ViVi・dD・OG DAYS
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第3話 出会いとキッカケ
「――おぉ、シンクくん!」
「……お久しぶりです、先生。お待たせいたしました」
トリル達の少し手前でセルクルを止め、颯爽と飛び降り着地したシンク。
そして嬉しさを全身で表現するかのように、軽快な足取りで彼の方まで駆け足で近づいてくる。
そんな彼に向かい、トリルは大きく手を振りながら笑顔で答えていた。
彼はトリルの目の前まで来ると、満面の笑みを溢しながら挨拶をするのだった。
「久しぶりだね……。……元気そうで、何よりだよ――っと! …………」
挨拶を受けたトリルは彼に笑顔で挨拶を返すと、片足を前に出してサッと右手を差し出す。
差し出された手を自然に元気良く握り返す彼。
周りが一瞬、ウットリとした表情を見せるほどに、サマになっている2人の振る舞いは、彼らの陽の光を浴びて輝く金髪と外見さながら、英国の雰囲気を感じさせる紳士の挨拶であった。
とは言え、英国の雰囲気を感じられる者がいなかった為に、単純に美男子2人によるスマートな再会にウットリしているだけの女性陣なのであった。
更に言えば、英国ではしっかりとした握りは好まず、あっさりとした軽めの握手を好む。
ただシンクがまだ少年だと言う部分と、トリルが力強い握手を好んでいるから成立しているのだと言うことを付け加えておこう。
トリルは彼の健康そうな右手の圧に満足の笑みを浮かべて、半歩ほど更に近づき、空いている左手で彼の肩をポンポンと叩きながら言葉を繋げた。
そんな2人の再会に喜ぶ姿を、後ろから微笑みながら近づいてくる少女達。
トリルは叩いていた彼の肩越しに感じた高貴なオーラに気づいて、素早く彼に目配せをしながら手を離し、ミルヒの前へ歩み寄ると――
「……初めまして。私はトリル・グレアムと申します。この度は、来訪をお許しいただきまして、ありがとうございます」
片膝をつき恭しく頭を下げながら自己紹介と感謝の言葉を告げた。
「初めまして。ビスコッティ共和国代表領主……ミルヒオーレ・F・ビスコッティと申します。此度の来訪、我が国を代表して皆様を歓迎いたします。どうぞ、顔を上げてください」
彼女は未だに頭を下げている彼に対して、微笑みながら自己紹介と歓迎の言葉を述べる。
トリルは彼女の言葉を聞いて一礼するとサッと立ち上がる。そして彼女の後ろに立つ少女達へと近づき、お互いに頭を下げるのであった。
こうして交わった2つの異世界。本来ならば交わることなどない世界。
どのような経緯のもと、トリル達がフロニャルドを訪れたのか――。
ここからは少し時間を巻き戻して、それぞれの世界での話を紐解きながら、話を進めるとしよう。
○●○
時は、2つの異世界が交わる少し前――。
此処は、我々の住む地球とは別の時空に存在する世界――ミッドチルダのとある地域に建てられている高町家。
学院より帰宅して、夕食までの僅かな憩いの時間を満喫するように、自室のベッドに寝転びながら大好きな本を読み耽る1人の少女の姿がそこにあった。
彼女の『2人の母』の髪色である栗色と金色を掛け合わせたような、明るめのハニーブラウンの色合いの髪を、腰上あたりまで伸ばしたロングヘアー。
その髪を、自分が幼い頃に母が結んでくれた髪型――両側の房を青いリボンで結んだツーサイドアップにしている。そう、彼女は母がセットしてくれた髪型を、今でも気に入っているのだった。
そんな2つのハニーブラウンの房がヒョコ、ヒョコ、ヒョコと無造作に揺れている。
顎を乗せている枕へと――顔をドラムのスティックのように扱いながら、ポフ、ポフ、ポフとリズムを刻む。時折、メトロノームの様に左右に頭を振っている。
そして両足でトン、トン、トンと交互にベッドを叩いて楽しそうにリズムを取りながら、全身で楽しさを表現しながら。
嬉々とした表情で読書に熱中している仕草が似合いそうな――
まだ初等科4年生の彼女らしい、あどけない目鼻立ち。
そして服の外から見れば小柄で華奢に思われる彼女の肢体。
だがしかし、周りの印象とは裏腹に、日頃のトレーニングにより培われた俊敏さとしなやかさを併せ持つ、格闘術に携わる者特有のバランスが取れた体つきをしている。
そう、彼女は格闘術の素晴らしさに魅せられた少女なのだった。そして格闘術と同じように本を読むことが大好きな女の子。
そんな彼女の、大好きな本を前に嬉々とした表情を浮かべる顔立ちの中央――。
彼女を物語る大事な要素。
彼女の生まれた意味。存在する理由。
悲しくも切ない古い歴史の傷跡とも感じられるほどの、古代より受け継がれし2色の瞳。
虹彩異色と呼ばれる紅と翠の鮮やかな瞳の奥には、彼女には想像もつかない先人の苦しみや悲しみ。
そして自身に与えられた、辛く悲しい日々の出来事。
そう言った周りには見えない、自身を蝕む無数の柵と言う名の鎖が映し出されていたのかも知れない。
少女は、とある事件――辛く悲しい出来事の『鍵』として生まれた存在なのであった。
だが、そんな無数の柵から救ってくれた女性の娘となり、たくさんの友人や知人達の愛に恵まれることとなる。
そして同じく先人の意志を受け継ぐ者達との交流を経て――
やがて先人の残した傷跡も、癒えると同時に『生きる証し』へと変化を遂げつつ過ごしてきた数年間。
辛く悲しかった当時の面影など微塵も感じさせることなく、明るく元気に育っている今。
彼女は希望と探究心が満ち溢れ、輝きの増した色鮮やかな2色の瞳――
その視線の先で、自分の知らない世界を飛び回るが如く、両手で開いた紙の上に造られた未知なる世界を旅しているのであった。
そんな少女の傍らには、彼女の無二の相棒。
外見こそウサギのぬいぐるみの姿をしているのだが、彼女の全幅の信頼を受ける存在の彼。
今は黙々と――今後の主を手助けする為、自分の知識を蓄える為。
彼女に寄り添い、本の世界へと共に旅をしているのであった。
自分の知らない世界や知識に興味がある彼女と彼。まさか、ほんの数分後に――
この世界には存在すらしていない、真新しい本の中のような世界。
見たことも聞いたこともない、そんな未知なる知識との出会いが訪れようとは知る由もなかった。
そう、今はただ――目の前の世界を楽しそうに飛び回っている彼女達なのであった。
○●○
「――ねぇ、ヴィヴィオ。ちょっと、良い?」
そんな憩いの時間を満喫していた少女の部屋に、ノックもせずに扉を開けて入ってきた彼女の母親――高町なのは。
少女の『2人の母』の1人であり、正式に養子縁組をしている本当の母親。
栗色の長い髪をサイドポニーテールにしている母性溢れる雰囲気を持つ女性。
大人の女性ならではの母性と包容力を感じさせるメリハリのある肢体。
とは言え、彼女達は養子縁組で成り立つ親子。本来ならば、なのはが少女の『実の母親』になれる年齢ではなかった。
その為に、少女の同級生の母親に比べると、年齢相応に若く愛くるしさを覚える目鼻立ちをしていた。
だが、養子縁組と言う負のイメージの部分を差し引いたとしても――
『若くて美人で優しい』『とても格好良い』『人懐っこくて愛嬌のある可愛いお母さん』と言う少女の友達や、その母親からの、羨望と絶大な人気で親しまれている『新米ママ』なのであった。
凛とした振る舞いは、大人の頼れる強さを醸し出している。しかしその反面――
少し間の抜けた部分に、娘ですら可愛く思えてしまう子供っぽい面も併せ持っている彼女。
それでも娘と一緒にいられる時間を大事に。娘を大切に思う気持ちは普通の親とは変わらない。
しかし、まだまだ彼女は新米ママ。
彼女もまた、娘と言う未知なる世界をママとして奮闘しているのであった。
彼女はベッドに寝転がっている自分の娘――高町ヴィヴィオに唐突に声をかけた。
「……あっ、ママ? ……なーに?」
――そうなのだ。奮闘中であるが故、娘の成長への配慮を見極め切れていないのだろう。
だが、この親子には当たり前の話のようで――ベッドに横になっていた彼女は自然の流れで、読んでいた本からなのはへと視線を移して声をかける。
そして本を枕元に倒して起き上がると、ノックもせずに突然入ってきたことに対して驚きも怒りもせず、普通に返答をしていたのだった。
「今度の試験休み、何か予定ある?」
「試験休み? ……うーん。出来ることならアインハルトさん達と練習したいんだけど?」
「……そう……あのね? はやてちゃんから聞いたんだけど、トリルくんの知り合いに異世界へ行っている子達が何人かいるらしいのよ」
「――本当、ママ!? ……あっ、トリルさんって元気かな?」
「うん。この間……フェイトちゃんと、はやてちゃんと喫茶店に行ってきたけど元気だったよ?」
なのははヴィヴィオに、数週間後に控えた試験休みの予定を訊ねる。
彼女はその言葉に少し考えてから希望を述べていた。彼女の言葉に複雑な表情を浮かべるなのは。
とは言え、娘は小学生――。
特に「年頃の娘なのに練習しか頭にないのかしら? もっと、こう……色恋だったり、オシャレやスイーツだったり……そんな青春を謳歌した、女の子らしい可愛い予定はないの?」などとは考えていない。
そもそも当の本人がヴィヴィオの年齢の頃など、練習を通り越して『実戦』を謳歌していたのだから言える訳もない。
なのはは、ただ――
小さい頃はいつも自分の後ろをくっついてきた幼かった娘が、今では自分の足で立ち上がり歩きだしている。そんな娘の成長を嬉しく思う反面、親として寂しく思う。
それは彼女の言った『アインハルトさん』のこと。
碧銀の長い髪をツインテールにしている彼女――アインハルト・ストラトス。
ヴィヴィオと同じ魔法学院の中等科に通う、彼女にとっては憧れのお姉さん的存在の彼女。
そしてヴィヴィオと同じく、先人の意志を受け継いだ証し――紫と青の虹彩異色の瞳を持つ少女。
とあるキッカケで知り合い、共に歩み出すことになった2人。
今では出会ったばかりの時の様なアインハルトが発していた尖った部分も消え、同じ格闘術を習い始めてからは――互いに日々、思いやりながら楽しく切磋琢磨しているのであった。
そんな仲睦まじい2人の姿を想像して昔の自分と――フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
艶やかな金髪。腰の下あたりまで伸ばしたロングヘアーを、一房にして黒い大きなリボンで結んでいる。
なのはとは対照的に凛とした雰囲気の目鼻立ちと肢体。
つまり、なのはを『家庭的な印象の母親』とするならば、フェイトは差し詰め『仕事ができるキャリアウーマンな母親』と言ったところであろう。
とは言え、2人とも『家庭的な印象の、仕事ができるキャリアウーマンな母親』なので例えがおかしいのではあるのだが。
そんな、ヴィヴィオの『もう1人の母』である彼女。
それは高町親子が養子縁組をする以前の話――。
とある事件で身寄りのなかったヴィヴィオをなのはが『保護者』として当面の間、面倒を見ることになる。
まだ幼かったヴィヴィオに、そのことを説明をするのだが、全く理解を示さなかった。
その時に横にいたスバルの発言により、なのはを『ママ』と呼ぶようになったヴィヴィオ。
その夜。なのはがママになったことを知ったフェイトは、そんな2人を見守る『後見人』と言う立場――もう1人のママになったことを彼女に伝えたのであった。
以降、幼い彼女は『なのはママ・フェイトママ』と呼ぶようになる。
当然大きくなった現在は意味を把握しているのだが、それでもフェイトへの愛が変わることはない。
だから今でも『もう1人の母』であり、彼女のことをフェイトママと呼んでいるのだった。
なのはは、ヴィヴィオとアインハルトの関係を、自分とフェイトとの甘くて充実した日々に重ね合わせて、微笑ましく思っていたのである。
しかしその反面――
それまでの『ママ中心』の娘の心が『アインハルトさん中心』に変わりつつある現状に、言葉にできない哀愁を感じていたのであった。
なのはは表情を笑顔に戻し、本題を切り出した。
その言葉にヴィヴィオは嬉々とした表情を浮かべて聞き返す。だが直後、ハッと何かを思い出した様な表情を浮かべた彼女は――
その場にいないトリルに対して「忘れていた訳じゃないですよ?……でも、ごめんね?」と言う想いを含んだ苦笑いに表情を変えながら、2人の近況を訊ねる為に言葉を付け加えるのだった。
とは言え、最近は直接彼と会話をしていなかったのと、自分自身が忙しかったせいで、なのはが知っているのかも知らない状況の為に――
「元気なの?」ではなく「元気かな?」
と言う聞き方をしたのだが、どうやら会っていたようなのだった。
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