FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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前書き
今日ポッキーの日なのにそれらしいこと何もしてなかった。いや、そもそもしたことなんかないんだけどね。
シリルとウェンディ、カグラとリオンのペアが戦っていた同時刻、そこから大きく離れた場所では二人の強者がぶつかり合っていた。
「オオーン!!レオン!!これでも食らえ!!」
爪を立て、飛び付くように少年に襲い掛かるトビー。この二人の戦いは、一方的なものになりつつあった。
ガシッ
「!!」
目で捉えきれないのではないかというほどの速度で放たれる乱れ引っ掻き。しかし、それをレオンは容易く避けると、トビーの手首を空いている手でガッシリと掴み、あっさりと投げ飛ばす。
「オオーン!!あっさりかよ!!」
空中に投げ飛ばされたトビーは思わず悔しさで絶叫する。高々と上がったトビーは最高到達点から落ちてくると、下で待ち構えている少年は左手を引き、顔面へと拳を叩き込む。
「うおっ!!」
“絶対無敵強”で強化されているとはいえ、元々の実力はレオンの方が圧倒的に上。序盤こそトビー有利で展開されていたものの、徐々に“金髪うわー”に慣れてきたレオンの動きが良くなっていき、完全に状況はひっくり返っていた。
スゥッ
地面に倒れ込んだ青年の上に立ち、足を振り上げる。そのまま彼は踵を向け、トビーの腹部へと降り下ろした。
「ぐほっ!!」
思わず吐き出しそうになった青年は咳き込みながら体を起こす。トビーが優勢だったはずの展開は、今やレオンが一方的に攻めているだけの戦い。トビーは完全に、サンドバッグ状態になっていた。
「いてぇんだよ!!」
「!!」
しかし、トビーもまたそれを耐え凌いでいた。特殊能力の力によって身体能力が向上している彼は、もちろん防御力も著しく上がっており、本来ならすでに失神していてもおかしくないレオンの攻撃に、なんとか耐えて戦うことができていた。
「メガメガくらげぇ!!」
レオンの腕を払った彼はすぐに立ち上がり、何度目かわからない引っ掻き攻撃へと移るが、その攻撃もあっさりと受け流され、通り過ぎたところで後ろから飛び蹴りを食らいあえなく地面へと転落する。
「くっ・・・」
何度やられても諦めることなく体を起こし、次に向かおうとするトビー。彼がゆっくりと動いている間にもレオンが攻撃してしまえば早々に決着がつきそうだが、彼も口を無理矢理押さえ込んでいることには変わりないため、呼吸が乱れないように常に攻め続けるということができなくなっているのだ。
(結局こうなっちゃうのか・・・ちょっと残念)
四つん這いになり這い起きようとするギルドの仲間を見下ろしながらそんなことを考えている氷の神。彼は今のトビーの姿に、ガッカリといった表情をしていた。
(ここまでトビーさんが有利なのに・・・)
彼がガッカリしていた大きな要因、それは、絶対的に有利であるはずのトビーが自分になす統べなくやられていることだ。
口を塞いでいることで片手での戦いを強いられる自分と、スペルを駆使し能力を底上げした敵。勝ち目がないと思っていただけに、このような状況になるとどこか悲しくなってくる。
(シリルたちが決着をつけてくれればいいんだけど、シェリアとソフィアがやられたみたいだし、まだ時間がかかるかな?)
敵プレイヤーの弱点バッジを破壊できればその時点でゲーム終了。つまり、今年の優勝チームが決定する。
アナウンスで4対2になったことを知っていたのでこのまま決まるかと思っていたが、徐々に戦力を削られていき、いつしか五分と五分の戦いになっている仲間たち。
(状況が五分なら、より俺のスペルが生きる。だったらここは・・・)
ふっと鼻から心を落ち着けようと息をつき、ようやく起き上がった敵を鋭い眼差しで見据える。
(自分が生きることを最優先に考えることか)
おそらく敵にスペルを看破されることはない。もしスペルを使用できない状況になるとしたら、それはここで退場させられた時だけ。そう察したレオンはこの退屈な戦いを終わらせるために今持てる最大限の速度で敵との距離を詰める。
(この退屈な時間を終わらせよう。後は向こうの結果を待つだけだ)
拳を強く握り、全神経を集中させていく。魔力を帯びた左手を引き、強く、それでいてしなやかに腕を突き出し、目の前の存在にもどかしさを振り払うために、怒りにも似た感情の全てをぶつける。
「お・・・おぉ・・・」
全ての感情をぶつけるように放たれた一撃を受けた青年は、あまりの痛みに白目を向き、殴られた箇所を両手で押さえると、電池が切れたラジコンのようにフラフラと、力なく地面へと崩れ落ちた。
(終わったな)
喪失感のようなものに苛まれながら、トビーの体につけられている弱点バッジを探し、破壊する。
『トビー選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
そのアナウンスとともに彼の目の前から気絶して横になっている犬っぽい人物が消える。それを見届けた後、彼は近くの柱に背を持たれかけ、疲労した体を休めることにした。
(なんやかんやでまた勝っちゃったな)
氷の滅神魔法を取り戻してから、ほとんどの戦いで勝利している彼はまたその連勝記録を伸ばしたことに、ホッとしたような、ガッカリしたような、なんとも言えない顔をしている。
(俺が負けたのは、あの一回だけになるのかな)
集中していたはずだったのに、ふとそれが途切れた。敵に背を向け、慌てて振り返った時にはその少年は目と鼻の先に来ており、逃げることも反撃することもできずにトドメを刺された。彼がこの魔法を扱った戦いで、唯一の敗戦。その出来事は今でも脳裏にこびりついている。
(それはそれで面白いけど・・・なんか、な・・・)
つまらない・・・そう感じていると、不意に自分の手が少しずつ薄くなっていることに気付く。
『ウェンディ選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
そのアナウンスで、友人のスペルが看破されたことをすぐに彼は悟った。そして、だから自分の体が消えかけているのだと結論に至る。
(そっか、シリルが・・・頑張れよ、シリル)
『シリル選手!!弱点部位へのダメージにより、レオン選手!!退場です!!』
心の中で仲間へとエールを送り、フィールド外へと転送されるためにその場から姿を消していく。彼は最終決戦の様子を退場者の集う部屋で観戦することにしたのだった。
レオンが退場するコールが鳴り響いたフィールド内。そこに残されている三人のうち、黒髪の女性と銀髪の青年は目を白黒させており、何がなんだかわからないといった顔をしていた。
「レオン?なぜシリルじゃなくてレオンなんだ?」
勝利を確信し、喜びの言葉を交わし合っていた二人はそのアナウンスの意味が理解できない。しばしの沈黙の後、後ろから殺気を感じた彼らはそちらを振り向く。
「水竜の斬撃!!」
右腕を水の剣へと変換し、上空から斬りかかってくる小さな影。それを目撃した青年は、大慌てで後ろにいた女性を突き飛ばす。
バキッ
突き飛ばされたカグラが地面に倒れるのと同時に、その耳に聞こえてくる破壊音。彼女は顔を上げその音が聞こえた方向を見ると、思わず目を見開いた。そこには自分を庇って少年の攻撃を受けた仲間の姿があったからだ。
『リオン選手!!弱点部位へのダメージにより退場です!!』
「っ・・・!!」
プレイヤーを守るように盾となったリオンは胸につけていた弱点バッジを切り裂かれ、徐々にその姿が薄れていく。
「カグラ!!油断するな!!まだ終わっt――――」
完全に気を抜いていたこともあって不意討ちに反応できなかった彼はまだ地面に手をついたままの剣士に忠告をしようとしたところ、言葉半ばでその場からいなくなる。そして消えた氷の魔導士の影から、足に水を纏った少年が飛び込んできていた。
「水竜の鉤爪!!」
小さな体躯をダイナミックに使い地上にいる敵へと奇襲を仕掛ける。それを見たカグラはギリギリのところではあるが、なんとか地面を強く蹴って飛び去るように回避する。
(なんだ?まだ頭の整理ができない。一体何がどうなっているんだ?)
額に手を当てここまでの出来事を一度整理することにした人魚最強の剣士。彼女の中でわかっているのは・・・
シリルのスペルを封じた。
↓
ウェンディとシリルの弱点バッジにダメージを与えた。
↓
ウェンディがルールに乗っ取り退場した。
↓
シリルの弱点バッジが破壊されたことでレオンが退場させられた。
(これだ。なぜシリルがやられたはずなのにレオンが退場したんだ?レオンのバッジをシリルがつけていたってことか?)
彼の元々の弱点がついていた左足に視線を向けると、破壊されたはずのそれが元通りになっている。それを見てカグラはようやく、一つの結論に至ることができた。
「まさか・・・これがレオンの5スペルか」
シリルside
「でもシリルだと“水竜”でも動きを制限できそうだよね」
「じゃあそれも使っておこっか」
今から遡ること数十分前。それは、各々の5スペルを決める時のこと。
「シリルの文字は誰が使う?」
「そうだな・・・」
俺たちの作戦はプレイヤーである俺が不利になることのないように、敵が狙い撃ちしてきたスペルを無効化すること。なので、俺を連想することができる“シリル”と“水竜”を使うことにしたんだけど、これは能力が発動しないことを前提で作るスペルだから誰に持ってもらうのがいいのか・・・
全員で頭を悩ませていると、自然と四人の視線が一人の少年で止まる。彼もそれをなんとなく予期していたらしく、仕方ないといった感じでうなずいた。
「レオンならスペルなくてもいけるもんね」
「だといいね」
間違いなくこのゲーム参加者で最強と思われるレオンなら、スペルが発動していようがしていまいが関係ない。そう考えた俺たちは、彼に“シリル”の文字を使ってスペルを考えることにした。
「シリルを使った五文字・・・どんなのが思い付く?」
みんなに目を配りながら、何か意見がないか確認する。始めから被らせることを狙っているのなら深く考えなくてもいいような気がするけど、もし万一発動した場合に何も効果がないのでは話にならない。なので、それなりに使えそうな言葉にしなければならないんだけど、みんなそう簡単には思い付かn――――
「シリルエロい」
「それ五文字ですらないんだけど!?」
突然ドヤ顔でそんなことを言い出したのは、なんとまさかのシェリア。普通そういうのはソフィアの役目だと思うんだけど、なぜ彼女がその役目を買って出たのか意味がわからない。
「シリル可愛い」
「ねぇ!!話聞いてた!?」
続いてボケを咬ましたのは天空の巫女。全く彼女は話を聞いていなかったのか、またしても文字数がオーバーしており突っ込みをいれなければならなくなった。
「シリルにセクハラ」
「もはやただの願望じゃん!!」
五文字なんて概念がどこかに消え失せている少女たちに突っ込みが追い付かない。色々と突っ込みたいことがあるが一々構ってられないので、必要なところだけ突っ込んであとはスルーすることにした。
「シリルのライフポイントになるようなスペルなんかどうかな?」
「ライフポイント?」
おふざけモードから急にキリッとした表情に変わるソフィア。あまりのギャップに驚きを隠せないが、とりあえず気を取り直して話を聞いてみる。
「シリルがやられた時に、代わりにレオンが退場するようなスペルなら、発動しなくても痛手にはならないし。もし使えればすごく効果的だと思うよ」
ニヤッとイヤらしい笑みを浮かべる銀髪の人魚。なるほどそれならと、全員が賛同しレオンのスペルを考えることにした。
第三者side
そして現在、退場者たちが集うその場所にやって来た銀髪の青年は、椅子に座っているいとこの少年と目が合うと、相手が不敵な笑みを浮かべたことに苛立ちを感じる。
「お前のスペル、なんなんだ?レオン」
腰を掛けている少年を見下ろすように問いかけると、レオンはその姿勢のまま視線だけ上げ、それに答えた。
「“シリル交換”。シリルが弱点に攻撃を受けた時に、あいつと弱点を交換するスペルだよ」
弱点を交換する。リオンは確かにシリルの弱点を破壊したが、その瞬間レオンの弱点バッジと二人のバッジが入れ換えられたため、プレイヤーであるシリルではなく、壊れた弱点を持っていたレオンが退場させられる結果となったのだ。
「なんともセコいスペルを考えたものだな」
勝利を確信していただけに隙が生まれ、一人仲間を退場されられたカグラは目の前のちびっ子にそう言う。
「ちょっとセコいですけど、こっちも“レオン” ていう最強の戦力を失ったんだから、お互い様ですよ」
それに対しシリルはそんな挑発は受けないといった様子で冷静に答えている。彼はそれから、全身に力を入れていくと、次第に魔力のオーラが彼を包み込んでいく。
「俺もカグラさんも5スペルはもうない。ここからは正々堂々、魔法で勝負しましょう」
「挑むところだ」
互いに相手を見据え、集中力を高めていく。最終戦の最終局面、二人の魔導士の戦いが始まる。
後書き
いかがだったでしょうか。
最後まで残されていたレオンの5スペルがついに判明しました。
次回は300話記念のシリルvs.カグラです。ゲーム大会なのに最後は魔法でのバトル競技へと変貌した今回、果たしてどんな感じになるのかな?
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