八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第八十七話 帝国海軍その十三
「まあ入ればの話で」
「軍隊にね」
「最近徴兵制の国も少ないしね」
「ベトナムとかはそうだけれどね」
「そうしたこともないね」
「そうよね」
「日本の徴兵制も」
戦前のその時もだ。
「実は凄く厳しかったんだ」
「あっ、そうなの」
「クラスに一人か二人いればね」
本当にそのレベルでだったらしい、徴兵制度で実際に兵隊さんになる人は。
「いい位だったっていうから」
「少ないわね、随分と」
「作家さんの経歴調べるね」
その戦争前のだ。
「夏目漱石とかは怖がってたらしいけれど」
「あの吾輩は猫であるの」
「うん、あの人もね」
ただこの人は結核持ちだったのでどっちにしても徴兵されなかったと思う。それが嫌で北海道に移住したらしいけれど。
「多分なかったよ」
「そうなの」
「うん、肺が悪かったから」
その結核のことだ。
「そのせいでね」
「肺が悪いとアウトだったのね」
「というかかなり厳しい検査みたいだったから」
徴兵の身体検査、そして身辺検査がだ。
「少しでも問題があったらね」
「アウトだったのね」
「そうだったんだ」
「厳しいわね」
「うん、作家さんで兵隊さんになった人は」
僕の知っている限りではだ。
「志賀直哉位かな」
「志賀直哉って城の崎の」
「そう、あの人だよ」
他には和解や万暦赤絵が代表作だろうか。大正から戦後まで活躍したかなり息の長い小説家だった。私小説の大家でもある。
「教科書にも出たよね」
「顔が男前の」
「そこ言うんだ」
「だって紹介の写真見たらね」
その城の崎の最後の作者紹介だ、教科書には欠かせない部分だ。ここからもテストに出るから要注意の場所だ。
「実際男前だったわよ」
「まあ確かにあの人顔もいいかな」
「もてたでしょうね」
「若い頃は放蕩してたっていうしね」
「遊び人だったの」
「若い頃はね」
あくまでその頃はだ。
「そうだったらしいよ、それでその志賀直哉はね」
「兵隊さんに行ってたの」
「うん、徴兵でね」
本当に僕の知ってる限りこの人位しか徴兵で兵隊さんになっていない、徴兵逃れで家の力を使ったとかいう話は戦前の日本では殆どなかったらしい。むしろ進んで嫡男を出す様な人、そして家が多かったらしい。
「その人位だよ、しかもね」
「しかもって?」
「志賀直哉兵隊さんになって凄く嬉しそうだったんだ」
その兵隊さんになった時の写真が結構残っているのだ。
「どの写真でもドヤっていう誇らしげな顔だったよ」
「ドヤ顔?」
「そう、誰が見てもって感じの」
兵隊さん、当時の帝国陸軍の軍服を着てだ。銃を持っている写真もあった。
「そんな写真だったよ」
「どの写真も」
「なれたのが嬉しいっていうね」
「そんなにだったのね」
「まああの人武士の家だったしね」
仙台藩の家老の家だったらしい、そこの嫡男さんだったから世が世ならなら仙台藩家老という立場だった人だ。
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