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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第八十六話 自分も歌ってみてその一

                 第八十六話  自分も歌ってみて
 香織さんもだ、僕に言ってきた。香織さんは右からで詩織さんは左からだった。
「歌ってみればいいのよ」
「そうよ」
 詩織さんがまた言って来た、二人で。
「一緒にね」
「別にいいじゃない」
「けれどね」
 僕は難しい顔でだ、二人に返した。
「僕そういうのは」
「恥ずかしい?」
「どうしても」
「うん、後で何か言う人がいるし」
「そんな人は気にしないの」
 香織さんは真顔でだ、僕に言った。
「どうせそうした人は自分は歌わないでしょ」
「大抵はそうだね」
「そんな人はね」
 それこそというのだ。
「気にするまでもないから」
「後で下手だったとか言う人は」
「それ以前の問題よ」
「下手とか?」
「だって歌ってもいないのよ」 
 それこそというのだ。
「何にもやってないで偉そうに言うなんて」
「ただ言うだけで」
「そんな人はどうでもいいの」
「じゃあ大事なのは」
「自分がどれだけよ」
「気持ちよく歌えるか?」
「それが大事でしょ」
 こう僕に言うのだった。
「まずはね」
「香織の言う通りよ」
 詩織さんがまた言う、僕に。
「そこはね」
「ううん、それじゃあ」
「どうせ皆酔ってるから」
 見ればもう相当だ、飲める人は相当に飲んでいてべろんべろんになっている。飲めない人も雰囲気に飲み込まれている。
 今歌は一年の子が何人かで歌っている、曲はスマップの曲だった。
 その一年の子達を見てだ、僕は二人に言った。
「あの子達酔ってて」
「音程も外れてて」
「ぐちゃぐちゃになってるわね」
「そんな感じね」
「まさに」
「ダンスをしても」
 何かしようとしてもだ。
 一人こけた、その彼につまづいてもう一人もだった。
 それを見てだ、僕達は言った。
「もうダンスになってないね」
「飲み過ぎね、あの子達」
 香織さんは真っ赤な顔で僕に応えた、言いながら飲む。
 そしてだ、僕に顔を向けてあらためて言って来た。
「あれでもいいから」
「僕もなんだ」
「歌っていいわよ」
 それこそというのだ。
「遠慮なくて」
「そうみたいだね」
「まあお客さんはね」
 詩織さんが言うお客さんは飲んでいる皆だ、この場合は確かに観客席になる。
「もう聴いてる状態じゃないけれど」
「それぞれ飲んで騒いでるし」
「そんなのだから」
「聴いてもらえるかは」
「そう、もう別問題ってことで」
 それでというのだ。
「割り切っていいわよ」
「じゃあもう聴かれるとかは気にしなくていいね」
「たまたま一曲歌ったってことでね」
「それでいいんだね」
「私は聴いてるけれどね」 
 詩織さんは微笑んで僕にこうも言った。 
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