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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#6
  呪縛の死線 玲瑞の晶姫VS漆黒の悪魔




『呪縛の死線 玲 瑞 の 晶 姫(セイクリッド・ラヴァーズ)VS漆 黒 の 悪 魔(エボニー・デビル)



【1】


“シンガポール共和国”
 通称シンガポールは、東南アジアのマレー半島南端に隣接するシンガポール島と
周辺の島嶼を領土とする都市国家である。
 国名の意味は、サンスクリット語で「ライオンの町」
11世紀、シュリーヴィジャヤ (スマトラ) 王国の王子、
サン・ニラ・ウタマが白き鬣の獅子 (シンガ) をこの島で目撃し、
シンガプーラと名付けた事に由来する。
 赤道直下に位置するため、一年を通じて高温かつ多湿。
 古くから世界中の船が行き交う海峡都市として発展し、
自由貿易によって西洋と東洋が溶け込む多民族国家、
ソレがこの国である。
 国の象徴である、獣の上半身と魚の下半身を併せ持つマーライオンの彫像が
勢いよく海水を吐き出し、聳え立つ高層ビルを背景にゆらゆらと動く
熱帯植物。乾燥した空気と強い陽射しに囲まれる、
香港とはまた趣の違う海辺の街に彼等はいた。
 その様相は、一見若い男女を伴った普通の旅行者(約一名絶対違う格好をしているが)
しかし旅の目的、携えた異能、何より裡に宿る気高き精神に拠り
他とは一線を画した存在感を周囲に放っている。
 やがてその中のリーダー格、老齢にも関わらず特殊工作兵のように
鍛え抜かれた躯を持つ男が口を開いた。
「日本を出て10日が過ぎたが、ようやくシンガポールに到着、か。
しかし」
 感慨いった表情で呟いたその男、ジョセフ・ジョースターは
眉を顰めて向き直った。
「おまえら、その 「学生服」 は何とかならんのかぁ~? 
その格好で旅を続ける気? 暑くないの?
シャナのように 「夏服」 は持ってこなかったのか?」
 屈強な老人が指差した先、マキシコートとバレルコートのような制服を着た
美男子二人が、熱帯の気候に汗一つかかず平然と佇んでいた。
「ボク達は学生ですから、学生は学生らしくですよ」
 中性的な風貌の青年、花京院 典明が穏やかな笑顔で
「フン」
無頼の貴公子、空条 承太郎が興味なさ気に鼻を鳴らす。
 最も二人の着ている学生服はオーダーメイドの特注品なので
通気性が格別に優れ本当に暑くはないのだが。
(でも、ちょっとだけ興味あったかも)
 ジョセフの隣、メイド服を着た淑女の脇に立つ少女、
今は眼の醒めるほど白い制服(無論、承太郎と同じブランドなので繊維は頑強に紡がれ、
炎のエンブレムもしっかり右肩に刻まれている)に装いを新めたシャナが呟いた。
 もう随分と長い間 (少女の主観にはそう感じられた) 一緒にいるが、
承太郎が学生服以外の服を着ているのは見た事がない(色はたまに違うが)
 なのでいつか口にした寓話ではないが、暑い場所に行けば違う装いが
見られるかもしれないと密かに期待していたが結局何も変わらなかった。
(その事を棚に上げて、自分の夏服を見たとき馬子にも衣装だな
とかイジワルな口調で言ったので本気で追いかけ回したが) 
 まぁ最も、承太郎には今の学生服が一番似合っていると想うし、
ソレ以外のどんな服が似合うのかと問われても正直言葉に窮してしまう。
 今度、自分の纏っている “夜笠” でも着せてみようかと
半ば本気で考えていた少女の頭上から、出し抜けに軽薄かつ邪な声が到来した。
「暑いっていえば、君は暑くないのかい?
体調管理はちゃんとしないと美容によくないぜぇ~。
何ならオレと一緒にこれから似合う服でも買いにだなぁ~」
 久々に再会を果たした大好きな女性の後ろで、
仲間内では一番いけ好かない男が
両手をワキワキと動かしながら言い寄っている。
 ドゴォッッ!!
「ウゴォォォッッ!!?」
 何か今にもヴィルヘルミナの服を脱がしそうだったので、
取りあえず高速の直突きを腹に見舞っておく。
「ヴィルヘルミナに近づくな」
 清掃の行き届いた路面で痙攣する不逞の輩、
否、J・P・ポルナレフをシャナは凛々しい視線で見据えた。
 その黒い瞳には、大切な者に指一本触れさせないという
強靭な使命感で充たされている。
「う、おおぉぉ……シャナ……テメェ……」
 腰砕けに這い蹲り、なかなか回復しない痛みを堪えながら
ポルナレフは言葉を絞り出す。
「マスター? 本当に “アノ者” が、
“天壌の劫火” と互角の戦いを演じたのでありますか?」
「う~む、スタンドは強力なんじゃがのぉ~」
「我も刻々と確信が薄らいできた」
 新たなる仲間、ヴィルヘルミナ・カルメルの問いに盟友二人が同時に答える。
 そこに。
「こらぁ!! きさま!!」
 ビクッとするような警笛と共に、
熟年らしい半袖の警察官が厳めしい顔付きでこちらに走ってきた。
 その途中には日本で見かけない、
手と紙切れに禁止マークが入った道路標識が立っている。
「あぁ?」
 路上で腹を押さえたまま、ポルナレフは両手を腰に当てて見下ろす警官を仰ぐ。
「きさま! ゴミを捨てたな! 罰金500Sドルを課する!
我がシンガポールでは、ゴミを捨てると罰金を課す法律があるのを知らんのかッ!?」
 これだから旅行客は等とブツブツ文句を言う法の番人を見つめながら、
銀髪の青年はおもむろに立ち上がる。
「ゴミ? 一体何のコトだ?」
 言いながらポルナレフは先刻の衝撃で路上に転がった、
長い年季のボクサーバッグを見据えながら問う。
「クッ……!」
「フッ……」
 意図を察したシャナと承太郎が想わず吹き出す。
「オレには! 自分の荷物の他には! なぁーんにも見えねーけど?
ゴミって一体どれか……教えてもらえませんかねッ!」
「え!?」
 凄味と共に質問を質問で返された警察官は、その迫力に気圧されたじろく。
「ど・こ・に? ゴミが落ちてんだよ~? えぇ、アンタ?」
「こ、コレは貴方の荷物!? い、いや、それは大変失礼した……!」 
 職務に忠実かつ愛国心の厚い公僕がミスを侘びると同時に、
すぐ傍で笑い声が一斉に弾けた。
「……」
「ふ、ふ、ふ」
 雰囲気に乗せられたのかアラストールに加えヴィルヘルミナまで、
前髪で表情を隠しながら口唇を笑みの形に曲げている。
「アハハハハハハハ! 
まぁ、あれじゃあゴミに間違われてもしょうがないわよ。
逆に追求された警察官の方が可哀想よね」
 よほど可笑しかったのか、無垢な笑みを絶やさないシャナをポルナレフは
ムッとした表情でみつめる。
「一体! 誰の所為でこーなったと想ってんだ!?
オメーがいきなり殴るからバッグがブッ飛んだんじゃあねーかッ!」
「うるさいうるさいうるさい! 
おまえがヴィルヘルミナに変な事しようとしてたからでしょッ!」
 うぅ~、とその身長差を無視して火花を散らす二人を老人と淑女が
まぁまぁと引き離す。
「取りあえず、今日はホテルに泊まり、これからのルートを考える事にしよう。
スタンド戦で消耗した体力も回復させねばならんしな」
 ジョセフがそう言ってまとめ、船上で予約を入れておいた場所に全員を促す。
 シャナとポルナレフはまだお互いを牽制しながら後に従った。
「いつも、御苦労が絶えないようでありますな?
マスターの御心労、身につまされる想いなのであります」
 傍を歩く少女ではなく、あくまでもう一人の男のみを対象として
淑女は雇い主を労る。
「いやぁ~、確かに “孫” が多いと色々大変じゃが、
でもまぁにぎやかで良いものじゃよ。
それにこの手の事には慣れておる。
承太郎もまだ子供の頃は、お爺ちゃんお爺ちゃんとワシの膝の上から離れ
ヌオォォッッ!?」
 隣を歩いていたジョセフがいきなりヴィルヘルミナの前から消え、
その下から驚愕と苦悶が同時に上がった。
「余・計・な・コト、くっちゃべってンじゃあねぇ。
少し早めにあの世へ送ってやるぞ? クソジジイ」
 凄まじい速度で傍にきていた無頼の貴公子が、
祖父の頭をヘッドロックで固定しギリギリと絞っている。 
 老人は左手で腰の位置を叩き、タップ (降参) の意を表するが実孫は聞き入れない。
 その傍でシャナがもう少し聞きたかったのにと、
瞳を顰めて指を口唇に当てていた。
「本当に、御苦労が絶えないでありますな」
 彼岸と此岸の狭間で友二人の姿がチラつくジョセフの横で、
ヴィルヘルミナがもう一度静かに言った。





【2】


「わぁ……!」
 仰ぎ見る頭上から人工の滝が降り注ぎ、
両サイドに設置されたマーライオンの吐き出す水流が三連に交差する、
広々としたロビー。
 外観はドリス様式の柱と優美なパラドリア様式を絡めた宮殿の如き構造。 
 多民族国家特有の多用なニーズに応えるレストランを始めとし、
バー、ラウンジ、シアタールーム、屋外プール
更にビジネス用の会議室や結婚式場と各種施設も充実した内部構造。
 SPW財団の誇る世界的にも有名な直営ホテルだが、
通常予約を入れるだけでも三カ月以上の長期を有し尚かつ
宿泊費もその人気に比例する。
 ソコにすんなりと6名 (7名?) もの当日客が入り込めたのは、
財団創設者と懇意ある血統の賜であろう。
 フレイムヘイズとして今まで碌に宿泊施設など利用した事のない
シャナは (人の来れない場所で夜笠にくるまって寝ていた)
子供のように瞳を煌めかせ、親しい者達と同じ場所に泊まるという
経験に胸を躍らせる。
「取りあえず、これが鍵だ。
急な来訪だった為部屋が結構バラけてしまったが仕方あるまい」
 ロビーのホテルマンに礼を言って戻ってきたジョセフが、
SPWの社印が入ったカードキーをそれぞれに手渡す。
「君は、シャナと同室で良かったのじゃな?」
「はい。お手数をおかけして申し訳ないのであります。マスター」
 ルームナンバー512のカードを受け取ったヴィルヘルミナが
深々と頭を下げる。
「いやいや、その方がシャナも喜ぶであろう。
昨日の夜も、話し足りなそうじゃったしな」
「そう、でありますか」
 太陽のような笑顔でそう告げるジョセフに、
表情を変えず照れたヴィルヘルミナは何となく頭をかく。
 昨日 (正確には今日) の夜半、自分が旅の同行者として受容された後
(アノ軽薄な男が)「歓迎会」 と称して沢山の料理を愛飲のワインと共に振る舞われ、
暁が差す頃まで歓談した (その後は不覚にも周りと同じく寝入ってしまったが)
 そこで自分は久方ぶりに、最愛の少女と安らかな気分のなか
心ゆくまで語り合った。
 本当に、自分でも意外なほど心が浮き立ち
凄惨な修羅場を一時忘れるほどの温かな時間だった。
 ただ、あの方の話に “空条 承太郎” という単語が頻繁に登場し、
J・P・ポルナレフの振る舞った料理が
(缶詰の類と乾燥パスタくらいしかなかったはず)
多種多様で、味も見た目も自分とは天と地ほどの違いがあったのが
やや不満であったが。
「承太郎! どこに何があるか探検しましょう!」
 その淑女の耳に最愛の者の嬉々とした声が入る。 
「やれやれ、オレァ酒でも飲んで、一眠りしてーんだがな」
「うるさいうるさいうるさい! 黙って来る!」 
 剣呑な様子で歩み寄る男の袖を、あの方が急かすように引いていた。
 船内でもかなりの量のワインを飲んでいた筈なのに(途中からラッパ飲み)
その上まだ飲もうというのか (それも朝っぱらから)
「……」
 些か以上に苛立たしい光景であったが、
しかし心の底から嬉しそうな少女の顔を悲しみで曇らせるコト等
優麗な淑女には出来なかった。
 なので代わりに。
「 “承太郎殿” 」
 そう言って振り向く無頼の貴公子に、淑女は確固たる口調で告げる。
「遊歩の随伴は 「許可」 致しますが、
くれぐれも節度ある行動をお願いするのであります。
ゆめゆめ、不適切な施設やふしだらな遊戯場等にあの方を誘引する事、
(まか)りなきよう」
 感情の色を殆ど表さず、長々しい台詞を淀みなくワンブレスで言い切った
ヴィルヘルミナは楔を打つような視線で承太郎を見据える。
 同じ血統のジョセフに向けるソレとは、
まるで対極に位置するモノだった。
「……」
 懇切丁寧な物言いの中に隠された、
ピリピリくる強張りに沈黙する承太郎の傍らで、
「ほら、早く行こう、承太郎。
モタモタしてるとおいてっちゃうわよ」
先走って戻ってきたシャナがグイグイと袖を引く。
「ルームナンバーは512。余り遅くなりませぬよう」
「うん! じゃあ行ってくるね! ヴィルヘルミナ!」
 そう言って吹き抜けの中央階段を昇っていく二人を、
淑女は澄ました顔のまま手を振って見送る。
 途中踊り場で振り向いた承太郎と眼が合い、一瞬の交錯の後。
(いつでも、来な……) 
(望む所で、あります……) 
 静かな闘気が一抹、互いの中間距離で弾けた。
「ふむ、では」
 取りあえず済んだ事に拘っても仕方ないので、
宛われた部屋に脚を向けるヴィルヘルミナに、
件の妖しい影が忍び寄る。
「どうやらシャナは承太郎と一緒に行っちまったみてぇだなぁ~。
邪魔者がいな、イヤお互い自由になった所でどうだい?
プールで一泳ぎした後、食事でも……」
 背後からススッと近づいてきた男の言葉を、
彼女は空気のように黙殺した。
「……」
頑無視(がんむし)
 無言でしずしずと去っていく淑女に片手を伸ばしたまま硬直する男へ、
無機質な女性の声だけが冷たく残された。






【3】


 ハロゲンランプの優しく暖かな光が充ちる、豪奢なメゾネット。
 ベージュ、キャメル、オリーブ色を基調にした
オリエンタル風のモダンな内装が施され、
2方向の大きな窓から外の街並みが一望できる。
 その高級感溢れる香港でも指折りのホテル最上階、
ロイヤル・スイートルームのバーカウンターに
朝っぱらから突っ伏す女性の姿が在った。
 長い栗色の髪と深い菫色の瞳。
 着ている服は大柄なシャツと腰にフィットしたジーンズ、
履き心地の柔らかなカジュアル・シューズとラフな様相で
エレガントな部屋の雰囲気にはやや似つかわしくない。
 他の宿泊客が見れば彼女を世間に無頓着な作家か芸術家だと判断するだろうが、
あいにくとその者は滅多にこの部屋から出ない。
 胡乱(うろん)迂遠(うえん)が等分に混ざりあったような瞳のまま、
頬をカウンターで組んだ腕に乗せ、ただ時間が過ぎるのを待つ。
 コレが嘗て、被契約者譲りの狂獰さと好戦的な性格で
多くの紅世の徒を恐怖のドン底に突き落とした
“蹂躙の爪牙” のフレイムヘイズ、
“弔詞の詠み手”だと一見して気づく者はいないだろう。
 何しろ彼女と旧知の間柄に在る者ですら、
余りにも変わり果てた姿に我が眼を疑ったほどなのだから。 
「……」
 その理由は言わずもがな、
この世界に生きる全人類、紅世の徒すらも決して罹患を避けえない不治の病
『恋煩い』 である。
 ほんの僅か数日前、見知らぬこの地で邂逅した、一人の人間。
 共にいた時間は永きを生きる自分にとって瞬きにも満たないモノで在ったが、 
狂気と殺戮で充たされたこの数百年のどれよりも果てしなく輝いていた。
 そう、“人でなくなる前” アノ娘と過ごした時と同様に。
 しかし決して悲劇的な終局ではなく
「再会」 の希望を残した、優しい別れだった。
 でもソレが、まさかこれほどに辛いモノだったとは。
「ノリ……アキ……」
 原液の注がれたグラス越しに、
彼女は潤んだ瞳で何度目か解らなくなったその名を呟く。
 いつか必ず戻ってきてくれる。
 彼が約束を(たが)えるなんて事は有り得ない。
 それは解っている。
 解って、いるのに。
 でも……    



“寂しい、淋しい、サビシイ”



 心の中を絶え間なく吹き荒ぶ、冷たく乾いた風。 
 逢いたい。
 声が聞きたい。
 傍にいたい。
 離れていては、呼吸をする事さえ苦痛。
「待つ」 のが、こんなに辛かったなんて。 
 その想いが形になる前に、手を伸ばすルージュだらけのグラス。
 視界がブラック・アウトするまで酒を呷り、
そのまま昏睡しては時間の概念を喪失したまま眼を覚まし、
後は追憶に浸ったまま同様の行為を繰り返す、
ここ数日間はずっとこんな感じである。
 最初こそ被契約者である王がカウンターに乗せられた本型の神器
“グリモア” 越しにぶっきらぼうな口調で窘めていたが、
何を言っても無反応なのでそのうち彼は考えるのを止めた。
 窓の外で昇る朝日と沈む夕陽をカウンターの上で眺め、
宝石箱をひっくり返したような香港の夜景に血を滾らせ、
そのまま飛び出してしまおうかと想ったのは一度や二度ではないが、
傍らで眠る彼女の儚い横顔にもう一日、あと一日だけ我慢しようと
気炎を抑えて今日に至る。
“嘗ての” 彼を識る者ならば、おおよそ理解し難い甲斐甲斐しさだった。
 そんな世界の流れから外れた、豪奢な室内に流れる、ピアノの独奏。
 部屋の一画に黒艶のグランドピアノが設置されているが、
無論弾く者は誰もいない。 
 その音はグリモアと共にカウンターへ放られた、
ネイビーブルーの携 帯 電 話(スマート・フォン)から発せられていた。
 本来フレイムヘイズには無用の産物であるが、
時代の流れを考慮し便宜上彼女が持ち合わせていたモノだった。
 別れ際のあの時、彼の電話番号を聞くなり自分の番号を教えるなりしておけば
ここまで衰弊しなくともすんだのだろうが、
『恋』 に関しては無垢な生娘も同然の彼女には、
そんなコトすら思い至らなかった。
 設定された着信メロディーも、彼が戯れにこの部屋で弾いた楽曲の前奏である。
「……」
 電子データに変換された似て非なる音色を虚ろな瞳で流しながら、
彼女が電話に出る様子はない。
 どうせ間違い電話か何かだろう、自分が一番声を聞きたい者からは
絶対にかかってこないのだから。
 煩わしいと想いながら彼女はグラスの原液を飲み干し、
蓋が開いたままのボトルからまた無造作に注ぐ。
 正直美味くもなんともなかったが、それでも飲まずにいられなかった。
 頭の奥が鈍く暈やけるだけで、嬉しくも楽しくもなかった。
 唐突に途切れる電子音、そして。 
「ヘイヘイ、こちら眼につく徒はミナミナ殺しの “蹂躙の爪牙” マルコシアスと
現在一匹の(ヤロー)(タマ)抜かれて奥の奥までぶらんぶらんの
我が停滞の戦姫、マージョリー・ドー。
安きメッセージがあんならオレサマの狂声の後にせいぜい残しな、
ギャーーーーーッハッッハッハッハッハッハアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!」
 鼓膜を劈き防音機構の壁がなければ真っ先にホテルマンが飛び込んでくる程の
イカレタ笑い声だったが、それにも美女はただ一瞥しただけだった。
 グリモアから伸びた鉤爪の脚がスマホを取り、
炎で構成された魔獣の頭部が通話口で牙を剥いて嗤っている。
「にしてもよ、オメーケータイなんて洒落たモン持ってたのかよ?
かけてくんのはいっつも公衆電話からだったろうがよ。
あ? 最近支給された? 誰に? 
取りあえず番号教えとけよ、最近暇で暇で顕現でもしちまいそーでよ!
退屈は神をも殺すとはよく言ったもんだぜ、
ヒャーーーーーッハッハッハッハッハアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!」 
「……」
 会話の内容から “誰が” かけてきたのか類推した彼女は、
魔獣の脚からケータイを取りカウンターに伏したまま耳に当てる。
 間違いでないなら、自分に電話をかける者は一人しかいなかった。
「……もしもし? どうしたのいきなり? 何か用?」
 如何にも興味なさげにその深酒の美女、
マージョリーは気怠い声で通話口に告げる。
「まだ、痛飲しているのでありますか?
一体何が在ったのかは聞きませぬが、
いつまでもそのままでは名が泣くのであります」
 余計なお世話と返すのも面倒なので、
美女は適当な相づちを旧知の同属に返した。
「ともあれ、アナタの扶助により無事
“あの方” と合流できたのであります。
深謝と辞儀に代えまして。
返礼はいずれよしなに」
「平身」
 耳慣れた女性と王の律儀で無感情な声を聞きながら、 
それは良かったわねと美女は乾いた声で返す。
「で? 久々に再会したあのチビジャリはどうだった?
フレイムヘイズとしての成長振りもそうだけど、 
びっくりしたんじゃない?
まさか 『一人じゃなくて』 あんな上玉咥えてるとは
流石のアンタも想わなかったでしょ?」
「……」
 無言の返答に、周囲の空気が張り詰めたのが電話越しでも解った。
 いい気味と、美女は悪魔的な微笑を浮かべて酒を呷る。
 通話中の人物とこの地で会ったのは本当にただの偶然だが
その者が心の底から憂慮する存在と交戦した事、
連れているミステス (便宜上彼女はこう表現した) と
並々ならぬ関係にある事は伏せておいた。
 理由は特にない、ただ誰かにイジワルがしたかっただけだ。
 クックとグラスを傾けながら、通話口の先であの鉄仮面が
一体どんな表情を浮かべているかを肴に美女は酒を進ませる。
「……一体、何の事でありますか?
私が合流した 「一団」 は、
マスター・ジョセフ・ジョースターを筆頭とする
“幽血の統世王” 討伐団。
種属の壁を越えた、この世の何よりも優先させるべき崇高な使命の許、
『そのような』 俗情が入り込む余地はないのであります」
 論理的な接合性は一切無視して、
ただ美女の言った事を否定したい為だけに紡がれた淑女の言葉。
 むきになればなるほどからかう相手に付け入る隙を与えるだけなのだが、
この場合は違った。
「……アンタいま、何て言った?」
(相手の性格上) 揚げ足取りの一つや二つくるだろうと身構えていた
通話先の淑女は、肩すかしの返答に小首を傾げる。
「 “幽血の統世王” でありますか?」
「違うッ! その前!!」 
 フレイムヘイズとして当然の応答は、
血気溢れる美女の声で即座に否定された。
「その “ジョセフ・ジョースター” ってジジイの他に、誰がいるの!?
まさか “カキョウイン・ノリアキ” って男が、
そこにいるんじゃないでしょうねッ!?」
 唐突なマージョリーの変貌と声量に、
ヴィルヘルミナは本体を耳から離す。
 まるで今にも通話口から群青の炎が噴き出て、
周囲一体を焼き尽くしてしまいそうな激しい気勢だった。
「はぁ、まぁ確かそのような名前だったと認識しておりますが。
マスター以外では、唯一まともそうな人物なのであります」
 ガダンッ! という大きな音が、電話越しに聞こえた。
 ケータイを手から落としたのだとヴィルヘルミナは想ったが、
実際は不安定な体勢で腰掛けていたスツールから
マージョリーが転げ落ちた音だというのを彼女は知らない。 
「そ、その男! 一体どんな感じ!?
見た目はハンサムでそこらの女よりよっぽどキレイで
背は高くて脚は長くてスタイルも抜群で頭は切れてよく気がついて話も上手くて
ピアノも巧くて意外にタフで優しくて温かくて正義感が強くて誠実で誇り高い
何もかもサイッコーな男ッッ!!?」
「……」
 よくそんな長台詞を舌を噛まずに息継ぎもせずに言えるものだと
半ば感心しながらヴィルヘルミナは沈黙する。
 確かに水準以上の美男子だとは想うが
(所謂 “いけめん” とかいうヤツだろうか?)
それにしてもここまで正気を逸脱するものだろうか。
 フレイムヘイズ屈指の “自在師”
紅世の徒の間では無慈悲な殺し屋として怖れられる
“弔詞の詠み手” が。
「アンタいまッ! どこにいるのッ!?」
 最初の凋落した声音はどこへやら、
俄然精気、否、覇気を取り戻したマージョリーが
通話口から這い擦り出してきそうな暴威で叫ぶ。
 事実の検討は良いのか、もし間違っていたらどうするのだという
諫言を挟ませない勢いにつられて、ヴィルヘルミナは答えていた。
「シンガポールの、首都であります。
しかし滞在の時は短くすぐに西方を経て、南アジア方面に」
「シンガポールねッ! アンタ! 絶対そこから動くんじゃないわよ!!
チビジャリの気配も在るけど、馴染みのアンタの方が解りやすいからッッ!!」
「い、いえ、でありますから、私の一存では決めかねる事柄でありまして、
まずはマスターの認可を……あの、もしもし?」
 一体何をやっているのか、通話先からドダンバダンという物騒な音が聞こえてくる。
「じゃあ今すぐそっちに行くわ!
ジジイは色仕掛けでもなんでもいいからテキトーに誑し込んでおきなさい!
それとこの事は絶対に他言しないコト! いいわねッ!」
「……」
 姿は見えないが何故か、新品のタイトスーツとヒールにグラス、
そして化粧もバッチリと決め込んだ一人の凄艶なるフレイムヘイズの姿が浮かんだ。
「じゃあまた、すぐに逢いましょう。
くれぐれもノリアキに変な気起こしちゃダメよ?
もう無駄だから。じゃあね、フフフフフフ……」
 最後に同性でもゾッとするような色香を漂わせて、通話は切れた。
 無機質な切断音を聞きながら、
フローラルピンクのスマホに耳に宛てた
淑女は、ホテルの一画で呆然と佇む。
 そして。
「一体、何だったのでありますか?」
溟濛(めいもう)
 嵐のように過ぎ去った一時に、ティアマトーすら驚きの声を漏らした。
 




【4】


 スリットを通さずともドアノブに翳すだけで解錠される、ICタイプのカードキー。
 パステルカラーで統一された、暖かさと快適さのにじみ出る清潔で現代的な室内。
 オーク材を基調としたツインのベッドと卵形のテーブル、
座り心地の良さそうなアームチェアーも置かれている。
 左隣の扉を開くと広々とした大理石のバスルームがあり、
洗面台の手入れや備品の管理も申し分ない。
 風通しを良くする為バルコニーの引き戸をスライドさせ、
サイドボードに乗ったアンティークの民族人形脇にカードキーを置いた後、
淑女は部屋の中央で瞳を閉じ軽く息をついた。
「それにしましても、休む間もないとはまさにこの事でありますな。
“そのような場所” で息絶ゆるというのも不憫。
出てくるがいいであります」
 無人の室内に凛冽とした声が充ち渡る。
 ソレと同時に右斜めの位置にある冷蔵庫が 『内側から』 開き、
溢れ出る冷気と共に暗い影がズルリと這い擦り出した。
「……」
 その影の正体は、顔は疎か全身の至る所に夥しい傷を負った、一人の男。
 切傷、裂傷、割傷、刺傷、打撲傷、擦過傷、挫滅傷、
ありとあらゆる種類の傷痕はとても数えきれず
完治していないものもあるため炎症を引き起こし、
尚かつソコにダメージを受けたため後遺症を残している部分も在った。
 傷は戦士の勲章というが、
この男の傷は戦いの 「攻防」 で出来たものではない、
無抵抗のまま一方的に甚振(なぶ)られた傷だ。
 その優麗な風貌からは想像もつかない、
歴戦の修羅場の中で磨き抜かれた淑女の観察眼。
 溝川(どぶがわ)よりも淀んだ瞳が、冷蔵庫の中に潜むという不気味な思考が、
そのまま男の異常性を表していた。
 一体どのようにして入っていたのか、
ヒキガエルのような体勢で冷蔵庫から抜け出て立ち上がった男は、
女性にしては長身の淑女を高見から見下ろす程の巨漢。
 三つ編みの荒れた黒髪を背に垂らし、
肥大した筋肉に密着したレザーパンツと
前を開いたノースリーヴのジャケットを着ている。
 丸太のような両腕は勿論、露わになった胸から腹部に至るまで
例外なく傷まみれだった。
 鼻をつく独特な体臭と、それ以上の血の匂い。
 自分の血と他人の血、その両方が混ざり合って
何れかの区別も付かなくなった凄惨且つ残虐な気配が
男の躯から発せられていた。
「ククククク、 “マジシャンズ” の方から先に始末してやろうと想ったが、
気づいたのは貴様か? “ラヴァーズ”
色々と噂は聞いているぞ?
愚かにもDIO様を 「暗殺」 する為に、
我等の周りをこそこそと嗅ぎ廻っていたコトをな」
 野太い声で告げる傷の男に、ヴィルヘルミナは微かに険を寄せた。
「その(あざな) で呼ばれるのは、不愉快であります」
「フン、エンヤ殿が戯れに生み出した
“吸血鬼” を数匹殺したからといって、
良い気になるなよ? ラヴァーズ。
所詮奴等は何の能力も持たぬ消耗品。
我等 『スタンド使い』 とは、天と地ほどの差があるのだからな」
 そう言うと男は、傷痕で引きつる口唇を無理に歪めて笑った。
 手を翳せば切れる程に張り詰める、淑女の視線。
 ソレを真っ向から受け止めてたじろかず、男は決意を宿した瞳で堂々と告げた。
「オレの名は “呪いのデーボ”
スタンドは 『悪魔(デビル)』 のカードの暗示!
呪いに振り回され精神状態の悪化、不吉なる墜落の道を意味するッ!」 
 名乗り終えた後その男、呪いのデーボはヴィルヘルミナに一歩近寄り、
昏い視線で言った。
「ところでラヴァーズ? 
貴様、何故オレが冷蔵庫の中にいるのが解った?」
「お前? 頭脳が間抜けでありますか? 
冷蔵庫の中身を全部外に出して……」
 気に入らない渾名を連呼するデーボに冷たい怒りを滲ませて、
ヴィルヘルミナは鋭く部屋の隅を差す。
「片づけてないであります……ッ!」
 ベッドのシーツで隠された、露に濡れる缶や瓶。
 その容姿が示す通り一流のメイドであるが故に気づき、
尚かつ憤慨するには充分な理由。
 ソレを引き金(トリガー)として、互いの戦意が一斉に弾けた。
漆 黒 の 悪 魔(エボニー・デビル)ッッッッ!!!!』
 傷だらけの巨腕を胸の前でM字形に交差させる異様な構えと共に、
男の背後から土着神を模った偶像のようなスタンドが、
湾曲した短剣を握り締めて出現する。
「……」
 声を荒げるデーボとは対照的に、ヴィルヘルミナは右手に添えた一条のリボンを
最小限の動作で眼前へと流す。
 淀んだ漆黒の幽波紋光(スタンドパワー)を散らしながら淑女に迫る短剣が、
細身の割りにふくよかな左胸を刺し貫く瞬間。
 ガグンッ!
 重力の法則が乱れたように偶像が前傾姿勢で停止し、
短刀を握った右腕がメリメリと関節を軋ませながら明後日の方向へ引っ張られた。



 ザグゥッッ!!



「がッッ!? な、なにィィィィィィィィィ!!?」
 苦悶と驚愕の声をあげたのは、相手にソレを与えようとしていた張本人。
 本来己を護る、守護者で在る筈のスタンドが
その 「本体」 であるデーボの左眼を、眼窩越しに深々と刺し貫いていた。
 一拍置いて噴き出る鮮血と共に、抉れた傷痕からドロリと漏れる白濁した液体。
 凄惨なる光景を前に返り血を頬に浴びる淑女の風貌は、
汗もかかず瞬き一つすらしていない。 
 通常の秤を越えた異能戦とは云え、
『攻撃を仕掛けた側が』 ダメージを受けるという不可思議な現象。
 ソレは当然、一条のリボンを手にしたヴィルヘルミナの能力(チカラ)
 戦技無双のフレイムヘイズ “万条の仕手” の(ワザ)は、
一見華麗な乱舞系の技に “いきがち” だが、
その真の怖ろしさは 『守り』 に在る。
 相手が攻撃する瞬間同時に繰り出されるリボンは、
実際は視線のかなり下方を走り非常に見え辛い。
ましてや戦闘時の狭まった視界ならソレは 「死角」 と呼んでも差し支えはない。
 そして相手に認識されないままリボンを機動点に絡め、
勢いを殺さずに攻撃の方向のみを換える、無論己自身の力を上乗せして。 
 この原理を解せぬ者ならば、本当に自分自身の攻撃が
意に反して跳ね返ってきたとしか想えないであろう。
 正に攻防一体、精密性だけなら、フレイムヘイズ随一と言って良い超絶の神技。
 おそらくタイミングさえ合えば、 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』 の連撃(ラッシュ)すら
跳ね返すコトは可能だろう。
「せいぜい自らの刃に、切り刻まれるが良いであります」
 そう言って淑女が右手を引くと同時に、
リボンで繋がれたスタンドが操り人形(マリオネット)の如く本体の命令を無視して
デーボの躯を縦横に裂く。
「ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ――――――――――――!!!!!!!!!!
ぐあああああああばあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!!!!!」 
 咎人の号哭を想起させる悲痛な声を耳にしても、
ヴィルヘミルナの表情は緩やかな水面を見据えるソレと全く同じ。
 使命に燃えるシャナや戦いそのものを愉しむマージョリーとは
まるで次元の違う、圧倒的な非情さが彼女には在った。
 乱雑に縫いつけた縫合痕が裂け、膿血の溜まった瘡瘢(ほうそう)が破れ、
神経の通わない(しこ)りが次々と断たれていく。
 少し離れた位置でその様子を見ていた淑女の脳裡に浮かぶモノは、
(掃除が、大変そうでありますな)
ただそれだけだった。
 やがて全身血達磨にされたデーボがベチャッと粘着質な音を立てて床に転がり、
そこでようやくヴィルヘルミナはリボンの拘束をスタンドから解く。
「……他愛もない。
コレならば南中国海で遭遇した “猿” の方が、
余程恐ろしい異能者だったのであります」
 返り血に濡れるリボンを軽く払い、
ヴィルヘルミナは床に伏す瀕死の男を無感動に見下ろす。
 さてこのまま止めを刺すか、それともこの弱さではその価値すら無いのか、
冷淡な思考を巡らせる淑女の耳に届く意外な声。
「ク、ククククククク……! つ、ついにヤったな……ラヴァーズ……ッ!」
 血みどろで蹲る男が、その巨躯を不気味に蠢かせて笑っていた。
「ぃぃぃぃ痛えええええぇぇぇぇよおおおおおおおぉぉぉぉ~~~~~~~!!!!!!!
とぉぉぉぉぉっても痛えええええええええよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
はははははははははははははははぅぅぅうははははははははははははははははははははぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
 重傷で引きつる躯を起こした男が、苦悶に顔を歪ませながらも嗤っていた。
「痛みで、気でも違ったのでありますか……」
 如何なる惨状にもその顔色を変えなかった淑女の頬に、冷たい雫が伝う。
 その男、呪いのデーボは腕から噴き出した血を欠食者のように舐め回しながら
狂気の倒錯をヴィルヘルミナに見せつけていた。
「痛えええぇぇのよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~!!!!!!!!!
グフェヘヘヘヘヘへ!!!! おのれえぇぇぇ~~~~!!!!
よくも!! よくもヤりやがったなあああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
これで!! 心おきなくッッ!! キサマを “恨める” というモノだああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁハハハハハハハハハハハヒィィハハハハハハハハハハハハァァァァァァ
ァァァァァァァァァァ―――――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
 悲鳴とも歓喜ともつかない狂声をあげながらデーボは鮮血を滴らせて立ち上がる。
「!!」
 殺しこそしなかったが再起不能になる位のダメージは与えた筈なのに、
ソレでも立ち上がった男の死力に淑女は息を呑む。 
「オレのスタンド!!  『エボニー・デビル』 は!!
“相手を恨めば恨むほど” その強さを増すッッ!!
感謝するぜぇ~!! ラヴァーズ!!
この痛み!! この苦しみ!! そしてこれだけの “恨み” なら!!
確実にジョースター共を皆殺しに出来るッッ!! 解らねぇかッ!?
わざと見つかってわざとヤられたんだよぉおお~~~~~!!!!!!!
ヒィィィィィィィィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!!!!!!!」  
 瀕死とは想えぬスピードで、
デーボはこちらに指を向けたままバルコニーに後退る。
「ヒヒヒヒヒヒヒ!! じゃあな!! またすぐに逢おうぜ!!
まずはテメーから!! 念入りに可愛がってヤるからよぉ~ッッ!!
フヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!
ハハハハハハハハハハハハハハ!!
アアァァァァァハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
 欄干にもたれ掛かった血塗れの男は、頭蓋に響く断末魔を残し
そのまま階下へと落ちていった。
 咄嗟にバルコニーへと移動し、鮮血の滴る欄干から身を乗り出す淑女。
「……」
 しかし眼下にはホテルの平穏な遊歩道以外何もなく、
投身自殺による騒ぎも起きていなかった。
「消え、た?」
「不可解」
 想わず疑念を口にしたヴィルヘルミナに応じるティアマトーすらも
一体何が在ったのか理解しかねるようだった。 
「……敵にしては、妙なヤツでありましたな」
「懐疑」
 短く言葉を交わし、しかしこれで戦闘は終わったのだと了得した淑女は再び室内に戻る。
「兎に角、あの方が来る前に部屋を片づけ、
モップがけをしておくのであります」
「迅速」
 ジョセフに事実を伝え部屋を代えてもらうよりも、
まずメイドの本能が彼女を動かした。
 その、とき。



 ヴァッッッッッッッッッッズウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――
――――――――――――――ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!



 突如、ヴィルヘルミナの左大腿部が、
纏ったスカートと中の古風な下着ごと裂けた。
 音と同時に異常な出血をもたらすその傷痕は、
技巧の欠片もない、ただ力で無理矢理に筋繊維を引き千切った惨たらしいモノ。
 しかしそれ故に、甚大なダメージと筆舌に尽くし難い痛みを後に残す。 
「な……ッ!? ど、どこ……から……!?」
「如何!?」
 滑らかな肌の裂け目から噴き出す血飛沫と共に片膝の力が抜け、
淑女は床の上に伏する。
「攻撃を受けた感覚は、全く、なかったのであります……
ソレなのに、何故……あ、ぐぅぅ……ッ!」
 普段の戦闘でも殆ど表情を変えない彼女が、本当に珍しく苦痛の色を表した。
 強靭な精神力で何とか意識を繋ぎ止めているが堪え切れるような痛みではない、
その全身が怖気に包まれあらゆる身体機能が弛緩してもおかしくなかった。
「兎に角、まずはマスターに連絡を……
次に狙われるのは、あの方かもしれないのであります……!」
 歩を進めるごとに鮮血が飛散する、
泣き叫びそうになる痛みを歯を食いしばる事で抑え、
ヴィルヘルミナは備え付けの電話に手を伸ばした。


←TOBE CONTINUED…



 
 

 
後書き
どうもこんにちは。
原作ではアノ男がヤる所を、何の因果か彼女にお鉢が回ってきてしまいましたw
まぁ新キャラはなるべく早く動かすのが基本ですからネ。
エライ事になると想いますが頑張って欲しいです。
(いやぁ~、描いててヘンな気持ちに、○ョナ属性とかあんのか? 自分・・・・('A`))

ソレと姐サン (マージョリー) が使ってた待ち受けはこの曲です↓
https://www.youtube.com/watch?v=lBD6K4qOl08

花京院、というか「二人」の曲ってカンジなんですよネェ~。
孤独で寂しくて、でも美しいというカ・・・・
ソレでは。ノシ
 
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