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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#4
  PRIMAL ONE

【1】




 ヴァッグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――――――――――
―――――――――――ッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!



 巨大な船体を大きく揺るがす大轟音と共に、
白金の光と紅蓮の炎が甲板上に噴出した。
 さながら断崖の如く大きく底の見えない亀裂から飛び出す二つの姿。
 承太郎が両手をポケットに突っ込んだまま、
シャナが大太刀を斜に構えたまま
制服と黒衣の裾を揺らしながらジョセフ達の前に降り立つ。
「……」
「……」
 闇夜を劈く光炎を挟んで少女の瞳へ最初に映ったのは、
淑女が微塵も視線を逸らさなかったのは、
幾千の言葉を尽くしても表しきれない、大切な者の姿。
「あ……ッ!」
 やっぱり! という気持ちと共に、
少女は承太郎に向けるものとはまた違う最高の歓喜を漏らす。
「……」
 対する淑女は両手を腰の位置で重ね、無言のまま自分を見つめていた。
(笑ってる……)
 殆ど感情の起伏がない、他の者には認識不可能な笑顔だったが
シャナには解った。
「オイ承太郎ッ! ヤったのかッ!?」
 少女と同じく、見慣れない(容貌服装まとめて諸々)女性に
意識を奪われていた無頼の貴公子に祖父の声が響く。
「あぁ、 「本体」 がくたばったから
この 『スタンド』 はもうじき消滅する。
とっとと脱出するぞ」
 宿敵の刺客を倒したらまたすぐ新たな不確定要素が目の前にあり、
困惑していないといえば嘘になるが承太郎はあくまで冷静に行動した。
 まぁ、シャナの様子から大体の予想は付くが。
「ホレ、感動の再会シーンは後にしな。
戦いはまだ終わってねーからよ」
 彼女らしくない、やや惚けたような意識を承太郎は頭を突ついて戻し
こちらを見る瞳に撤退を促した。
「……!」
 その行為に眼前の淑女がムッとしたような表情を浮かべたが
彼は気づかなかった。



 ベゴォッッ!! グシャッッ!! バグゥッッ!! ザギュッッ!!



 大海原のただ中、アレ程の威容を以て聳えていた超大型の石油タンカーが、
まるで水に浸した砂糖細工のように形容(カタチ)歪め崩れていく。
 無数のクレーンが、管制塔が、ブリッジが、タンクが、船倉が、
スタンド本体の生命と共に綻びながら朽ち果てていく。
 そしてその構造故に底部が圧壊した船体は、大きく傾き転覆し始めた。
「やべぇ!! 早くとんずらかまさねーと沈没に巻き込まれるぜ!!」
「私の乗ってきた船があるのでありますッ! そちらへ!!
遅れた者は置いていくのでありますッッ!!」
 歩を進める度に頼りなく砕け、
重力の法則がメチャクチャになった甲板上にヴィルヘルミナの声が響く。
 そのメイド服姿の淑女を先頭に、
承太郎達は欄干から飛び出しタラップの横に付けていた
真新しいモータークルーザーに飛び乗った。
「すぐに発進するのであります。
振り落とされないように気を付けるのであります」
 着地の勢いを殺さず運転室に駆け込んだ淑女は、
慣れた手つきでエンジンを起動させ操縦桿を握る。
 そしてスクリューシャフトも焼き切れる80ノットを超えるスピードで
クルーザーを急発進させ、残骸の降り注ぐ海域を一挙に突っ切った。
 巨大タンカーの沈没で揺らめく海原に水流が迸り、
波に乗り上げた船体は一度大きくジャンプする。
「おぉッ!?」
(むう……!)
 その容貌に似合わない、巧み且つ豪快な操船術に
フランス人の青年と紅世の王の声が何故か重なった。
「みんな!! 見て!!」
 後方確認の為外に出ていた少女の声が室内に響き渡る。
ジョセフを含む3人が少女の傍に駆け寄り、
淑女は操縦桿を握ったまま外部に視線を送った。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!



「信じられない……沈みながら、船の形が変わっていってる……
あんなに小さくてボロボロの船に、さっきまで乗ってたの……?」
 その舳先だけを足掻くのように空へと突き出し深海へと呑み込まれていくタンカーは、
今はこのクルーザーさえも下回る漁船位のサイズになっていた。 
「なんてことだ……あの猿は、
エジプトからここまで自分のスタンドに乗って
海を渡ってきたというのか……?
本当に恐るべきパワーだった。
初めて出逢うエネルギーだった……」
 危難から逃れた安堵もそこそこに、花京院が頬に冷たい雫を辿らせて呟く。
「我々の想像を絶する、恐ろしい敵だったな。
承太郎の提案が無ければ、
相手の能力すら解らず一網打尽にされていた可能性が高い。
しかし、アレすらも上回る強大な 『スタンド使い』 が、
この先待ち受けているのか?」
 チームのまとめ役として、
常に先の動向を把握しておかねばならないジョセフが
暗澹とした気持ちで口元を覆う。
 そこに。
「アレッ!」
 欄干から乗り出すようにして、シャナが闇夜の海原を指した。
 巨大な船体が没したコトに拠って海流と海圧が変化し、
発生した渦潮に自分達の乗ってきた全装帆船が呑み込まれていく。
 香港の埠頭を出航して以来5日。
 さほど長い日々ではなかったがそれなりに想い出も愛着も在った船が
海底へ沈んでいくコトに、何故かシャナは無性な寂しさを覚えた。
「結構、楽しかったのにね……船での旅……」
 そう言って元の黒い髪と瞳に戻った少女は、落ち込んだように瞳を伏せる。
 ホリィを救う為の、宿命の旅路。
 聞こえようによっては不謹慎とも呼べる少女の発言だったが、
咎める者は誰もいなかった。
 何故なら全員が、同じ気持ちだったから。
「あぁ~あッ! 沈んじまったモンの事考えてもしょうがねぇぜ!
要はこれからだろ! 陸路を行くんならそのルートと移動手段を練らねーとな!」
 周囲の沈黙を振り払うかのように、ポルナレフが大袈裟な声をあげ
この船の行き先を聞く(事に託けて)ヴィルヘルミナの方へと歩き出す。
「脳天気なヤツ……」
 その背をシャナが冷めた視線で見据え、
「ま、たまにはアイツのそーゆートコ見習うのもいいさ」
承太郎が悠然と呟いた。




【2】


 全員で戻った運転室に件の淑女の姿はなく(操縦桿は小刻みに動いていたが)
その後部、シンプルではあるがソファーとテーブル、キッチンが備えられた
キャビンに彼女はいた。
 その姿が示す通り、両手を腰の位置で清楚に組み、
主の命令を待つ一介のメイドであるように。
「……ミナ」
 男全員が何と言ったらいいのか解らず (約一名全く別の意図で) 困惑する中、
おもむろにシャナが声を漏らした。
 誕生日を祝ってもらう、或いは泣き出す寸前の子供のような、そんな声。
「久方ぶりであります」
 淑女はそれとは対照的に、殆ど表情を変えない、
しかし柔らかな声で少女に告げた。
「ヴィルヘルミナッッ!!」
 想いと共に感情が弾け、シャナは絨毯を蹴って彼女の胸元へと飛び込む。
「ヴィルヘルミナ!! ヴィルヘルミナ!! ヴィルヘルミナァッッ!!」
 伝えたい言葉が解らないのか、少女は優しい温もりを
抱いたままただ彼女の名前を呼ぶ。
 淑女も言葉は発しなかったが瞳を細め、しっかりと彼女を抱き締める。
「立派になって……」
 何よりも大切な少女の躰から伝わる気配、その瞳に宿る気高き光、
そして戦場で垣間見た紅蓮の劫火。
 崩壊した “天道宮” の前で別れた時とはまるで別人と言っていい
成長振りに、ヴィルヘルミナは閉じた瞼の裏を潤ませた。
「おい? 一体どーゆーこった?」
 シャナと付き合いの浅い (その密度は濃い)
ポルナレフが脇の承太郎に問う。
「まぁ、 “そーゆーこったろ” しばらく黙っとけよ」
 そう言って無頼の貴公子は目の前で再会の抱擁を交わす、
今は一人の少女に戻ったフレイムヘイズに告げた。
(よかったな……シャナ……)



「改めて、初見を披露させて戴くのであります。
フレイムヘイズ “万条の仕手” ヴィルヘルミナ・カルメル。
契約せし王の名は “夢幻の冠帯” ティアマトーであります。
皆々様、以後、御見知り置きの程を」
「平伏」
 長い抱擁を終えたシャナの脇で、
淑女は本の中の姫君のように足を交差し
スカートの両端を摘んで頭を下げる。
 その髪を飾るヘッドドレスから、
彼女の数十倍は無味乾燥な声が発せられた。
「う、う~む。確かにシャナから幾度となく話は聞かされていたが……
実際こうして逢うと、驚きを禁じ得んな」
「そうか? オレはすぐに解ったがな。
何しろ見た目が “そのまま” だからよ」
 ジョセフが面映ゆい感じで苦笑を浮かべる横でその孫が言葉を返す。  
(この、男は……)
 遠間から己を評する長身の青年を、
ヴィルヘルミナは脇の少女に向けるのとは対極の視線で見据えた。
 先刻、異形の戦場にて最愛の者と共に姿を現した、一人の男。
 状況から推察して “すたんど” とかいうモノを
その身に携える異能者らしいが、
さも当然のようにこの方の傍にいる立ち振る舞いが勘に障った。
 加えてこの方自身がその者に注ぐ視線も、
明らかに従者に向けられるソレではない。
 もしや、いや、まさか、ありえないという否定の言葉が次々と心中で湧くが、
どれも確定的な裏打ちを持たない。
 まぁ確かに、風貌(かお)は、それほど、悪くなくもないが。
「アンタが、ヴィルヘルミナか?」
 己の裡で煩悶する間に、件の男が目の前に立っていた。
(……いきなり、呼び捨てでありますか?)
(斬首)
 仄かに漂う麝香に苛立ちながら、
淑女と被契約者は無感情に無頼の貴公子を見上げた。
「シャナから色々と聞いてるぜ。相当な遣い手らしいな?
ジジイ共も世話ンなったようだし、改めて礼を言っとくぜ」
(ほう)
 承太郎の穏やかな申し出に、アラストールが意外そうな声を漏らした。
 ほんの一ヶ月ばかりの付き合いだが、その雰囲気が変わっているコトに彼は気づいた。
 最初に出逢った頃の、アノ触れる者全て切り刻むような危うい気配が、
今は随分と薄れている。  
 少なくとも、初見の女にこのような友好的な態度を
取る男ではなかった筈だ(例外はあるが)
「先程からあなた方が言っている、
その “シャナ” というのは、
一体誰のコトでありますか? よもや」
 幾分瞳を鋭く、威圧するような声で問うヴィルヘルミナの前で、
「あ? コイツの事に決まってンだろ? なぁ?」
承太郎が最愛の少女の頭に手を乗せポンポンと叩く(彼女も別段イヤがってはいない)
(――ッッ!!)
(獄門)
 表情を変えず激昂する淑女の頭で、白いヘッドドレスが解れかけた。
 そこに。
「ごめんね、言っておかなくて悪かった。
私はいま “シャナ” って呼ばれてるの。
ジョセフが一生懸命考えて付けてくれたのよ。いいでしょ?」
 最愛なる者が満面の笑顔でそう告げる。
 本来 「名前」 等必要ない、
純粋な、ただ一人のフレイムヘイズとして彼女を養成してきた
淑女にとっては大分面白くない話だが(詳しくは「原作」第五巻参照)
本当に嬉しそうに微笑む少女を見ているとソレを否定するコトは出来ない。
「そう、でありますか。それは、よう御座いましたな」
 なので若干引きつった(くどいようだが他人には解らない)
声で応じるのみだった。
『そういうコト』 なら自分がもっとこの方に相応しい、
麗しく高貴な名を考えたのにと、桜髪の淑女は心中で歯噛みする。
 兎に角、自分は 「その名」 で
この方を呼ぶ事はないだろうと密かに決心し、話題を変えた。
「お互い、積もる話もありますし、
あなた方も質疑がある事で御座いましょう。
そこのソファーにかけてお待ち願うのであります。
いま、お茶などお淹れ致しましょう」
 そう言って淑女はメイドそのままの立ち振る舞いでキッチンへと向かう。
「待って! 私も手伝う!」
 その後に嬉々とした様相でシャナも続いた。
「……」
「……」
「……」
 見た目と雰囲気は文句の付け所が無いほどに一流のメイドであったが、
ヴィルヘルミナの接客動作は恐ろしいほどにぎこちなかった。
 花柄のトレイに乗せられたティーカップは、
嵐の海原で翻弄される筏のようにガチャガチャと震えていたし
(持つ者の顔が無表情なのが一層の危うさを感じさせた)
たどたどしい手つきで配られたカップに淹れられた紅茶は熱く濃く、
そして異様に苦かった。
 ジョセフも花京院も一口啜ったのち無言でカップをソーサーに戻し、
承太郎は手も付けない。
 約一名、どこぞのスタンド・レストランのように大袈裟な歓声を上げながら、
三杯おかわりした変わり者もいたが。
「ヴィルヘルミナのお茶飲むのも、本当に久しぶりね」
 珍しく承太郎の真向かいに座ったシャナが、
カップを両手で持ちながら隣の淑女に笑顔で告げる。
「お口に召したようで、なによりであります」
 二人の間にしか伝わらない感覚を共有するフレイムヘイズを見据えながら、
承太郎はやれやれと学帽を抓んだ。
「ふむ、ではそろそろ、
こちらの質問に答えてもらってもよろしいかな?
ヴィルヘルミナさん」
「私の事は、ヴィルヘルミナと呼び捨ててもらって構わないのであります。
マスター」
(紅茶は苦かったが)一応落ち着いた雰囲気の流れるキャビンで
発したジョセフの言葉に、彼女が応じた。
「おぉ! そうか! そうか!
じゃあオレもそうさせて貰うぜッ!
ミ~ナちゃん♪ とか呼んでもいいかい!?」
(アナタには言っていないのであります)
 何故か隣に座った銀髪の青年を伏し目で一瞥しながら、
「その名」 で呼んだら討滅するという心情の元淑女は視線を切った。
「では、ヴィルヘルミナ。
まず、どこで我々のコトを知ったのか?
そして君の 「目的」 は何なのか? それをまず訊いておきたい」
 テーブルの上で両手を組み、
威厳のある声で告げられたジョセフの問いに彼女は答える。
「 “S P W(スピード・ワゴン)財団” アナタ方のバックアップをしている組織に
「ある者」 の仲介を受け、
現在の状況とこの方の居場所を知ったのであります。
アナタの事は、そこで色々と聞かされました。
マスター・ジョセフ・ジョースター。
この方が、今日まで本当にお世話になったのであります」
 そう言って淑女は敬意を払った視線でジョセフを見つめ、
深々と頭を下げた。
「お、おいおい! よしてくれ。
ワシの勝手でやった事じゃし、シャナにはいつも助けてもらっておる。
君が頭を下げる必要などないのじゃよ」
 広げた両手を焦ったように振りながら、
ジョセフは頭を垂れた淑女を諫める。
 若い時分から格上の者を籠絡してからかうのは大好きだったが、
自分が 「上の者」 として扱われるのはどうもこそばゆい。
「そうだぜぇ~。ヴィルヘルミナちゃんよぉ~。
このジイさんは他人の世話を焼くのが大好きなお人好しなんだからよぉ~。
あんまそう気にすんなって」
 そう言って席を立ったポルナレフがジョセフの肩を揉みながら、
鍛えられた腕をペシペシと叩く。
「お主は多少、目上の者へ敬意を払わんか」
 苦虫を50匹噛み潰したような表情で背後の青年の指差す老人の前で、
(だからアナタには訊いていないのであります)
「ジョセフに失礼な事するなッ!」
淑女の心中と少女の声が重なった。
「それで、我々の元に(おもむ) いた理由は、
もしかして、シャナを連れ戻しに来たのかな?
イヤ、それは語弊があるか。
元々は君の方が彼女の保護者だったわけじゃしな」
「え!?」
 様々な人生経験を積んだ老人の予期せぬ言葉に、
戦闘以外は無垢な少女は声と同時に息を呑んだ。
 そのまま顔を蒼白にし、無言で視線を交じ合わせる
ジョセフとヴィルヘルミナを交互に見回す。 
 本当に、何の脈絡もなく唐突に訪れた別離(わかれ)の予感。
 ソレは、闇夜の巨大スタンド以上の衝撃を彼女に与えた。
「……」
 そうだ、と言っても良かった。
 彼女がフレイムヘイズで在る以上、
自分がジョセフにそう要請したら断る事は出来ない、
というよりその理由がない。
 無論、数多の “徒” を配下に()
『幽血の統世王』 の存在を野放しにするわけにはいかないが、
敵はそれだけではない。
 故に使命遂行を連れ出す理由にされたら、
フレイムヘイズで在る彼女はソレに従わざる負えない。 
 でも。
「……」
 先刻までの表情が一転、
縋るような視線で自分に訴えてくる少女に、淑女も瞳を細めた。
(そんな顔を、しないで欲しいのであります。
何だかイジワルしているようで、心が痛むのであります)
 ヴィルヘルミナは一度シャナの柔らかな髪を撫で、
彼女にだけ解るように微笑んで安心させた後、
意を決したように言葉を発した。
「 “いいえ” マスター・ジョセフ・ジョースター。
この私も、アナタ方の旅に同道する認可を願う為に
馳せ参じたのであります」
「妥結」
 続いた言葉の後に、淑女は何故か自分の頭のヘッドドレスをゴンと叩いた。
「本当ッ! ヴィルヘルミナ!!」
「マジかよ!! そりゃあ願ってもねぇぜ!!」
 両脇から最愛の少女と余計な男が同時に身を乗り出してくる。
 それぞれ握られた手を一方は優しく、
もう一方は渾身の力を込めて外した後
淑女は宥めるような口調で言った。
「まだ、そうと決まったわけではないのであります。
マスターの裁可を仰がなければ」
 その言葉に二対の強烈な視線が向かう先で、
ジョセフがウムムと顎髭に手を当てて考え込んでいた。
「やはり、無理な相談でありましたか?
経済的な問題もありますしな。
私も多少の蓄えはあるのでありますが、
その大部分は天道宮の改修に使ってしまったのであります」
 すまなそうに俯く淑女の脇から二つの強烈な擁護が入った。
「なんだよジョースターさん! 
悩むようなコトじゃあねーだろ!?
金ならオレホテル彼女と相部屋で良グゲオァッ!」
「お願いジョセフ! 食後のデザート、なるべく我慢するから!」
 ポルナレフを裏拳で殴り飛ばした後、
シャナがガラスのテーブルに手を付いて懇願する。
「いやいや、違う。金の事ではないのだ」
 ソファーに沈んだポルナレフを放置し、
興奮気味のシャナを宥めた後
ジョセフはヴィルヘルミナに真意を告げた。
「君ほどの実力者。
もし助力を得られるならこちらからお願いしたい位じゃが……
しかし、 『本当に良いのか?』 」
 穏和な表情が一転、その威厳に裏打ちされる凄味を纏わせた老人の言葉に、
淑女は視線を研ぎ澄ませた。
(む、う)
 その気配は、紅世真正の魔神であるアラストールの心さえ揮わせた。
「我々は、この世のスベテを支配する程の、
途轍もない 『能力』 を持つ男を斃す為に、旅をしている。
自分の娘を救う為にな。
この旅に同行している者は、皆少なからずその男との“因縁” を持つ者ばかり。
危険な旅だ。「無関係」 な者を巻き込みたくはないと想ったのでな」
「……」
 ジョセフの言葉に、淑女は一度瞳を閉じる。
 そして再び開かれたその裡には、
優麗な美貌には不釣り合いとも云える
不撓の「覚悟」が充ちていた。
「格別の御温情、深く感謝するのであります。
しかし、「無関係」 ではないのであります。
彼の者 『幽血の統世王』 の存在は既に、
フレイムヘイズ、紅世の徒の間に大きく知れ渡り、
誰しもが無視できない状態になっているのであります。
『にも関わらず』 その本質は不透明で実体が掴めず、
入ってくる情報も殆ど断片的なモノなのであります。
そうでありながら、紅世最強クラスの “王” を
次々と配下に誣いているという事実。
もし捨て置けば、先の 『大戦』
否、この世界史上類を見ない災厄を引き起こすのは
必然なのであります」
 ヴィルヘルミナはそこで一度言葉を切り、
冷めた紅茶のカップを口に運んだ。
「故に私は “フレイムヘイズとして”
彼の者の存在を見過ごす事は出来ませぬ。
喩え勝算無き戦いでも、 『この世界全ての存在の為に』
一命を賭して立ち向かうのが、
嘗ての親友(とも)と交わした “誓い” でありフレイムヘイズの 『使命』
臆する事は、彼らの、そして私自身の運命に対する
「裏切り」 になるのであります」
 普段必要最低限の言葉しか発しない彼女の、
幻想のような風貌の裡で熱く滾っていた想い。
 ソレが最愛の者の傍らで、遠い追憶と共に剥き出しになった。
(ヴィルヘルミナ……)
(この者は、やはり)
 少女と魔神が、それぞれ対照的な心情で感嘆を漏らす。
 向かい側で彼女の言葉を黙って聞いていた二人のスタンド使いも、
その瞳に宿る、自分達の知っているモノとはまた違う
紅石(ルビー)のような輝きに感応する。
 しばらく視線を他方に送っていたジョセフだが、
やがておもむろに口を開いた。
「よし解った! そこまで覚悟の上なら最早ワシが言うことは何もない。
新たなる “仲間” として、君を歓迎しよう。ヴィルヘルミナ・カルメル」
 受け入れられた事に、淑女は自分でも意外なほどの強い衝動を感じ、
同時に透明で不思議な温かさが胸の中に染み渡っていくのが解った。
「あ、ありがとうございます。マスター。
今日よりこの方と共に、同じ目途の許、尽力致しますのであります」
 そう言って深々と頭を下げるヴィルヘルミナを、
ジョセフは太陽のような笑顔で見つめ頷いた。
「よかったね! ヴィルヘルミナ! また、一緒にいられるのねッ!」
「ようこそ! 麗しの淑女(レディ)
何か困ったコトがあったら、いつでもこのポルナレフを頼ってくれッ!」
 そう言って抱きついてくる少女を優しく受けとめつつ、
もう一人の男の腹に肘打ちを極め(いい加減読めるようになった)
淑女はここ数年来感じた事のなかった、安らぎの中で瞳を閉じた。
(これで……よかったのでありますな…… “マティルダ” ……)
 翳りのない追憶の中で甦る、今はもう亡き、たった一人の親友。
 彼女は強く気高い笑顔のまま、
いつかの “あの言葉” を、自分に言ってくれた気がした。

←TOBE CONTINUED…



 
 

 
後書き
どうもこんにちは。
前に言った通りDIOサマと戦う以上「仲間割れ」してる場合ではないので、
彼女はすんなり合流というカタチになります。
まぁ承太郎VSヴィルヘルミナというカードも棄て難いですガ、
彼の方が本気にならないでしょう(っつかそんな承太郎みたくねぇ・・・・('A`))
「肉の芽」でも埋めればよかったのかもですが、
もう合流しちゃってたので不可能ですネ、追々考えていきましょう。

PS コレとは別に二話完結の「短編」も投稿してますので、
宜しければそちらもお願い致します。
(「信長の忍び」面白ェ・・・・)
ソレでは。ノシ 
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