百人一首
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91部分:第九十一首
第九十一首
第九十一首 後京極摂政前太政大臣
寒い夜だった。この寒さは一人では辛い。
けれど今は一人。側にいてくれる筈のあの人はおらず一人きり。
一人でこの寒い夜を過ごしている。
その寒い冬に霜が降り。余計に寒さを深いものにさせている。
このような寒い夜に鳴くのを聞いた。
こおろぎが鳴いている。雄のこおろぎがつがいを求めて鳴いている。
静かだけれど清らかな音を立てて鳴いている。
その鳴き声でつがいを呼んで一匹ではなくなる。
こおろぎもそうだ。
けれど今の自分は。そうしたことは適わず。今も一人でいる。
あの人と二人でいればこんなことはないのに。寒さを感じることもないのに。
一人でいるとどうしても感じてしまう。
寒さが身に滲みて余計に一人でいることを感じてしまう。この一人でいることとそこから感じる寒さに身を震わせながら。その中で今歌を心の中に思い浮かばさせた。それがこの歌だ。
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
虫の鳴き声を聞きながらそのうえで寒さを感じている。その中で一人でいることの寂しさも感じる。あの人は来ない。自分は一人でこの霜さえ降る夜の寒さの中にいる。こおろぎの鳴き声はさらにその寒さを感じさせてくれる。美しいが寂しいその鳴き声で。
第九十一首 完
2009・4・6
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