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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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シーソーゲーム

 
前書き
一日騒ぎすぎて疲れて変な時間に眠り、この時間に目が冴えてしまうという・・・ 

 
「「・・・」」

互いに相手を見据えたまま一切身動きを取れなくなっているサルとキツネ。サルは相手の残り回答不能時間をチラッと確認する。

(まずい・・・せっかく時間を作ってもらったのに全くポイントを奪える気がしない)

徐々になくなっていく優位な時間。その理由は目の前のキツネにあった。

「それで、お前は一体誰なんだ?」

何度目かわからない同じ問い。しかし、それにキツネは答えることを一切しない。ただ数字を両手で覆い隠し、その場から微動だにせずユウカを見据えている。

(たぶんキツネは俺がユウカだとわかっている。それなのにここまで動かないということは間違いなく敵だ)

ユウカが最後の回答をしてからすぐさまその姿を現したキツネ。つまり彼の回答の瞬間を確実に見ていたと考えられる。その上で数字を見せず、ただただ時間が経つのを見ていると彼女が敵なのは容易に想像できた。

(こちらの質問に一切答えず守りの姿勢を崩さない。これは自分よりも優れたメンバーがいると考えている奴しかできない。
シェリアは頭脳戦にはそれなりに自信がある。つまりこのキツネは・・・ウェンディだということだ)

キツネの中身をユウカは見破ることができた。しかし、それは彼女が与えられた数字がわからないことには全く意味を成さない。このままでは何もできずに五分が終了してしまう。何とかしなければ・・・そう思っていた時、後ろから二つの足音が近付いてくるのが聞こえた。

ユウカがそちらを振り向くと、自分の目の前に大きなチワワが現れた直後、見たことのあるクマの着ぐるみがくっついてきたことを。

(ソフィア!?チワワを追い掛けてきたってことか?)

ソフィアが何の考えも無しにチワワについてきたとは考えられない。彼女は何者かに騙されて不正解を出し、回答不能に追い込まれてしまった。

(ソフィアは自分を騙したチワワについてきて俺の元までやって来た。つまりこのチワワは――――)

顔を上げて敵の回答不能時間を確認する。すでにタイマーは一分を切っており、これ以上引き伸ばすことは無意味だとユウカは悟った。

「見つけた、81番リオン・バスティア」
『ユウカ選手正解です!!』

時間切れになる前に早々に回答を終える。これでユウカは勝利ポイントまであと1ポイント。先に王手をかけたのはユウカとなった。しかし・・・

「54番、ユウカ・スズキ」

目の前で回答してもらったことにより、ソフィアもすぐさまポイントを加算する。

『ソフィア選手正解です!!』

カグラを当てて以降なかなかポイントを奪えずに苦しんでいたソフィアだったが、リオンに騙されたことが幸いし追加点を上げることができた。

(これでソフィアも3ポイント。だけど、ユウカさんがマッチポイントなのには変わらない!!)

いまだに数字を隠し続けているキツネを見て、ソフィアもすぐにそれがウェンディなのだと察した。しかし、ユウカが近くにいる限り、彼女の数字を見せてもらうことは絶対に出来ない。

「ソフィアもこっちに来たのか。てっきり他のメンバーを探しに行くと思ったけどな」

なんとかウェンディから数字を教えてもらう方法がないかと考えていたソフィアを揺さぶるようにユウカが話を振ってくる。

「五分以内にリオンさんが合流できなかったらそのままコールすればいいし、もし合流したらそのままユウカさんからポイントを奪えるからね」

リオンの後を付いて行きさえすれば必ず1ポイントは得ることができる。うまくいけば2ポイント獲得することができたため、ソフィアはそれを狙って今回の行動に出た。

「なるほど。でもそれならここにもう一人いるんだから、その子も一緒にコールして点にしようとは思わねぇのか?」
「よく言うね、自分も数字が見えなくてコールできなかったクセに」

ソフィアはウェンディに視線を向けるが、彼女はやはり動かない。ユウカが隣で半身になって数字を見ていることから、動くわけにはいかないのだ。

(見つけたコールをすれば10秒間の回答時間が与えられる。その間に・・・ってのはダメだね)

頭の中を一つの考えが過ったが、それが無謀な策だったことに気が付いた彼女はその候補を頭から消し去る。

(それをやるならユウカさんの不意を突くことをしなければならない。もし数字を隠されたら回答できなくてまた五分間回答不能になるかも・・・)

それだけは避けなければならないと新たな策を練ろうとした矢先、ソフィアの目に隠れてこちらを見つめている一人の着ぐるみが目に入った。

(何あれ?ニワトリ?)

赤いトサカを頭に付けた真っ白な鳥を見て思わず視線が止まってしまう。ただ、ユウカからは見えない角度にいるらしく、彼は全くその存在に気付いていない。

(ソフィアにしか見えないようにしてる?てことはあのニワトリは――――)

味方なのではないかと思われる着ぐるみの登場に喜びを感じる。もしあれが本当にシェリアならば、ここで同点に持ち込めばそれだけで相手にプレッシャーを与えられる。

(数字見せて)

敵に気づかれない程度の動きでニワトリへと指示を出す。それを見たニワトリは慎重に体を壁の影から覗かせていく。

(20・・・何番?あと少しで見せそう)

一瞬目を切りユウカの反応を確認する。彼はいまだに気付いていないようで、さっぱり動きを見せる様子はない。

(早く!!早く見せて!!)

今のうちにとシェリアに数字の全貌を早く見せるように左手で指示を与える。ニワトリも今なら大丈夫だと判断し、数字の全てを彼女の視界へとさらけ出した。

「見つけた、22番シェリア・プレンディ」
「「!?」」

突然の回答に驚愕したのはその場にいた二つの着ぐるみ。彼らはソフィアの視線の先に目をやると、そこにはシェリアが入った大きなニワトリが立っていた。

『ソフィア選手正解です!!小さき魔術師(リトルマジシャンズ)に1ポイント追加となります!!』
「やった!!」

思わずガッツポーズが飛び出したソフィア。何の根拠も無しにシェリアと回答するのには勇気が必要だったが、残りのサブがトビーかミリアーナであることを考慮すれば、そこまで気の効いた判断はできないと割り切ってコールしたのだった。

(これでソフィアもユウカさんも残り1ポイント)

ようやく追い付いたかに思えるソフィアだったが、実はそうではない。この1ポイントは戦況を大きく一転させた。
その理由はこのキツネがウェンディであるということ。ユウカが彼女から目を離せばその隙にソフィアは数字を教えてもらい回答できる。ゆえに彼は一瞬たりとも気が抜けないのだが、そこまでの高い集中力が長時間も持つであろうか?

(答えはNoだ)

優勢から劣勢へと瞬く間に転落したことで焦る気持ちが心の中を駆け巡る。さらにウェンディとソフィアはユウカを挟むような立ち位置になっており、双方とも警戒しなければならないユウカにはますます不利な状態になっている。

(この位置関係を変えたい!!が、無理に動いてその隙にやられたなんてことにはしたくない)

動くも地獄、動かぬも地獄。板挟み状態に陥ったユウカは現状を打破するために策を懸命に模索する。

(大丈夫、俺がこの場にいる限りソフィアがウェンディの数字を手に入れることはできない。ひとまず負けることはないだろう)

気持ちが切れた瞬間に決してしまうであろうこの勝負。しかし、ソフィアはこの時点では一切のリスクがない。集中力のスイッチをOFFにしていても何も問題がない。それに対しユウカは下手に動くことができない上に集中を切らすこともできない。

(そういや、もう一人はどこにいるんだ?)

絶望的な状況なのに、頭は冷静だった。唯一残っている自チームのサブの人物のことが浮かんでくる。

(トビーかカグラがまだ残っているはずなのに、俺は全然姿を確認していない。ソフィアは一体どっちを当てた?)

ユウカのポイントの内訳はソフィア、レオン、ミリアーナ、リオンの四人。対してソフィアはシリル、カグラ、ユウカ、シェリア。そしてこの場にはウェンディが残されている。以上を踏まえるとまだトビーが残っていることになるのだが、二人は相手が誰を当てたのか全てを把握しているわけではないため彼が最後の人物だとはわかっていない。

(なんとか残ってるもう一人・・・こいつがこの場に来てくれればまだ勝つ見込みはあるが・・・)

願いを込めて周囲を見回してみるが、どこにもこの様子を見ている人物は見当たらない。まだ迷路のどこかを歩き回っているのかと諦めかけたその時、地面に動く影が映っていることに彼は気付いた。

(おっ?)

気付かれないようにウェンディとソフィアから視線を外して影の動きを観察する。じっと見つめていると、その影は確実に動いているのが見て取れ、何者かがいることが確信できた。

(来た!!これは流れが変わる)

ソフィアはまだ一人が近づいてきていることに気付いていない。これは劣勢のユウカにとって唯一の利点だ。

(トビーとカグラ、どっちだ?どっちが生き残ってるんだ?)

姿が見えた瞬間に見つけたコールを行い敵よりも早く回答する。それが一番理想ではあるのだが、残念なことに理想通りにことは運べない。
なぜならユウカの中では二人の候補が残っているから。それを特定しなければならないが、とても見つけたコール後の10秒では無理な話。つまりコールを行う前に見分けなければならないが、その間にソフィアがウェンディを回答してしまったら意味がない。

(誰だかわかるような動作をしてくれればいいんだが、どうだかな)

祈るように影の主がこちらに歩いてくるのをじっと見つめる。徐々に足音が近付いてくると、ソフィアとウェンディも最後の一人がこちらに向かってきていることに気付きそちらを振り向いた。

「出てくるな!!」

ビクッ

突然大声で最後の着ぐるみの動きを封じるユウカ。だが、それが誰に言ったのか彼には伝わらなかったらしく、こちらを覗くように顔を見せた。

(馬かよ)

見えた顔を見てなんとも言えない表情をするユウカ。最後の最後で出てきた着ぐるみがこれまた動きにくそうな馬。それによりここまでこの着ぐるみが誰とも遭遇しなかった理由も何となく把握できた。

(あの足じゃ動きにくいわな)

レオンのタヌキもなかなかだったが、この馬も相当なものである。その理由は足にある。人間の足は地面に接する面が大きいが、この馬の着ぐるみの前足を見た限り、本物同様の仕様になっていることが容易に想像できた。
その足で歩くのはバランスが非常に悪く、進んでも転倒して前に行くことができなかったゆえに誰とも遭遇せずにいられたのだと思う。

(で、どっちなんだ?こいつは)

一通り感想を心の中で述べた後、馬の正体を考察してみることにする。だが、馬はこちらをじっと見つめているだけなので全く誰と特定する要素がない。

(こっちに呼び寄せるか?いや、もしソフィアがあの中身を知ってるとすると・・・)

自分は知らないが、敵が知っている場合はみすみすチャンスを与えることになって終わりだと踏み切るに踏み切れないユウカ。一方のソフィアはというと・・・

(誰?あれ)

彼女もまた、二人の候補がいる馬の中身を考えているところだった。
両者ともに馬の存在が気になり、ただ静かに時が流れていく。

(あの馬の数字を確認して即コールするか?いや、その前にソフィアがウェンディを回答するのは確実。動くわけにはいかない)

このままでは勝敗が決することはないと考えたユウカが勝負を動かそうとしたが、自分が動いてしまうことは敵に好機を与えるだけだと悟る。このまま何か自分に有利に働くことが起きることを祈っていることしかできないのかと思っていた矢先、目の前にいたはずのクマが突然ウマ目掛けて走り出した。

(ハッ!?)

何を彼女は思ったのか、自分有利だったはずの状況を崩して走り出したクマを見て驚く。向かってきたクマを見てウマも同様に驚き、背を向けて走り出す。

(何は狙いなんだ!?いや、今は・・・)

ソフィアが目の前からいなくなったことを利用して跡を追いかけていくサル。

(なんで敵であるはずのウマを追いかけていくんだ?ウェンディからじゃ得点できないと――――)

そこまで来て、彼は彼女の狙いに気付いた。ソフィアの目的は自分の意識をウェンディから離すこと。ウマを追いかけていけば当然自分もこのチャンスを生かそうと動く。その間に切り返してウェンディから数字を見せてもらえば勝敗を悠々と決することができる。

(だったら逆にそれを利用してやる!!)

ウマとクマの追いかけっこが繰り広げられている道へと曲がったユウカは足を止めて振り返る。

(今だ!!・・・!?)

ユウカが足を止めた丁度その時、ソフィアも踵を返して振り向くと、そこに入ったのは足を止めてウェンディが誘い出されるのを待っているサルの姿。

「ウェンディ!!来ちゃダメ!!」

声を張り上げ味方の少女の動きを制しようとするが、時すでに遅し。ウェンディが入っているキツネは、三人の跡を追いかけようと向かってきており、立ち止まっていたユウカと正面で向かい合ってしまった。

「見つけた、03番、ウェンディ・マーベル」

ソフィアに持っていかれる前にと即回答を行うユウカ。その瞬間、その場にいた二人の小さな少女は唖然としてしまった。

『ユウカ選手正解です!!人魚の鱗(マーメイドスケイル)が5ポイントを獲得しました!!よって勝者、人魚の鱗(マーメイドスケイル)!!』
「よしっ!!」

逆転に次ぐ逆転劇となった第三戦を制したのは最後の際で追い込まれていたはずの青年。彼は奇跡にも近い勝利を受け、物静かな普段の佇まいからは想像できないようなガッツポーズをしていた。










 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
ソフィアが勝つかユウカが勝つか、実は最後の最後まで迷いに迷っていたところがあります。
次は第4戦です。4戦目は短いかもしれないので予めご了承ください。 
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