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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第八十五話 浴衣その十六

「マリア=カラスはね」
「ソプラノ歌手ね」
「あの人の歌は凄いってね」
「カラスの歌は別格よ」
「そうなんだね」
「ええ、ただ歌が上手なだけじゃないの」
 詩織さんもカラスを知っていた、それでその人のことを話してくれた。
「無性に惹かれるの」
「そうした歌なんだ」
「一回音楽の、中学の授業で先生が聴かせてくれたけれど」
 カラスのその歌をというのだ。
「カリスマっていうかね」
「それがあったんだ」
「そうした凄い歌だったわ」
「それがカラスなんだね」
「そうなの、ただ裕子さんカラスについて言ってなかった?」 
 不意にだ、詩織さんは僕にこんなことを言って来た。
「それで」
「ううん、何かね」
 そういえば言っていた、僕は裕子さんのその言葉をここで思い出した。
「声が低いってね」
「低いのね」
「そうしたこと言っておられたよ」
「ええ、カラスはソプラノだけれど」
 女性の高音だ、ただソプラノといっても高低がある。その声域でもだ。
「低いのよ」
「それもかなりみたいだね」
「メゾ=ソプラノ位ね」
「そんなに低いんだね」
「その先生が言ってたの」
 詩織さんにカラスの曲を聴かせてくれたその先生がというのだ。
「カラスの声域はメゾの人と一緒に歌ってるとどっちがどっちなのかわかりにくいから注意してくれって」
「そこまで低いんだ」
「声の色が似ていると余計にね」
 聴き分けにくいというのだ。
「そうした声だって」
「そうなんだね」
「実際に低いから」
 詩織さんはまた言った。
「最後の方はもうメゾ=ソプラノ位に低くなってたそうだし」
「歳取ると声って低くなるからね」
「どうしてもね」
「そうだよね」
「ちなみに義和はテノールね」
 詩織さんは僕の声にも言って来た。
「そっちね」
「僕はテノールなんだ」
「そうね」
「高いかな、声が」
「結構ね」
「そうなんだ」
「だから歌声もね」
 それもというのだ。
「絶対にテノールよ」
「男の人の高い声だね」
「そうよ」
 まさにその声だというのだ。
「義和は」
「そうかな」
「一回歌ってみたら?」
「実際に?」
「そうしてみたらどう?」
 こう僕に提案してきた、その誘いにだ。
 僕は難しい顔になった、だがその僕にだ。詩織さんだけでなく他の娘達も言って来た。


第八十五話   完


                        2016・3・26 
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