八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第九十話 巨大な模型その四
「みっともないって思ったよ」
「みっともない?」
「そうなるの」
「そう、そんな言葉をみだりに使うなってね」
義憤、その言葉に他ならない。
「それがみっともないってね」
「そうした言葉はそうは使わない」
「やたらにはなのね」
「だから美和はみっともないって思ったのね」
「そのことに対して」
「義憤とかそういう正義を掲げた言葉をみだりに使うな」
このこともだった。
「親父に言われたんだ」
「そこでまたお父さん出るのね」
香織さんは僕に顔を向けて言った。
「正義がある言葉はみだりに使わない」
「うん、そう言われたよ」
「正義っていうのは重いから」
「そう、正しいことをしてるって信じ込むこともね」
その屑野郎みたいにだ、あいつについては心から思う。どうしようもない馬鹿で屑だと心の奥底から思っている。
「駄目だってね」
「自分の行為や考えを振り返る」
「そのことも大事ってことね」
「そんなこと普通に言う奴も」
それこそだ。
「碌なことしないからね」
「自分が正しいから相手に何をしてもいい」
「そう考えるのね」
「正しいからどんなことをしても許される」
間違ってると思うけれどこうしたとんでもない考えの奴も本当にいる。
「そんな奴が立派だったらこの世の中もっとおかしくなってるよ」
「そうした人は結局」
香織さんがまた言った。
「小さいのね」
「うん、人間として何もかも小さいから」
器も頭もだ、そうしたものが小さくてだ。
「そう思い込むんだよ」
「それで碌なことしないのね」
「悪事を働くんだ」
その自分が信じる正義の下にだ。
「そんな奴は絶対に好きになれないしなりたくもないよ」
「嫌な奴にはなるな」
詩織さんの言葉だ。
「こういうことね」
「自分が嫌と思った奴はね」
「つまり反面教師ってことね」
「そうなるね、この人達はお手本で」
僕も回天に乗ったその人の軍服を見た、そしてそのうえで散華したことを思いながらそのうえで詩織さんに話した。
「そうした奴は反面教師だよ」
「なるべき人となってはいけない人」
「世の中両方いるね」
「そうした意味で嫌な人も役に立つのね」
詩織さんはいささかシニカルに、それ以上に真面目に言った。
「ああはなるまいって人に思わせることで」
「そうなるね」
「ええ、私もそうした人嫌いだし」
「なりたくないね」
「最低だと思うわ」
そう思うからこそというのだ。
「だからね」
「そういうことだよね」
「本当にね、最低と思う人にはなりたくないわ」
「凄いと思う人にはなりたいと思って」
「同じだけね」
若しくはそれ以上にだ。
「最低な人にはなりたくないわ」
「そういうものだね」
「ええ、けれどこうした人になるには」
詩織さんは軍服だけでなくその人の写真も見た、いい顔をしていると思った。毅然としていて一点の曇りもない。
「難しいわね」
「難しいからこそ目指せるってね」
「そうも言われれてるのね」
「うん、それにね」
僕は詩織さんにさらに話した。
「目指すまでの努力」
「それも大事なのね」
「これは自分で思ったんだ」
中学の時にだ。
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