FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
“一緒”
前書き
カグラとラーケイドがバトルしてるけど、今着てるカグラの服ってディマリアに切り刻まれた奴に似てませんか?なんかハルジオン港にいた時は別のを着ていた気がするのは気のせい?
第三者side
ここは退場者たちが集う待合室。そこでモニターで試合の行方を見守っている猫耳の女性とゲジ眉の男性の元に、一人の少女が転送されてくる。
「あ、ソフィア」
「お疲れ」
戦いで乱れた髪を手櫛で直すソフィアに声をかけるミリアーナとユウカ。それに対し彼女は何も答えることなく、ミリアーナの隣にある椅子にちょこんと座る。
「ミャア?ソフィア怒ってるの?」
「え?怒ってないよ?」
何も返事をしてくれない少女の反応を見て膨れているのかと顔を覗き込んだミリアーナだったが、ソフィアはなぜそんなことを聞かれたのかわからないといった顔をしている。
「いや、返事してくれなかったから」
「あ!!ゴメンゴメン。こっちが気になってたから」
ソフィアはただ自分が退場した後のゲーム展開がどうなったのかを気にしていただけだったようで、言葉を交わしてみるといつも通りの感じだった。
「それで?ソフィアが退場した後どうなった?」
設置されている画面を凝視してその後の展開を確認しようとするソフィア。そんな彼女にミリアーナとユウカが事の進展を伝える。
「シリルがカグラのスペルを当てたが、退場はリオンに阻止されてたな」
「カグラさんのスペルって何だったの?」
「五文字透視」
「あぁ・・・」
言われてみると想像できなくはないスペルだっただけに、なぜ戦っている最中に思い付かなかったのかも残念そうな表情を見せる。
「カグラのはともかく、ウェンディのスペルって何なんだ?」
「私たち、それが気になって仕方ないんだけど」
自分たちのプレイヤーのスペルよりも、いまだにベールに包まれている少女のスペル名が気になって仕方ない様子の二人。ソフィアは彼らが複数で挑んでも攻撃を当てることすら出来ていなかったのを思い出し、そのように思うのもうなずけると納得していた。
「シリルと一緒だよ」
「「え?」」
「シリルと一緒」
ソフィアの言葉の意味がわからず、ミリアーナとユウカは顔を見合わせる。
「二人とも同じスペルってことか?」
「でもそれじゃあ文字が被っちゃうから発動できなくなるんじゃ・・・」
ソフィアの言葉を信じるのなら、5スペルサバイバルのルールにある『文字が一つでも被った場合、その能力は発動できない』に抵触してしまう。なので二人はその旨を伝えると、少女はなんと説明すればいいのか一度整理をし、再び話し始める。
「二人のスペルは別々だよ。ただ効果は一緒ってこと」
「そういうことか」
スペル名さえ違ければ、効果が同じであっても問題はない。なぜならそれを禁止するルールはどこにも存在しないのだから。
「そういえばシリルにも攻撃当たってないもんね」
「??最初は拘束できてたんだろ?」
「あれはまだイメージが出来てなかったらしいから」
文字が被ってなければ特殊能力を発動させることはできる。しかし、能力の使用者の中でその特殊能力のイメージができていないとちゃんと効果を発揮できないことになっている。それゆえに開始早々のミリアーナの“尻流亀甲縛”で彼は捕まってしまったわけだが、その後はカグラの攻撃をまだ一撃も受けていない。
「しかし、一体どんな五文字なんだ」
「だから!!シリルと一緒だって!!」
「そのシリルのスペルがわかんねぇんだよ」
敵の攻撃を容易く交わす二人のスペルが何なのか、気になって仕方ないユウカと先ほどから同じことを繰り返すソフィアは少々口論のようになっている。その二人の間に挟まれているミリアーナは、自分は関係ないと言わんばかりにシカトを貫くことにしていた。
シリルside
青年の手を借り立ち上がった女性は、乱れた衣服を整え次なる展開へと備える。
「ソフィアやられちゃったんだ」
「カグラさん相手に一人はキツかったんだね」
一方こちらは後ろからやって来たシェリアとウェンディが横に並び、新たな陣形へと変化する。一人やられて三人になっちゃったから、ここからは俺も積極的に戦いに参戦しないといけないな。
「カグラ、いい作戦を思い付いたんだが、やってみないか?」
「作戦?」
こちらに注意は向けたまま、カグラさんに何かを耳打ちしているリオンさん。その姿を見てシェリアの表情が険しくなったけど、やっぱり彼女はリオンさんも捨てきれてないんだ。そりゃあレオンがあんなに鈍感じゃ心変わりもしたくなるよね。
「ほぅ・・・悪くはない作戦だな」
「そうだろ?」
リオンさんが思い付いたという作戦を聞いたカグラさんはそれに賛成の様子。二人は視線を交わし合い小さくうなずくと、なんとカグラさんがこちらに全速力で突っ込んできた。
「カグラさん!?」
「リオンさんじゃなくて!?」
これに驚いたのは滅竜魔法を操る二人の魔導士。だって本来なら守られて然るべきのプレイヤーを最前線で戦わせ、サブであるリオンさんが後方にいるなんておかしい以外に言葉が見つからない。
「二人とも!!驚いてる場合じゃないよ!!」
何を狙っているのかわからず動揺している俺たちの前に立ち、守りの体制を作る天神。彼女の声で正気を取り戻した俺たちも、何が起きてもいいように姿勢を作る。
「怨刀・・・」
わずかに上体を下げながら突撃してくる敵プレイヤーを前に、思わずソフィアを仕留めたあの技が脳裏をよぎる。あの速度であのパワー・・・放たれたらどうしようもない。
「あたしに任せて!!天神の・・・」
繰り出そうとしている技の一部始終を見ていたのか、シェリアが体を捻り頬を大きく膨らませる。彼女はブレスで対抗し、“人魚の型”を発動させないようにしようと考えているようだ。
「アイスメイク・・・スノードラゴン!!」
「「「え・・・?」」」
全員の意識がカグラさんへと向けられていると、突然彼女の後ろから聞き覚えのある青年の声が聞こえる。咄嗟にその声の方へと視線を向けると、そこには氷で作られた東洋の竜が、前衛のプレイヤーをブラインドに迫ってきていた。
「キャアアアア!!」
「「シェリア!!」」
不意を突かれた天神は、ブレスを放つために弱点である左腰を敵に向けてしまっていたため、そこに攻撃を受けて転倒する。
『シェリア選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
なす統べなく弱点に魔法を受けてすぐさまフィールド外に転送されるシェリアを悲痛な目で見送っていたが、視界の端に近づいてくる人影が入り、そちらに顔を向ける。
「不倶戴天・斬の型!!」
「キャッ!!」
「うわっ!!」
鞘に納めたままの刀を振るい攻撃を仕掛けてくる人魚から、ウェンディは頭を下げて逃げ、俺はジャンプしてギリギリ上を交わす。
「水竜の・・・」
「天竜の・・・」
「「咆哮!!」」
上と下から二人のドラゴンのブレスで敵プレイヤーカグラさんを攻撃する。距離も短いし広範囲に放つことのできる魔法を選択したことで、いくらカグラさんでも避けることは難しいはず。弱点バッジはそこまで大きなダメージを与えなくても壊せるみたいだし、これで一気に決めることだってできるはず。
「白虎!!」
後ろに引くことも前に出ることもできない。左右に逃げるのは今からでは加速が足りずに間に合わない。しかし、あらかじめトップスピードに入っていればなんとか逃れることができる。そう言わんばかりにリオンさんが氷の虎を放ち味方の女性をかっさらうように救出する。
「これでもダメか」
せっかく向こうから接近してくれたのに、それをまたしても生かすことができなかった。元々二人とも高い能力があるだけに、攻めるに攻めきることができない。
「アイスメイク・・・ドラゴンフライ!!」
ジャンプして避けていたことで、着地するまではその場から動くことができない俺目掛けて無数のトンボを生み出して攻めてくる。普通ならこの状態から逃げることなんてできないけど・・・
スゥ
俺は弱点バッジを左足の甲につけているのだが、その足をあえて迫ってくるトンボの方へと向ける。すると、狙い通りトンボは俺のことを避けるように飛んでいき、難なくピンチを脱することができた。
「何!?」
「こっちから避けた!?」
俺が避けたわけではなく、リオンさんの造形からこちらを避けていったため敵である彼らは驚愕の様子。このスペルをうまく使えば、相手の動きを制限することもできるかも知れない。
(やってみる価値はある!!)
トンボ攻撃から逃れた後、着地すると同時に造形魔導士へと向かって駆けていく。
「!?」
脇目も振らずに突っ込んでいくと、予想していなかった彼は目を見開いていたが、すぐに元の表情へと戻り両手を合わせる。
「アイスメイク・・・蛟!!」
打ち出された細い竜のような造形に臆することなく、足を緩めることなく標的である敵へと向かっていく。その結果、目の前まで来ていた造形は先ほどと同じように俺を避けていく。
「水竜の・・・鉤爪!!」
遮るものが何もないのだから、攻めることだけに集中することができる。だから自分の一番ベストな体勢から技を繰り出すことができ、リオンさんの腹部を見事に撃ち抜く。
「ぐっ!!」
彼の弱点バッジは胸部についているのだが、歩数が合わずそこを捉えることはできなかったが、彼はバランスを保つことができずに尻餅をついていた。
「水竜の・・・顎!!」
お尻をついているならすぐには動けまい。そう考えた俺は両手を握り合わせて弱点バッジを打ち抜こうと腕を降り下ろす。
「くっ!!」
完全に決まったかに思えた一撃だったが、リオンさんは予想外のアクロバティックで姿勢が低くなった俺の上を頭跳ね飛びの要領で飛び越えていく。
「そ!!そんなのあり!?」
後ろを取られた格好になったため、慌てて距離を取りながら振り返る。が、リオンさんはなんとかその場を凌ぐので精一杯だったらしく、着地に失敗して両手を地面につけ、額には汗を浮かべていた。
第三者side
(あ・・・危なかった・・・)
嫌な汗を身体中に感じながら、それを拭って立ち上がる銀髪の美青年。彼はゆっくりと後ろを振り返り、自身の相手を見据える。
(ウェンディと同じような特殊能力か。そのせいで、俺の攻撃が全然届かん)
本来なら直撃していてもおかしくない攻撃が多々あった。それなのに、なぜか少年の目の前まで行くと方向が変わってしまい、捉えることができない。
(一体どんなスペルなのか、シリルみたいにがむしゃらにコールしていきたいところだが・・・)
相手のスペルの効果がわかっているのならそれらしい五文字を上げていき動きを止める。実際それで向こうは一度好機を得ていたわけなので、こちらもやらない手はない。
「水竜の・・・翼撃!!」
敵に隙があればの話だが。
(ここまで魔法を連発されては、適当に候補を挙げていくのは無理だ)
片手を前に突き出し氷のシールドを作り出すリオン。シリルが正面から向かってきていたのであっさりと防ぐことができたが、状況が決してよくないことから彼の表情は厳しかった。
「天竜の砕牙!!」
「くっ」
そして、こことは別のところでは藍髪の少女と黒髪の人魚が戦っているのだが、そちらでも同様に、実力があるはずの人魚が押されていた。その理由は、少年と同じく天竜が次々に攻撃を交わし、技を繰り出すことができるからだ。
(一体どんなスペルだ?攻撃完全避?いや、なんか違う気がするな)
途中までは今挙げたスペルでもいいと思っていた。しかし、たった今シリルが見せた行動のせいでその確信が揺らいでしまう。
(俺の攻撃からシリルを避けていた・・・つまり、“回避”系のスペルではない。もっと別の何か・・・)
候補を絞ることができそうでできないことに、苛立ちを覚え始めている氷の魔導士。彼はダメ元で両手を合わせ、次の技を繰り出そうとする。
「アイスメイク・・・スノードラゴン!!」
素早く繰り出すことで避ける時間をなくそうとしてみるが、案の定シリルに攻撃が当たることなく、そのすぐ脇をすり抜けていってしまう。
「クソッ!!ダメか!!」
思わず物に当たりたくなる衝動を呑みこみ、向かってくる水竜から急いで距離を取り魔法を放たせないように対処する。しかし、それはただの応急措置にしか過ぎず、何の解決にもなっていないことを彼はわかっていた。
(トビーが来てくれればもしかしたらいけるかもしれないが・・・)
“絶対無敵強”により強化された仲間ならあるいはと希望を抱いていたが、その希望を打ち砕くアナウンスが鳴り響いた。
『トビー選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
この声に劣勢の人魚の鱗の二人の表情がさらに険しくなった。必勝を期待していた仲間が退場させられたことに驚き、ますます厳しい展開になったことに冷静さが失われていく。
「この!!」
なりふり構わず拳を振るったリオン。普段の佇まいからは想像できないような攻め方をしてきた彼にシリルは驚きながらも、軽く交わして拳を頬に叩き込む。
「なぜだ!!なぜ当たらな・・・!!」
倒れそうになりながら思わず悔しさで叫びそうになったリオンは、咄嗟に出た言葉であることに行き着いた。
(攻撃が“当たらない”?確かに五文字ではあるが・・・しかし、そんなことあり得るか?シリルがそんなスペルを選ぶか?)
もしかしたらという想いと、いやまさかという想いが入り乱れる。堅実な彼らがそんなスペルを選ぶかどうかで、青年の頭の中はグチャグチャになっていた。
(これが正解かなんて俺にはわからん。だが・・・試してみる価値はある!!)
このまま何もしないより、どうせならダメ元で足掻いてみるのもいいかもしれない。青年はそう考えると、大きく息を吸い込む。
「当たらない!!」
一か八か、思い付きで出てきた単語に全てを賭ける。そのスペルをコールした時、トドメを刺そうと接近していた少年が・・・
「いっ!?」
カチッ
空中でその動きを止めた。しかも、それだけでは終わらない。
「きゃああ!!」
先ほどまでどれだけ攻撃しても一切当たらなかったはずの少女に、カグラの剣が直撃したのだ。それも、シリルのスペルが看破されたのと同時に。
「なるほど・・・思い切ったことをするな」
この日初めて攻撃を受けた少女は、予想できていなかったために攻撃が直撃した後バランスを整えることができずにお腹から倒れてしまう。カグラは彼女の右肩についている弱点バッジに攻撃しながら、ようやくわかった少女のスペルに感心していた。
「まさかシリルと同調のスペルを使用するとは」
『ウェンディ選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
ウェンディの5スペル“水竜と一緒”。それはシリルのスペルである“当たらない”と同調し、絶大な効果を発揮していたが、リオンにより彼のスペルが封印されたことで、一切の効力を失ってしまった。
「アイスメイク・・・氷聖剣!!」
そして10秒間の硬直に入ったシリルに、戦っていたリオンが弟弟子の魔法を真似た剣を作り、弱点部位を貫いた。
「終わった・・・」
敵プレイヤーを倒したことに安堵し、達成感に浸りながら空を見上げる氷の魔導士。そして、最後を決めた彼の元に歩み寄ってくる女剣士。
「逆転勝利・・・といったところか」
「あぁ。全く・・・あんなスペルを作りやがって」
一時は魔法が当たらずどうすればいいのかわからなくなり、やけになっていただけにこの勝利に二人は安堵していた。しかし・・・
『シリル選手!!弱点部位へのダメージにより、レオン選手!!退場です!!』
突如流れた不思議なアナウンスに、二人の思考が暫し停止してしまった。
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルのスペルとウェンディのスペルが当てられての小さき魔術師の敗戦・・・かと思いきやそうは問屋が下ろさないんですよね。
次はしばらく出てきてなかったレオンとトビーの戦いを少々やる予定です。
ページ上へ戻る