HUNTER×HUNTER 六つの食作法
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011話
「水見式ってのをこれからやってもらうぞ」
「水見式……遂にこの段階か」
遂にクラピカが心待ちとなっていた修行であった念能力の集大成といえる発の修行へと入る事となった。発、念能力の集大成。様々な能力者が創意工夫をもって開発した固有の能力などは全てこの『発』の応用である、シャネルの戦闘食事もこの発による物である。
「水で満たしたグラスに浮かべた葉、これに手を添えて練を行うんだ。それによって個人に適した系統によって水に変化が起こる」
「例えばどのような」
「そうだな、俺がまずやってみよう」
試しにシャネルが手を添えて練を行った。手によって挟まれたグラスになみなみと注がれていた水は練によって増幅されたオーラの影響を受けて変化を示す、水の色が瞬く間に赤、青と変化していく。
「水の色が変化するのは俺が放出系の系統に属する事を示している。さっお前も試してみろ」
「ああ」
新しく水を注ぎなおしクラピカは一呼吸を置いてから練を行った。一体どのような反応を示すのかクラピカは楽しみにしていた、そして練が行われたグラスの中には結晶のような不純物が漂っていた。
「不純物の出現、それは具現化系を示す反応だな。クラピカは具現化系を得意とする系統って事になるな」
「具現化系……出来れば強化系が望ましかったのだが」
自らの系統が明らかになったがクラピカの顔色は良くなかった、希望していた系統が強化系だったからだろう。しかしこれに至っては生まれた時に決まる才能、これは変えようがない。
「そうしょげるなって、別に強化系が覚えられねえわけじゃねえし具現化系は具現化系の強みがある」
「しかし……幻影旅団と戦うには強化系が望ましかった」
「まあな、戦いで一番バランスがいいのは強化系だからな」
攻撃防御回復、強化系はこれらをバランスよく補強する事が出来る為戦闘における念系統でいえばワントップと言える。
「だけど習得率的な事を言えば強化系も覚える事は出来る。話した内容は覚えてるか?」
「ああ。私の場合だと強化系は60%ほどの習得率になるのだったか」
「だけどその60%で強化系をぶちのめす事は十二分に出来る。要は使い方次第だな、それに人それぞれに癖や好みがあるように系統の習得率にもムラがある。強化寄りの放出もいれば変化よりの具現化もいるって話だ」
事実としてシャネルもそれに入る。放出系に属する彼だが彼は強化寄りの放出系であり操作系は強化よりも苦手な部類に入り放ったフォークやナイフの操作精度は高くはない、が威力的に見れば申し分ない。
「兎に角だ、自分の力を信じて突き進むしかないな。迷うのは壁に当たってからだ」
「解った」
「あと注意点だ、具現化するものはよく考えた方が良い。物質の具現化はかなりの集中力に想像力、そして時間を要するからな」
オーラを別の物質に変化させる能力である具現化系の習得は最も困難だと言われている、具現化に至るまでの道のりは酷く長い。具現化するものは慎重に選ぶ必要がある。
「鎖、鎖が良い……」
「鎖か」
「ああ、具現化系と聞いた時真っ先に浮かんだんだ。それ以外は何とも……」
「ならそれを尊重しよう、念能力は直感やインスピレーション、フィーリングが大切だからな」
自分のこの能力を作った時も真っ先に浮かんだのがトリコの技であるフォークとナイフであった。結果としてそれを作った際にはかなりの威力を発揮していた、頭に一番最初に浮かんだりしっくり来るものは能力としたときにも大きな力を発揮する。
「具現化系の修行ってのはキツいぜ、覚悟しとけよ?」
「大丈夫さ。私にはシャネルがいて支えてくれる、私はシャネルを信じる、私を信じるシャネルをな」
「へっ、ならほらよ」
シャネルはバックの中で空間倉庫へと手を伸ばしそこから猛獣などを運ぶようにしようする鎖を取り出してそれをクラピカへと手渡した。ジャラジャラと金属が擦れる音と冷たい感触が手につく。
「まずはイメージ修行だ、今日から毎日鎖弄って遊んでな」
「えっ……はっ毎日これをか!?」
「そうだ、鎖を使ってする事なら何でもして良い。但し鎖を使っている時は六式の修行は厳禁だ、六式の修行はちょっと休憩だ」
そう修行がキツいというのは長時間具現化しようとするものを触ったり見たりしてそのイメージを強く強く脳に焼き付けなければならないからである。ただただひたすらにそれを行われければならないっという意味できついのである。
「んじゃ俺はメシの調達をしてくる、しっかりやってるんだぞ。あと鎖は肌身離さず持ってろよ」
「……キツいとはそういう意味か」
若干気抜けしながらもやらなければいけない事にややぞっとしつつも鎖を弄るのであった。
「……」
洞穴の中でジャラジャラと響く鎖の金属同士が擦れる音、目の前でギチギチと蠢く鎖の感触と温度。唯ひたすらに触り続ける事2時間、ここまでずっと弄り続けてきたかこれ以外のやり方はあるのかと思い始める。触るだけで良いのだろうかと。
「……(スンスン)」
匂いを嗅いでみる。金属特融のややツゥンとした匂いが鼻を突くがこれも自分が具現化すると思うと嗅ぎ続けた、そして次にするべき事は……
「味も、見ておこうか」
舐める、鎖をなぞるように舐めてみる。噛んでみる、五感で出来る限り感じられるだけの事を鎖で体感してみる。鎖を腕に巻きそれだけ締め付けられ痛みを感じるか、鎖を天井に突き刺しそれにぶら下がってみたりと様々なことをしてみる。
「ふむ……他には……」
「ただいまー……どうだ感想は……」
「……ふむ、少々味が変わっているか?」
シャネルが獲物を仕留めて帰って来てみるとそこにあったのは洞穴の天井に深く突き刺さった鎖にぶら下がりながら鎖を舐めているクラピカの姿、確かに鎖を使ってなら何でもやっていいとは言ったがこんな事をやっているとは完全に予想外。っというかクラピカのように外見が整っている美少年が鎖にぶら下がりながら鎖を舐めている図はどうにもシュールすぎて言葉が出てこない。
「……んっああおかえり」
「………これから毎日これを見ないといけないのか……俺の方も相当つれぇぞこれ…」
「?」
修行開始から約4か月が経過。
シャネルの下で修行に励むクラピカの手には既に鎖はなかった。長い期間鎖を触れ続けた事で鎖の夢を見るようになるという段階に達した為、鎖は取り上げられていた。
「どうだ、感覚は」
「……妙な感じだ。何も無いと解っている筈なのに手の中に鎖が見えていて感触がある」
「良い傾向だな、あとちょっとって所か」
間もなく幻覚ではなく本物の鎖を具現化出来るようになるだろう、約2か月ずっと行ってきたイメージの修行が芽生えている。後はその目を成長させるのみ。
「ならそろそろ考えとく必要があるな」
「具現化した鎖に付与する効果、か?」
「ああ、ただ具現化しただけなら既に存在しているものを買った方が早いからな。具現化系の使い手は何かしらの力を付与している」
例えを上げるとするならば剣を具現化したとする、だがそれだけでは意味はないし修行の意味もない。ならば燃える剣はどうだろうか、通常はあり得ないが出来ない事は無い事。具現化したものへの効果付与、これが具現化系の長所と言ってもいい。
「能力は決めている。それと先日発覚した特質系を組み合わせて使う」
「ほう?」
洞穴に少々大型の蜘蛛が入ってきた時だ。クラピカは激しく興奮し蜘蛛を瞬時に叩き潰した、がその時にクラピカの瞳がクルタ族特有の緋の目となっていた。その瞳となっていた時、クラピカが身体から出していたオーラが爆発的に増えていた。緋の目の時にだけに発現する能力、後天的な特質系があると判明したのだ。
それからクラピカは自分自身の意思で緋の目になれるように訓練し今ではそれをものにしている。その能力を物にするために鎖の具現化は遅くなったが些細な問題だった。クラピカの特質系能力はオーラ総量が増え、覚えた系統の能力を100%引き出すことが出来るという絶対時間 。
「って事はだ、緋の目になった時にだけ使う能力にするのか?」
「ああ。シャネルには話すが相手を絶にする、という能力を考えている」
「ッ!!おいおい相手を絶だと?キッツいなぁ……捕まったら終わりじゃねえか……」
「否そうでもない、鎖の強度自体の問題もある。最後の捕縛用と言った所だ」
確かに普通の鎖よりある程度強い強度で強制的な絶にされても腕力に自信があるものならそれを引き千切るだろう、この時点では相手にある程度のダメージを与えてそこを捕獲する搦手という選択種を取るしかない。だが自分は知っている、それを解決する方法を。
「クラピカ、その鎖の強度を上げる方法があると言ったらどうする?」
「あるのかどんな方法なんだ?」
「直ぐに食いついたな……制約と誓約だ」
「制約と誓約…!」
制約を作りそれを遵守する。制約が厳しければ厳しいほど威力は爆発的に増強されている。
「俺の場合はまず能力の使用前に合掌をする事だ」
「なるほど、あれはそういう事だったのか……」
思い出すのは修行に入る前、念について説明を受けていた時に使用した戦闘食事の前の合掌。
「それとカロリーだ」
「カロリー?」
「俺が大喰らいなのはそれなのさ。俺は使用したオーラに応じてカロリーを消費するし何もしなくても一日で10万キロカロリーは消費する、それが俺の制約と誓約だ」
「そうだったのか…ただ単に食いしん坊だった訳じゃなかったんだな」
「唯の食いしん坊が自分の身体を10倍以上ある猛獣平らげると思うか、んでこんな感じで自分の覚悟で守れる範囲のルールを作るんだ」
言われてみて納得する。制約と誓約、それを如何するか……はクラピカの中では決まっていた。
「蜘蛛以外、旅団以外の奴には鎖を使わない」
「目標以外使用禁止か、少し弱いな」
「いやこれは前提条件さ。本当のルールは私の命をかける」
そう、言うと思っていた。クラピカほどの強い執念と覚悟ならばそのようなルールを敷くだろうと直感出来ていた。だが自分は
「駄目だ、認めない」
否定する。
「何故だシャネル!!何故否定する!!?そうしなければ旅団には勝てない!!」
「お前、俺がお前を支えるって言ったの忘れたか」
「一時とて忘れた事などない!!あの時の言葉は本当に嬉しかったのだからな!!だから私も覚悟を!!」
「俺の命、使えよ」
この時、クラピカは目を限界まで見開き呼吸を忘れた。何と言ったのか解らなかった、聞こえなかった。そう激しく思った。
「俺の命を使え。旅団以外のメンバーに攻撃すれば、俺が死ぬって制約なら鎖はアホみたいに硬くなる」
「………ッ!!な、何を馬鹿な事を言っているんだ!!?し、死ぬかもしれないんだぞ、私が旅団以外のメンバーに使ったら!!?」
「だからなんだよ。俺はお前を支えるって決めた、支えるって事はサポートするだけじゃねえ。一緒に戦ってやるって意味なんだよ」
確かに言ってくれた、自分も支えて欲しいと言った。確かに自分にとってシャネルは失いたくない大切な存在、ある意味自分よりも。そんな人物の命を懸けた場合はすごい力を発揮するだろう。だがそんな事を……!!
強い力は欲しい、だが彼に死んでほしくない。それでも彼は自分とともに戦ってくれると誓ってくれた、そんな気持ちも裏切りたくない。ぐるぐると交錯していく考え、だがそんな混乱も次の瞬間には冴えた。頬が叩かれた。
「単純な事だ、お前が制約を守りさえすれば俺は死なないから無問題だ。それにお前なら絶対に破らないだろ?そして俺もその制約を破らせないように動く、これなら万事解決だ」
「シャネル……本当に、いいのか……?」
「勿論」
迷いという文字など無いほどに澄み切った瞳にクラピカは圧倒されていた。今のシャネルの瞳の輝きは本物、緋の目のように美しかった。そしてクラピカも決意した。彼の、心意気と覚悟を受け取ると。
「シャネル、その覚悟受け取らせてもらう。私に、命を預けてくれ」
「ああ。俺の命、やるよお前にな」
後書き
戦闘食事 テーブルマナー
放出系+強化系+操作系能力
身体の一部を食事で使う道具に見立て、その形に応じた念弾発射や直接攻撃を行う。
念弾をホーミングさせたり、念弾が突き刺さった対象を念弾で動かすこともできる。
念弾を用いない場合は強化系のみでの使用となる。
・フォーク
:左手をフォークに見立てた突き攻撃、フォーク状の念弾を飛ばし攻撃する。
左手で直接フォークを繰り出すこともできる。
・ナイフ
:右手をナイフに見立てた斬撃攻撃、ナイフ状の念弾を飛ばし攻撃する。
右手で直接ナイフを繰り出すこともできる。
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