう言った。あたし、それは正直考えていなかった。でもよく考えれば普通に思い至りそうなものなのに。どうかしてたわ・・・。まぁ、ヴィータ副隊長の「どの道、全部を破壊すんだ。順番が変わるだけだ」って言葉通り、最終的には結果は変わらない。あぁ、だから門前払いって問題が出て来なかったんだわ。
「お。チンク姉。ディエチが砲門をこっちに向けて、エネルギーチャージを始めたよ!」
あたしとチンク二尉の乗ってる空飛ぶバイク・エアチェイサーを操縦しているセイン曹長がそう言った。サイボーグ化されたことで、視界のズームアップも可能だっていうのはスバルから聞いてる。だから「あたしも確認できました!」スバルも言った。
「砲撃の速度は、一度だけだが見てる。この距離だとすぐに到達するな。放たれたと思ったら、各自の判断で回避しろ!」
――ISヘヴィーバレル――
ヴィータ副隊長からの指示を聴いた直後に、「撃ちました!」ギンガさんが声を上げた。遠くから迫り来る砲撃の光をあたしも視認できた。以前は推定Sランクのエネルギー量だった。あたしじゃどう足掻いたって防げない威力。
「しっかり掴まって、ティアナ! チンク姉も振り落とされないようにね!」
「は、はい!」「ああ!」
“クロスミラージュ”を腰のホルスターに収めて、セイン曹長の両肩に手を置く。チンク二尉はあたしのお腹に手を回した。そしてエアチェイサーはガクッと進路を変えて射線上から離脱。スバルとギンガさんもウイングロードの軌道を変えて離脱。ヴィータ副隊長とアリサさんもそれぞれ軌道修正して離脱した。そして、ディエチの砲撃がさっきまであたし達が居たところを通過して行った。
「2射目が来ます!」
「あたしがカウンターを食らわせてやるわ! フレイムアイズ!」
≪やっと出番か! 鈍っちまうよ!≫
アリサさんの“フレイムアイズ”がちょっと文句を言いながら通常の剣形態から銃剣形態に変形して、アリサさんが銃口を列車砲の方角へ向けた。
「イジェクティブ・ファイア!」
そして火炎砲撃を発射。すごい熱波があたし達まで届く。ディエチの砲撃とアリサさんの砲撃が交差して、こっち回避。向こうはドォーンと爆炎が上がった。そのやり取りで、砲撃が中断された。装甲列車からも攻撃が来ないし、そのまま列車砲の周囲20m圏内に侵入できた。
「あら。また会ったわね。ここまで来た以上、以前みたく引き下がることは出来ないから、覚悟はしておいてね」
「母さん」「お母さん」
クイント准陸尉がスバルとギンガさんに声を掛けて、2人がそう呼び返すと、「はあ? お前らの母さんじゃねぇし!」ガラの悪い赤毛の娘ノーヴェが反論する。ボードを持つ娘ウェンディも「そうっスよ! あたしらのママりんっスからね!」そう続けた。
「ち、違うよ! お母さんは、あたしとギン姉のお母さんだよ!」
「あはは。知らない娘にまで人気過ぎて、参っちゃうね~」
スバルも熱くなって反論。でもギンガさんは「洗脳されている以上、今は何を言っても無駄よ、スバル」冷静さを失わせていない。
「それにね、スバル。私たちの出生から考えて、ノーヴェ達と私たちは姉妹関係になると思う。ここには居ない、セッテ達やアルファ達も同様にね」
「っ・・・!」
スバルやギンガさん、そしてプライソン一派のサイボーグはみんな、プライソンの手によって生み出されて、そしてサイボーグ化された。血の繋がりはないけど、生みの親的なもので考えればプライソンが父親で、スバル達みんなが子供ということになる。
「だから、まとめて助けてあげないと・・・!」
「・・・。う、うんっ」
「スバルとギンガさんは、あくまでクイントさんの保護を最優先にお願いします」
「ティアナの言う通りだ、スバル、ギンガ。お前らの妹は、あたしらが保護するからな」
あたしは“クロスミラージュ”2挺を砲塔を構えたままのディエチ(戦闘不能にはなっていなかったのね)に向け、ヴィータ副隊長は“グラーフアイゼン”をノーヴェに向かって突き出した。
「ハッ、やってみろよチビ! ウェンディ、行くぞ! ディエチはサポートだ!」
「了解っス♪」「了解」
ノーヴェとウェンディが構えを取って臨戦態勢に入ったところで、ヴィータ副隊長が「セイン! クイント准陸尉を遠くまで運べ!」指示を出した。
「了解! ISディープダイバー!」
セイン曹長が音も無く地面の中に潜って行った。あたし達はここに来るまでにチンク二尉とセイン曹長のスキルを聴いていたから驚きはしない。なのに「っ!?」ノーヴェ達が驚くのはどうしてなのかしら。チンク二尉たちシスターズは、プライソンのアジトに侵入した。ならその時の戦闘データが、ノーヴェ達にも送られてるはず・・・。
「え・・・?」
クイント准陸尉の背後、足元からセイン曹長が飛び出して来て、クイント准陸尉を羽交い締め。スバルとギンガさんに向けて、目線で列車砲の背後を見やった。そして今度はクイント准陸尉と一緒に地面に潜った。セイン曹長の視線にはあたし達も気付いているから・・・
「ギンガ、スバル!」
「往けっ!」
「往って!」
――クロスファイアシュート――
アリサさんとヴィータ副隊長がノーヴェ達に向かって行って、あたしは制圧射撃でスバルとギンガさんを援護する。少しでも2人が安全に列車砲の背後に回れるように。でも上空からノーヴェ達の前にあの子が、「デルタ・・・!」が降って来た。手に持つ巨大なハンマーの一振りで、あたしの13発の魔力弾を薙ぎ払い、その風圧でヴィータ副隊長とアリサさんもこちらに戻された。
「「デルタ・・・」」
「スバルとティアナ、だったよね。この前はありがと。ゲーセンで獲ってもらったあのパンダのぬいぐるみ、ちゃんとデルタの部屋に飾ってあるよ。でもデルタと2人は敵同士。プライソン・・・、パパの願いのためなら、この命だって懸けられるし、どんな命だって奪える。だから・・・ごめんね」
最初は申し訳なさそうに沈んだ顔と声だったデルタだけど、ハンマーを肩に担いだ時にはもう、完全に敵としてあたし達を見ていた。そして1人でこっちに向かって来て、「スバル、ギンガ! ここはいいから往け!」ヴィータ副隊長が突っ込む。
「フレイムバレット!」
アリサさんは横に大きく跳びつつ、ノーヴェ達に火炎弾を6発と連射。あたしも2挺のクロスミラージュから「シュートバレット!」を撃ち続け、チンク二尉も「IS発動! ランブルデトネイター!」投げナイフを8本と投擲した。
「IS発動! ブレイクライナー!」
――エアライナー――
ノーヴェは、スバルやギンガさんのウイングロードのようなモノを発動して空に上がり、ウェンディはボードを盾のようにして構え、ディエチはそんなウェンディの後ろに身を隠した。そしてあたし達の攻撃がボードや周囲の地面に着弾して爆発、生まれた噴煙に呑まれた。
「おらぁぁぁぁッ!」
――テートリヒ・シュラーク――
「どりゃぁぁぁぁッ!」
遅れてヴィータ副隊長の“グラーフアイゼン”とデルタのハンマーが衝突。衝撃波が2人の間で発生して、「うわあ!」ヴィータ副隊長がこっちに吹き飛ばされて来て、「ちょっと!」アリサさんが咄嗟に受け止めた。対するデルタは「おっとっとい」ほんの少し後ろによろめいただけだった。
「とにかく今よ!」
「はいっ!」
「後はお願いします!」
――ウイングロード――
スバルとギンガさんが環状魔法陣の道、ウイングロードを発動して、列車砲に比べて車体の低い装甲列車の真上を通って行った。正直、装甲列車の砲撃の迎撃を警戒したけど何も起きなかった。そう思ったのも束の間・・・
「あ・・・!」
列車砲のレールガン2門から巡航ミサイルが立て続けに2発と発射された。とんでもない衝撃波が襲ってきて「きゃあああ!」あたし達や、晴れ始めてた砂煙を吹き飛ばし、「うおおおお!?」空を駆けていたノーヴェが「わぁぁぁぁ!?」地面に落下して、ウェンディやディエチは吹き飛ばされた。
「いたた。・・・『スバル、ギンガさん!』」
あたしは強く打ったお尻を撫でながら、すぐに2人に念話を繋げた。2人のウイングロードは消えてしまっている。ノーヴェみたいに墜落したのかもしれないって、心配になって・・・。
『あたしとギン姉は大丈夫!』
『これから母さんと交戦に入るわ。ティアナ、アリサさん、ヴィータ副隊長。チンク二尉、セイン曹長、よろしくお願いします』
2人は無事だったみたい。ヴィータ副隊長が『おう! 任せとけ!』そう応じると、念話はそのまま切れた。これでクイントさんは大丈夫なはず。なら後はあたし達の役目を果たすだけ。
「こらー! デルタ! ミサイル撃つんなら、カウントダウンくらいしろ!」
「そうっス! 危うく戦闘不能になるところだったっスよ!」
いきなりの発射で文句を言うノーヴェとウェンディだけど、どういうわけか目の前に居るデルタじゃなくて、わざわざ列車砲に振り返ってるわね。なんの違いがあるわけ・・・。デルタはデルタで悪びれる様子もないし。
「悪ぃ、お前ら。ノーヴェ達はお前らで対処してくれ。デルタは、あたしがやる」
「えっと~、八神ヴィータ。古代ベルカ式の騎士。空戦AAA+・・・だったっけ? デルタを1人で相手に出来ると思ってる? 殺すよ?」
「・・・っ!?」
あたしがあのハンマーに叩き潰される様を幻視した。冷や汗がドッと溢れ出して、「はぁはぁはぁ!」呼吸が苦しくなって、涙も出て来た。チンク二尉が「落ち付け、ティアナ二士。しっかり深呼吸をしろ」と、肩に手を置いてくれた。言われるままに深呼吸を繰り返して、なんとか落ち着くことが出来た。
「上等だよ、てめぇ。同じ鉄槌使いの先駆けとして、キッチリ格の違いを見せてつけてやんよ! 来い!」
「先輩後輩で括ると痛い目を見るよ♪」
ヴィータ副隊長がデルタを引き連れて西へ向かって飛び立った。そっちに目をやっていると、アリサさんが「危ない!」あたしの目の前に躍り出て、「せいっ!」“フレイムアイズ”を振るった。
「あー、惜しかったっスね。あともうちょいで、あたしのエリアルショットがそこのツインテに当たっていたのに」
その一閃で振り払ったのは、ウェンディのエネルギー弾だった。あたしはアリサさんの背中に向かって「ありがとうございます!」お礼を言った。
「ティアナ。戦況の移り変わりは激しいわ。油断しないようにね」
「はい、了解です!」
アリサさんの隣に並び立って、ダガーモードにした“クロスミラージュ”2挺を構える。チンク二尉も投げナイフを指の間に8本と挟み込んで、「ただいま帰還~」セイン曹長も戻って来た。
「ハッ。上等だよ、掛かって来な!」
「ディエチは援護をお願いするっスよ~」
「いいけど。巻き込まれても文句は言わないでよ」
ノーヴェとウェンディとディエチもそれぞれ武装を構えた。そして「IS発動!」3人の足元にテンプレートが展開された。ノーヴェは「エアライナー!」で空に上がって、ウェンディは砲撃「エリアルキャノン!」を撃った。ディエチはサポートってことらしくて、砲塔を構えたまま待機している。
『セイン。ディエチを押さえろ。下手に高威力砲撃を撃たれると面倒だ』
『了解!』
その場から散開してウェンディの砲撃を回避したところで、チンク二尉の全体念話が送られてきた。敬礼したセイン曹長はすぐに地面に潜って、その姿を消した。
「おらおらぁ!」
――ガンシューター――
空に架かる道(エアライナーっていう名前みたいね)を駆け回るノーヴェの篭手からエネルギー弾が連続で放たれて来た。それらを回避しつつ、ウェンディの「行くっスよ~! エリアルショット!」エネルギー弾も回避。
「あたしも行くよ。ノーヴェ、ウェンディ」
――ヘヴィバレル――
「発射」
そこにディエチの砲撃。あたし達を薙ぎ払うように地面を穿ちながら向かって来る。あたしは後退じゃなくて前進することで回避。
「お返しよ!」
――シュートバレット――
「多少の怪我は許してもらうぞ、ノーヴェ、ウェンディ!」
――ランブルデトネイター――
「空をうろちょろと・・・!」
――フリンジングボム――
あたしはディエチへ向けて、チンク二尉はウェンディへ向けて、アリサさんは上空を駆け回るノーヴェへ向けて大きめの火炎球を発射した。ディエチは「ハズレ!」横っ跳びで回避、ウェンディはボードに乗って移動して回避、火炎球は上空で大爆発を起こして、「うおおおお!」エアライナーを粉砕したことでノーヴェが落ちて来た。地面に衝突するかどうかってところで・・・
「おーっとっとい。大丈夫っスか?ノーヴェ」
ウェンディがボードでノーヴェを拾った。
「ああ! くっそ、あの金髪・・・!」
――エアライナー――
ウェンディのボードの上からエアライナーを再展開して空に上がるノーヴェだけど、走り出す前に「させんよ!」チンク二尉がナイフを投擲して、ノーヴェのローラーブーツに突き刺した。ノーヴェもチンク二尉のナイフが爆発するってことは理解しているようで「うわ、うわ!」慌てて抜き取ろうとした。
――ISヴァイオレントトレーナー――
そんな時、紫色に輝く光線がそのナイフ目掛けて飛んで来て、ピンポイントでナイフを粉砕した。光線の出所の方、装甲列車の屋根へと目をやる。そこにはデルタや、敵戦力情報で見たアルファと共通するブラウスとリボンとスカートを身に付けた少女が1人いた。
「あっぶね~。サンキュー、ベータ」
「危うくノーヴェの足が吹っ飛ぶところだったっスね~」
「感謝・・・」
「「セイン!」」「セイン曹長!」
姿を見せたのはベータっていう名前のサイボーグだった。ベータの足元には、さっきと同じ色の光の縄で両脚と背中に回された両腕を拘束されたセイン曹長が寝転がされていて、「ごめーん! 捕まった~!」あたし達にそう謝った。
「無機物潜行スキル。父さんは面白いスキルだと言っていたけど、普通に脅威なんだけど。それはそうとノーヴェ。ジェットエッジはちゃんと動く? それが無いとあなた、本当に雑魚になるから」
「う、うっせぇな! ちゃんと動くよ! 見てろ!」
エアライナーの上をまた疾走し始めるノーヴェ。ウェンディも「そんじゃ、ベータも合わせて局員狩りっスよ!」ボードから降りて構えた。その直後、「ひゃあああ!」また巡航ミサイルが発射されて、その衝撃波によってあたし達みんなが一斉に吹き飛ばされた。
「いったた・・・。ミサイル撃たれるたびに戦闘中断って・・・」
急いで立ち上がって周囲を確認。真っ先に見えたのは、装甲列車から地面に落下していたベータとセイン曹長の姿。頭から落ちたのかお尻を突き出した体勢で、ベータのスカートが捲れて派手な黒い下着を晒してる。なんか目のやり場に困るんだけど・・・。
「いっつ~。・・・あ、縄が解けた! ディープダイバー!」
自由になったセイン曹長が地面に潜って、それに気付いたベータが「しまった!」バッと起き上がった。でももう手遅れで、セイン曹長は「たっだいま~!」チンク二尉の元へ帰って来た。チャンスはここしかない。
『アリサさん、チンク二尉! 煙幕とか生み出せますか?』
『え? ええ』
『・・・ああ、任せろ』
チンク二尉が左手の指に挟んでいたナイフを地面に向けて投擲して、アリサさんも“フレイムアイズ”の銃口を地面に向けて・・・
「フリンジングボム!」
火炎球を発射。着弾して爆発が起きて、「ランブルデトネイター!」チンク二尉もナイフを爆発させた。爆炎と共に砂塵がブワッと巻き起こって、視界の状態を一気に最悪なものにした。
『出来れば、あたしの合図まで煙幕を絶やさないでください。セイン曹長。あたしを身を隠せる場所まで連れて行ってください』
『え? おう、判った!』
セイン曹長にギュッと抱き付かれ、「行くよ!」の掛け声と同時に地面に潜った。思わずあたしは大きく息を吸ってから止めた。地面の中は、なんか水の中を泳いでるような感じ。目を開けるのがちょっと恐いから、閉じたままにしておく。
「ティアナ。着いたよ、ここならすぐにはバレないはず」
「ここは・・・? 列車砲の真下・・・!」
「しーっ! 大声禁止! それじゃ、あたしは戻るからしっかりね」
「ありがとうございました。・・・よし」
あたしを列車砲と地面の間に連れて来てくれたセイン曹長は、また地面を潜って行った。見送った後、“クロスミラージュ”に特別製のカートリッジを1発と装填。ゴクっと唾を飲む。このカートリッジは出撃前・・・
――君たちみんなに、このカートリッジを渡しておく。いざという時のために使ってほしい。俺の魔力が込められていて、支給されるカートリッジ以上の魔力を得られるだろう――
そう言ったルシルさんから出撃組のみんなに渡された物だ。使用上の注意として、使用は1発ずつで、最短で3分のインターバルが必要とのこと。それを守れば一時的にもあたしは、未知の領域の高ランク魔力を扱えることが可能になる・・・。
「すぅ・・・はぁ・・・。カートリッジロード・・・!」
ドンッと来る圧倒的な魔力。リンカーコアが暴走しているみたいで、全身が急激に熱くなる。あたしの持続時間は魔法使用ありきで最大2分半。ルシルさんから言われた以上はおそらく間違いない。
「それだけあれば十分。フェイク・シルエット・・・!」
有り余る魔力を使って、あたしとアリサさんとチンク二尉とセイン曹長の幻影を何十体と作り出して、『アリサさん、チンク二尉、もう大丈夫です!』念話で連絡する。それで外から続いて聞こえていた爆発音が聞こえなくなった。
「先ほどからドカンドカンと、噴煙を起こすしか能が無いの? しかもせっかくの目晦ましを利用しないで突っ立っているだけ。一体何を考え・・・て?」
「なんだよ、こりゃ・・・!」
「なんかいっぱい居るっスよ!」
「これは、幻術!? そんな・・・! サイボーグの目をも騙してる・・・!」
ベータ達があたしの幻術に驚愕した。あたしとアリサさんとチンク二尉とセイン曹長、それぞれ10体ずつの40体を作り出した。あたしの幻術がサイボーグの目でも通用することは、スバルですでに確認済み。ただ問題は、あたしの幻術は衝撃に弱いこと。だけど、ほんの一瞬でも連中に隙を作り出せるなら、それで十分よ。
†††Sideティアナ⇒アリサ†††
ティアナの作り出した幻術によって、ベータ達の動きが止まった。でもここで仕掛けるのは早いわね。あたし達が動く時は、アイツらが止まっている時じゃなくて動いている時。チンクやセインと視線で確認し合って、連中が幻影に仕掛けるのを待つ。
「どうせ幻術なんだろ! 本物に当たるまで消し飛ばしてやんよ!」
「賛成っスよ、ノーヴェ!」
「しょうがない」
ノーヴェとウェンディとディエチが真っ先に動いた。あたし達の幻影に向かってエネルギー弾を撃ち込んだり、殴ったり蹴ったりと攻撃を加え始めた。直後にティアナが操作を始めて幻影が一斉に動き出したから、あたし達もそれに合わせて動き出す。
『あたしがノーヴェを墜とすわ。一番近いし』
『では私はウェンディを止めよう』
『じゃああたしがディエチを押さえるよ』
自然とベータは後回しになった。何せアイツ、その場から動かずに幻影を観察するように目だけを動かしているから。あれは下手に仕掛けるとカウンターを食らいそうだし、まずはノーヴェ達を押さえるのが妥当だわ。幻影のチンク達に紛れて、「おらおらおら!」エネルギー弾を連射しまくるノーヴェへと接近する。
『やるなら同時に・・・!』
『承知!』『うん!』
チンクとセインも、ウェンディとディエチへ向かって行って・・・いるはず。正直、本物と幻影の見分けがつかないわ。ティアナの幻術の完成度って、かなり高いのよね。もっと鍛えれば将来的にかなり強い武器になるわ。
『あと数歩で配置に着く』
『あたしも~』
『オッケー。カウント3で、一斉に行くわよ!』
『『『3、2、1、今!』』』
――バーニングスラッシュ――
“フレイムアイズ”の剣身に炎を纏わせての直接斬撃で、ノーヴェの機動力の要であるブーツを狙う。ギンガやスバルの“リボルバーナックル”に付いてるスピナーと同じ歯車をピンポイントで斬り捨てて、さらに生み出していた炎でローラーを焼き払ってやった。
「んな・・・っ!?」
「はい。アウト~」
驚愕に目を見開いて一切の動きを止めたノーヴェの下顎に、その場で旋回しての遠心力いっぱいの裏拳を叩き込んだ。サイボーグは体の大半を機械化しているけど脳はしっかりと存在している。揺らしてやれば、普通の人間と同じように脳震盪を起こす。ノーヴェが「ぅ、あ・・・!?」両膝を地面に付いてから四つん這いになった。
「無理はしない方がいいわよ、ノーヴェ」
「て・・・め・・・!」
「ランブルデトネイター・・・!」
「のわぁぁぁぁ!」
チンクの方も終わったみたいね。ウェンディのボードが粉々に破砕されたのが横目で確認できた。チンクのスキルって反則なのよね。触れた金属を爆発物に変えるんだから。んで、セインの方はと言うと・・・。
「げほっ、えほっ、いっ・・・、あっ、ちょっ、あたしのイノーメスカノン! ドロボー!」
「いっただき~♪」
お腹を押さえて蹲っていたディエチが、砲塔イノーメスカノンを抱えて地面の中へ潜るセインに向かって叫んでた。次の瞬間には「チンク姉!」って、チンクの側に出現。ここでティアナの幻術が解けたことで、「よくもこんな・・・!」ベータも動いた。光の鞭をチンクの方へと伸ばして来た。
「させないわよ!」
――フォックスバット・ラン――
一足飛びの高速移動魔法を発動させて、チンクの前に躍り出る。そして「せいっ!」鞭を“フレイムアイズ”の剣身に絡ませた。その隙にチンクが「これで終わりだ!」イノーメスカノンに触れた。
「ちょっ、ダメ、壊しちゃダメ!」
ディエチが涙目で訴え掛けてきたけど、チンクは「ランブルデトネイター」無情にもスキルを発動した上で「返すぞ」ディエチじゃなくてベータに向けて放り投げた。
「爆発物は返さなくていい!」
空いてる左手にも光の鞭を作り出して、その鞭でイノーメスカノンを絡み取って「父さんの作品を、この手で壊さないといけないとは・・・!」悔しげに呻いたベータは、鞭で締めつけてバラバラにした。
「あたしの・・・イノーメスカノン・・・」
「あたしのライディングボード、ディエチのイノーメスカノン、ノーヴェのジェットエッジ。みんな壊れちゃったっス・・・」
「まだ・・・あたしの・・・ガンナックルは・・・無傷、だ!」
軽度とは言え、脳震盪を起こしてる状態で動こうとするなんて。“フレイムアイズ”は今、ベータの鞭で拘束されているけど、シールドを張れば防ぎきれるはずよ。そう考えたところで・・・
「え?・・・いっ、痛っ、いててて!」
突然ノーヴェの右腕が背中に回されて捻り上げられたかと思えば、「そこまでよ」あの子の背後にティアナが現れた。あれは術者や触れられた対象を透明にする幻術魔法・フェイク・シルエットね。
「これ以上の戦闘行為を停止しなさい」
「く・・・っそ・・・!」
ノーヴェはやっぱり立っているのも限界だったようでまた両膝を折って、そして前のめりに倒れ込んだ。ティアナはすかさずバインドでノーヴェを拘束した。ベータを除いて唯一の武装状態のノーヴェが墜ちたことで、残る脅威はベータ1人だけになった。ウェンディとディエチはもう武装が無いし、大したことはもう出来ないでしょ。
「こんな失態、父さんにどう報告すれば・・・! もう手段は選んでいられない! オルトロス、ケルベロスの全兵装システムを立ち上げ! 接近中の陸士部隊もろとも・・・吹き飛ばす! デルタ! ウォルカーヌスⅠとⅡの砲撃を、休まず撃ち続けて!」
装甲列車の屋根に設けられた二連装砲台が一斉に稼働し始めた。まずったわね。ベータが出て来た時点で、アイツの役割をすぐに考えるべきだったわ。デルタが列車砲の管制を担ってるなら、ベータが装甲列車の管制を担ってるんだって・・・。ベータの鞭を振り払おうとするけど、思った以上に絡みついていて解けない。
「お前のデバイスも、イノーメスカノンのようにバラバラにしてやる!」
「あっそう。でも残念ね。デバイスにはね、待機形態ってもんがあんのよ!」
“フレイムアイズ”を一旦、待機形態の宝石モードに戻してから後退して、ニュートラルのファルシオンフォームで再起動する。顔を真っ赤にして怒りを露わにしてるベータが「撃てっ!」号令を下した。列車砲を中心とすると、北側に立つあたし達に向けられてるだけで、その砲門数は計14門。南側の車両と合わせて28門の砲撃が、装甲列車の全武装になるわけだ。14発のエネルギー砲撃が、ノーヴェ達に構わずにあたし達へ発射された。
「ベータ!? あたし達がまだ退避してないっスよ!」
「ノーヴェなんて、脳震盪を起こしてる上に捕まっていて動けないのに!」
あたし達が砲撃を回避するために動き回ってる中で、ウェンディとディエチが砲撃に巻き込まれそうになっていた。だから2人は、装甲車両の直近っていう安全地帯に退避してるベータに向かって声を荒げた。
「あなたたち汎用のシコラクスシリーズは所詮、私たち特別製のスキュラシリーズを護るためだけの替えの利く壁役! 武装を失った今、その戦力など無に等しい! なら最期くらいは、局員にしがみ付いて共に果てるくらいはしたらどう!? そうすれば、父さんも満足するでしょ!」
「そんな・・・!」
「あたし達は仲間でしょ、ベータ・・・?」
「私にとっての仲間とは、スキュラの姉妹だけだから。さぁ、早く局員にしがみ付いて! 仲間意識とやらで、苦しまないように逝かせてあげるから」
ベータの話を聴いて、ウェンディ達はその場にへたり込んでしまった。そりゃ味方に切り捨てられたらそうなるでしょうけど。でも「今はまず、逃げなさい!」って、あたしは怒鳴った。
「ベータ! アンタ、絶対に許さないから。味方を見捨てたアンタを、アンタ達スキュラとかいう姉妹を、あたし達は絶対に許さない。ウェンディ達や、クイント准陸尉たちの目の前に跪かせて土下座させてやるわ・・・!」
「やってみるといい! この砲撃の雨から逃げ、なおかつ後方の陸士部隊を護りきることが出来れば、ね!」
あたし達に向けられていた14門の砲門の内、半分の7門が遥か後方に向けられた。そして3秒とせずにエネルギーの集束が終わって、Sランクの匹敵するほどの砲撃が発射されてしまった。
「こちら列車砲攻略部隊、アリサ・バニングス二等陸尉です! 装甲列車による迎撃砲がそちらに向かって発射されました! 至急、回避を!」
こっちに向かって来てる陸士部隊に通信を入れてる最中に、「せいっ!」ベータの鞭が迫って来た。それを後退して躱し、間髪入れずにピンポイントで撃ってきた砲撃も横っ跳びで回避。
「ティアナ、セイン! ノーヴェ達をどこかに退避させて!」
「りょ、了解です!」
「うんっ!」
ベータなんかに、ノーヴェ達を殺させはしないわ。チンクが「装甲列車の砲台は私に任せてくれ」って、あたしの隣に並び立った。ヴィータはデルタを引き連れて西に飛び立ってから、一切の連絡を寄越さない。そんな余裕が無いのか、デルタがそれほどまでの強さなのか、どちらにしても頼れないわ。
「頼むわよ! ベータはあたしが撃つわ!」
「ああ!」
「あの世への片道切符は、ただいま無料で配布中よ!」
そうしてあたしはベータと一騎打ち。チンクは装甲列車の砲台攻略に動いた。
後書き
タシデレ。
まずは列車砲ディアボロスと、装甲列車のケルベロスとオルトロスの攻略戦からとなりました。ノーヴェとディエチとウェンディは、残念ながら早々に退場してもらうことに。当初は、クイントとの約束である何が何でも生き残るため、を念頭にアリサ達の側について一緒に戦う・・・なんてことも考えていましたが、さすがにサラッと裏切るような真似もしないだろうってことで却下。
次話でおそらく列車砲攻略は終わるはずです。前半にスバギンvsクイントを終わらせ、後半でヴィータvsデルタ、最後にアリサvsベータ、となるかと。あくまで予定ですけど・・・。
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