ラブライブ! コネクション!!
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Track 3 STOMP:DASH!!
活動報告14 きらきら・せんせーしょん! 1 『ファーストライブ』
講堂に足を踏み入れた私達を、冷たい空気が出迎える。
数分前まで纏っていたはずの、暖かい空気なんて感じられないくらいの殺風景な講堂。
きっと30分も経てば再び暖かい――ううん。熱いくらいの空気を纏っているんだろうけどね?
たぶん、それまでは今と何も変わらないのだろうと感じていたのだった。
覚悟はしている。理解もしているつもり。
そして、心はみんなの想いで埋め尽くされているはずなのにね?
それでも、やっぱり現実的なことを考えちゃうと、どうしても心の奥に綻びが生まれちゃうんだよ。うん、私だってそんなに強くはないんだしね。
「…………」
「「――ッ! …………」」
私は無意識に、隣に立っていた亜里沙と涼風の手を握っていた。2人は一瞬だけ驚いたけれど、何も言わずに握り返してくれた。
たぶん同じなんだろう。私達は目の前に広がる冷たい空気の中、ぬくもりが欲しかったのだった。
「……行こっか?」
「「……うん」」
少し気持ちが落ち着いた私は2人に声をかけた。2人は私の言葉に賛同してくれる。
その言葉を聞いた私は、2人と一緒に真っ直ぐステージを見据えて歩き出したのだった。
♪♪♪
ステージの上を眺めると、既に緞帳が閉じていた。
この緞帳が次に開く時には――そんなことをぼんやりと考えながら、ステージの中へと進んでいく。
緞帳を通り抜けた私達の目の前。
ステージの上は閑散としている。と言うよりも、何も装飾されていないだけ。
別に私達のステージに間に合わなかったからとか、私達が無名だからではないんだよ?
今日のライブに関しては、お姉ちゃん達も、何も装飾されていないステージで歌うのだ。
それは、今日のライブが部活説明会の一環――つまり、歴とした学校行事だから。
まぁ、別に勧誘目的ではないのだけれど?
アイドル研究部として、新しいユニット2組のお披露目と言う名目がある。
だから、あまり華美な雰囲気にはしないらしい。とは言え、あくまでも私達主催側は! って話なんだけどね?
教室でミキ達にはライブの開始時間を伝えてある。時間になったらスタートしてもらうように頼んでいた。
だから、私達は彼女達に会わずに講堂に来ているんだよ。
つまり今、外がどんな状況なのかは私達には全然わからない。
緞帳で音を掻き消してしまっているから、講堂の中の状況もわからない。
私達は無音状態の広いステージの上に漠然と立っている。
もちろん、自分達で望んで立っているんだけどね。
何故か私達は周りから取り残された、切り離された感じに陥っていた。
去年のお姉ちゃん達もこんな気持ちでステージに立っていたのかな?
期待と不安。そして、緊張。だけど自分達では何も変えられない。どうすることもできない。
そんな、不透明なやるせなさを抱えて、緞帳が開くのを3人で待っていたのかな?
同じ衣装を身に纏っているからなのかも知れないけれど。
去年のお姉ちゃん達が開演前に抱いていた気持ちは、きっと今の私達と同じ気持ちだったのだろうと感じていたのだった。
当然、お姉ちゃん達に聞いた訳ではないのだから違うのかも知れないよ?
でも、こんな気持ちだったのだろうって思う。
私はそんなことを考えながら、何も変わらない目の前の緞帳を眺めて、開始時間が来るのを待っていたのだった。
♪♪♪
「間もなく Dream Tree のファーストライブが開演します。ご覧になる方は講堂までお急ぎください」
私達の耳に、ミキの声でライブ開演を知らせる校内放送が聞こえてきた。
いよいよ始まるんだ。本当の意味での私達のスタートダッシュ。
「……緊張しますね?」
「……こう言う時って、お姉ちゃん達はどうしていたんだろう?」
「――えっ?」
「そうですね。高坂さん達はどうしていたんでしょう」
隣に立つ涼風が、ボソッと呟く。
だいぶ緊張していたんだろうね? だって普段とは違って、弱冠固さの残る口調だったから。
そして、その声に反応して亜里沙も呟いていた。
私も当然緊張はしていたんだけどね? 先に2人が緊張した態度を取ったことによって、少し余裕ができていたのかも?
2人よりは冷静に反応できていたんだと思う。
と言うより、2人は本当に緊張のピークなんだろうって感じていた。特に亜里沙はね。
だって、涼風なら知らないだろうけど――
亜里沙が『お姉ちゃん達のライブ前の行動』を知らない訳がないのだから。
私は苦笑いを浮かべて、2人の手を握り締めながら――
「こう言う時は番号を言うのが良いんだよ!」
「――あっ」
「……クスッ……1」
「2」
「3」
そう伝えたのだった。
その言葉に我に返った亜里沙は苦笑いを浮かべていた。
そんな亜里沙に微笑むと、私は前だけを見つめて番号を言う。私の番号に亜里沙と涼風も番号を繋げてくれた。
その直後、私達は誰からともなく吹き出し笑いをするのだった。
だって、可笑しいんだもん。3人しかいないのにね? 番号かけるほどの話でもないんだし。
だけど心から笑ったからかな? とても気持ちが軽くなった気がしたのだった。
やがて開演を知らせるブザーが講堂に鳴り響く。私達は前を向いて笑顔のまま、握り締めていた手を離し、瞳を閉じた。
そんな私達の耳に緞帳が開き始める音が聞こえる。
緞帳の開く音が目の前から遠ざかったと感じた私は、ゆっくりと瞳を開いて目の前の客席を見据える。だけど――
「…………」
私の視線には、さっきと変わらない殺風景な講堂が映し出されていたのだった。
♪♪♪
それは理解していたこと。あえて選んだ道だから。
当然、覚悟はあったと思う。
でも、それは自分達の教室に入るまでの話。もちろん今でも理解しているし、覚悟もあるにはあるけれど?
教室に入るまでの私なら、悲しい気持ちになったとしても「まぁ、仕方ないよね?」って割り切ったのかも知れない。
だって、3人だけで頑張ってきたと思っていたから。3人で決めたことなのだから。
わかっていたことなんだって、諦めもついていたのだろう。
だけど今は違うんだよ? 私達の心には、みんなの想いが詰まっているんだから。
ミキ達の想い。クラスメート達の想い。お姉ちゃん達の想い。
そして、私達が気づいていないだけかも知れない、みんなの想い。
そんな想いを、私達だけの勝手な諦めで片付けて良いものなんかじゃないんだと思うから。
ふいに講堂の最後尾。入り口付近の通路に集まるカオリとメグミの姿が目に入る。
2人は顔を見合わせて、とても悲しそうに首を横に振っていた。それは――
今の講堂の中の状況が『私達のライブの現実』だと言うことなのだろう。
そう受け取った私の脳裏に何故か、これまでの練習やチラシ配りの光景が思い浮かんできていたのだった。
今日の為に頑張ってきたこと。みんなから受け取った想い。そして、お姉ちゃん達から託された想い。
それが、私の我がままで何も返せない。何も繋いでいけない。
みんなに申し訳ない。もう、応援なんてしてもらう資格がないんじゃないか?
たぶん、素直にお姉ちゃん達と一緒にライブをしていれば、少なくともみんなに何かを返せたんじゃないのかな?
少なくとも、次へと繋ぐことが出来たんじゃないのかな?
そんなことを考えていたら、私の心に生まれていた綻びが一気に大きくなって、心の中を埋め尽くしていくのだった。
「……雪穂」
「……雪穂」
目の前の現状と、私の表情が曇ったことで不安になったのだろう。亜里沙と涼風が、私と同じ表情で声をかけてくる。
ダメだね? 2人が賛同してくれたとは言え、言いだしっぺは私なんだ。
私が自分達だけでライブがしたいって言ったんだ。なのに、私が真っ先に悲しんでいたらダメじゃん?
だから私は今の心に蓋をして、精一杯の強がりで――
「――そりゃそうだ! 世の中そんなに甘くない!」
そう言い放つ。そう、これが今の私の精一杯の強がり。
だけど、やっぱり強がりなんかじゃ心を埋め尽くす悲しみは抑え切れない。
再び溢れかえってきた悲しみに、心を押し潰されて泣き出しそうになるのを必死で堪えていた。
私の表情に引きづられるように、2人の表情も泣きそうになっている。
でも無理だ。今の私には、涙を抑え切ることなんてできない。2人の涙も抑え切ることができない。
泣かないように必死に堪えてきたけど、私はもう限界を迎えていた。
理解をしていたこと。覚悟もしていたこと。
お姉ちゃん達も通った――私の望んだ道。
だけど実際に直面した今。たぶん私達は笑顔でステージを下りることはできないのだろう。
私達のファーストライブは、涙で幕を閉じるのだと確信していた。
冷たい空気に包まれながら、私が抑え切れない感情に素直になることを決意して、心を解放しようとした瞬間――
「――ご、ごめんなさい! 先生方との話が長くなってしまって! ……あら、も、もしかしてライブは終わってしまったの?」
息を切らせながら、講堂へと駆け込む1人の女性の姿が、私の視界に映るのだった。
♪♪♪
そんな風に焦りながら周りをキョロキョロしている女性に向かって、対照的にゆっくりと後ろを付いて来た女性が――
「いや、そうではないんやない? えりち……ほら? ソコの椅子の陰に、にこっち隠れとるし?」
「――って、ちょっと希! 何、勝手に暴露してんのよ? と言うか、何で知ってんのよ!」
「いやいや、椅子に隠れたって……後ろからは丸見えやから」
「うぐぐ……あんた、カードのお告げよりも空気読みなさいよね?」
「空気読んだから暴露したんやけどなぁ」
そんな言葉を繋いでいた。更に私達は全然気づかなかった、椅子に隠れていた女性と会話をしていたのだった。
――まぁ、絵里さんと希さんとにこ先輩なんだけどね?
そう、卒業生が私達のライブの為に集まってくれたのだった。
歓迎会と同じで、私達――まぁ、絵里さんは亜里沙の為かも知れないけどね。
わざわざ集まってくれたことが、私には凄く嬉しかった。
そして、卒業生が集まってくれただけでも嬉しいのに――
「……えっと、まだ開演していないのよね?」
「たぶん、そうだと思うが?」
「何とか間に合ったみたいねぇ?」
絵里さん達の後ろから、綺羅 ツバサさん、統堂 英玲奈さん、優木 あんじゅさん―― A-RISE の3人が講堂に入ってきたのだった。
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