八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第九十二話 ホテルに帰ってその二
「わかったな」
「人はあそこまで奇麗になれて」
「それで、ですね」
「あの人達がいたから今の日本がある」
「俺達もここにいるんですね」
「そうだ」
まさにという言葉だった。
「これは陸軍さんも同じだからな」
「海軍さんだけじゃなくてですね」
「陸軍さんもですね」
「俺達の為に戦った」
「命を賭けて」
「自分のことしか考えない奴だっている」
世の中にはだ、そんな奴もいることも確かだ。
「それでもな」
「ああした人達もいて」
「俺達に全てを賭けてくれた」
「散華してもですね」
「助けてくれたんですね」
「ああ、本当にな」
見れば主将は泣いていた、目が濡れている。
「このこと絶対に忘れるな」
「はい、わかりました」
「俺達忘れません」
一年の子達も言う、ただ彼等は泣いていなかった。けれどその心には確かなものが届いていることがわかった。
そうした話をする中でだ、主将は彼等にこうも言った。
「わかったらだ」
「わかったら?」
「と、いいますと」
「今夜も飲め」
こう言うのだった。
「いいな」
「はい、わかりました」
「今日も飲みます」
「広島の地酒思いきり飲みます」
「豪快に」
「酒は飲め」
柔道部の主将は代々酒豪らしい、選んでいる訳じゃないけれどそうした人が代々続くというジンクスがあるとのことだ。
「潰れるまでな」
「それで朝はですね」
「またここに来てですね」
「一気に酒を抜く」
「そうしますか」
「そうだ、そうしろ」
是非にと言うのだった。
「いいな」
「はい、わかりました」
「それならですね」
「夜は飲む」
「二日酔いになるまで」
「そうしろ、わかったな」
こう言ってだ、そしてだった。
主将はお風呂の後で実際に浴びる様に飲んでいた、ただ酒を飲むだけ特に暴れる訳でも絡む訳でも泣く訳でもない、勿論笑うこともない。
ただ普通に飲んでいく、それでだった。
主将と同じく武道をしている留美さんと円香さんがだ、その主将を見つつ僕に言って来た。
「柔道部の主将だが」
「いつも通りですわね」
こう言って来た。
「いい飲み方だ」
「奇麗な」
「何というかだ」
「紳士ですわね」
「うん、あの人はね」
僕にとっては先輩にあたるこの人はだ。
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