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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#39
  星魔の絶戦 千変VS星の白金Ⅶ~Desolation Crisis “Mammon” “Leviathan”~




【1】


「立てよ……」
 斬創、刺創、裂創、マキシコートのような学生服に数え切れないほど刻まれた
無頼の貴公子は、根本まで灰になったフィルターを吹きながら言った。
 スタンドの星拳を喰らい抉れた路上に膝をついた雷獣、
ルール無き闘争なれば追い打ちを掛けるに是非なき状況。
 近距離にて組み伏せれば、 『神鉄如意』 に大獄変貌する時間はない。
 大き過ぎる “力” は、それ故に大きな制約が絡む。
 そこまで理解っていながら、承太郎は両手をズボンに突っ込んだまま
シュドナイを待った。
 優位に立つ者の増長ではない、異種に対する蔑視でもない、
あくまで “対等以上” と認めているからこその……
「来いよ、 “千変” シュドナイ」
 そのライトグリーンの瞳に宿る黄金の光、
自身をここまで 「成長」 させてくれた
男に対する純粋な深謝がそこに在った。
 空条 承太郎が、明確な認識のもと紅世の徒の真名()を呼んだのは
これが初めてではないだろうか?
 アラストールやラミーという例外はあるが、
基本人を 「物」 とも想わぬクサレタ化け物、
頼みもしないのに勝手に現世(こっち)へやってきて、
好き放題に残虐の限りを尽くす神サマ気取りの侵略者、
それが紅世の徒に対する彼の認識であり裡に宿る 『正義』 の元
敬意も畏怖も抱きようがなかった。
 その事は承太郎自身が充分に理解しており、
眼前で身を起こすシュドナイも同じコト、
罪もない人間を数えきれず、女も子供も赤子すら無慈悲に掻き喰らった
鬼畜以下の存在に他ならない。
 だから表情に現れずとも彼は自分の心の流れに困惑していた。
 その形容、正に人喰いの化け物としか言い様がない雷獣に、
微塵の憎悪も嫌悪も沸かない事を。




“オレが紅世の徒(おまえ)だったら、どうなっていた?”   
 



 答え無き、空虚な問い。




“何で戦ってんだ? オレ達?”
 



 憐憫にも似た寂寥が胸の中を吹き抜けた。
「……」
 手にした剛槍を、岩が粉と砕ける力で握り締める雷獣。
「オオオオォォォッッ!!」
 猛虎の咆哮と同時に大気を拉ぐ剛閃が空間を薙ぐ。
 本刃、副刃の伸長を計算に入れながら、
視るだけで暴圧に眼が潰されるような渾身の一撃を
承太郎は充分に引き付けて躱す。
 一拍遅れて巻き起こった空圧に学生服のボタンが解れて弾け飛ぶ。
「ウオオォッッ!! オオッッ!! オオオオオオオォォォォォッッ!!」
 異形の体躯に見合わぬ技のキレ、シャナやポルナレフと比べてもまるで見劣りしない
練達に無尽蔵のパワーを上乗せして雷獣は剛閃を繰り出し続ける。
 本刃は、副刃(そえば)はピクリともしない、先刻の、失態とは呼べぬ僅かな緩みを
戒めるようにシュドナイは 『神鉄如意』 の能力に頼らず身一つで戦いに挑む。
「……」
 対する承太郎にも余裕などない、決して砕けない “神鉄” による猛攻、
防御などすれば受けた腕ごと骨がグシャグシャになり
(さば)くにも()なすにも群がる副刃が技を阻害する。
 正直、先刻の遠隔能力などよりこちらの方がタチが悪い、
能力(チカラ)に拠らず精神(ココロ)のみで立ち向かってくる者の方が。
「ウオオオオオオオオオオオラアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ
ァァァァァァァァ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」





 ギャギイイイイイイイイイイィィィィィィィィィッッッッッッッ!!!!!!! 




 如何なる紅世の装甲でも貫き通す、
『神鉄如意』 剛絶の死突(しとつ)が止められた。
 超宝具を透して互いに伝わる痺れ。
 貫突の勢いに擦り抜けぬよう廻転(ひねり)を加えて、
右拳と左拳を搗ち合わせるように鉄鋲の穿たれたスタンドのナックルが
本刃先端を停止せしめた。
“真剣白刃取り” ならぬ 『神 鉄 星 拳 受(しんてつせいけんう) け』
剛槍(ヤリ)の威力が極点(MAX)へと達する前に一歩踏み出で、
両掌では制止不可能な貫突を両拳で可能せしめるスタンド絶技。
 空前のスピード、精密動作性が必要な事は言うに及ばず、
武器の形状による廻転比率、威力に対する握力の強弱 (その誤差数%以下)
何より串刺しにされるコトを怖れぬ勇気と覚悟が不可欠である。
 姑息な術を用いるなら足下のコンクリートを蹴り剥がして飛ばすか、
街路樹なり車なりをスタンドで投げつける事も一応眩ましにはなる。
 だが所詮は一過性のモノ、剛槍(ヤリ)は止まってもシュドナイの気炎は止まらない、
むしろより激しく燃え盛る。
 その場凌ぎの方策など自身が薄弱だと吐露しているようなもの、
中途半端に逃げ回っても何れはより抜き差し成らない状況に追い詰められるだけ、
故にリスクを負っても真正面から受け止めるしかない、
精神に対しては精神で応ずるしかないのだ。
「……!」
「……!」
 散大した瞳孔、両者削れるほどに歯牙を軋らせ、星拳と剛槍に力を込める。
 その総力は完全に拮抗、無動の膠着状態となり迸る気炎だけが空間を歪める。
「何で “伸ば” さねぇんだよ……ッ!」
「貴様こそ、何故さっき組み伏せなかった……ッ!」
 ギリギリと危うい均衡で軋る鉄鋲と槍尖から一切力を弛めず、
貴公子と雷獣の眼光が弾けた。
「知らねぇよ、ただの気紛れさ……!」
「ならばオレに答える義はない……!」
「ほざけッ!」
「貴様がッ!」
 ギャリンッ! 怒号と共に星拳と神鉄の拘束が外れ、
繰り出した生身と猛禽の廻し蹴りが空を切った。
「次ナメた真似してみろッ! 急所(タマ)潰すぞ虎縞(とらじま)ヤローッッ!!」
「己を棚上げに勝手な事を……! 下らん思慮でくたばるなら、
所詮その程度の遣い手だったと想うだけだッッ!!」
 捲れ上がった瞳孔と業火の双眸、男の矜持が引くなくブツかり合った刹那、
剛槍(ヤリ)()いた。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!





 大 獄 変 貌(たいごくへんぼう)
 シュドナイは渾身の一撃を繰り出す猛攻の中、
打ち終わりと切り返しの刹那に燃え盛る炎気を
『神鉄如意』 内部に注ぎ続けていた。
“伸ばさなかった” のはスベテこの獄威発現の為、
その意を蔑ろにされれば頭にも来よう、しかし承太郎も同様、
先刻の “借り” を返しただけに過ぎない。
『男の戦い』 はただ相手を打ち負かせば良いと云うモノではない、
精神的にも完膚なきまでに凌駕しなければ勝利したコトにならないのだ。
これで終わり、二度とは逢えない邂逅故に。







 ジャ・ギ・ン゛ッッッッッッ!!!!!!






 拡充した神鉄が、雷獣の巨腕を覆っていった。
 屈強な肩から肘に掛け削岩の指先、 “その先まで”  
 顕れた装具は雷獣の総体を遙かに凌ぐ極 大 手 甲(グランド・ガントレット)
 しかし “その片側だけでも” シュドナイの全身をすっぽりと覆ってしまう巨大さの為、
最早防 具(プロテクター)と云うより防 壁(バリケード)に近い。
 その重量は目測で約500トン、冥府と神界を割ける嘆きの壁にも相剋。
 極厚の神鉄内部に拳を嵌め込む形で着装し、その表面に呪われた刻 印(ヒエログリフ)
地面スレスレで浮いている先端には竜の腹を抉り裂くような巨爪が存在を誇示する。
 攻撃防御、共に冠絶、単純な戦闘力なら神鉄如意随一。
 瀑 魔(ぼうま)撃 滅(げきめつ)七 大 業 第 弐 烙(ななたいぎょうだいにらく)
神 鉄 如 意(しんてつにょい)號 慾 ノ 獄(ごうよくのごく)
遣い手-“千変” シュドナイ
破壊力-AAA++ スピード-シュドナイ次第 射程距離-C
持続力-AAA++ 精密動作性-シュドナイ次第 成長性-E






「グゥゥゥ……フウゥゥ……」
 大型の航空機二つ分の超重量が双肩に掛かっているにも関わらず、
雷獣の体幹は微塵もブレず漏れ出る呼気には穏やかさすら滲んでいた。
 それが嵐の前の静けさ、楽園壊滅の前兆が如き危局だと云うコトは
敢えて論じる迄もあるまい。
「……」
 対する承太郎、戦闘神経は変わらず研ぎ澄ませているが、
本人でも気づかないほどのごく僅かな、落胆にも似た精神の弛緩がある。 
 相手がシュドナイなので剛力に(かま)けた
莫迦な戦形は仕掛けてこないだろうがしかし、
どんな威力の有る攻撃でも命中()たらなければ意味がない。
 自分の能力は至近距離で射出された弾丸すら掴み取る
近距離パワー型スタンド、『星 の 白 金(スタープラチナ)
おそらく今はM61ヴァルカン(約4000~6000/min)
電磁誘導砲(レールガン)の弾すら跳ね返せる。
 故にシュドナイの超重拳撃は飛燕に対する投石、
棒立ちしているのでもない限り100年経っても当たらない。
――しかし、それが大いなる錯覚で在ったコトを。
 浮遊するように地を蹴る雷獣、速度はさほど悪くない(B前後)
――この後、空条 承太郎は。
 撃ち堕とされる極大手甲、しかし目標は数メートル先の路 面(アスファルト)
――思い知らされるコトになるッ!






 ズ゛……!!!!!!!!!!!!



(――ッ!)
(フ……)




――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――ッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!





 な、に――ッ!?
 声は爆風に吹き飛ばされた。
 音は爆圧に殺ぎ飛ばされた。
 神鉄の “號 拳(ごうけん)” その爆心源、極点直下地殻を抉り岩盤を砕き
その先のマグマまで劈く超絶双絶極限凌駕の大破壊圏。
 減退したスピードに合わせるカウンター、
手甲の重量を逆手に取る低空タックル、
理によって紡がれた承太郎の術は完全なる悪手となった。
 目標諸共巻き込んで噴出する大地と岩礫、否、
そもそもこの大業に 「標的」 など存在しない。
 業を揮った周囲、敵も味方も関係なく悉く燼滅し尽くすのが “號 慾(ごうよく)” の本質。
 技を超えた純粋な強さ、ソレが(パワー) 、突き出す拳の風圧さえ壮絶の武器と成る。
 ソレを究極まで特化したのが【神鉄如意・號慾ノ獄】
 直撃の必要はない、減退したスピードなど関係ない、
着撃した瞬間発生する超重の 『衝撃波』 が、
滅砕した残骸を砲弾に一切を破壊せしめる。
「ぐ、う――ッ!?」
 累乗爆圧衝波の大怒濤に上空へと吹き飛ばされた承太郎は、
そこで初めて声を発する事を許された。 
しかし爆心源を大きく離れてなお(せめ)ぎ合う大獄の號圧に
スタープラチナのガードが弾き飛ばされ、ガラ空きになったボディに
大地の残骸がブチ当たる。
「がはぁ――ッ!」
 だがそれすらも着弾後数秒要さず粉々となり破壊の大乱流は執拗に
スタープラチナのボディを(ひし)ぎ承太郎の躯を苛む。
 やがてその空間のうねりに堪えられなくなった
肉体と幽体が裡側から裂け、血の散華を咲かせた。
 強者の猛執、弱者の劣情に同じく、正に人間の “欲望” そのものの悪辣さ。
 自身はリスクを負わず、是非も問わず、対象の有無も厭わないまま
骨の髄まで一滴残らず徹底的に(むし)(しぼ)る。
 豪壮な外見とは裏腹の、 『最悪』 なる本性を裡に孕む、
蛇蝎(だかつ)が如き存在の號器(ごうき)
「ぐふぅっ!」
 塵芥と化した残骸の海に叩きつけられる本体を、
スタンドが本能的に庇い落下衝撃を分散する。
 しかしそれも1000のダメージが1減った程度、
承太郎の肺腑はドス黒く染まった喀血を無情に()き出す。
 無論芸術作品の如く均整の取れた体躯は大獄の號圧でズタズタだ。
 しかし承太郎が立ち上がろうとするより速く、
1000メートル以上離れた先、底の見えない暗孔の縁に佇む雷獣が、
大地を割かつが如き威容にて、神鉄の號拳を天空に揮り挙げた。





――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!





 再び滅哭の大怒濤、承太郎とスタープラチナは紙人形のように無抵抗で吹っ飛ばされる。
(ぐぅ……ッ! ク、クソ!! 
あんだけ射程距離が離れてンのに、
時限爆弾でも至近距離で爆発したみてーだッッ!! 
これじゃあ近づけねぇ!!
このままどんどん距離が拡がれば何も出来ねーまま終わっちまうッッ!!)
 破壊の號圧により街区の一画が軒並み大破。
 瓦礫の残骸からレストランの看板を押し退けて
血染めの貴公子が怒りを滲ませて立ち上がる。
 叛逆のその手に、黒いヘネシーのボトル。
 ビギリと指先のみでキャップを弾き飛ばし
そのまま中身を飢えた獣のように一気呵成で呷る。
 文字通りの自棄酒、血引きの口唇から漏れた甘い原液を手の甲で拭いながら、
空になったボトルを残骸の大地に叩きつける。
「チッ、あんま高級じゃあねぇな。
()かし” が足りねーから味も香りも薄っぺらいぜ」
 火を吹くような熱い吐息、座った眼光が遠方を捉える。
 間髪入れず第三撃を放ってくるかと想われた雷獣は意外、
承太郎は上空への跳躍をキャンセルした。
 変貌解除、神鉄は元の剛槍に戻りそれを半身に構えたシュドナイが
背に拡げた翅翼で風を切り、殆ど音を発さず低空で飛翔してきた。
 距離の優位を捨て何故飛び込んでくる? 
相手の立場で類推する承太郎の戦闘思考が
即座に最悪以上の解答を弾き出した。
“もっと有利な方法が在る”
開いた距離で 「加速」 をつけ、
勢いをそのままに號撃へと転化する戦法。
 打撃の基本は射出時の脱力と着弾時の硬直、
この対称差が大きければ大きいほど威力を増す。
 基本乃ち奥義の要、限界まで加速し音速に達した瞬間、
大獄変貌を顕界し超重の牽引力すらも上乗せして、
右と左の “双 號 撃(そうごうげき)” を刳り出すのがシュドナイの描く終極。
 中途半端に生かせば 「策」 を生み出す、
絶体絶命に追い込んでもこの男は 「成長」 する。
 ならば微塵の(いとま) すら与えず殲滅しむるべし。
 先刻の凄まじい怒濤すら、シュドナイにとって 「布石」 に過ぎなかった。
 この大獄 “双號撃” を刳り出すのに必要な距離を 「空けた」 だけだ。
(防御も回避も完全に封じたまま一気にブッ潰す気か……!
確かにあの “デカブツ” ぶら下げてねぇなら、
どこに逃げても絶対ェ追いつかれる……!)
 正確には追いつく必要すらない、加速力、牽引力、そして双號力、
この三重の超衝撃ならば射程10メートル以内で刳り出せば
承太郎の躯はスタンドごと粉々だ。
 シュドナイほどの遣い手にとってこの発動条件は破格以上に容易な事象、
寧ろ人間で在るにも関わらず二度までの “大業” を行使させた
承太郎をこそ称賛すべきかもしれない。
(避け、られねぇ……!)
 自暴とも諦観とも取れる身構えで生身の拳を握る無頼の貴公子。
 如何なる微細な予備動作をも見逃すまいと、
雷獣の双眸が刃のような突風の中でより尖る。
(逃げられねぇ……!!)
 大獄変貌、射程50メートルを切った所で微塵のブレなく、
號慾が剛腕を覆い流線型の衝撃波を形成すると同時にその表面が摩擦で赤熱する。
 もう何をどうしようと絶望しかない、瞬間的な極点突破、
承太郎の携える無数の 『流法(モード)
そのどれもが、この状況には対応できない。
(なら……ッッ!!)
 そう、 “承太郎には”





 ズ・ズゥ~~ッッ!!






 脇で佇むスタンドが異様な構えを執ったのを、高熱で歪む雷獣の視界が捉えた。
 キツク握り締めた拳、しかし親指と人差し指だけは開いて柔軟、
にも関わらず歴然とした顕示力を伴ってシュドナイの意識を引き付ける。
 獄界衝突まであと20メートルの距離、
最早勝敗の大勢は決したと断ずるに充分な光景、
その最中スタンドが構えた指先をそのままに、脚を大きく開いて腰を落とし
闘技(ワザ)の連動体勢に入った。




 (かみ)!!



 左腕を、関節ごと右回転! 右腕を、肘の関節ごと左回転!
 勝機盤石なる雷獣の双眸にも、スタンドの拳が巨大に映るほどの回転圧力。



 (ずな)!!



 その二つの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、
まさに歯車的砂嵐の小宇宙!!





神 砂 嵐(ア ラ シ)ッッッッッッ!!!!!!】 





 獄界の双號に臆するどころか逆に向かってきた無頼の貴公子。
 その背後に、スタンド以外に、雷獣は 『風の闘神』
夥しい猛者、勇者を悉く屠ってきた、 『地上最強の男』 の姿を垣間視た。






 グバウ゛ッッッッッッッッ!!!!!!!!




 大獄、神域、超相剋!
 紅世最強宝具 『神鉄如意』 VS 風の流法(モード)【神砂嵐】
 共に太古よりこの世界を震撼させてきた極絶能力では在るが、
その二つがブツかり合ったのはコレが初めて。
 空間が捻じ裂けその “向こう側” が数多剥き出しになり、
時空の割れ目に狭間に棲まう超存在が次々と(むら)がってくる。
 現世と紅世の最強技、禁断の接触がもたらすエネルギーの累乗爆裂高密度は、
小規模ながら宇宙創造の開 闢(ビッグバン)にも匹敵。
 最早物体が存在出来る次元に在らず、
この歪みに巻き込まれたモノは微塵も “残さず”
ただ量子分解されるのみ。
 唯一その崩壊から逃れられるのは、
極技を刳り出し真っ向から恐懼を拮抗させる二人の男。
 スピードの理を活かし先に、巨星の迎 撃(カウンター)で神嵐を発動させた承太郎、
対してソレを真正面から神鉄で受け止め寡少もたじろがぬシュドナイ。
 発生した真空で赤熱は掻き消えたが、
小宇宙的砂嵐でも装甲は砕けなかったが、
二つの総合力は完全に釣り合い破局の均衡を保ち
裡に鏖滅(じんめつ)種核(しゅかく)を孕んだまま共に鬩ぎ合う。
「ぐ……ううぅ……おおおおおおぉぉぉぉぉ……ッッ!!」
「ぬぅ……ぐぐ……うおおおおおぉぉぉぉぉ……ッッ!!」
 パワーとスピード、互いが相手を凌駕するその特性故に、
號慾と神嵐は共に “極め” の段階に至れなかった。
 流法(モード)は真空を揮り切れない、大業は衝撃を討ち抜けない、
故に行き場を失った超威力が相剋点で凝縮し波動と成って燻りながら解放を待つ。
 そしてソノ瞬間こそが決着の時。
 位相に滞った全エネルギーが、歪み混ざった相乗力を含め、
膠着打破の勢いを伴って一方へと情け容赦なく負っ被される。
 正にこの世の摂理、光の裏に闇が在り、美しさの陰には酷さが在る、
プラスとマイナスは常に均衡しており勝者の下に敗者は(つくば) る。
 それはこの二人の気高き男といえど例外ではない、
残り数秒を待たずして、一方は原子も残らずに消滅する。
 最終決戦、そのコトを心で、否、魂で感じている両者は
この局面に文字通りスベテを振り搾る。
 承太郎は腕ももげよ云わんばかりに膂力を篭め、
シュドナイは我が身消え去れと吼えんばかりに炎気を(そそ)ぐ。
 加速と重量の分、状況はややシュドナイが有利か?
しかし承太郎のスピードと瞬発性もまた斯くの如し、
そしてその趨勢も、先の決着すら意識から吹き飛び互いの存在しか眼に入らない。
 そう、 “互いの存在しか”
 割れた次元の 『向こう側の者達』 も同様に。





 ヴェ・ガ・ン゛ッッッッッッッッ!!!!!!!  




 正気にては大業滅せず。
 狂気にては神威発せず。
 決して並び立たぬ理が、同時に発顕しそして砕けた。




「な、に――!?」
「ぬおぉ――!?」
 予測もつかなかった未曾有の急転に、承太郎、シュドナイ、共に驚愕を吐き出す。
 超パワーの中心を基点として、何と神風を纏ったスタンドパワーが、
それ以上に不滅の “神鉄” が、奇異奇矯なる形状を以て突如崩れ始めた。







 ヴェゴンッッ!! ヴォゴンッッ!! ヴュゴンッッ!!





「うおおおおぉぉぉぉぉぉッッ!?」
「なにいいいぃぃぃぃぃぃッッ!?」
 聴いたコトのない、そもそも音韻に区分出来ない唸りを響かせて、
カタチ無きモノとカタチ亡かぬモノは同時に(こぼ)れる。
 その様相は無数の直方体、しかし内部に多元空間を象徴するような同型の(あな)が有り、
微細な誤差も歪みもなく、神の法則で在るかの如く次元を貫いた 『元凶』 を断つ。
多 元 宇 宙 論(たげんうちゅうろん)】 
 いま我々が存在するこの宇宙は、唯一無二のモノではなく
その次元の “向こう側” には 「ほぼ同一」 の宇宙が
【無限】 に 『並行』 していると定義する時空説。
 現代科学では未だ仮説の域を出てはいないが、
ソレが疑う余地のない 『真実』 であるというコトは百数十年前、
異魔神(いまじん)” 呼ばれた一人の男の 『能力』 に拠り証明されている。
 一体何のために? 
 無限とも云われる夥しい宇宙がその果てに “ナニを” 形成しているのかは
『神』 という概念以外知る事は不可能だがともあれ、
「この世界」 に存在するモノは多少の例外はあれど
「別の世界」 にも存在する。
 それは物質、生物を問わず個々の持つ能力、思想、精神、
果ては国家、歴史、運命に至るまでほぼ同一である。
 故に次元の壁が崩れ去り、“向こう側” が剥き出しになれば、
鏡合わせのように同様の人物、光景、状況が同一時間軸上に露わとなる筈だ。
 割れた空間の裂け目、その空隙(すきま)の彼方には、
“もう一人の” 承太郎が、シュドナイが、此処にも、其処にも、何れに於いても、 
全く同一の存在として、同じスタンドで、同じ超宝具で、同じ戦形のまま激突している。
 誰よりも近く誰よりも遠い存在に気づかぬまま、
罅割れた次元の形状すら違わぬまま、
永劫の回帰線が境界を越えて交叉する。
 その結果起こる 『現象』 が、流法、大業、 【同 時 対 消 滅(どうじついしょうめつ)】 である。






“同じ次元に、同じ存在が同時に在るコトは赦されない”





 それは世界を、否、宇宙の法則すらも乱しかねない究極の 『禁忌』
 故にその 『禁忌』 に抵触したモノは、正義だろうが悪だろうが、
人間だろうが紅世の徒だろうが、最強の宝具だろうが伝説の流法だろうが、
跡形もなく 『神の意志』 によって消去される。
 それに一切の例外は無い、絶対に折れず絶対に砕けないとされる紅世最強宝具
『神鉄如意』 ですらも所詮は紅世の徒という一存在の領域での話、
無限の宇宙を統括する 『神の意志』 の前には、
塵芥にも及ばぬ余りにも矮小な存在に過ぎない。






 グュゴンッッ!! デュゴンッッ!! バュゴンッッ!!





 偶像崇拝(ツクリモノ)とは違う真の 『神の意志』 は、
一切の慈悲も、声も姿も顕さずただ当たり前に、
時空の境界を割った二つの力場を同時に無限消去した。
 異次元立方体に崩れたエネルギーと神鉄が、
夜明けの霧が如く無常に散っていく。
 力そのもののみならず裡に込められた渾心の想いすらも、
強制するまでもなく一切の記憶に残らないよう余韻すらも掻き消して。
 後に遺るは寂滅の大気、それこそ神の息吹で在るかのように、
罅割れた空間が元に戻り “何もなかったコト” へと 『運命』 は織り込まれる。
 




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………




 千年に一度、在るか無いか、人の、否、スベテの存在の理を超越した、
『神の力』 の顕れ。
 コレは空条 承太郎と “千変” シュドナイ、
比類無き二人の男の力が完全に互角だったため
起こった 『奇蹟』
 どちらか一方が僅かにでも勝っていれば、
力の鬩ぎ合いは起こらず次元の罅も入らなかった、
そして何れかが確実に絶命していた。
 しかし互角だった故に、全ての確定事項を覆す様相を呈したが故に、
『運命』 は捻じ曲げられ “特異点” は抹消される結末となった。
 ソレはこの宏大な宇宙を視野に入れるなら、
光年の遼遠(さき)で幾度と無く起きている現象である。
“人は運命を変えられない” とある識者は云う、
然り転じて紅世の徒もまた同様だろう。
 だが 『運命(ソレ)』 を “生み出した存在(モノ)” ならば変えるコトが出来る。
 在るべき流れを組み換え再構成し、歪みを正して新たな時空へと組み直す。
“スベテは元に戻った”
 半分以上瓦解した神鉄、微かな気流すら遺らなかった真空、
二つの極技が真正面からブツかる男の最終決着を 『神』 は認めなかった。






   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!





 七つの大獄、第 二 圏 滅 界(だいにけんめっかい)
 伝説の流法、破 戒 完 全 封 殺(はかいかんぜんふうさつ)
 その事実が物語る真の脅威を知る者は、死力を搾って激突した二人の男。
「……な、なんだったんだ? “いまのは!?”
エネルギーと装甲がスポンジみてーに、
存在(カタチ)なんか関係なく分解(バラ)けて消滅しやがった!?」
(一体、何が起こったというのだ……
『神威召喚』…… “天破壌砕” や “祭基礼創(さいきれいそう)
(いず)れとも較べものにならない、
もっと(おそ)るべきモノの片鱗を味わった……!)
 発する態度は対照的だったが、背筋を劈いた戦慄と冷たい雫は同様のもの。
 深慮するほどに自我崩壊を招きかねないほどの恐怖が心奥から沁み出るが、
貴公子と雷獣は己が怯懦(きょうだ)を強引に振り切った。
「オオオオオオオオオオォォォォォォォッッッッ!!!!」
「ヌオォォォォッッッッ!!!!」
 スタンドと本体、二つの拳が襲い来るより一瞬速く、
雷獣の翅翼が羽撃き砕けた神鉄ごと上空へと飛翔する。
 そして見上げる男がチェスの駒ほどに小さくなった高度で、
視るも無惨に破壊された装甲が蠢き、新たな獄威へと変貌を遂げる。
 シュドナイが一度の戦闘で、ましてや人間相手に
三度までの “大業” を行使するのはコレが初めてである。
 先刻と同じ事態を憂慮しないわけではない、だが力が拮抗しなければ、
“鬩ぎ合い” に成らなければ同じ結果に成りようがない。
 なれば微塵の余力も残さずこの一撃にて、
何をどうしようが防ぎ得ない“檄 鎚(げっつい)” にて。
 魂までも討ち砕く!
 その瞬間的破壊力なら “神鉄如意” 最強、
天空の高みより黒影と共に敲き堕とされる巨大な激震。
 吼 魔(こうま)塵 滅(じんめつ)七 大 業 第 参 烙(ななたいぎょうだいさんらく)
神 鉄 如 意(しんてつにょい)弑 弩(シ ド)ノ獄】
遣い手- “千変” シュドナイ
破壊力-S+++ スピード-D 射程距離-全長666メートル
持続力-E 精密動作性-E 成長性-E







 ソレは、愚かなる人間に絶対の裁きを下す、
無慈悲な偶像の 『断罪』 そのものだった。
 三度膨張を遂げた神鉄は、掲げる雷獣がチェスの駒ほどに視える超巨大な戦槌に変貌、
その全面に紫色の濁炎を纏わしさらに周囲をドス黒い放電が迸っている。
 正に終末の宣告、スベテの存在を生贄(くもつ)として捧げる “怪物” の降臨。
 だが。
 バキリッ! 鈍い音を立てて雷獣の一角がへし折れた、
継いでその頑強な体躯も脆く零れ出し、
背の翅翼が細い(とうこつ)骨を剥き出しにしてボロボロに、
禍々しき毒蛇の尾も根本から(から)びて地に落ちる。
 そう、回復も行なわず三度もの大獄変貌。
しかもその最後の一撃がこれまで以上の存在力を消費する超大業と在っては、
幾らシュドナイと雖もその肉体は堪えきれず無情に崩れ去るのみ。
渾 楔 颯(こんけつさつ)
 超絶の秘儀 『神砂嵐』 すらも凌駕する風の最 終 流 法(ファイナル・モード)であるが、
コレはその最終極威を刳り出した者と全く同じ。
 この闘争(たたかい)に於いて 「成長」 していたのは承太郎のみではない、
永きに渡る澱み、その一切を洗い流したシュドナイの精神も、
まるで別モノの如く核変(かくへん)していた。
 崩れ行く肉体、毀れ往く精神、消え去り逝く存在、
その一切を己が神鉄(ほこり)に込め、勝利を掴む!
 称讚するべしその無惨なる雄姿(すがた)、礼讚されるべしその気高き精魂(たましい)
傲岸で旁若な王はもう此処にはいない、
嘗てと同じ、否、それ以上に崇高な存在(おとこ)が、
ただ一人其処に在るのみ。 
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――――
――――――ッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
 噴出する己が()に塗れた猛将の “檄鎚” が大地へと敲き堕とされた。
 最早逃れる事敵わず、防ぐ事(あた)わず、如何なる宝具やスタンドでも、
『紅世最強の男』 が討ち放った心魂の一撃を征するコトは出来ない。
「……」
 逃れようのない破滅を眼の前に、承太郎の心は逆に澄んでいた。
 勝敗は別にして、善悪は抜きにして、
コレほどの男とココまで戦えた事を、スベテ誇りに想えた。
(シャナ……)
 だから、それ故に。
( 『約束』 護れねぇかもしれねぇ……ゴメンな……)
 終局に於いて、偽りようのない言葉が裡で零れた。
 でも、 “だからこそ”
 罅割れた大地を蹴り、青年はスタンドと共に頭上の災厄へと真正面から向かっていった。
 不断の決意、決死の覚悟、 『男』 として、
最後までみっともない真似は出来ない。
 コレが最後だとしても、否、 “最後だからこそ”
人間の精神は何よりも強く燃え上がる。
 熱く、激しく、燃え尽きるほどに。
 最早、第三者の介在はない、これで終わる。
 長かった二人の戦い、極限の闘志と信念と魂の誇り、
そのスベテに決着がつく。
 一瞬の時の(まにま) に、悠久の空の彼方(かなた)に――!


←TOBE CONTINUED…




 
 

 
後書き



はいどうもこんにちは。
シュドナイ君も補正かけて承太郎みたいな男と戦わせれば、
充分以上にカッコよくなるのですなぁ~。
(でもソレ元のキャラか・・・・?('A`))
やっぱ「主人公」がどうしようもないと、
それに合わせて周りのキャラもランクダウンするので
本当にテキトーに作ったらいけないのだと身に沁みる想いです。
(だから何で「普通の高校生」が考え付くコトを、
「戦闘」の「専門家」であるフレイムヘイズが考えつかないの?
何千年も何万年も何ヤってきたの? バカしか敵にいなかったのか?)
いずれはジョジョのような「名作」をライトノベルで読んでみたいとは
想いますが、「表紙」で満足してしまうとソレは難しいのかもしれません。
(だから過去作の文庫が出ないし有名作家は一般文芸の方に行ってしまう)
ソレでは。ノシ


 
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