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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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並べるような存在

 
前書き
今回で今年の更新はおそらく最後になると思います。今年も一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いしますm(_ _)m 

 
第三者side

「んん・・・」

意識を失っていたカラスがゆっくりと目を覚ますと、そこにはこちらを覗き込んでいる水色の髪の少女・・・のような少年がいた。

「あっ!!テメェ!!」

それを見て戦闘体勢に入ろうとしたが、なぜか立ち上がることができない。その理由が何なのかと視線を下げると、自分が木に結ばれていることに気が付いた。

「すみません。動かれると厄介だから縛らせてもらいました」
「そ・・・そうか」

元々敵対していたわけだし、これはごく当たり前の行動といえる。そう納得させていると、カラスは自分のある部位を見てある疑問を抱いた。

「あれ?右手・・・」

シリルに攻撃をした際に負傷した右手が、元通りになっている。よく見ると、全身の傷もなくなっており不思議に感じた彼は少年を見つめる。

「ケガは治しておきました。結構傷も多かったので」

彼の傷がなくなった理由は、シリルが治癒魔法で治したから。これから評議院に引き渡されるのはよくわかっているが、その前にトドメを刺すどころかケガを治療されたことに驚きを隠せない。

「なんで・・・」
「いつ評議院が来るかもわかんないし、念のためかな?」

致命傷になるほど痛め付けてはいないが、少し気になったからと付け加えるシリル。その少年の姿は、さっき自分が負わせた傷でいっぱいだった。

「お前のは治さないのか?」
「自分に治癒魔法はかけられないからね」

渇いた笑いをした後、長い溜め息を漏らす。不甲斐ないからなのか、単純に疲れたからなのかは青年からは判断できない。

「でも、大丈夫!!仲間に治してもらうから!!」

シリルはそう言うと、手を振ってから村とは反対の方向へと走り出す。その後ろ姿がまさしく女の子だったことで、カラスはずっと視線を下半身に向けていた。

「はぁ・・・あと三年くらいしてから出会えてればなぁ」

言う度に年数が減っており、本人がいたら突っ込まれそうなものだが、彼はそんなことを気にするような人間ではないのですぐに次の行動へと移る。

「これ・・・外れっかな?」

自身を縛る縄を外そうと体をグネグネと動かしているカラス。捕まりたくなどもちろんないため、拘束から逃れようと奮闘していたのだが、なかなか解けずに苦悶の表情を浮かべていた。





















レオンside

一つの戦いに区切りがついたその頃、彼らとは大きく離れたところではいまだに静かなるにらみ合いが続けられていた。

(長い・・・長すぎる)

吹き荒れる吹雪で髪が凍りつき始めているのにも関わらず、目の前の男は一切動こうとしない。凍死してるんじゃないかと思い目元を観察してみると、時折まばたきをしていることからまだこちらを警戒しているのだということが理解できる。

(俺は全然大丈夫だけど、あまり時間を掛けすぎるのは好ましくないな)

耐えられなくなった方が先に仕掛け、待ち続けた方はその心の緩みから一気に優位性を取る。お互いにそう考えているのだろうけど、じゃあ意志を持って突進した場合はどうなるのだろうか?

(スピードはそうそう負けないし、パワーで押し切られることもないはず)

このままの状態で堪えるのと一気に攻めて状況を変える、どちらがより利点が多いか一度整理してみる。

(よし、動くか)

しばらく思考した後、このままよりも自分から戦いを動かした方がいいと判断した俺は、どう向こうが動いても対応できるようにしていた魔力を、攻めの形へと移動させる。

「フッ」

軽く息を吸い込み腹筋に力を入れ地面を蹴る。それに長髪の男は素早く反応したが、彼が捉えるよりも早くこちらが懐へと入り込む。

「!!」

自分が反応できなかったからか、目を大きく見開いて驚愕している男。俺はそいつの目の前にある腹部へと全力の拳を叩き込む。

「永久凍土」

手応えがあった瞬間、爆音とともにそこを中心に大爆発が起こる。今までも強い吹雪が吹いていたが、その一瞬だけは視界が完全になくなるほど地面に積もる雪が飛び散る。

「わああああ!!」

その被害を真っ先に受けたのは俺でも相手でもなく、近くでかまくらを作っていたラウルだったが。

「レオン!!気をつけてよ!!」
「ごめんごめん」

雪に埋もれていた彼が頭だけ出して文句を言うので適当に謝罪する。今気にするべきなのは彼ではなく、拳を叩き込んだ敵がどうなっているかだ。

「なかなかのものだな」

視界が晴れて目の前を見ると、そいつは人一人分ほど後ろに押されただけで、大したダメージもなく仁王立ちしていた。

「ウッソォ!?グラシアンさんを倒した魔法だよ!?」

平然と立っている男の姿を見て雪から抜け出ようとしていた少年が驚愕の声を上げる。あんなに至近距離で受けたはずなのに、まるで効果のないように振る舞う青年には少々目を疑ったが、こいつが100年クエストが成功しない理由ならこれくらいは普通だろう。

(それにしても、丈夫すぎじゃないか?)

しかし、やっぱりここまでダメージがないのは違和感がある。普通ならあばらを何本か折るくらいの威力はあったはずなのに、痛みを感じているようには見えない。鎧でも付けていて、全てのダメージを吸収しているかのようだ。

バッ

のんきに分析をしていると、男は右手を振るう。そこから放たれたのは、常識では考えられないような巨大すぎる魔力の塊だった。

「くおっ!!」

咄嗟に左腕を頭の脇に持ってきて魔力の塊を後ろへ受け流す。対象物から逸らされた攻撃は、山の山頂よりに立っていた俺を狙ったものだったため、空へと伸びていきシンシンと雪を降らす雲を撃ち抜いた。

「うわっ・・・マジかよ」

信じられないパワーに思わず目を奪われる。常にここ一帯に雪を降らし続けていた雲が晴れて青空が広がる。明るくなった景色に少々気持ちよさを感じながら、それを実現した男に視線を戻す。

「すごいパワーだな。びっくりしたよ」

俺の力も十分なものだと思っていたけど、こいつのそれは俺のを遥かに越えている。悔しいけど、こんな奴がいたなんて・・・あとでジュラさんに教えておくかな。

「どうだ?ドラゴンの居場所を話す気になったか?」

こちらが誉めたのを聞いて勝てると考えたのか、最初の話題に戻してくるこの男。なるほど、こいつはあくまでシリルたちに用があるってことか。

「残念だけど、教えるつもりにはならないかな」

こいつが強いのはわかったが、仲間を売る気は更々ないし、負けるつもりも毛頭ない。

「そうか」

それを聞いた彼は残念そうな声を漏らす。

「ならば、話したくなるまで絶望を与えてやろう」
「それは楽しみだ」

諦めて勝負から逃げられたらどうしようかと思っていたから、この言葉はありがたい。仲間を脅かすつもりなら、俺が全力を持って排除してやる。それに、久しぶりに全身全霊の戦いができそうだしね。




















ウェンディside

「きゃっ!!」
「うわっ!!」

イネスさんの振り回した巨大カマに凪ぎ払われ地面を舐める私たち。彼は何度も何度も重たそうな武器を振り回しているのに、全然消耗している様子がありません。

「さて、そろそろ聞きたいことを聞いておくか」

カマを杖のように使いゆっくりと私たちの元に歩み寄ってきます。でも、身体中が痛くて全然起き上がることができません。

「村の連中はどこにいる?」

私たちに依頼を出したカノッコ村の人たち。今はイネスさんたちが占拠しているその村の住人たちの居場所を探ろうと襲い掛かってきた彼は、上から見下ろしつつそう言います。

「教えるわけにはいきません!!」
「悪いやつらはこらしめちゃうもん!!」

そんな質問をされて素直に答えるわけがありません。この人たちは森に火を放ちました。もし皆さんが見つかったら、大変な目に合うのは目に見えています。

「そうか。なら、交渉の仕方を変えようか」

そう言うと、持っていたカマを降り下ろしてくる。それにはビックリしましたが、ギリギリで体を横に転がして逃れます。

「居場所を言わなければ、お前たちを殺す。言えばお前たちは見逃してやろう」

出してきたのはどちらかの命を選ばせるような選択。皆さんと引き換えに自分たちだけ助かるか、もしくはその逆かという二拓でした。でも、それに対する回答なんて決まってるよね。

「私たちがあなたを倒します」
「はい!!私たちも村の人たちも、犠牲になんかしないもんね!!」

やっとの思いでその場に立ち上がり、彼の質問の答えを言う私とサクラ。それを聞いたイネスさんは、顔色一つ変えることなく淡々とした口調で言葉を紡ぎます。

「それは・・・」

それと同時に隣から赤い液体が飛び散ります。思わずそちらを見ると、その正体は共に戦う少女の体から出た血液でした。

「ぶはっ」
「サクラ!?」

その場に崩れ落ちる彼女の前に屈み治癒の魔法をかけます。その際私もやられないようにと敵を視界の中に入れていましたが、彼は一切動く様子はありません。

「お前たちを殺してから村の連中を探すということでいいんだな?」

カマについている赤いものを軽く手で拭い、サクラの治療が終わるのを待っているかのような、ただ私たちを見下ろすだけの彼。甘く見られているとも感じましたが、それ以上にこの人は自分が負けるはずのないっていう自信を持っているのだと、目を見て感じました。

「大丈夫?サクラ」
「は・・・はい・・・大丈夫です」

傷口は塞がったけど、かなりダメージを受けているサクラはフラフラと立ち上がるのがやっと。イネスさんの高速攻撃をもう一度やられたら、間違いなく殺されてしまう。

「サクラ、下がってて」
「え!?」

彼女が立ち上がったのを見てから、前を塞ぐように手で制止して立ち上がります。私も彼の攻撃は見えていませんが、これでもかなり経験を積んできました。こういう強い相手とも、何度も戦ったことがあります。

(きっと大丈夫!!・・・だと思う)

自信満々とは言えませんが、大事な後輩を守るためです。先輩として、頑張らなければいけないですよね。

「あ!!なるほど!!」

前に立つ私を呆然と見ていた少女は、何かを察したようにポンッと手を叩きます。

「了解であります!!ウェンディ先輩を後ろから援護するであります!!」

私の考えとは違ったけど、その方がいいかもしれません。サクラは魔法陣を書くまでの時間を考えると、きっと下がって距離を置いていた方が楽でしょうし。

「うん。よろしくね、サクラ」
「はい!!」

後ずさるように後ろへと離れていく少女。敵はそれを見てすぐにでも動き出そうかとしていましたが、間に私がいることでその考えを諦めます。

「お前たちがどんな戦略を立てようが、俺には関係ない」

次の瞬間、彼の右腕に力が入ったのがわかりました。直感的に攻撃が来ると感じた私は、頭を下げてそれに対処します。

「まずは貴様から殺してやる」

相手が動くよりも早く交わしていたのに、彼のカマはほんの数センチほどを上を通過していきました。

「ほう。よく気付いたな」

一振りを終えたからか、例によってカマを地面へと突き刺すイネスさん。それを見て私はあることに勘づきました。

(そうか!!彼がいくら力があるといってもあれだけ重たい武器を振り回すのは労力がかかる。だから休みながらじゃないと攻撃に出れないんだ)

毎回一つの動作が終わるとカマを地面に下ろしていたのはそのため。腕に疲れを残さないようにと気を配っていたんですね。

(どのくらいで回復するかはわかりませんが、次の攻撃を凌いだ時が狙い目です)

こちらが仕掛けてこなければ、彼の方から動いてくるはず。それを交わした後が狙い目です。

「隙あり!!」

ただ、いつ来るのかわからない攻撃を待つのは神経を使います。できるだけ早くしてほしい、そう思っていると、後ろから思わぬ援護射撃が飛んできました。

「無駄だ」

火の魔法でイネスさんを狙い打ったのは後方に下がっていたサクラ。ですが、この攻撃はイネスさんが振るったカマに防がれてしまいます。

(今だ!!)

でも、それは同時に私たちのチャンスタイムへとなります。ここで息を付くためにカマを下ろすはず。その間に彼に攻撃を入れれば・・・

ドスッ

予想通り、イネスさんは地面に武器を突き立てました。その直後に私が迫ってきているのに気が付きましたが、ここからじゃ対応できないはずです!!

パッ

そう思っていると、彼はあろうことか持っていた武器から手を離します。支えるものがなくなったカマは、後ろへとゆっくりと倒れていく。

(でも関係ない。むしろ思っても見なかったチャンス!!)

武器を手放したということは、彼は丸腰。幸いカマは私の進路を塞ぐわけでもないですし、何も影響はありません。
そう思いながら手を握り締め力を込めます。

「フンッ」

私のパンチが彼を捉えようとした瞬間、大きな拳が私の腹部に突き刺さりました。

「ガッ」

バキッという音とともに全身から力が抜ける。重たい一撃を受けた私は、サクラが待機していた場所のすぐ後ろにあった木へと弾き飛ばされました。

「ウェンディさん!?」

木に衝突した後、地面に叩きつけられた私のもとに真っ青な顔のサクラが飛んできます。

「う・・・うぅ・・・」

しかし、私はそんな彼女に何も返事をすることができません。理由は、さっき殴られた部位がひどい痛みに襲われているからです。

「あばらが折れてるだろうな」
「!!」

ドスドスと近付いてくる足音にサクラが振り返ります。私も危険が迫ってきていることはわかってるのに、起き上がれる気がしません。

「俺が手を休める時を狙ったのはよかったが、あいにくこちらも対応済みだ」

そういってカマを担ぎ、最後のトドメを刺そうと振り上げる。

「サクラ、逃げて」

サクラじゃ私を連れて逃げることはできない。せめて彼女だけでもと思いそう言うと、彼女はこちらを振り向くことなくこう答えました。

「イヤです」

両手を広げ、私たちを見下ろす大男を見上げているサクラ。

「ウェンディさんが死んじゃったら、シリル先輩に何て言えばいいのかわかりませんから」

彼女が尊敬している師匠であり、私の恋人であるシリルのことを持ち出してくる。サクラはこの状況でも、シリルへの想いを忘れていないんだ。

「でも、どうすれば・・・」

このままじゃ私もサクラもやられちゃう。この距離じゃサクラは魔法を発動させる時間もないし、私は痛みで起き上がれない。

(あの時みたいな力を発揮できれば・・・)

フェイスを破壊する時に発動できた竜の力(ドラゴンフォース)。今こそあれを使うことができれば、なんとかできるかもしれないのに・・・

(もっと空気がキレイだったら・・・)

あの時は空気がキレイで、エーテルナノを含んでいたからとってもおいしくて力が湧いてきた。今も森の中で空気はキレイだけど、あの時のような力を出せる条件とは思えない。

(シリルやナツさんなら、どうするのかな?)

こういう危機的状況でも、彼らならきっとなんとかできるはず。だったら、二人ならどうするか考えれば突破口が見えてくるはず。

「ならば、まずはお前から殺してやろう」

標的を私からその手前の少女へと切り替えるイネスさん。サクラはそれを見ても視線を逸らすことなく、ただ真っ直ぐに敵を見据えています。

ブルブル

普通なら恐怖で目を逸らしてしまうところ。なのに、この子はなんて強いんだろうと思っていたら、違いました。すぐ前にある彼女の足は小刻みに震えていて、死に直面したことによる恐怖を必死に押し殺そうとしているのだと感じました。

(ダメだな、私)

守ろうと思ってた人に守られて・・・ううん。いつも色んな人に守られてばっかり。それに報いることが、全然できていない。

(思い出して、あの時の感覚を)

腹部の激痛に耐えながらゆっくりと空気を吸い込んでいく。あの時ほどの力が出なくても、それに近い感覚を得られればきっと目の前の敵を倒せるはず。

『俺の・・・一番のとっておきですよ』

つい最近明らかになったシリルの本気。年齢も同じくらいで、体格もそう大差はない。なのに彼はどんどん先を行ってしまい、私は置いていかれるだけ。

『だってレオンに負けたくないもん!!このクエストを絶対成功させてみせるんだ!!』

このクエスト前に行っていた友人の言葉が今になってわかる。大好きな、想いを寄せる相手でも・・・想いを寄せる相手だからこそ負けたくない、隣に並べるような存在でありたい、そう思えるんだと思う。

(やるんだ。私しかできないことなんだから!!)

全身の魔力を研ぎ澄ませ、身体中に吸い込んでいく空気を回していく。初めてドラゴンフォースができた時のように、感覚を近付けていく。

「ハァァァァァァ!!」

溜め込んだ魔力を一気に解放する。それにより大気が震え、風が巻き起こった。

「!?」
「何!?」

ここまで冷静沈着だったイネスさんの表情が驚愕のものへと変化して、その前に立ち、涙目になっていたサクラが振り返ります。

「サクラ。あとは任せて」

全身を風が覆い、髪の色がピンク色へと変化する。魔力が高まったことで体が軽く感じる。あの時と一緒で、辺り一面の空間を感じ取ることができる。

「必ず勝つから」

自らの意志で発動できたドラゴンフォース。やっと発動できたこの力で、今度は私がみんなを守るんだ。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
今回の長編のテーマ一つ目、『ウェンディがドラゴンフォースを使えるようになる』をひとまず達成。
次はウェンディが無双してくれます。どのくらい無双するかな? 
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