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~異世界BETA大戦~ Muv-Luv Alternative Cross Over Aubird Force

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敵性生物

 
前書き
突然のBETAによる襲撃にエレミア星系は大混乱しています。
 

 
エレミア歴1033年6月12日‐恒星標準時21時56分  オルキス連邦統合軍司令本部

司令部要員が慌ただしく走り回り、通信要員は情報を矢継ぎ早にやり取りしている。
数日前、星系内へ総数35もの小惑星状物体が出現し、30近くは各星系政府軍により迎撃破壊されたが、IPBMや強力な宇宙艦隊による迎撃が間に合わなかった星へ向かったものが5つほどあり、有人惑星に降着してしまった。

当初隕石として地上へ激突して大惨事になると思われたが、予想だにしなかった事に、自ら意志があるように逆噴射を行い軟着陸を成功させた。
その星の人々は一時は安堵に胸をなでおろした。
だがそれもつかの間、しばらくすると、その中から未知なる異形の生物群が湧き出すように現れ住民を襲いまくり、各惑星軍地上部隊と交戦が始まった。

降着した惑星は全てデトロワとラファリエス領内で、特にデトロワは航空戦力の不足により、圧倒的な個体数の敵性生物に苦戦を強いられていた。
航空戦力の攻撃を免れて前進してきた敵性生物に地上兵が蹂躙され、捕食され、追いつめられているような戦線が一桁では足りない状況であった。

前線は悲惨さをこれ以上ないくらいに表現された阿鼻叫喚のまさに地獄である。
ここに至りアマティスやオルキスがデトロワへの援軍の準備を始め、オルキス連邦統合軍においても情報収集に余念がないところであった。

そんな中、参謀本部長のドレクソン大将以下将官4名と参謀長のレダーク准将が、先ほど帰還したカイン・ディー中将を迎える。
ディーは一同に敬礼、一同も答礼する。

「ディー中将、今回はご苦労だったね。」ドレクソン大将は親しげにディーに語りかける。
ドレクソンとディーはエレミア戦役以前からの付き合いであり、ディーは誰よりもドレクソンを敬愛していた。
ドレクソンにとってもディーは旧来の部下であり、一番信頼の置ける仲間でもある。
「いえ、兵達に比べればたいした事はありませんよ。」
「しかし、今回は戦闘ではなく事後処理で負傷者を出すという失態を犯してしまいました・・・。敵性生物が生きていたので、戦闘と言えばそうなのですがね。」と答える。
先の戦闘後の残骸回収時、生き残った宇宙を漂う未確認生物を捕獲する際に、暴れた敵性生物に負傷させられた者が8名に上ったのだった。

「真空空間でも生きられる生物とはな。ところでその未確認生物なのだが、目的を含めて何か情報は掴めたのかね?」ドレクソンは傍らにいるレダーク准将を見ながら尋ねた。
「は!レーニアの連邦総合研究センターにおいて捕獲した生物を調査中ですが、今のところ判明している事がいくつかあります。」
「ほお、こんなに早くにか?さすがは星系随一と謳っているだけはありますな。」ディーは感心した様子を隠さず表明する。
「うむ。レダーク准将、続けたまえ。」ドレクソンはディーの割り込みで中断していた報告の続きを促す。

「はい、まず1点目、あれらの生物は我々と同じ炭素系生物である、という事です。摂食・消化後の吸収器官などは見当たらなかったようですが、どうやら光合成のような形で何らかの生体維持エネルギーを摂取するらしいとの事です。
ただ、不思議なことにオルキス本星付近に出現した物体を迎撃した機動第二艦隊からの報告では金属を食べていた、とありましたし、デトロワやラファリエスからの連絡では、人類を含めあらゆるものを捕食するとの報告がありました。
この点も調査中ではありますが、それらは経口の後、消化まではおこなって、消化後は流動体として元素分別して体内に保存するようです。
その後どのように処理されるかはまだわかっていません。

2点目はまだ確証には至らず、時間をかけた観察・研究が必要との事ですが、どうやらあの生物はAIのようなサイボーグユニットではないかとの疑いがあるようです。行動パターンなどを観察すると、ある一定の目標に対して、誤差がほとんど無いくらい反応が同じだそうです。タイミング、反応速度共にです。」レダークの報告に一同が顔を見合わせる。

「人類を捕食するとは、まったく以て脅威だな!しかも人工物かも知れないというのか。そうなると問題はいったいどこの誰がそんな生物兵器を創ったのか?という事だな。」ドレクソンは当然の疑問を口にした。

「今、星系内でこんな事をして益のあるような政府や組織があるとは思えませんが・・・。」同席している地上軍司令官ライナス大将が思案しながら感想を述べる。

「実は、あの物体と同様のものと思われるものですが、今回の大量出現の前にひとつだけ先行して現れた物体がありまして・・・その中はやはり各所より同様の報告が上がっている未確認生物の死骸であふれていたのですが、一体だけ他の生物と形状が異なるものがいました。」
「確か報告書にも記載があったが、ケイソ系生物以外は生物として認めず排除するという会話をしてきた個体の事だね?」ディーの言葉に、あらかじめ報告書を閲覧していたドレクソンが同調する。

「そうです。悪い冗談としか思えませんが、情報部の見解では一つの可能性として、われわれ人類とは組成が異なる知的生命体の存在と、その侵略行為ではないかという説があります。」
ディーは、先のレーニア星域での破壊措置の後、ダイスケから報告された見解を披露した。

「うむ、可能性は全て否定するべきではないな。現実問題、今や多数のアレが現れて、星系内は大混乱の極みだ。今回の仕業が反社会組織などによるもので、むしろそれが狙いなら単なるテロだと思うが、果たしてそのメリットが思いつかんよ。むしろ、ディー中将の言うような仮説の方が腑に落ちるな。」ドレクソンは困惑の表情で腕組みをして考えていた。

ディーは「これも情報部の仮説ですが」と前置きして付け加える。
「今のところ小惑星はすべて亜空間ゲートから現れています。この星系における亜空間ゲートはすべて我々の監視下にあり、あのような巨大な物体をゲートに送り込もうすれば即座に発見されるでしょう。しかもあのような大きさの小惑星形状の推進体を極秘裏に作ろうとすると、おのずからそれが切り出せるような惑星は限られてきます。」
「ふむ、確かにディー中将の言うとおりだ」ライナス大将らも大きく頷く。

「実は我が軍とアマティス軍が手分けして今回の事件対象となりそうな小惑星がありそうな場所をしらみつぶしに探しておりますが、未だそのような痕跡は全く見つからないという報告が上がっています。7割程度しか探索は出来ていませんが、飛来した小惑星の数を考えますと、7割も探して1つも見つからないのは理に適っていませんし、見当もつきません。」レダークが困惑の表情で話す。

「実はこれも情報部の見解なのですが、常識的には全ての小惑星は星系内で亜空間ゲートを通って運ばれてきたと考えられていますが、微妙に違うのかも知れないと言っています。」
「それはどういう事かな?」ドレクソンはおもむろにディーに尋ねた。

「つまりこういう事です。亜空間ゲートを通ったのではなく、たまたまそこにゲートアウトしてしまった。つまり言い換えますと、星系内の亜空間回廊のどこかで別のワームホールとつながるホールが形成されている可能性があるのではないかと。確かに理論的には別の宇宙につながる確率はそんなに低いものではなかったかと私も記憶しております。」ディーの話を聞き、得心した様子の者もいれば、困惑の表情を浮かべるもの、様々であった。

その時突然、ドレクソンのリンクユニットに作戦室の副官から緊急通信が入った。
「・・・諸君、報告によるとデトロワ領とラファリエス領に降着した敵性生物が光学兵器を使用し始めたそうだ。」
「「「!?」」」一同は驚きの表情を隠せなかった。

「驚くべき事に敵は生体光学兵器を用いており、シールドを持たない地上部隊や、シールドの弱い航空機部隊が甚大な被害を受けて後退、シールド強度が高いとは言えないデトロワの艦船は密集した敵の集中砲火を受ければシールドが無効化される恐れがあるので、近づけない状況のようだ。
現にデネバ(強行偵察艦)やルモラン(護衛巡洋艦)が撃破されたらしい。
敵性生物には精度の高いレーダーシステムらしき器官が内蔵されているらしく、ミサイルなどの実体兵器は悉く撃墜されるそうだ。」

「・・・・なるほど、ミサイルが撃墜されるとなると、艦船や航空機よりもスクワイエルのような3次元機動の出来る高機動兵器の方が有効ではないかと思いますな。」

ドレクソンからもたらされる情報を頭の中で素早く整理しながら、ディーは戦役の経験者らしい提案を導き出した。
スクワイエルは前後左右へと自在に3次元立体機動をとりながら戦闘を行えるように設計されており、自動制御照準の光学兵器はもちろん実体弾兵器相手でも相当回避率が高い。
「さすがは、エレミア戦役を戦い抜いた指揮官だな。確かにそのような戦場はスクワイエルが最も活躍出来る場所のひとつだろうな。」
ドレクソンは大きく頷きながら、ディーに同意した。

「ではわが軍としては今後の敵性生物の攻略はスクワイエル部隊を中心に行うという方針でよろしいかな?」続けてドレクソンが方針を諮る。
「は!異議ありません!」全員が賛意を表明して、オルキス統合軍における方針が正式に決まった。

ディーは配下の第14機動師団のさらなる錬成についてあれこれ考え初めていたが、結局は専門家である師団長のライズマン准将と相談をするのが早いな、と考え直した。
さすがのディーもアントワープは苦手なのかも知れない・・・。
 
 

 
後書き
次回は、ちょっとびっくりな事が起きます。 
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