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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic19-Cその日、ミッドチルダ~Mission failed~

†††Sideすずか†††

ヴィヴィオとフォルセティを奪い返すためか、メガーヌ准陸尉とその娘のルーテシアが機動六課に襲撃を仕掛けてきた。でもそのために防衛戦力として隊舎に残ってた私やアリサちゃん、シャマル先生にザフィーラにアイリ、それにヴァイス陸曹は、それぞれの持ち味を活かしてこれを迎撃。だけどその途中でロングアーチとの連絡が取れないと言うことが判って、私とシャマル先生は念のために隊舎内に戻ってその様子を確認しに行くことに。

「ロングアーチ。誰か応答して」

グリフィス君やシャーリーに通信を繋げるけどノイズばかりが返ってくるだけ。酷い通信妨害を受けてる。そんなロングアーチの様子を確認しに行くために階段を駆け上がって、指令室へと向かう。そして指令室のドアの前に辿り着いて、ドアがスライドして「みんな!」声を掛けながら中へ入る。

「「え・・・!?」」

グリフィス君、シャーリー、アルト、ルキノの4人が床に倒れ伏してる光景があった。さらには機材がメチャクチャに壊されていて、火花を散らしては白煙・黒煙を上げていた。私はシャーリーとアルトとルキノ、シャマル先生はグリフィス君の側に駆け寄って抱き起こして「しっかり!」呼び掛ける。

「ダメ、完全に意識を刈り取られてるわ!」

私がいま抱えているシャーリーもグッタリはしているけど呼吸はちゃんとしている。とにかく「ここに居たんじゃ火に呑まれちゃう」から、みんなを廊下にでも避難させないと。1人ずつ懸命に廊下へと避難させていく。

「これ以上延焼しないように、せめて火を消しておかないと」

ひとり指令室に戻って、「リフリジレイト・エア・・・!」室内に強力な冷気の渦を発生させて鎮火させた。それからシャマル先生と話し合って、グリフィス君たちを緊急時の避難先として決めていた寮に運ぶことを決めたんだけど、どうも人手が足りない。助けを呼ぶにも念話も通信もダメだし・・・。

「とにかく! 引き摺ってでも・・・! むぅぅ~~~!」

シャマル先生がグリフィス君とルキノの手を取って、ズリズリと引き摺って行く。それしか方法が無いよねって観念した私も「ごめんね~」シャーリーとアルトの手を引っ張ってズルズルと引き摺って行く。出来るだけ怪我をしないように、スカートが脱げないように、そしてグリフィス君たちを襲い、指令室をメチャクチャにした犯人を警戒して、廊下を歩く。

「スノーホワイト。魔力やエネルギー反応はある?」

≪いいえ。隊舎内ではすずかとシャマル先生のみですわね≫

「そう。・・・リヴィアが居るかもって思ったんだけど・・・」

屋外にはメガーヌ准陸とルーテシアだけだったから、まず間違いなくリヴィアが居ると思ったんだけど。ううん、何かしらの魔法を使ってステルスモードに入ってるかもしれないし。もしくは、また別の戦力が来ているかも知れない。

「さーてと。階段はどうしようかしら・・・」

2階へ降りるための階段に到着して、このまま引き摺って降りて良いのかちょっと悩む。でもここでジッとしててもしょうがないからそのまま降りて行く。引き摺っているグリフィス君たちの踵がガッツンガッツン踏み面に当たる。あとでシャマル先生に治癒魔法を掛けてもらおう。そして3階と2階の途中の踊り場を踏んだその時・・・

「「きゃぁぁぁぁぁ!?」」

大きな爆発音と立っていられない程の振動が連続で襲ってきた。警戒はしていたけどその突然の振動に立っていられなくて、私とシャマル先生はドテッと転んじゃった。当然「あー! ごめん!」グリフィス君たちも、踊り場に後頭部をゴツンと・・・。気を失っているから反応はないけど。

「今の爆発は何!?」

「黒煙が・・・!」

2階からここ踊り場に上がって来る熱を持った黒煙。防護服の袖で口と鼻を覆い隠して、「シャマル先生。どうしましょうか」これからどう動くかを相談する。

「このまま降りるのは危険だわ。しょうがないけど3階に戻りましょう」

「判りました。ごめんね、みんな。とりあえず、スノーホワイト。黒煙を逃がすよ」

≪畏まりましたわ!≫

――バスターラッシュ――

壁に向かって砲撃を撃って、壁に穴を開けることで黒煙の逃げ道を作り出した。すると黒煙は私が開けた大穴から外へと一気に流れて行った。これで3階にまで黒煙が来ることはないはず。だから今の内にグリフィス君たちを3階へ運ぶ。廊下に4人を横たえさせて、「クラールヴィント!」シャマル先生が治癒魔法を同時に4人に掛けた。

「すずかちゃん。周囲の警戒をお願い」

「はい!」

――ケレリタース・ルーキス――

「っ! すずかちゃ――」

――トイフェルフォアスト――

強大な魔力反応を背後に感知した上にシャマル先生の呼び掛け。攻撃される、そんな察知は出来た。出来てはいた。だけど、「んぐ!?」強烈な打撃が側頭部に打ちこまれた私は、そのまま意識を失ってしまった。

†††Sideすずか⇒ルシリオン†††

推測通りに公開意見陳述会の開催日に、プライソン一派が地上本部へ襲撃を掛け、そしてここ機動六課の隊舎にも攻撃を仕掛けてきた。ターミナルでプライソン一派を迎え撃つべくシャマル達が待機していたが・・・

「始まったか・・・」

爆発音が続けざまに聞こえ始め、魔力反応が次々と膨れ上がっていく。迎撃部隊のシャマル、アイリ、ザフィーラ、アリサ、すずか、そしてヴァイス。さらにメガーヌさんとルーテシアの魔力を感じる。が、リヴィアの魔力反応だけがどこにも無い。

(別行動を取っているのか? 気付いてくれ、みんな)

俺は立場上、助言することも出来ない役立たずだ。だが「パパ・・・」フォルセティと、「なのはママ、フェイトママ・・・」ヴィヴィオ。怯える2人に「大丈夫。ママ達、アイリお姉さん達が戦ってくれている」」優しく声を掛け、肩を抱いて抱きしめて、その恐怖を和らげさせることくらいは・・・。

「うん。だいじょうぶ、だいじょうぶ。ヴィヴィオ、手、出して」

「?・・・う、うん」

ヴィヴィオが差し出した左手をそっと掴んで「手をつなげばだいじょ~ぶ♪」フォルセティは満面の笑顔を浮かべた。するとヴィヴィオも釣られて「だいじょ~ぶ♪」怯えから一転、安心した笑顔を浮かべてくれた。微笑ましく見守っていると、きゅ~、と可愛らしい腹の鳴る音が聞こえた。

「あぅ・・・。おなかすいちゃった・・・」

ヴィヴィオが照れくさそうに腹を押さえた。すると「ぼくも・・・」フォルセティも腹を押さえて俺を見てきた。俺はここ、緊急時の避難所として決められていた寮の食堂をぐるりと見回す。テーブルを組んで作った簡易のバリケードの中で身を寄せ合っている俺たちと六課の非戦闘員。夜勤シフト組や隊舎を動かすのに必要な人員以外は、万が一に備えて施設外に退去しているため、いま隊舎に居るのは最低限の十数人程度だ。

「ヴィヴィオ、フォルセティ。ちょっと待っていてね」

そう言って立ち上がるのは、寮母の1人であるアイナさん。母親としての経験を活かして、ヴィヴィオとフォルセティの世話係を担当してくれている。だから2人もアイナさんのことが大好きだ。

「あ、手伝います」

「いえ。セインテスト調査官はそのまま、2人の側に居てあげてください」

立ち上がろうとした俺を笑顔で制し、アイナさんは1人バリケードの間を縫って厨房へと向かった。戦闘員以外の食事は後回しにされていたからな。幼いヴィヴィオとフォルセティが腹を空かせるのはしょうがない。アイナさんは巨大な冷蔵庫から食材を取り出して、「美味しいパンケーキを作るわね♪」と、2人に微笑みかけた。

「「パンケーキ!? やったー!」」

万歳して喜びを表す元気いっぱいな2人の様子に、不安げな表情になっていた他の隊員たちの雰囲気も柔らかいものになった。それからパンケーキが出来るまでの間、2人とあっち向いてほいをやりながら時間を潰す。

(っ! リヴィアの魔力・・・! いきなり現れたな)

突如として魔力を発したリヴィアの存在を探知した。俺は本当にこのまま留まっていていいのか、そう強く思う。だが俺は、もう少し現在(いま)という時間に浸っていたいと願っている。はやてやみんなと同じ時間を、同じ世界で過ごしたいと。

「もう少しで出来るからね~!」

「「はい!」」

厨房から良い香りが漂って来る。そして「はい完成!」アイナさんはパンケーキの乗った皿2枚を手に、「お待たせ」ヴィヴィオとフォルセティの元へと戻って来た。アイナさんを含めた4人の寮母は食堂の調理も担当しているから、見た目からしてもう美味いと判る。

「「いただきます!」」

美味しそうにパンケーキを頬張るヴィヴィオとフォルセティ。俺のクローンなのだから当たり前だが、俺の瓜二つだというのに義理の息子が愛おしい。この最後の契約で、俺はどこまでこの子の成長を見ていられるだろうか。

「セインテスト調査官!」

「グリフィス? ・・・すずか、シャマル!?」

そんな悲痛な叫び声と慌ただしい足音で、柔らかな空気だった食堂は緊張色へと逆戻り。シャマルがグリフィスに背負われ、シャーリーとアルトがすずかの腕を肩に回すようにして運んで来て、ルキノが少し足を引き摺りながら遅れてやって来た。
気を失っているらしい2人は局の制服に白衣姿という、戦場では命取りになるノーマルな服装になっている。気になるのは「デバイスを持っていない・・・!?」だ。グリフィス達はシャマルとすずかを床に横たえさせ・・・

「リヴィア・アルピーノの奇襲です!」

「最初は私たちでした!」

「次に目を覚ました時、そこには変身が解除されたシャマル先生とすずかさんが倒れていて・・・」

「リヴィア・アルピーノの姿がなかったので、急いでここに・・・!」

そう事情を教えてくれた。フォルセティが「シャマルせんせー!」半泣きでシャマルを揺らす。俺は「大丈夫。すぐに目を覚ますよ」フォルセティの肩に手を置く。

「パパ・・・、ホント?」

「ああ、本当だとも。シャマルもすずかも、じきに目を覚ますよ」

――傷つきし者に(コード)汝の癒しを(ラファエル)――

俺はシャマルとすずかに治癒術式を掛け、「潮時か・・・」ポツリと漏らす。もうルールがどうとは言っていられないな。リヴィアの転移スキルはやはり強力だった。シャマルとすずかが簡単に墜とされるのがいい証拠だ。あの子の転移スキルとルーテシアの召喚魔法は、攻城側としては圧倒的なアドバンテージだ。アルピーノ家が六課の攻略に来たその瞬間、こうなることは決まっていたのだろうか・・・。

「パパ・・・?」

「グリフィス。ここは任せる」

「どちらへ!?」

「緊急特例として、現時刻を以って私、ルシリオン・セインテストも戦闘に参加する。フォルセティ、ヴィヴィオをしっかりと護れよ」

俺は自分の額をフォルセティの額とコツンと合わせ、ヴィヴィオは僕が護ると公言しているフォルセティにそう伝えると、「うんっ。絶対にまもる!」フォークを片手にヴィヴィオの手もしっかりと握るフォルセティが力強く頷いた。それを見届けて俺は片膝立ちから立ち上がり、テーブルの間を縫ってバリケードから出たところで・・・

「セインテスト調査官」

グリフィスに呼び止められたから振り返ると、「お気を付けて」グリフィスやシャーリー達が敬礼して送り出してくれた。俺も敬礼を返し、急いで寮から飛び出す。“エヴェストルム”を起動し、防護服へと変身。まずは・・・

――暴力防ぎし(コード)汝の鉄壁(ピュルキエル)――

対物シールドを引き延ばして食堂の内壁すべてを覆い尽くす。これで万が一、寮が倒壊しても食堂は潰れないで済むし、ガジェットのミサイルやレールガンを防ぎ、魔法の流れ弾もある程度は防げるだろう。

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

背より剣翼12枚を展開して空へと飛び立ち、戦況を左右できる戦力であるリヴィアの魔力を探る。ターミナルの方から戦闘音が続いているが、今はまずリヴィアの無力化を優先だ。で、アリサがリヴィアの側に居ることが判明。場所は炎や黒煙に包まれた隊舎、その3階。魔力反応を標として近付くと窓からリヴィアと・・・

(あの後ろ姿と武装・・・、ディードか!)

先の次元世界ではジェイル・スカリエッティの作品・戦闘機人として、今回ではプライソン・スカリエッティの駒・シコラクス(バトルスーツがノーヴェ達と同じだから、そうなのだろう)として存在しているディードが見える。ディードが武装のツインブレイズを振り上げているとなれば、アリサが床に倒れているかもしれないという状況だ。

「(すでに損壊してるからと言って壊していいものではないが緊急事態だ!)そこまでだ!」

――闇よ誘え(コード)汝の宵手(カムエル)――

最優先に行うのはリヴィアとディードの攻撃を停止させること。そのために平たい影の触手カムエルを発動して、これ以上の戦闘行為が出来ないように2人を簀巻きにする。それを確認して、“エヴェストルム”で窓を叩き割って屋内に突入。
廊下には予想通りアリサが居り、床に蹲っていたが、意識はあるようで顔は俺に向けていた。そして彼女の近くにはシャマルの“クラールヴィント”とすずかの“スノーホワイト”が待機モード状態で落ちていたことから・・・

「アリサ。すずか達は大丈夫だ」

アリサを安心させるべくそう伝えた。すると彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、「お、おそい・・・わよ、ルシル・・・。馬鹿・・・」次いで俺が戦闘に参加するタイミングの遅さを叱責した。

「俺の事情も少しは酌んでくれ。ほら、立てるか?」

カムエルで口まで塞がれていることで「む~む~!」と唸るリヴィアとディードを横目に、アリサに右手を差し出す。すると「あんま見ないでよ」顔を腕で覆い隠した。近くには吐瀉物があるため、腹に大きな衝撃を受けたんだろう。

「・・・あたしは少し休めば自力で動けるわ。アンタは外をお願い。・・・メガーヌ准陸尉とルーテシアとガリューはなんとか捕まえたけど・・・Ⅱ型がわんさかと来てんのよ」

「判った。シャマル達は避難所の食堂で休んでいる。デバイスを渡してやってくれ」

――傷つきし者に(コード)汝の癒しを(ラファエル)――

アリサに治癒術式を掛け、「戦力を元に戻すのね。了解よ」俺の指示にそう答えてくれた。俺は頷き、「さてと」カムエルによって簀巻きにされているリヴィアとディードの側へと歩みる。

「気を付けなさいよ、ルシル。リヴィアの転移スキル・・・マジで厄介よ・・・」

「熟知しているよ」

「???」

“界律の守護神テスタメント”として、“霊長の審判者ユースティティア”との死闘は位相空間転移ありきだ。そういう手合いとの戦いも当然慣れている。

「すまないな、リヴィア・アルピーノ」

――深淵へ誘いたる微睡の水霧(ラフェルニオン)――

スプリンクラーが動いていたのか廊下が水浸しだったため、その水分を利用して催眠効果の魔力を含ませた霧を発生させる。アリサの方へ流れて行かないように魔力で風を生み出し、リヴィアとディードのみに霧を吸わせると目がトロンとなり、ゆっくりとまぶたを閉じた。

「よっこらせ」

2人をそれぞれ両方の肩に乗せて、俺は突入して来た窓から外へと出て屋上へと上がる。そこにはアリシアとヴァイスが居たんだが、「コレは、オットーのプリズナーボクス・・・だったか?」立方体の結界に閉じ込められていた。

「ふむ。あそこにメガーヌさんとルーテシア、あとガリューが隔離されているんだな」

海辺の近くにはザフィーラの鋼の軛で作られた檻が立っている。これで実質残っているのはオットーだけだな。俺はコンコンと結界をノックすると、「んな!? ルシ――セインテスト調査官!」アリシアと、「何やってんすか!?」ヴァイスが気付いて驚きを見せた。

「シャマル、アリサ、すずかがこの2人に墜とされた。まぁ俺の治癒魔法を使ったからすぐに戦線復帰できるだろうが」

そう答えながらリヴィアとディードのふとももをポンポンと叩いた。ちなみにこれは決してセクハラではない。胸や尻を触ってはいないからな!・・・いや、どこを触っても嫌がられたらアウトだったっか。

「でも、調査官としてのルールとか・・・」

「もうそんなこと言っていられないだろ実際」

ターミナルではアイリとザフィーラが、光線を放ちまくるオットーや、それに遠くから放たれて来るレールガンを必死に躱しながらも反撃する姿がある。あれはもう持ちそうにない。

「始末書がすごいことになりそう・・・」

「始末書で済めばいいんだがな」

「え、何か言った?」

「いいや」

内務調査部からのペナルティは始末書で済むだろうが、最高評議会からのペナルティは契約通りに俺が“ジュエルシード”を巡って起こったPT事件にて死亡した被疑者・テスタメントであるという秘密の暴露だろうな。

(どうせ当初の予定では、この辺りで姿を晦まそうとしていたんだ。踏ん切りを付ける時が来た、ということなんだろうな・・・)

カムエル1本を使ってリヴィアとディードの体を屋上から乗り出させる。合図1つで地上へ落下させられるように。大きく息を吸い、「プライソン一派、オットーに告ぐ! ただちに戦闘行為を中止せよ!」アイリの氷弾を避け切ったばかりのオットーに呼び掛ける。彼女の視線が俺たちの居る屋上へ向けられ・・・

「っ!?」

カムエルによって簀巻きにされたリヴィア、それにオットーの妹に当たるディードの姿に、彼女の目が見開いたのが判った。アイリも「え、どうして・・・!?」と同じように目を見開いて驚いている。

「何が狙いだ・・・?」

「まずはこちらに向けて無粋にもレールガンを撃ってくるガジェットⅡ型の攻撃をやめさせろ」

“エヴェストルム”を二剣一対のゲブラーフォルムへと変え、その刃をリヴィアとディードに突き付ける。オットーは「公務員がそのような真似、出来るものか」と、懸命に冷静を装いながらそう返した。Ⅱ型の攻撃も止むことなく、ターミナルへと次々と撃ち込まれていく。

「残念だ」

屋上から伸ばしていたカムエル1本をブチっと解除。ぶら下げられていたリヴィアとディードがスッと落下。オットーが「ディード!」大慌てで飛び立った。俺はそんな彼女の行く手にパンツァーシルトを展開。

「フォイア」

――ラケーテン・パンツァーシルト――

「なっ!? うわぁ!」

まさかシールドが射出されるとは思わなかったのだろう。オットーは回り込もうとしていたが、それより早く射出されたシールドを腰に受けた彼女は空中でぐるっと一回転して地面にドサッと落ちた。そこを狙ってカムエルでオットーも捕縛。

「ディード!」

少しはリヴィアの心配もしてやれとも思うが、「考えを改めてもらえるか?」リヴィア達が地面に激突する直前に、地面に出来ている影からカムエル2本を伸ばして2人をキャッチして、ここ屋上へと放り投げさせた。2人を屋上から伸ばした別の2本のカムエルでキャッチ。

「俺は本気だぞ、オットー。こちらも命懸けだ。お前たち敵を無傷で捕らえる努力はしよう。だが抵抗があれば、骨の1本や2本くらいは覚悟してもらおう」

「・・・・僕に、その権限はない」

「なれば、誰がその権限を有す? プライソンか?」

「・・・ガンマ」

ガンマ。アルファやデルタ、イプシロンと並ぶサイボーグ姉妹の1人か。だったら「こちらで勝手に破壊させてもらおう」か。“エヴェストルム”を待機モードの指環に戻し、弓を構える体勢を取る。

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

創り出すのは魔力の弓、そして槍の如く長い1本の矢。矢を番え、「そら往け!」羽根から指を離して射る。ウルはある程度進むと、ロックオンした対象の数だけ分裂して一気に蹂躙する。超高速でⅡ型へ突き進むウルは、Ⅱ型の反撃や迎撃を許すことなく着弾し、次々と爆散していった。

「迎撃完了」

「格好つけてないで、早くここから出してよ」

ぷんぷんと頬を膨らませていたアリシアがドンドンと結界を叩いた。ヴァイスも「お願いします」小さく頭を下げた。

――破り開け(コード)汝の破紋(メファシエル)――

障壁・結界の破壊効果を有する術式メファシエルを付加した右拳の拳打で、アリシア達を捕らえている結界をガツンと殴って叩き割ってやる。

「ふは~。ありがとう、ルシル」

「どうもっす」

「ああ。とりあえず、下に降りようか」

アリシアとヴァイスに対象を浮遊させる魔法フローターを掛け、ゆっくりと地面へと降ろしつつ、リヴィアとディードを抱え上げた俺も屋上から飛び降りた。すると「ル~シル~!」結構ボロボロになってしまっているアイリが抱き付いてきた。

「ねえねえ! アイリ、すごく頑張ったよ! 褒めて!」

「良く頑張ってくれたな、アイリ。偉いぞ」

リヴィア達を地面にそっと降ろしてからアイリの頭を撫でると、「えへへ~♪」本当に嬉しそうに破顔した。さぁアイリはどうしようか。はやて達の元に置いていっても、どんな手を使ってでも追いかけて来そうだ。それはともかくとして、「ザフィーラ。軛を解除してくれ」遅れて歩み寄って来たザフィーラに頼む。

「いいのか?」

「問題ない。即座に俺が捕縛し直す」

「承知した。アイリ、お前の氷結の軛も解除しろ」

「ヤー」

鋼の軛が解除されると、その中からアイリの氷結の軛が現れ、それも上の方からゆっくりと消えて行き、「シーリングバインド」をスタンバイ。そしてメガーヌさんと、ルーテシアを横抱きに抱えたガリューの上半身が見えたところで発動。

「ぅく・・・!」

メガーヌさんとガリュー、もちろんルーテシアも個別に捕らえた。リヴィアと違ってメガーヌさんとルーテシアはスキルを保有しない純粋な魔導師。魔力の結合を強制的に解除するシーリングバインドは正に魔導師殺し。女性であるメガーヌさんと気を失っているように見えるルーテシアは最早逃れられないだろう。ガリューには特別に「レストリクトロック・・・!」を追加。

「リヴィア! ディード、オットー!」

「六課襲撃犯はこれで全滅です、メガーヌ准陸尉。大人しく投降してくれませんか?」

メガーヌさんの記憶が無いのがレーゼフェアによる魔術か、プライソンによる施術か、それを確かめるためにジッと眺める。神秘は感じられないことから、プライソンの洗脳の線が濃厚だろうな。

「悪いようにはしません。まぁ本事件が解決するまでは拘置所に入ってもらい、魔力が使えないように処置をしますが・・・。ですから、お願いします。投降してください」

メガーヌさんに頭を下げて頼みこむ。およそ10秒くらいだろうか。沈黙が流れた後、「判りました。投降します」メガーヌさんが確かに、そう言ってくれた。俺はそのまま「ありがとうございます!」礼を言ってから顔を上げた。

「オットー、ガリュー。抵抗しないようにね」

「・・・判りました」

メガーヌさんを信じて俺はシーリングバインドやカムエルを一旦解除し、改めて手錠のようにして発動する。意識を失っているルーテシアはヴァイスが、リヴィアは俺が、ディードはザフィーラが、それぞれ横抱きにして・・・

「・・・で、どこ行くんすか? 隊舎はあの、燃えてるし・・・」

「ガレージ、護送車へ。近隣の陸士部隊隊舎の拘置所を借りよう」

「うっす」

隊舎の裏手にあるヘリポートとガレージ。そこにはヘリや陸士部隊共通の護送車が1台停めてある。ちなみに俺の愛車であるリバーストライク・“マクティーラ”もある。

「ルシル。念話が通じるようになったよ。こっちでの戦闘が終わったことを伝えておいたよ」

「ありがとう、アリシア。アリサをこっちに回してくれ。職務規定違反をすでに犯している俺だが、これ以上の違反は犯せない。アリサに護送車を運転してもらおう」

「ん。判った」

ガレージに到着すると、俺の“マクティーラ”やヘリや護送車は無傷だった。俺は護送車のドアを開けて「メガーヌ准陸尉、乗ってください」乗車するように促すと、メガーヌさん達は大人しく乗ってくれた。

「ザフィーラ、アイリ、ヴァイス。アリサに同行してくれ。メガーヌ准陸尉たちを奪い返しに襲撃を掛けられる可能性がある」

「「了解!」「承知した」

『判ったわ。というか、ルシル。アンタ、シールドを張ってたでしょ。入れない所為ですずか達にデバイス渡せないんだけど。どうすればいいわけ?』

アリサからそう言われてハッとした。ピュルキエルは結界ではないから確かに出入りは出来ない。なら、「寮のエントランスで合流しよう」そう伝えた。そこで俺がアリサからシャマル達のデバイスを受け取り、食堂で一旦ピュリキエルを解除してデバイスを渡し、改めてピュリキエルを発動すれば良い。

『なるほど、判ったわ』

「わたしは?」

「アリシア、シャマル、すずか、そして俺で、ヴィヴィオとフォルセティの護衛を続ける」

「オッケー!」

『判ったわ』『了解』

アリサ達にも念話で指示を出し終えた後、俺はひとり寮へと向かう。そしてエントランスで「ルシル!」アリサと合流して、「頼むわよ。あんたを頼りにしてんだから」シャマルとすずかのデバイスを受け取る。

「じゃあアリサ。護送を頼む」

「ええ。アンタ達も、ヴィヴィオとフォルセティをしっかり護りなさいよ」

「ああ、任せろ」

アリサとコツンと拳を突き合わせてから別れた。アリサはガレージへ、俺は食堂へ。すっかり元気になってくれていたシャマルとすずかが「ルシル君!」ピュルキエル越しに出迎えてくれた。しかしすぐにハッとして口を手で押さえた。彼女たちが振り返った先・・・

「ヴィヴィオとフォルセティは眠ってしまっているのか」

「うん。パンケーキを食べてお腹いっぱいになったみたいね」

「それじゃあ起こさないようにしないとな」

食堂の床で蹲るように寝ているヴィヴィオとフォルセティの姿があった。起こさないように食堂の内壁を覆っていたピュリキエルを解除して、「コレを」2人にデバイスを手渡す。これで改めてピュリキエルを発動し、ターミナルで襲撃を待ち構えればいい。シャマル達が防護服への変身を終え、グリフィス達にもう少し待っていてもらうように言って踵を返したところで・・・

「パパ・・・?」

目を覚ましたフォルセティが俺を呼んだ。俺は「すぐ戻って来るから、良い子で待っているんだぞ」微笑みかけた。するとフォルセティは「だっこ」なんて甘えてきた。正直、急いでいるから「また後でな」と言ったら、フォルセティが今にも泣きそうな顔になった。

「セインテスト調査官。抱っこしてあげてください」

アイナさんにそう言われてはもう断ることなど不可能だ。

「パパ・・・、だっこ・・・」

「ほら、フォルセティ」

上半身だけを起こして両腕を伸ばして来るフォルセティを抱っこするために片膝立ちをして、横抱きに抱え上げた。

「・・・る・・・」

「ん?」

「・・まも・・・ぼく・・・」

「ん?・・・あぁ、ヴィヴィオはお前が護ってやれ」

「まもる・・・護る。ぼくが・・・僕が・・・ヴィヴィオを・・・聖王陛下を・・・」

「フォルセティ・・・?」

「僕が、ヴィヴィオ陛下を護る!」

――知らしめよ(コード)汝の忠誠(アブディエル)――

「え?・・・お゛っ・・・ごはぁ・・・!?」

胸に強烈な熱さを感じ、その直後に脳天に届く激しい痛み。そして吐血。俺の胸に添えられたフォルセティの右手から魔力刃が1つと展開されて、俺の胸を貫いていた。

「「ルシル君!?」」

両膝が折れて両膝立ちした俺はフォルセティを落とした。胸には創傷。心臓や俺の核となっている魔力炉(システム)にダメージが無いのは幸い。じゃない。肺をやられた所為で呼吸がし辛く、吐血が止まらない。シャマル達が駆け寄って来て、俺に治癒魔法を掛け始めた。

「聖王ヴィヴィオ陛下を護る騎士。それが僕、プフェルトナーだ!」

――高貴なる堕天翼(エラトマ・エギエネス)――

フォルセティの幼い体の背中から、“堕天使エグリゴリ”と同じクジャクの美しい尾羽のような魔力翼が放射状に20枚と展開された。

――輝き奪う黒き仮面(キアーブーシュ)――

「これは・・・!」

フォルセティから発せられた魔力。その瞬間、左目どころか唯一正常だった右目の視力すら失い、俺は闇に放り込まれてしまった。

「視界が・・・!」

「何も見えない!」

俺だけじゃなく、シャマルやすずか、さらにはグリフィス達からも視覚異常が起きたと声が上がる。

「ぐふっ、ごほっ、呪われし者に(コード)汝の施しを(ラファエル)・・・!」

吐血しながら術式名を詠唱。発動するのはラファエルのバリエーションで、治癒効果は一切ないが、対象に掛けられたマイナス要素の術式効果を解除すると言うもの。俺の胸に開いた創傷を後に、まずは視界回復を優先した。死に難い体で良かった。

「敵魔導師は排除。もしくは無力化せよ。力なき者には慈悲を」

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

ラファエルで視覚を取り戻した瞬間、フォルセティは俺の創傷に右手を当て、そこから砲撃を撃った。全身を貫く激痛、そして浮遊感。ゼロ距離砲撃を受けた俺は光の奔流に呑まれ、食堂の窓から外まで吹っ飛ばされた。

「あ・・・ぐ・・・ぐぅ・・あ゛あ゛あ゛・・・!」

物理破壊設定の砲撃をゼロ距離で受けたら普通は死ぬ。というか死ぬほど痛い。意識が朦朧とする中、「敵戦力、無力化完了。次は施設を破壊」フォルセティが窓から飛び出して来て、空へと上がった。敵戦力の無力化が済んだということは、シャマルやすずかも・・・。

「く・・・そ・・・」

――女神の祝福(コード・エイル)――

上級の治癒術式エイルを発動しつつ、『アイリ・・・1人で来い・・・!』念話で伝える。アリサ達はメガーヌさん達の監視だからな。

『マイスター!? マイスター! どうしたの、マイスター!?』

『事情は後で話す・・・急げ』

『ヤー!』

星空の中に、俺と同じサファイアブルーに輝くアースガルド魔法陣が薄らとだが見える。あの子は施設を破壊すると言っていた。どんな魔法を使ってくるか、俺のクローンということもあって見当もつかない。

「其は神域にて永く眠りし天災の王。我らの願いの元、王に盾突く者共を屠るがため、いざ天にて目覚め、地に向け高らかに謳え」

風に乗って聞こえて来たフォルセティの声、というより呪文詠唱。そして、その呪文内容に血の気が失せた。

「うそ・・・だろ・・・おい・・・!」

「マイスター! マイ――んな!? どうしたのその怪我!」

「もうすぐ治る・・・! ユニゾンだ、急げ・・・!」

「忠義なる炎熱。至純なる氷結。不屈なる風嵐。正義なる雷撃。希望なる閃光。無情なる闇黒。苛烈なる土石」

「ヤ、ヤー! ユニゾン・イン!」

アイリとユニゾンを果たす。俺単独であれば記憶消失レベルの魔術を使ったらアウトだが、アイリとのユニゾン状態であればアウトラインが大幅に緩くなる。魔力炉(システム)の稼働率を引き上げ、魔導師から魔術師へと昇華。

「まずは寮を護ることが最優先だ!」

ユニゾン状態でもおそらく100%の記憶消失率であろう“力”を使う。しかし少しでも和らげば・・・。人差し指に魔力を付加し・・・

「沼地の島として、平原の丘として、妖精丘の木として、月が欠けゆく空の星として、先祖に愛される子どもとして、森の真ん中で、あらゆるものの前に勇敢でいられますように」

――Eolh――

原初魔術であるルーンを使う。寮の壁に防御のルーン・エオローを刻みつつ詠唱。フォルセティの魔力には神秘が付加されている。ただの防御魔法じゃ大した障壁にはならない。が、「ぐぅああああ・・・!」頭痛と胸痛に襲われる。やはりルーンは神秘が強過ぎ、魔力消費量が大きいためにすぐに記憶を失った。
すでに詠唱を妨害しても無意味なほどにフォルセティの発動率が臨界に近い。なら防御に専念する他ない。と、ここでアリサ達がガレージに居ることに軽く絶望する。今から寮に連れて来るには遅すぎた。隊舎はもう無人であるから諦めているが、ガレージには大事な仲間や知人が居る。

「其の威光を示す七つの聖杖を突き、破滅の音を打ち鳴らせ」

「くそ・・・!」

――万物神の粛清(コード・アルフォズル)――

上空7方向より六課隊舎に向かって飛来するのは、30m近い長さを誇る7属性の螺旋状の槍。

「ならば、敷地内全体を護り切るのみ! 女神の護楯(コード・リン)、多重展開!」

『ヤー!』

俺の有する防性術式の第2位、女神が祈る姿が描かれたシールド・リンを7枚、直径5mと拡大した上で多重展開する。ズキズキと頭と胸が痛み、「うぐぅぅ!」記憶を失ったことを示す喪失感がまた去来し、知らず涙が溢れた。さすがにリンの多重展開もアウトライン越えか。

『ひゃぁぁぁぁ!』

その中でアルフォズルの槍7本がリンに着弾。着弾時に発生した衝撃波が周囲一帯の空間を歪ませた。足元が大きく振動し、バキバキとコンクリートがひび割れる音がし、隊舎3階の一部が崩れた。アルフォズルの脅威はこれからだ。ドリルのように高速回転している槍がそれぞれ開いていって、周囲に圧倒的な殲滅・蹂躙・破壊を齎す竜巻と化した。

『なにこれぇぇぇ!』

万物神の粛清(コード・アルフォズル)!・・・俺の・・・元真技だ!」

7属性の竜巻の威力は収まることなく、周囲に7属性の射砲撃を何十発と撒き散らして隊舎付近を破壊していく。さらにリンにヒビを入れ始める始末。強度を元に戻し、いやさらに増すために魔力を流し込む。

「あっ、ぐぅ、うぁああああああ!」

強烈な頭痛と胸痛が起き、そこで俺の意識はプッツリと途絶えた。

 
 

 
後書き
ドブロホ・ランクゥ。 ドブリイ・デニ。 ドブリイ・ヴェチル。
聖王ヴィヴィオを守護する騎士として覚醒したプフェルトナー・フォルセティ。Epic17でプライソンが言った、「その時は、奴を目覚めさす」、の伏線が今回のフォルセティ覚醒ですね。というか、やっぱり決着まで辿り着けなった。
 
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