遊戯王EXA - elysion cross anothers -
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TRICLE STARGAZER
TRSG-JP004《お別れは先に済ませておこう》
―――― Turn.3 End Phase ――――
1st/Sakura Yagami
◇LP/8300 HAND/0
◇《バハムート・シャーク》ATK/2600
◇《水精鱗-アビストリーテ》DEF/2800
◇set card/mo-0,ma-1
2nd-A/Tragoedia
◇LP/1400 HAND/4
◇《トラゴエディア》DEF/2400
◇《魔導書院ラメイソン》field
◇set card/mo-0,ma-1
2nd-B/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
黒乃の体を奪う形で現れた、負の感情を司る精霊《トラゴエディア》。まるでこうなることが初めからわかっていたかのような素振りで、俺に《魔導書院ラメイソン》の破壊を許可してくれた。
「俺のターン、ドロー!」
Turn.4 Player/Ren Kazami
1st/Sakura Yagami
LP/8300 HAND/0
2nd-A/Tragoedia
LP/1400 HAND/4
2nd-B/Ren Kazami
LP/4000 HAND/5→6
「まずは、手札の《大嵐》を発動!」
「いきなり!?」
俺の周囲に竜巻が吹き荒れる。破滅の風が、そびえ立つ塔を砕いていく。
残されたのは2600打点の海龍と2800打点の海妃のみとなった。これでもう、俺を止めるものはない!
「行くよ! 《竜の渓谷》を発動! 手札の《BF-精鋭のゼピュロス》を落として《ドラグニティ-ファランクス》を手札に加える!」
先程まで塔の建っていた場所が、荒れた土地へと一変する。俺にとってはもはや馴染み深い荒野、竜騎士の伝説が眠る渓谷。
「続けて《調和の宝札》を発動、"ファランクス"を落として2枚ドロー!」
《調和の宝札》は"ドラグニティ"のチューナー全てに対応した"宝札"シリーズの一枚。使われるのは主に【ドラグニティ】と【青眼の白龍】……後は《ドラグニティ-ブラックスピア》を採用した【鳥獣族】ぐらいかな。
……え、"ジャベリン"? 《調和の宝札》に対応してない"ドラグニティ"チューナーなんて、デッキに入るわけないじゃん。全てのカードに価値があるなんて、そんなオカルトありえません。
閑話休題。そして、引いたカードは……よく来た!
「墓地の"ゼピュロス"の効果を発動! 《竜の渓谷》を手札に戻して特殊召喚! もう一度《竜の渓谷》を発動、"アキュリス"を落として"レギオン"を手札に! そのまま《ドラグニティ-レギオン》を通常召喚!」
BF-精鋭のゼピュロス
☆4 DEF/1200
ドラグニティ-レギオン
☆3 ATK/1200
Ren LP/4000- 400=3600
フィールド上を行き来する複数のカードに、ソリッドビジョンが追いつかなくなってきた。そんなことはお構い無しに、俺はプレイを続行することにする。
「《ドラグニティ-レギオン》が通常召喚されたとき、墓地のドラゴン族レベル3以下の"ドラグニティ"を装備する! 《ドラグニティ-アキュリス》を装備!」
得物を持たずに拳を構えた翼人が、天から落下してきた赤い槍を掴む。
「《ドラグニティ-レギオン》のもう1つの効果を発動! 俺の場で魔法カード扱いになっている"ドラグニティ"を墓地へ送り、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊する!」
これが《ドラグニティ-レギオン》の能力。攻撃力は優秀な"1500未満"だから《奈落の落とし穴》を気にせずに場に出せて、しかも出れば相手モンスターの除去。《氷結界の龍 トリシューラ》が生きてた頃はレベル3であることを活かして、"ゼピュロス"と絡めて呼び出したりもしてたっけ。
「《バハムート・シャーク》を破壊する! 疾風旋槍!」
"レギオン"が真紅の槍を投擲する。渦巻く風を宿した一筋の朱光が、海神を一撃で葬り去った。……これ、もしかして某青槍さんのあれと同じなんじゃないだろうか。槍も紅いし。
放たれた真紅の槍は、まだ役目を終えていない。王妃の死角から、消えたはずの朱光がもう一度閃いた。
「墓地に送られた"アキュリス"の効果、《水精鱗-アビストリーテ》を破壊! 疾風紅矢!」
突然の一撃に反応したのは、彼女がその心臓を貫かれた後だった。苦しみながら力尽き、その体は泡となって消えた。
「よし、一掃完了っと……」
「……まだです!」
手札から新たにカードを出そうとしたとき、夜神さんの声が屋上に響き渡った。
……フィールドの泡が、まだ消えていない。しまった、アビストリーテの効果トリガーだったか……!
「《水精鱗-アビストリーテ》が破壊され墓地に送られたとき、このカード以外の"水精鱗"を蘇生します! 帰ってきてください、"アビスリンデ"!」
……いやいやいや、しつこいよ。またそいつ? そのリクルーター、効果破壊にも対応してるからやりにくいんだよね……。
水精鱗-アビスリンデ
☆3 DEF/1200
「……まあ、仕方ないか。《ドラグニティ-レギオン》をリリース」
「……え?」
翼人の周囲で、深緑の風が渦を巻き始めた。……夜神さんは、どうやらこれから俺がやることを理解していない。なるほど、どうやら【ドラグニティ】の情報はまだ向こうには流れきっていないようだ。現在進行形で流れきりそうなのは別にして。
『待て、モンスターの通常召喚は1ターンに一度だけだ。貴様、そのような初歩的なことも忘れたのか?』
「……はは、わかってるくせに」
トラゴエディアが俺のルールミスを指摘……しながらも、その口もとは意地の悪い笑みを浮かべている。
そう、俺は既に《ドラグニティ-レギオン》を通常召喚している。《二重召喚》や《血の代償》なしにアドバンス召喚など許されていない。
「ノリがよくて助かるよ!」
ならば、答えは簡単だ。特殊召喚扱いにしてしまえ。
深緑の風はやがて竜巻となり、翼人を完全に隠してしまった。
「《ドラグニティアームズ-ミスティル》、特殊召喚!」
緑の竜巻を切り裂き、大きな何かが上空へと飛翔する。
現れたのは、二対の翼をもつ深緑の翼竜。その手には巨大な剣が握られていた。
ドラグニティアームズ-ミスティル
☆6 ATK/2100
「《ドラグニティアームズ-ミスティル》が手札から場に出たとき、自分の墓地からドラゴン族モンスター1体を装備できる! 《ドラグニティ-ファランクス》を装備!」
騎士竜の持つ大剣が金色に染まる……あ、それだけですかそうですか。"ファランクス"が金色だったから、もしかしたら装備したドラゴン族と同じ色に剣が染まるのかもしれない。
「そして、装備カードとなっている《ドラグニティ-ファランクス》は自身を特殊召喚できる! 出てきて、"ファランクス"!」
まあ、すぐに解除するんだけどね。
竜の持つ剣から黄金の光が弾けた。拡散した光は一点に集束、小さな竜となって俺の場に帰還する。
ドラグニティ-ファランクス ☆2T DEF/1100
よし、これで場は整った!
「レベル4《BF-精鋭のゼピュロス》にレベル2《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」
我紡ぎしは地天の絆、全てを貫く真竜の槍!
刹那に響く黄金よ、吹き荒れる疾風と共に在れ!
☆4+☆2=☆6
シンクロ召喚! 天地を繋げ、雷撃よ!
「《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》、降臨!」
雷鳴と共に、金色の竜が天空から舞い降りる。俺にとっては、もはや馴染み深いモンスターだ。
ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
☆6 ATK/1900
「"ヴァジュランダ"がシンクロ召喚に以下略。"ファランクス"を持ってきて場に出すよ」
「いや、その略された部分で何をしたんですか!?」
えー、だってもう説明面倒なんだもん。昨日も何十回と出して、その度に説明してたから……。
ドラグニティ-ファランクス ☆2T DEF/1100
「……あくまで《ドラグニティアームズ-ミスティル》は残すということですか」
「えっ、なにそのプレイングは」
そんなことする人はいない。……まあ、確かに以前は打点的な意味で残すこともあったかもしれない。だけど、その"以前"はもはやありえない。
「少なくとも、《スターダスト・ドラゴン》はもう少し後かな」
「それって、どういう……」
「"ドラゴン族"レベル6!」
……だって、今はエクシーズ召喚があるじゃないか!
「………っ!?」
「《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》《ドラグニティアームズ-ミスティル》の2体をオーバーレイ!」
竜騎の証は標となりて、時空を繋ぐ風となる!
古に眠る龍の軌跡よ、悠久の果てに蘇れ!
☆6×☆6=★6
エクシーズ召喚! 総てに刻め、伝説よ!
「《聖刻龍王-アトゥムス》、降臨!」
神々しい光と共に、天空から青き翼龍が屋上の一角に降り立つ。黄金色の鎧を纏ったその姿は、正しく龍王と呼ぶに相応しいだろう。
聖刻龍王-アトゥムス
★6/2 ATK/2400
「ら……ランク6………!?」
……いや、そこまで過剰な反応されてもね。
「そんな……ランク6エクシーズは凍夜先輩にしか扱えないはずなのに………!」
「いやいやいや、ちょっと待って!? ランク6とか、デッキギミックとして普通に入るでしょ!?」
まあ、それを組み込めるデッキ自体が少ないのは確かだけど。《聖刻龍王-アトゥムス》が属するカテゴリー【聖刻】に、儀式カテゴリー【6軸リチュア】【聖刻リチュア】。ハンデスしつつバウンサー立てるのは勘弁してください。
そして、俺の使っている【ドラグニティ】……ぐらいかな。そりゃあ、そもそもランク6が少ないってのもあるけどさ。転生者狩りをしてるんなら何回か見ていてもおかしくないはずなんだけど……。
「《聖刻龍王-アトゥムス》の効果発動! エクシーズ素材を1つ使って、デッキからドラゴン族モンスターを特殊召喚!」
『「……はあ!?』」
「出番だよ、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》!」
聖刻龍王-アトゥムス
★6/2→1 ATK/2400
龍王の咆哮と共に、旋回する光の1つが膨れ上がる。軌道を外れたそれは、やがて1つの巨大な……
『……レッドアイズ、だと?』
「ダークネスメタル……え、それドラゴンですか?」
……正二十面体の黒水晶になった。
うん、その反応は予想してた。初めて見たときも俺達そうなったし。
「この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力と守備力は0になる」
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン
☆10 DEF/2400→ 0
「……けど、効果は無効にならないんだよね! 《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の効果発動! 手札か墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚する!」
《F・G・D》を"最強の龍"と呼ぶならば、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》はまさに"最優の龍"と呼ぶに相応しいだろう。
その効果は、手札又は墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚するというもの。制約は"1ターンに1度"と"この効果で《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚できない"、ただそれだけ。さらに、非公開情報である手札が効果範囲に含まれているため、この効果は対象を取らない。
「戻ってきて、《ドラグニティアームズ-ミスティル》!」
緑の竜巻を以下略。
ドラグニティアームズ-ミスティル
☆6 ATK/2100
「墓地から特殊召喚された場合、"ミスティル"の効果は発動しない。まあ、ファランクスならそこにいるんだけどね」
これで展開は終了。最後の特殊召喚を、俺は高らかに宣言した。
「レベル6《ドラグニティアームズ-ミスティル》にレベル2《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」
紡がれし星は絆と共に、疾風と成りて神を討つ!
夜空に瞬く綺羅星よ、守護の煌めきを解き放て!
☆6+☆2=☆8
シンクロ召喚! 舞いて煌めけ、星嵐よ!
「《スターダスト・ドラゴン》、降臨!」
いつのまに空は暗くなったのだろうか、夜空から優しい光が注がれる。ゆっくりと、星光を纏った白銀の竜がフィールドに舞い降りた。
スターダスト・ドラゴン
☆8 ATK/2500
「《スターダスト・ドラゴン》……!」
「バトルフェイズ! 《スターダスト・ドラゴン》で《水精鱗-アビスリンデ》を攻撃! 流星乱舞!」
星竜が輝きを放ちながら空へと舞う。纏っていた煌めきを竜巻に乗せ、人魚へと叩きつけた。
「破壊された"アビスリンデ"の効果で、デッキから《水精鱗-アビスディーネ》を特殊召喚!」
竜巻の晴れたその先には、先程の人魚ではない別の何かがいた。人魚……というには、尾が多少短い。
水精鱗-アビスディーネ
☆3 DEF/ 200
「そして、"アビスディーネ"が"水精鱗"の効果で特殊召喚されたとき、墓地からレベル3以下の"水精鱗"を特殊召喚します!」
水精鱗-アビスリンデ
☆3 DEF/1200
……もうやだこの人魚。
「またそいつ!?」
「他にいないんです!」
「……はあ。メイン2、カードを2枚セットしてターン終了で」
で、結局モンスターの数は変わってないと。ランクじゃなくてレベルな分、余計にたち悪いかもしれない。
―――― Turn.4 End Phase ――――
1st/Sakura Yagami
◇LP/8300 HAND/0
◇《水精鱗-アビスディーネ》DEF/ 200
◇《水精鱗-アビスリンデ》DEF/1200
◇set card/mo-0,ma-0
2nd-A/Tragoedia
◇LP/1400 HAND/4
◇《トラゴエディア》DEF/2400
◇set card/mo-0,ma-0
2nd-B/Ren Kazami
◇LP/3600 HAND/0
◇《聖刻龍王-アトゥムス》ATK/2400
◇《スターダスト・ドラゴン》ATK/2500
◇《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》DEF/ 0
◇set card/mo-0,ma-2
『……見事だ。まさか、ここまで展開するとはな』
「これが【ドラグニティ】です。下準備こそいるものの、手札1枚が全部ディスティニードローに変わる」
そう、これが【ドラグニティ】の特徴であり強み。フィールド魔法《竜の渓谷》が存在する限り、毎ターンの安定した戦力が約束される。
まあ、当然そんなこと相手が許すはずないのが遊戯王なんだけど。
「私のターン、ドロー!」
Turn.5 Player/Sakura Yagami
1st/Sakura Yagami
LP/8300 HAND/0→1
2nd-A/Tragoedia
LP/1400 HAND/4
2nd-B/Ren Kazami
LP/4000 HAND/0
「……!」
引いたカードに、夜神さんが目を見開いた。なんだろう、ものすごく嫌な予感が……!
「前のターンに破壊され墓地に送られた罠カード《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動です!」
「墓地からトラップ!?」
「前のターンまでに墓地に送られたこのカードは、自分のターンに除外することでもう一度効果を発動することができます! この効果で《スターダスト・ドラゴン》の効果をエンドフェイズまで無効にします!」
なん……だと………!?
「させないよ!? リバースカード《サイクロン》発動! 俺のセットカードを対象にし、これに対して《スターダスト・ドラゴン》の効果を発動!」
「な……ええ!?」
……よく忘れ去られるけど、《スターダスト・ドラゴン》は自分のカードも無効に出来る。これを利用することで、相手の発動したカードに対して事実上1:1交換で"スターダスト"を逃がすことが出来る。
【暗黒界】などが複数のスペルスピード1によるセルフチェーンを使って《スターダスト・ドラゴン》を効果破壊しようとすることがある。そういったとき、これを知っているか否かでこの後の展開が大きく変わる。《スターダスト・ドラゴン》が生存している、ただそれだけで相手のデッキは動きを制限されるのだから。
唯一の欠点は、これにより一時的に優先権が相手に移ってしまうこと。自分の発動した破壊系カードに何かしらの破壊しないカードをチェーンされた場合、《スターダスト・ドラゴン》は逃げ道を塞がれて死んでしまう。
……えっ、《死者蘇生》が怖い? ばっかお前……いつものことだろ?
「銀星結界!!」
俺の場に突如発生した竜巻に、銀色の竜が突貫する。
"スターダスト"が光の粒になって消えたその直後、そこには別の白い怪物が拳を叩きつけていた。対象が既にいないことに気づき、その怪物は0と1に分解され霧散した。
「逃げられた……いや、これで行けます!」
やっぱりか……。だとしたら、彼女が引いたのは間違いなく、俺の考えていた中で最悪の神引き……!
『逃げられた……だと? どういうことだ?』
「……多分だけど、夜神さんが引いたのは《深海のディーヴァ》。たしか《海皇の重装兵》がレベル2の海竜族だったからそれを呼んで、"ディーヴァ""アビスディーネ""重装兵"の3体で"薔薇様"呼んでフィールドを一掃される」
シンクロギミックがあるならほぼ確実に入るモンスター《ブラック・ローズ・ドラゴン》。シンクロ召喚時にフィールドのカードを全て破壊できるという、汎用性の高い凶悪効果を備えている。……まあ、破壊効果だから当然《スターダスト・ドラゴン》が無効にするんだけど。
しかし、だからこそ夜神さんは《ブレイクスルー・スキル》を発動したんだと思う。俺の予想が正しければ、あれは《エフェクト・ヴェーラー》や《禁じられた聖杯》と同じ裁定を持っている。
リリースして発動する効果は無効化される。
つまり、リリースしたところで《ブラック・ローズ・ドラゴン》の効果は無効に出来ないし、リリースしたところで戻ってこれなくなる。ここでの"逃げられた"とは、つまり"帰ってきてしまう"ということだ。
「そして《水精鱗-アビスリンデ》の効果が発動して後続が出てくるから、それでトラゴエディア様に直接攻撃すると……」
『それが攻撃力1400以上ならば、我は再起不能というわけか』
「それだけじゃない。出てきたモンスターの攻撃力が2500を越えてきたとしたら、戻ってきた《スターダスト・ドラゴン》もいずれ戦闘破壊される……!」
……そう。
「《深海のディーヴァ》、召喚です!」
間違いなく、俺達は詰んでいた。
― ― ― ― ― ― ― ―
「やっと……着いた………!」
4階から階段を走り続け、ようやく私は屋上の広場へと辿り着いた。
あれから私は、建物の中をクレナちゃんに任せて一人で屋上への階段を駆け上がっていた。自分の"直感"のことをいきなり沙耶ちゃん達に言っても、きっと信じてはもらえない。だからこうして二手に別れ、"直感"のことをわかってるクレナちゃんに下の階を任せることにした。
屋上の自動ドアが動き、屋上広場の光景が私に入り込んでくる。
「《海皇の狙撃兵》が戦闘ダメージを与えたとき、デッキから"海皇"と名のついた"狙撃兵"以外のモンスターを特殊召喚します! 《海皇の竜騎隊》を特殊召喚! そのまま"竜騎隊"で追撃です!」
水属性モンスターがフィールドを制圧する、その光景が。
「……闇のゲームで物理ダメージ受けないとか、卑怯じゃないですか?」
「うん、まずそれは君の言っていいセリフじゃないよね」
……え? この、声は……。
「うそ……蓮、くん……!?」
「あれ、アイシアさん。大会は?」
私の声に気づいたのか、蓮くんがいつもの声で返事をしてくれた。
……最悪なことに、またも私の直感は的中してしまっている。
「よく来ましたね、アイシア。ちょうどいいタイミングですよ」
―――― Turn.7 End Phase ――――
1st/Sakura Yagami
◇LP/8300 HAND/0
◇《水精鱗-リードアビス》ATK/2700
◇《海皇の狙撃兵》ATK/1400
◇《海皇の竜騎隊》ATK/1800
◇set card/mo-0,ma-0
2nd-A/Tragoedia
◇LP/LOSE HAND/-
2nd-B/Ren Kazami
◇LP/ 400 HAND/1
◇set card/mo-0,ma-0
「ターンエンド。次でラストです、風見蓮!」
……このフィールドは、いったい何?
「(トラゴ!)」
『(……魔女か)』
《トラゴエディア》を呼び出す。黒乃くんの体に入っているみたいだ。
『(貴様の従者はどうした?)』
「(クレナちゃんには、形式だけで下の階を調べてもらってる。もうすぐ来るはず!)」
『(そうか。……見ての通りの惨状だ。望月黒乃のライフが尽き、風見蓮も風前の灯だ)』
トラゴに言われなくても、それは見てわかる。蓮くんは手札が1枚で、フィールドにいたっては0。そしてライフポイントも400しかない。
「夜神さん、《海皇の突撃兵》は入ってないの?」
「"突撃兵"? そんなカードがあるんですか?」
「うん、打点2200。いたら俺死んでたんだけど」
「『―――!?」』
嘘でしょ……? それじゃ、本来なら蓮くんは既に………
「……アイシアさん」
ふと、蓮くんが口を開いた。
「……え?」
「沙耶姉に伝えといて。多分、俺はここでリタイアだ」
そう言って、蓮くんは私に振り向いてくれた。
……陰りのない、優しいあの笑顔で。
「大丈夫。みんなが夜神さんから逃げ切れるだけの時間は……」
「やめてよ!!」
気づけば、私は遮っていた。諦めきったような蓮くんの言葉を、これ以上聞きたくなかった。
「ねえ、そんなこと言わないでよ……! もっと、ほら、先に行っててみたいな……」
「それさ、駄目だよね。無駄に希望を持っちゃうとさ、裏切られたときの絶望は大きくなっちゃうよ?」
蓮くんの表情は変わらなかった。それはまるで、初めからこうなることがわかっていたみたいに。
『……諦めろ、魔女。どのみち我らはもう助からない』
「トラゴ……」
「行って、アイシア! 後は沙耶姉が絶対に何とかしてくれるから!」
『魔女……貴様は、ここで死んでいい人間ではない。走れ!』
「―――っ!!」
もと来た道を全力で駆け戻る。私が階段を駆け降り始めるのと、私の背後で風を切る音が聞こえたのはほぼ同時だった。
……ごめんなさい、2人とも………!
to be continued...
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