八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第九十二話 ホテルに帰ってその五
「わかりにくいんだよね」
「独特ですわね」
「濁音がね」
東北の言葉は大体そうだけれど特に津軽はだ。
「凄くてね」
「わたくしも聞いていまして」
円香さんもというのだ。
「わかりにくいですわ」
「そうだよね」
「はい、それで辻島さんは」
「あの人飲めないんだよね」
完全な下戸だ、体質的にお酒は全然受け付けないらしい。
「一滴も」
「だからこうした時も」
「ジュースなんだよね」
何でもサイダーが好きとのことだ、合気道部の男子部員の同級生から聞いた話だ。
「だから今もね」
「サイダーを飲んでおられますわ」
「そうだよね」
「はい、あの方は」
「お酒はね」
それこそとだ、また言った僕だった。
「飲まないよ、まあ言葉はね」
「あの方もですわね」
「津軽弁も独特だから」
「わかりにくいですわね」
「どうしても」
こう話す、そして。
その話をしている間にもだった、主将は飲み続けていた。その飲みっぷりも豪快で実に薩摩隼人らしい。
肴も食べている、牡蠣をどんどん食べているが。
留美さんは僕達の方の牡蠣を見てだ、僕にこんなことを言った。
「牡蠣は好きだが」
「それでも?」
「うむ、牡蠣よりも豆腐か」
こちらの食べものだというのだ。
「私が好きなのは」
「わたくしも。牡蠣は好きですが」
円香さんも言う。
「やはりお豆腐ですわね」
「そして野菜だな」
「そちらの肴の方がいいですわね」
「そうですわね」
「ああ、二人共山に囲まれているところに住んでたからね」
留美さんは京都、円香さんは奈良だ。どちらも山に囲まれている国だ。京都府は舞鶴の方に海があるけれど京都市は盆地で山に囲まれている。
「生ものは今は食べられるけれど」
「うむ、伝統的にお豆腐やお野菜の方がな」
「お酒の肴ですわ」
「私達の代では普通にお刺身も食べているが」
「長い間そうではなかったですわ」
「山国だとね」
どうしてもとだ、僕も言った。
「生もの食べなかったからね」
「鯉も食べるが」
留美さんはこう僕に返した、鯉も美味しいけれど。
「あれはな」
「うん、危ないんだよね」
「生で食べるとな」
「川魚は怖いよ」
寄生虫がだ、これは鯉も同じだ。
「それこそね」
「うむ、そうだからな」
「食べないよね」
「少なくとも私の家では食べない」
「私のお家でもでしたら」
円香さんのお家もだった、奈良の。
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