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ラブライブ! コネクション!!

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Track 3 STOMP:DASH!!
  活動日誌13 それは・ぼくたちのキセキ! 2 『ファーストライブ』

「「「…………」」」

 ピンクと青と緑。それぞれの色を基調としている3つのワンピース風の衣装。スカートの裾のカーブのところが印象的な衣装達。
 私達が忘れるはずもない『お姉ちゃん達のファーストライブのステージ衣装』だった。

「あのね? 3人用に手直ししてあるから――今日のライブで着てくれると嬉しいんだけど?」
「「「――えっ!?」」」 

 私達は目を見開いて、同時に驚きの声をあげていた。いや、だって――ライブで着てって言ったんだよ?
 実は元々の打ち合わせでは、私達は制服でステージに立つことに決まっていた。
 ほら? 衣装担当はことりさんな訳だし? さすがに同日(同時)にライブを開催するんだから、ね?
 時間がないからお姉ちゃん達(自分達)のだけを作るって話になっていた。
 だけど、手直しって言っても、何時(いつ)()に私達のサイズを?
 あっ! そう言えば、この間の練習中の休憩時間に――
次の(・・)ライブをする時には、ちゃんと衣装考えるから……その時の為にサイズを測らせてね?」
 って言っていたことを思い出した。
 でも、次のライブ用だと思っていたし、普通に作ってもらえることが嬉しかったから何も疑問に思わなかったのだけれど。
 きっと、あの時には既に手直しをすることを決めていたのだろう。確かに驚いたけど、私達の為に時間を割いて手直しをしてくれたことが素直に嬉しかった。
 だけど、私は嬉しさと同時に不安になっていたのだった。

♪♪♪

 確かに、この提案はことりさんの独断(どくだん)ではないとは思う。ちゃんとお姉ちゃんと海未さんの同意を得ている話なんだろう。
 だけど、お姉ちゃん達の『記念であり思い出の衣装』を着ることは、本当に良いのだろうか?
 そんな考えが脳裏(のうり)()ぎったのだった。
 私達用に手直しをしたと言うこと。その衣装を私達が(そで)を通すと言うこと。
 つまり、それは『お姉ちゃん達の思い出の品がなくなる』ってことを意味するのだから。
 きっと亜里沙と涼風も同じ気持ちだと思う。
 私達は μ's のファン。憧れている彼女達の思い出を自分達が消去して、平気でいられる訳はない。
 そんなことを感じていた私達は、お姉ちゃん達の衣装を手にすることを躊躇(ためら)っていた。私達の躊躇いを理解してくれたのだろう。ことりさんは優しく私達に言葉を紡ぐのだった。

「あのね? この衣装は私達3人のファーストライブの時の衣装だったんだけどね?」
「知っています」
「……だよね?」

 彼女の言葉に私が返事をすると、苦笑いを浮かべて相槌(あいづち)を打っていた。そして――

「もちろん、この衣装に思い出がない訳じゃないの……だけどね? 私達がこの先、この衣装を着ることはないんだよ?」
「「「…………」」」

『この衣装を着ることはない』
 この言葉に私達は言葉を失っていた。もちろん9人――今は6人だけど?
 メンバーが増えた時点で、3人だけの衣装が存在しないのは理解しているよ? 
 だけどね? それでも、それが衣装に袖を通して良い理由になるなんて、どうしても納得ができないんだもん。
 そんな想いがあった私達。未だに了承しないでいると、ことりさんは更に言葉を繋いだのだった。

「もちろん思い出として残すことも考えたんだけどね? ……それでも私達は雪穂ちゃん達に託そう(・・・)と思ったの」

 私達――当然ではあるけれど、お姉ちゃんと海未さんも同じ意見だと言うこと。

「1年前のファーストライブ。あの時に諦めなかったから、今の私達があるんだと思うし……」

 ことりさんは続きの言葉を飲み込んだけど、きっと「今の雪穂ちゃん達もあるんだよ」と繋がるんだと思っていた。そう、廃校していたら今の私達は存在しないんだからね。

「だから、諦めずに頑張ってきた私達の……スタートを見守ってくれた衣装に、もう1度スポットライトを()びる機会があっても良いのかなって思うんだ。それにね? …………」   

 ことりさんは言葉を言い終えると無言で視線を部室の方へと移していた。
 まぁ、ことりさんの視線の先は壁しかないんだけどね?
 私達には、ことりさんの見ているのが、隣の部室の棚の上にある色紙なんだと理解していた。
 だって、すごく優しい表情を浮かべていたんだもん。
 ことりさんは、そんな風に感じていた私達の方へと再び向き直ると――

「私は絵里ちゃん、希ちゃん……そして、にこちゃん。卒業生から託すと言うことの大切さを学んだの。だから私達も雪穂ちゃん達へ……この衣装を託したいと思ったんだ? だから、着てもらえないかなぁ?」

 そんな言葉を優しい微笑みを浮かべながら私達にかけるのだった。
『託す』
 私達もこの言葉を、入学してから幾度(いくど)となく実感してきた。そして(はげ)みにしてきたんだ。 
 託すとは、信頼して想いを(ゆだ)ねること。託されるとは、次へと繋いでいけるようにすること。
 自分達はファンとして、この衣装を着ることを躊躇っていた。
 だけど、私達はアイドル研究部の後輩なんだ。そして、ことりさん達と同じようなスクールアイドルを目指しているんだ。
 ことりさん達は、決してファンである私達に衣装を託しているのではない。
 同じように、スクールアイドルを目指している私達に衣装を託そうとしているんだ。
 先輩が私達を信頼して想いを委ねてくれているのなら、後輩である私達は次へと繋いでいかなければいけないんだ。
 ことりさんの言葉を聞いた私達は、お互い無言で見つめ合うと――

「「「ありがとうございます! 着させてもらいます!」」」

 声を揃えて、そう伝えるのだった。
 その言葉を聞いて嬉しそうに微笑むことりさんは、1度だけゆっくりと頷くと、何も言わずに部室の方へと歩き出した。
 だけど背中でも嬉しそうなのがわかるくらいに、両手を後ろに回して軽やかに歩いていったのだった。
 扉が閉まると私達は、もう1度だけジックリと衣装達を眺める。
 お姉ちゃん達の始まり。本当の意味でのスタートダッシュのライブ。
 その場面を支えた衣装達が今、私達のスタートダッシュを支えてくれようとしている。
 私達は改めて衣装を眺めながら『音ノ木坂学院のスクールアイドル』になったんだと言う実感(じっかん)()いてきていたのだった。
 だって、それが私達が衣装を着られる理由なんだから。
 だって、それが私達に託された理由なんだから。
 私達は無言で頷くと、誰からともなく衣装に袖を通し始めていた。
 託された想いをかみ締めるように、繋いでいけるように決意を新たにしながら。
 みんなの想いを感じながら、私達のステージ衣装に着替えていたのだった。

♪♪♪

 さぁ! いよいよ始まるんだ。私達の夢をかなえるのはみんなの与えてくれた勇気なんだよ。
 これから待ち受けている現実になんて負けない心で――
 まだ知らない明るい明日へ全力で()けて行こう!

 ずっと心に宿(やど)っていた強い強い、私達の願い事が――
 きっと今の瞬間に私達を導いてくれたんだろう。

 今までは、ただお姉ちゃん達を応援することしかできなかった。
 だけど次は絶対この願いは(ゆず)れないよ。
 お姉ちゃんと同じステージに立つ――
 お姉ちゃんと一緒にいられる残された時間を(つか)んだ、この手を握り締めて。

 ただの先輩後輩としての思い出。せっかく同じスクールアイドルになれたんだ。
 それだけじゃいやだよ。
 自分達の持てる精一杯。自分達の持てる力の限り。
 お姉ちゃん達を追いかけて走るんだ!

 さぁ! いよいよ始まるんだ。私達の夢を抱きしめたら、迷わず上を向いてライブに(いど)もう!
 そうすれば私達の世界が大きく変わるよ!
 さぁ! 私達の願いが実現するんだ。私達の夢をかなえるのはみんなの与えてくれた勇気が力になったんだよ。
 だから、どんな結末にだって負けない心で――
 国立音ノ木坂学院スクールアイドル Dream Tree の明日へ全力で駆けて行こう!

♪♪♪

 衣装に着替え終わった私達は、開演時間が迫っていることに慌てて、講堂へと急いで移動することにした。
 続き教室から部室へ戻ると、ことりさんと花陽さんは椅子に座って話をしていた。
 2人は私達に気づくと、特に何も言わずに優しい微笑みを浮かべてくれている。
 2人から何かアドバイスとか励ましの言葉はなかった。だけど、それで良いんだと思う。
 だって、みんなの想いはしっかりと受け取っているんだから!
 それに、今の私達には言葉は余計(よけい)にプレッシャーになることを、自分達も経験して知っている2人。
 だから何も言わずに微笑みを浮かべてくれたんだろう。それにね?
「雪穂ちゃん達なら大丈夫! 自分達の思い描いたステージを精一杯楽しんできてね」
 2人の笑顔に包まれた部室の空気、そしてお姉ちゃん達を見守り続けてきたこの空間(・・)が私達に、そう語りかけている気がするから。
 私達は精一杯自分達のステージを楽しむことだけ考えていれば良いんだ!
 そんな風に感じていたのだった。
 私達は今持てる精一杯の答え。満面の笑みを2人に返すと、足早に部室を出るのだった。

 いよいよだ! 私達の願いが本当に始まろうとしているんだ!
 私は脳内で、お姉ちゃん達のアノ曲を再生していた。
 そう、この瞬間は私達の奇跡。(まぎ)れもない奇跡なのだと思う。
 偶然の欠片を、諦めずに集め続けた私達の奇跡の始まり。
 だけど、始まりは始まり。終わりなんかじゃない。これからなんだ。
 うん、ライブが終わってもいないんだし? 当たり前なんだけどね。
 ライブが終わった時に、私達がどんな気持ちになっているのかなんて、今は全くわからない。
 だけど、少なくとも「やって良かった」って思えるステージにしたいと願っている。
 それが今、私達の身を包んでくれている『お姉ちゃん達の想い』と――
 私達を支えてくれている『みんなの想い』なんだと思うから。 

 講堂を目指して歩いている私達は、終始無言で目的地へと足を進めていた。
 廊下の窓からは、部活説明会で(にぎ)わう生徒達が視線の先に映っていた。
 だけど私達の気持ちは()るがなかった。別に、そんな余裕がなかったからじゃないよ?
 もう私達の心はみんなの想いで()()くされていたから。ただ、それだけ。
 私達は自分達のステージに集中する為に、あえて言葉を交わさずに、見つめ合うこともせずに――
 真っ直ぐに前だけを向いて、講堂へと足を踏み入れるのだった。 
 

 
後書き
Comments ことり

いよいよなんだね? うわー、なんか私の方が緊張しちゃうよぉ。
でも、大丈夫! 雪穂ちゃん達にはみんながいるんだから。なんてね。
衣装……着てもらえて嬉しかったよ。
やっぱりね? 思い出だけにするのは寂しいから――
『思い出以上になりたくて』なのかな?
あっ、海未ちゃん達に怒られそう。。。
と、とにかく、いよいよライブが始まるんだね?
自分達らしく、楽しいライブになるように頑張ってね。 
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