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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic20-A幕間~After of Battle End~

 
前書き
とりあえずニーアオートマタは、このエピソードⅣが終わってからプレイしよう・・・と思う。 

 
†††Sideはやて†††

昨夜、地上本部と機動六課はプライソン一派の襲撃を受けて・・・壊滅した。地上本部を襲ったのは、なのはちゃんとフェイトちゃんとシャルちゃんからの報告で、巡航ミサイルによる攻撃やってことは判ってる。セントラルタワーの上中層がミサイルの攻撃で所々が崩壊してもうた。私らの居った会議室の天井も一部崩落したけど、私はシグナムが、カリムはシスタープラダマンテが護ってくれたから、幸い怪我はなかった。

(そやけど・・・)

隊舎に残ってヴィヴィオとフォルセティの護衛を務めることになってたチーム全員が、検査を含めての入院を余儀なくされるほどに怪我を負ってしもうた。特に酷いんはルシル君やった。調査官としての立場を捨て、ルシル君は前線に出張ってくれた。そんで昔のように、ホンマに酷い怪我を負った。アイリも未だに意識不明のようで、ルシル君とユニゾンしたままや。

「はやて、大丈夫・・・?」

「カリム・・・。うん、大丈夫や」

肩に手を置かれて名前を呼ばれる。機動六課の後見人の1人であるカリムや。今、私は聖王教会本部に来てる。今後の六課の方針を決めるための会議を行うためや。脚の長い円テーブルに付いてるのは私とカリム、そんでクロノ君や。

「寝ずに事後処理をしていたんだろ? 少し仮眠でも取るか?」

「大丈夫や。他のみんなも隊舎で寝ずに仕事してくれてるし、私だけ休むわけにはいかへん」

涙が出るほど頬をパチンと強く叩く。もう30時間近く休眠を取ってないからな。でもそんなことは言ってられへん。カリムから心配そうな目を向けられたまま。クロノ君は目を一度伏せた後、「そうか・・・。では続けよう」そう言うてテーブル上にSoundonlyと表示されたモニターを1枚と展開。

『御機嫌よう、我が永遠の兄弟にして宿敵・時空管理局の諸君。俺が、お前たちがいつまで経っても正体を掴み切れない天才科学者、プライソンだ。今夜送り届けたプレゼントは、俺からの宣戦布告だ』

流れるんはプライソンからの声明を録音した音声データ。映像はないし、声も加工されてる所為で歳や性別(俺って言うてるけど当てにならへん)は不明や。襲撃が止んだ直後に地上本部や本局に出されたもんや。

『この世に生み出され、そして今日までのうん十年間と溜め込まれた管理局への恨み、辛み、憎しみ、それらを込めさせてもらった。そして諸々の準備が終えたその日、本格的に俺たちは進撃してミッドチルダ全域を攻め落とし、ミッドチルダを支配する! 止められるものなら止めてみろ、地上本部、本局! お前たちが俺に依頼して造らせた質量兵器で、ミッドを火の海に変えてやろう!』

プツンと音声が切れたところで、「この声明で本局は大慌てだ」そう言うてクロノ君は大きく嘆息した。ミッドチルダを武力で制圧して支配する。戦乱時代を再び引き起こすのが、プライソンの狙いっぽい。それだけでも十分悩みの種やけど・・・

「俺に依頼して造らせた質量兵器で、というのがさらに嫌な話です」

「ええ。この声明がメディアに流出しないように本局で動いていますが、どれだけ持つか判りません」

カリムやクロノ君の言う通り、プライソンが地上本部と本局から受けた依頼で造った、ってゆうのが一番の悩みの種や。プライソンのその話が真実であれ虚偽であれ、この話が世間に知られたりでもしたら管理局の信用は失墜してしまうかもしれへん。永遠の兄弟ってゆうのもまずい単語や。それは即ちプライソンは、管理局組織と癒着してるって捉えることが出来る。

「プライソンと取引をしている可能性のある容疑者は、ミッドチルダ地上本部・防衛長官レジアス・ゲイズ中将だ。査問委員会を開くことを伝えてはいるようだが、彼はそんな暇などないし、査問されるような疚しい事はしていない、と突っ撥ねているようだ。他にも数名、本局内に居る」

「ロッサの調査報告から、そう判断したんやな?」

「ああ。ゲイズ中将は黒寄りのグレーだ。査問委員会に掛けるだけの理由はあるはずだ。他の数名もグレー枠なんだが、階級や役職が本局内で高いため少々厄介だ。まぁ内務調査部が全面協力してもらうことになったから、問題もじきに解決するだろうが」

ドクター、ジェイル・スカリエッティ少将が確立させた全身サイボーグ化技術・BNAC。それを実際に兵器転用したのはプライソンやけど、実はゲイズ中将も地上部隊の戦力増強を狙って、ドクターに技術提供するように持ちかけてた。もちろん、ドクターがそれを承認するわけもなく。そんなところにプライソンがBNACの兵器転用。

(もう随分と昔の話や。そやけど、ゲイズ中将やプライソンは、そんな昔からいろいろと動いてたわけや)

さらには魔法文化が全盛になって以来、主に外科的な処置や調整などで、対象に強力な魔力や魔法行使能力を持たせる技術・人造魔導師計画が生まれた。プライソンはそれにも手を出してる。

(メガーヌ准陸尉やルーテシア・リヴィア姉妹、クイント准陸尉がエネルギー運用やなくて魔法を使い続けてるのがええ証拠や)

すでに成長した人への施術は失敗することが多く、そんで行き着いたのが生命操作技術によって適合率の高い素体――人を生み出すってゆう何度も試みられてきた、倫理から外れた代物。プライソンのプロジェクトF.A.T.Eを始めとしたクローン製造や、適性のある素体製造も、この人造魔導師計画に繋がって来る。

(准陸尉たちはどうやら適性があったみたいやな。喜ぶべきもんやないけど・・・)

「プライソンの技術力を使えば、確かに地上の戦力は充実するでしょう。ですがそれは倫理から大きく外れてしまっています。人を、戦力のために改造したり生み出したりするなんて・・・」

「プライソンは確かに天才だ。犯罪者でなければ、スカリエッティ少将と同じように歴史に名を遺せるほどの。だがその頭脳や技術力を間違った方向に使っている。そんな彼と、いかなる理由があれ繋がるのは間違っている」

ドクターのBNACは人を救うためのもんや。それを兵器に転用したプライソンへの怒りは一切消えることはない。

「それで今後の方針だが、機動六課にはプライソンの逮捕、レリックの回収を行ってもらうことになる。そして・・・拉致されたヴィヴィオとフォルセティの救出だ」

「っ!」

フォルセティの名前が出て来たことでビクッと肩が跳ねて、膝の上に置いてた両手をギュッと握りしめた。フォルセティとヴィヴィオは、メガーヌ准陸尉たちによって拉致された。

「大丈夫、はやて?」

「う、うん、大丈夫や・・・」

ホンマは不安でしょうがない。恐いことをされてへんか、痛いことをされてへんか、泣いてへんか、フォルセティのそんな様子を想像してもうて胸が苦しくなる。私に声を掛けてくれたカリムにそう答えて、声に出さずとも心配してくれてる目を向けてくれてるクロノ君にも、「了解や」頷いた。

「頼む。プライソンからの宣戦布告も発せられたことで、本局は第一種警戒態勢となり、地上本部へ応援部隊をさらに送るつもりだ。・・・そう地上本部の本部長と進言しているんだが・・・」

「ゲイズ中将がそれを許さへん、か」

「あくまで彼に掛かっているのは容疑だからな。黒だと確定していない以上は、こちらの権限で強引に進めるわけにはいかない。それで本局とミッド地上本部の軋轢が決定的になっては、本局や聖王教会からの協力要請に、ゲイズ中将にイエスと言わせたルシルの功績が無駄になってしまう。それだけは回避したい」

「ミッドが滅亡する可能性がある事件にでも発展しなければ、本局と地上本部が好意的ではないとは言え協力できないのは悲しい事ですが、本事件を発端として関係を少しでも良好なものへと変えていければいいですね」

「そのためには、プライソンにお灸を据えやなアカンな」

それから本部からミッドへ送れる戦力や、六課ですぐに動ける人員の確認を行った。地上本部の警備に当たってたなのはちゃんとフェイトちゃんの隊長2人、ヴィータとリインの副隊長と補佐はほぼ無傷。フォワード4名とギンガは、多少の怪我を負ったけどすぐに出撃できるレベルや。問題は・・・

「アリサ達か・・・」

「うん。アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃん、ヴァイス陸曹、そんでシャマルとザフィーラ。みんな重傷や。今のところ意識を取り戻したんはシャマル、すずかちゃん、アリサちゃん、アリシアちゃんの4人。一応医師の診断やと、アリサちゃんとザフィーラとヴァイス陸曹以外は魔法ありきで完治1週間ってことや」

六課も戦力が結構削られてしもうたことや。意識を取り戻してるシャマル達はすぐにでも動けるって言うてはくれてる。そやけどドクターストップが掛かった。アリサちゃんなんて腕と脚を骨折してるしな。そうゆうわけで、今すぐにでも戦えるのはなのはちゃん達だけや。

「ルシル君とアイリは・・・」

「ルシルが調査官としてのルールを逸脱して戦闘に参加したことは、内務調査部にも伝わっている。しかし緊急事態だったいうこともあり、事件の大きさもあって特例として認められて不問と処された。さらには、戦闘行為が可能な状態であれば前線での戦闘を行ってもいいという許可も出た」

クロノ君の話は、嬉しい半面つらいもんもある。ルシル君と一緒に戦えることが嬉しい。そやけど、あんなにボロボロになってしもうたルシル君をすぐに戦場に出すのは、人として、想い慕う者として出来ひん真似や。

「ルシル君はたぶん、もうこの事件中には目を覚まさへんと思う。もし目を覚ましても私からは戦ってなんて言えへんしな。ルシル君が戦うって言うたとしても、引き止めそうやわ・・・」

「そこのところは、君やルシルの意思に任せるよ。・・・これで最後だ。君の要望通り、アースラを運用できるように手続きを済ませておいた。明日の早朝にはミッドへ降ろせる」

「おおきにな、クロノ君」

六課の隊舎は司令本部としての機能せえへん程の損壊で、代わりの司令部が必要になった。じゃあどこに本部は移せばええ?ってことで、いろんな候補を出してく中で行き着いたのが、廃艦工程に移行する前にドックで眠らせてたアースラや。

「僕や母さんのアースラ元艦長の肩書きが活きてくれたよ」

「寮の方は大丈夫? 寝泊まりする場所が無いなら、教会の宿舎を利用する?」

「寮は大丈夫やったよ。ルシル君が護ってくれたみたいや」

損壊の激しい隊舎に比べて寮は食堂以外はほぼ無傷やった。と、カリムにそう答えた直後、通信を知らせるコール音が応接室に響いた。

「私や。ちょう失礼するな。・・・はい」

クロノ君とカリムに一言断ってから通信を入れてモニターを展開。モニターに映るのは「何かあった、フェイト隊長?」やった。フェイトちゃんは今日、みんなの入院先である聖王医療院で、入院してるみんなに付いてくれてる。昨夜、隊舎で何が起きたのかを目を覚ました誰かから聴取するために。

『あ、うん。さっきはアリシアとアリサが目を覚ましたことを報告したんだけど、今回はルシルとユニゾンしたままだったアイリが目を覚ましたって報告を。ルシルは未だに意識が戻らないんだけど・・・。その、アイリに今の私たちが置かれてる状況を説明したら・・・――』

フェイトちゃんの話の内容に「え・・・!?」私は絶句した。

†††Sideはやて⇒フェイト†††

メガーヌ准陸尉たちの襲撃を受けて壊滅的被害を受けた機動六課の隊舎。襲撃に巻き込まれた隊員たちは、ここ聖王医療院の入院棟でお世話になっている。まずは、意識がすぐに回復して聴取を待ってくれているすずかとシャマル先生の病室に来て、その2人から事情を伺うことに。

「最初はね、優勢だったんだけど。アリシアちゃんとヴァイス陸曹が、召喚され続けるガジェットが完全に姿を見せる前に破壊してくれて行ったから」

「でも途中でアリサちゃんが気付いたの。司令部との連絡が取れないことに。それで私とすずかちゃんで司令室の様子を見に行って、そこで気を失ってるグリフィス君たち、機材が破壊されているのを確認したの」

2人の話によると、その後にグリフィス達を避難先の寮に運ぶ最中でガジェットが隊舎に侵入して自爆。隊舎の損壊は大体この自爆の所為みたい。直後にすずかとシャマル先生が、リヴィアの奇襲を受けてアウト。

「それで気が付いたら避難先の食堂に居たの。そこで、私たちが気を失った後で目を覚ましたグリフィス君たちによってここまで連れて来られて、ルシル君が治癒魔法を掛けてくれたことを聴いたんだ。そして、ルシル君が前線に立ったってことも知った・・・」

「その後すぐにアリサちゃんがやって来て、私とすずかちゃんのデバイスを持って来てくれたんだけど・・・。ルシル君が張った広域シールドのおかげで受け取れなくて。そこにメガーヌ准陸尉たちを全滅させたってアリシアちゃんから念話が入って、近くの陸士隊舎にメガーヌ准陸尉たちを護送することになったって」

アリサに護送車の運転を任せて、ルシルがそのままヴィヴィオとフォルセティの護衛として戦線に立つことになった。アリサと入れ替わるようにルシルがやって来て、シールドを解除。そしてデバイスをすずか達に返して、ターミナルでさらなる襲撃に備えようとしたところで・・・

「フォルセティが・・・、ルシル君を刺したの・・・」

「え・・・!?」

「それに、エグリゴリの・・・あのクジャクの尾羽のような翼を展開したわ」

「ちょっ、え、え!? フォルセティって、エグリゴリだったってこと・・・!?」

ここに来て混乱を招く情報が入ってきた。フォルセティは実は“エグリゴリ”で、敵で、ルシルを刺したということ?・・・って。頭の処理速度が追いつかない。ただ、「いえ。たぶん、違うわ」シャマル先生が否定してきた。

「あの翼は魔術だって話だから、レーゼフェアかフィヨルツェンが教えたのかも知れないわ。とにかく、ルシル君を砲撃で外まで吹き飛ばした後、フォルセティは何らかの攻撃魔法で私とすずかちゃんの意識を刈り取ったの」

「気が付けば病院・・・だね。でもね、フェイトちゃん。あれは絶対にフォルセティの意志じゃなかった。いきなり豹変したんだよ。言葉遣いもいきなり成人みたいになっていたし。アレは明らかに操られていた・・・!」

「私も同意見よ」

それがすずかとシャマル先生、食堂で意識を失ってた2人からの報告だ。私は「ありがとう、すずか、シャマル先生。今はしっかり休んでね」お礼を言ってから病室を後にした。次の病室へって行きたいところだけど、アリシア達は今も眠っているまま。ボロボロになっていたガレージの外、アリシアとアリサとヴァイス陸曹とザフィーラの4人が、破壊された護送車の近くで倒れているのを発見した。

(現場の状況から戦闘が行われたようで。・・・たぶん、フォルセティがメガーヌ准陸尉たちを解放するために・・・)

そう推察できる。プライソンへの怒り、というよりはもう憎しみが募り続ける。プライソンはすでにフォルセティへの何かしらの施術を終えていたんだ。そして何らかの技術でフォルセティを操った。すずか達の話から考えるに、遠隔で洗脳操作が出来るみたい。

(仕事だった昨夜の事情も大まかだけど判った。私も事後処理に行こう)

エリオやキャロ、スバルとティアナ、それにギンガも六課の事後処理を行ってくれている。入院した隊員の中には私の直接の部下でもあるアリシアやシャーリーが含まれていたから、私がここに来ることになった。
非戦闘員のシャーリー達は打撲や捻挫だけで済んでいて、念のための検査入院で明日には退院できる。でもどう言った経緯であれ留守を任されていたのに、六課を護りきれなかったことを悔いて泣いてしまっていて弱り切っている。その事もあって、詳しい事情も聴けずにお見舞いの挨拶だけで済ませちゃった。

「一応最後にアリシアの顔でも見に行こう」

隊舎に戻る前にもう一度、アリシアとアリサの病室へと向かうことにした。アリシアは、アリサに庇ってもらったみたいで比較的に軽傷だった。地上本部での巡航ミサイルやガジェットなどの迎撃を行っている中、六課と連絡が取れないことに気付いたことで、私とエリオとキャロのライトニングが六課へ急行して、燃える隊舎と荒れ果てた敷地、敷地内に倒れ伏したアリシア達やガジェットの残骸を目の当たりにした。

(キャロは泣いてた・・・。私の居場所を壊さないでって・・・)

そんなキャロをエリオにお願いして、私はひとり敷地内を巡回。ガレージ側でアリシアと、アリシアに覆いかぶさっていたアリサ、そして2人を護るような位置に倒れていたザフィーラとヴァイス陸曹。さらに寮の前で・・・

(物理破壊設定の魔力槍でお腹を貫かれている状態のルシルが寮の前で倒れていた・・・)

痛ましいルシルの姿があった。ルシルの姿の異変に目を疑ったけど、急いで病院へ運ばないといけないって思って後回し。六課と協力体制を敷いてくれている聖王医療院へ連絡して救急車と、ルシルへの応急処置の仕方を聴く。
その間にエリオとキャロに隊舎や寮の様子を見て来るように指示。避難先になっている食堂で、すずかとシャマル先生、シャーリー達が気を失って倒れていること、そしてヴィヴィオとフォルセティの姿が無いことを、とても辛そうな声で教えてくれた。私だって足元が崩れたような錯覚を得てへたり込んでしまったし。

(それから地上本部への襲撃が終わり、地上本部からの厳戒態勢解除の指示が出たことで、夜明け前になのは達が戻ってきた・・・)

なのは達が帰って来るまでの間にルシル達は医療院へと搬送されて、通信で六課の状況を私は伝えた。帰って来ていきなり酷い惨状を見せる隊舎や、ヴィヴィオとフォルセティが拉致された現実を目の当たりにせずには済んだけど、それでも大きなショックだったと思う。

「・・・ん?」

気持ちが暗く沈んでく中、目の前の扉がガチャっと開いたかと思えば「アリシア!?」が出て来た。病衣を着たアリシアは私に気付いて「フェイト! おはよう! お腹空いちゃってさ~」なんて言いながら手を振ってきた。

「アリシア~? フェイトが居るの? ナースコールってどれなのか訊いて~」

病室からアリサの声も聞こえてきた。早足で病室に入ると、「お、フェイト」アリサも私に手を振った。元気そうで何よりだけど、骨折してる左脚と右腕、頭に巻かれた包帯や顔に張られたガーゼが痛々しい。

「アリサ・・・」

「・・・悪かったわね、フェイト。ヴィヴィオとフォルセティを護れ切れなかったわ」

「謝らないで、アリサ。どうしようもない時だってある・・・」

どれだけ頑張っても、上手く行かないときだってある。私も、みんなも経験してる。世界はそんなに優しくないし甘くない。でも「一度の失敗で全てが終わるわけじゃない」から、これからのやり方次第で挽回だって出来るはず。

「ヴィヴィオとフォルセティは目的があって生み出された。だから命には危険はないと思う。なら助けよう。きっと、私たちが助けに来てくれるのを待ってくれている」

アリサとアリシアに言った言葉は、私に言い聞かせている言葉でもある。けれどこれまでの会議で、ヴィヴィオとフォルセティはプライソンにとって重要な存在だって話してた。プリンツェッスィンとプフェルトナー。2人の開発コードと思しき単語。ベルカ語で王女と守衛。その役割の推測も終えている。だからきっと2人は大丈夫だ・・・。

「ええ、そうね。その通りね。んじゃ、すぐに戦線に復帰できるようにまずは腹を満たす!」

「おー♪」

明るい2人の雰囲気が私の頬を綻ばせる。2人に「すぐにご飯を用意してもらうよ」そう伝えて、医療院の人に連絡を入れる。で、2人がご飯を食べている間に「はやて? アリシアとアリサが目を覚ましたから、その報告をと思って」連絡を入れておく。

『ホンマか!? それは良かったぁ~。またなんかあったら連絡してな』

「了解」

はやてもはやてで、ルシルやフォルセティのことが心配で不安で、集中治療室に居るルシルの側に居てあげたいって思っているだろうけど、部隊長として休むことなく仕事をしている。

「で、現状は一体どうなってんの?」

「わたし達、エグリゴリの翼を展開したフォルセティにボコられてから記憶が無いんだけど・・・」

「あぁ、やっぱりフォルセティが・・・。さっき、すずかとシャマル先生からある程度の事情は聴けたよ」

すずか達から聴いた話を2人にも伝えると、「推測通りだったわけね」アリサと、「守衛の通り、聖王ヴィヴィオを護ったわけだ」アリシアが悔しそうに漏らした。ヴィヴィオは聖王として、古代ベルカ時代の戦船・“聖王のゆりかご”を起動させるための鍵。フォルセティは、そんな鍵として重要なヴィヴィオを護るための騎士。そう結論付けていた。

「プライソンは憎たらしいほどに頭が良いわね。ルシル以上の実力を有するかもしれない魔神オーディンのクローンを据えるなんて」

「わたしとアリサとザフィーラとヴァイス。瞬殺されちゃったもんね・・・」

いきなり視界を封じられて、そこを魔法で追撃をされたって話で、魔力反応と気配、そして匂いでザフィーラが指示をくれなかったら本当に危なかったって。

「重傷か死か。フォルセティが徹底してあたし達を殺しにかかって来なくてラッキーだったわ」

「不幸中の幸いだよね・・・。っと、ザフィーラとヴァイスは?」

「ヴァイスとザフィーラは打撲・擦過傷・骨折などのかなりの重傷で、治癒魔法ありでの治療で全治1月半ちょっと。しばらくは安静にしていないとダメだって」

「そう。・・・ザフィーラとヴァイスがちゃんと護ってくれたから、あたしもこの程度の怪我で済んだし。あとでお礼を言いに行かなきゃね」

「うん、一緒に行こう」

そして、プライソンからの声明内容を伝える。本局と地上本部に宣戦布告をして、戦争の準備が整ってから質量兵器と言う武力でミッドチルダを制圧して支配する、と。その準備期間がどれくらいかは判らないけど、「教会騎士団が総力を上げて、プライソンのアジトを探してくれてる」と伝える。

「期日不明の開戦か。一気に完治させるにはルシルのエイルが必要ね」

「ルシルは今どうしてる? あとアイリも」

「ルシルは意識不明の重体で、アイリはルシルとユニゾンしたまま意識を失ってるみたいで出て来ないの」

医師の話だと、アイリがルシルとユニゾンしたままのおかげで、ルシルの脈拍とか命に係わる大事な要素がギリギリ保たれているとのこと。そしてマリーさんの話では、ルシルの容体がある程度安定したら、アイリの意識が戻るかもしれないという話だ。

「アイツ、こんなのばっかじゃない。何度も死に掛けて・・・」

「はやてとシャルも、不安でしょうがないよねきっと・・・」

それからご飯を食べ終えた2人と挨拶を済ませて退室。すずかとシャマルはもう休んでいるはずだから、最後にシャーリー達、そしてルシルの様子を見てから隊舎に戻ろう。シャーリー達の病室は上の階だから階段室へと向かう中・・・

「え・・・!?」

目の前から局の制服と白衣っていう格好の「アイリ・・・!」が歩いて来たんだけど、フラフラと覚束ない足取り、さらには視線は宙を彷徨っている。私は「アイリ!」へと駆け寄る。名前を呼びながら肩に手を乗せて揺らしていると、「フェイト・・・?」焦点が合って、しっかりと私の目を見た。

「しっかり、アイリ。どうしたの。こんなところで。それにアイリがここに居るってことは、ルシルは大丈夫なの?」

「ルシル・・・、マイスター・・・。・・・っ! そうだ、ルシルは!? アイリ、ルシルとユニゾンして、誰かの魔法を防御して、えっと、えっと・・・!」

アイリの様子から記憶が混濁しているみたい。私はしっかりとアイリの目を見詰めて、「落ち着いて、アイリ!」少し大きめに声を出す。それでアイリは口を閉じて、「うん、大丈夫、アイリは・・・大丈夫」深呼吸を繰り返して落ち着いてくれた。

「アイリは今までルシルとユニゾンしたままだったんだよ」

アイリにこれまでの事を伝えた。ルシルは意識不明の重体で、アイリもブラックアウトダメージ(過大な魔力ダメージを受けたり魔力を使い過ぎたりして術者に起こる現象で、リンカーコアや肉体にも深刻なダメージが起きる危険もある)で意識不明だったこと、それにマリーさんから聞いた話も一緒にした。

「アイリが・・・ルシルを守ってた・・・?」

「うん。アイリの意識が戻ったのは、たぶんだけどルシルの容体が安定してきたからだと思う」

「・・・あ、思い出した! 誰かの魔法、ううん、アレは魔術だった! ソレを防御してたらルシルが意識を失って・・・! それでアイリがルシルの身体の支配権を借りて、どうにかする前に・・・魔力の槍で貫かれたんだ。物理破壊設定だったから、ルシルが死なないように治癒魔法を発動し続けて・・・、アイリも気を失った」

それがルシルとアイリの事の顛末だった。だから発見時、ルシルの髪色は銀じゃなくて白で、防護服も黒色じゃなくて濃い目の灰色だったんだ。でももう1つ、気になることがある。信じられないけど・・・。ううん、今はいいや。

「フェイト。ルシルのところに案内して」

「あ、うん。付いて来て」

アイリを伴って集中治療室棟へ向かって、ルシルの病室がある2階へ。その間に管理局全体が置かれている現状を伝える。アイリは「そう。フォルセティだったんだね、あの攻撃は・・・」辛そうに、そして悲しそうな複雑な表情を浮かべた。

「でも、そういうことならルシルには早く起きてもらわないとね」

「え? ルシルを起こす方法があるの!? というか起こしていいの無理やり!?」

「フェイト、しーっ!」

「あっと」

思わず大きな声を出しちゃって、慌てて口を両手で塞ぐ。改めて「大丈夫なの?」訊ねる。

「ルシルは守るため、救うための戦いには大張り切りだよ。それが身内なら特にね。それに今回はエグリゴリまで関わってるし。もし事件解決後まで放ったらかしにされたら、かえって怒るよ」

「確かに・・・。でもどうやってルシルの意識を取り戻させるの? アイリの治癒魔法だと、ルシルの意識を回復させることって・・・」

「出来ないね、とっても悔しいけど。でも方法はあるんだよ。シュヴァリエルに殺されかけて、敵だったリアンシェルトに負っていたダメージを回復させられるっていう情けが嫌だったみたいだね。こういう状況に陥った場合がもしまた起きたら、アイリが起こすことになってるの」

初耳だった。ルシルって結構隠し事とか秘密とか多いんだよね。何でも自分ひとりで出来るからって、ちょっとそういうのが多いのが悲しいような切ないような。親友なんだからもう少しコミュニケーションを取ってほしいかも。

「アイリがユニゾンして精神世界に居るルシルに干渉して起こすの。普通、ルシルの精神世界に干渉するなんて余程の実力者か、本人に招き入れられない限りは無理なようなんだけど、アイリはと・く・べ・つに許可を貰ってるから出来るんだよね~♪」

えっへんと胸を張るアイリ。それはともかく、一応「はやてに今の話を伝えるね」上司に報告を、だ。アイリは「あ、はやてにも教えてあげないとダメだよね」コクリと頷いた。そういうわけで早速、はやてに通信を入れる。

『何かあった、フェイト隊長?』

さっきの時もそうだったけど、モニターに映るはやての顔色はお世辞にも良いとは言えない。部隊長として頑張るはやてに私は、労いの言葉より先にルシルを覚醒させる方法と、それをアイリが今から行うことを伝えた。そして、それを行わせていいのかを訊ねてみた。

『正直、目覚めてすぐにルシル君を戦わせるのは気が引ける。調査部から正式に戦闘に参加してええって許可が下りててもな。そやけどアイリの話も理解できる。ルシル君なら確かに・・・解決後まで寝かされてたら怒るかもってな』

はやてがそこまで言って僅かに俯いて数秒後、『アイリ。ルシル君を起こしてあげて』許可を出した。アイリは「ヤー!」元気よく敬礼したんだけど、すぐに「しーっ」私と同時に人差し指を唇に当てた。

「じゃあはやて。ルシルを起こしてから一緒に隊舎に戻るよ」

『うん、お願いな、フェイトちゃん!』

はやてとの通信を切る頃に「ここにルシルが居るよ」病室の前に到着して、スライドして開くドアを潜って室内へ。そこには酸素マスクやら電極やら点滴やらが付けられたルシルの姿がある。そして改めてルシルの異変を目の当たりにする。

「あちゃあ。ルシルの秘密が・・・」

アイリがそう言ったのが聞こえた。ということは、今ルシルに起こっている異変を前々からアイリは認識しているみたい。

「ねえ、アイリ」

「ん~?」

「ルシルの身長が低くなっている(・・・・・・・)のって・・・なに?」

そう。ルシルの身長が恐ろしく低くなっているのだ。180cm程だったのに、ベッドに横たわっているルシルの今の身長は目測だけど、はやてと同じくらいで150cmちょっと。30cm近く縮んでいることになる。

「・・・ルシルの成長、止まってるの。8年くらい前から」

とんでもない話を聞かされた。ルシルの成長がそんなにも前に止まっていた。つまりは今までのルシルは変身魔法か何かで、わざわざ身長を高く見せていたってことに・・・。

「それじゃ! アイリ・セインテスト、行っきま~す!」

――ユニゾン・イン――

私が混乱している中、アイリはマイペースにルシルとユニゾンを行っていた。
 
 

 
後書き
ギュナイドゥン。メル・ハバ。イイ・アクシャムラル。
戦闘から戦争の合間の出来事を描いた今話。ここでとうとうルシルの秘密が明らかに。そう、成長が8年前――小学生時代から止まってしまっている、と。ユーノとホテルで同室だった時、キャロと初邂逅の時、ルシルが漏らしていた知られたくない秘密というのがコレ。ラストエピソードに向けて結構な重要な設定ですね。その原因はまた後の話にて。
 
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