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百人一首

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92部分:第九十二首


第九十二首

                第九十二首  二条院讃岐
 決して出ることはない。表に出ることはない。
 それは絶対になり何があっても出ないようにしている。
 この恋は世間に知れることはない。知られてはならないものでもある。
 今自分がしている恋は人目を忍ぶ恋だから。何があろうとも知られてはいけない恋だから。
 だから隠し通している。誰にも知られないように。決して。
 それをしている自分の心は何かというと。石になってしまっている。
 今の心は沖の石。何があろうとも姿を表わさない。それを見せることは決してない。引き潮であろうとも姿を現わさず。そこに見えるものは何もない。
 けれどその中でも思うことはあり。それは募っている。
 流す涙は乾くことがなく。今も泣き崩れてばかり。
 誰にも知られてはならない恋だけれど。悲しみも出しはしないけれど。
 一人になればその心を自分だけに見せて泣いている。このことを歌にして今慰めとした。

わが袖は 汐干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾くまもなし

 今詠うこの心。悲しみも隠してその中で泣く。泣いてそれでも見せることはないけれど。それでも泣いて今も一人で過ごす。そうして今も見せることはない。恋も自分の気持ちも。知っているのは自分だけ。この人に見せることのない涙と悲しみもまた。


第九十二首   完


                 2009・4・7
 
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