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SECOND

作者:灰文鳥
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第一部
第二章
  第十五話『よく反省しておけ』

 次の日の朝。翠と陽子が二人で教室の出入口にやって来ると、すぐさま幸恵が詩織を引き連れて寄って来た。
幸恵 「二人共おはよー。」
翠  「うん、おはよう。」
陽子 「お、お早う御座います。」
 しかし幸恵は挨拶もそこそこに、廊下に顔を出して翠達と一緒にいる筈のマミとほむらを探した。しかしその二人はいなかった。
幸恵 「今日は二人だけで来たの?」
翠  「ええ、そうよ。」
幸恵 「ふーん。」
 お昼になって四人が学食で食事をしている時、幸恵は何気なく問い掛けた。
幸恵 「今朝はさあ、巴先輩達と一緒じゃなかったよね。」
 それを聞いて翠と陽子はドキッとして固まった。
 (幸恵はマミさんの事を覚えてる。キュゥべえはまだ記憶を消し去っていないのだろうか?それとも…)
詩織 「幸恵、巴先輩って誰?」
幸恵 「何言ってんの、詩織。三年生の学年成績一位の人で、あなたが私に教えてくれたんじゃなかった?ほら、暁美先輩とよく一緒に翠達と登校して来てたあの人よ。」
詩織 「暁美先輩なら知ってるわよ。確かにあの時あなたにそう教えたけど…三年の巴先輩なんて人、私知らないわよ。」
幸恵 「ええ!ちょっと翠、陽子、何とか言ってやってよ。」
 しかし翠と陽子にしてみれば、ここは詩織に便乗して誤魔化さない訳にはいかない所だ。
翠  「ごめん幸恵。私もあなたが何言ってるのか分からないの…」
 それでも幸恵は最後にすがるような目つきで陽子を見た。
陽子 「私にも分からないよ…」
 幸恵は納得がいかなかったが、三対一では分が悪いと思い、ここはこの話を諦める事にした。

  ♢

 静沼中の人気の無い一角で、唯は詠と共にキュゥべえを呼び出していた。そこで唯はキュゥべえから先日のほむらの遅参の訳を改めて聞き出した。
唯  「つまりほむらがすぐ来なかったのは、そのまどかって子の為なんだな?」
キュゥべえ「まあ、そうなるね。」
唯  「でもその子も魔法少女なんだろ、一応は。」
キュゥべえ「まあね。でも僕と直接契約した訳じゃないから戦闘義務とかカースキューブのノルマとかはないし、その代わりに一切の支援とかもしてないんだ。なにしろ、この僕ですらよく分からない存在なんだからね。」
唯  「会ってみたいんだけど、いいかな?」
キュゥべえ「何か新しい問題を起こしたり、わざわざ事を荒立てたりするようなまねは奨励しかねるんだけどね。」
唯  「問題ならもう起きてるじゃないか。俺としては飽く迄も、その解決をしておきたいだけなんだよ。前線で戦う者として後方の憂いを絶っておきたいんだ、君もそう思うだろ?詠。」
 詠には気が乗らない話だったが、自分が行かないと唯が一人で勝手に行って無茶をやらかす事が心配だった。後方の憂いはともかく、詠の気苦労は絶えなかった。
詠  「そうね…」
唯  「ほら!だからキュゥべえ、ほむらの住んでる所を早く教えてくれよ。」
キュゥべえ「やれやれ…分かったよ、教えてあげるよ。」
 キュゥべえは唯にほむらの住所を告げるとその場から去って行った。二人っきりになると、唯がいかにも含み有り気な笑みを浮かべながら詠に言う。
唯  「ところで、詠。君に是非やって欲しい事があるんだけどさあ…」

  ♢

 ほむらは魔法少女になって学校から帰って来た。まどかが心配でとにかく急いで帰って来たかったのだ。そして部屋の前まで来て変身を解いた時、廊下の暗がりから声がした。
唯  「おやおや、魔法少女の力を学校から帰るなんて事の為に使うだなんてねぇ。そのくらい急いで戦場に来てくれてたら、失わずに済んだ命もあっただろうにさぁ。」
 ほむらは声のする方に弾けるように振り向くと、その主に言い返した。
ほむら「何か言いたい事があるなら回りくどい事などせずに、正々堂々と正面からはっきり解り易く言ってちょうだい。」
唯  「はいはい、そうさせて頂きますがね。でもその前に俺だったら、泣いてる御姫様をまず慰めてやるけどねぇ。」
 そう言われてハッとしたほむらは、すぐに扉のノブに手を掛けた。
 〝鍵が開いている!〟
 ほむらは唯を睨み付けながらも、急いで扉を開けると部屋の中へと滑り込んだ。
ほむら「まどか、何かあったの?」
 まどかに声を掛けながら後ろ手で扉に鍵を掛けると、急いで居間へと進んだ。そこにはクッションを抱きながら泣きじゃくるまどかがいて、ほむらの出現と共にその足にすがり寄って来た。
まどか「ほっ、ほむらぢゃん…マミ、マミざんが…死んじゃったって、本当?」
 ほむらは嘘を吐いても意味が無いと観念した。
ほむら「ええ、本当よ。確かにマミは戦いの中で死んでしまったわ。でもそれは魔法少女になった瞬間からの定め、已むを得ない運命なの。その事はあなたも知っているでしょ。」
まどか「で、でもマミざん…ほむらぢゃんの事…待ってて…ほむらぢゃんは私が…補導されて、落ち込んで…それで嘘まで吐いて…ほむらぢゃん、私といてくれて…でもそのせいでマミざん…マミざんは首が取れて死んじゃったって…私の所為で、私の所為でマミざん…ウワ~ン!」
 まどかは激しく嗚咽した。ほむらはそんなまどかをどうしていいのか分からず、抱きかかえて言う。
ほむら「違うの、違うのよまどか。あなたの所為じゃないの。ごめんねまどか、私の所為なのよ。全部私が悪いの。だからお願い、もう泣かないで…お願い…」
 ほむらも最後は涙声になった。ただ二人は寄り添い、泣いた。
 だが、ほむらには決着を付けねばならない事があった。しくしくと泣き続けるまどかに、ほむらは諭すように言う。
ほむら「まどか、私話を付けて来なくっちゃいけない事があるの。だから少しの間だけなんだけど、行って来るね。」
まどか「うん、私は大丈夫だから、ほむらちゃんはする事があったらして来て。」
 まどかはほむらの負担にならないようにと、少し笑顔を作って顔を上げて見せた。
ほむら「すぐ戻るからね。」
 ほむらは念を押すように言うと、立ち上がって涙を拭い外に出て行った。
 ほむらが部屋の扉から出て来ると、壁に寄り掛かって俯いていた唯は、待ってましたとばかりにその顔を上げた。
唯  「鍵はしっかり掛けておいた方がいいぜ。近頃ここいらも物騒だからなぁ。」
 唯はそう言いながら、扉を閉め施錠するほむらのすぐ後ろを通って、その近くにある階段を上がって行った。ほむらは鍵を掛けると無言でゆっくりと唯の後を追った。
 二人は屋上へと出た。唯はほむらに背を向けたまま、頭の後ろで手を組んでいた。
ほむら「それで、あなたの言いたい事って何?」
唯  「いやー、あのまどかって子さあ、ホント可愛いよな。」
ほむら「いいから本題に入って。」
唯  「あんたが可愛がるのはよーく分かるぜぇ。でもよ、可愛がってんならもっとましなもん食わせてやれよな。」
ほむら「…何が言いたいの。」
唯  「俺がさ、マミさんの散り際を詳しーく話してやったらさぁ、ナイーブな彼女はそれ聞いて流しで昼に食べたカップ麺吐いちゃってさぁ。」
ほむら「…。」
唯  「そんでそん時さぁ、俺彼女の背中をよぉ、やさーしくさすってやったんだけどさぁ、そん時の彼女の髪の匂いがまた甘い好い香りでさぁ。」
ほむら「ふざけたいのなら、私帰るわよ。」
唯  「だからさぁ、もしほむらが戦いで死んじまってもよぉ、彼女の事は俺が代わりにしっかり可愛がってやっからよぉ、安心していいぜぇ。」
ほむら「喧嘩でも売っているつもりなのかしら?」
唯  「だったら?」
ほむら「勝てるとでも思っているの?」
 ほむらのその言葉に対して、唯はくるりと振り向き言い放った。
唯  「ああ!勿論思っているさ!なんせ2対1なんだからなあ!」
 その時、ほむらは背後から魔法少女状態の詠が、ボウガンで自分に狙いを定めている事に気が付いた。ハッとするほむらに唯は続ける。
唯  「これは卑怯とかそんな話じゃないんだぜ。これは審問なんだ、あるいは制裁と言うべきかな。だからこっちはハナッから1対1の勝負で決着を付けようなんて思っちゃいないのさ。」
 ほむらは最初に怒り、そして焦り、最後に諦めた。ほむらはまどかの為になら死ねるが、まどかを残しては死ねなかった。
ほむら「どうすれば…いいのかしら?」
 明らかにさっきと違う弱々しい声でほむらは尋ねた。唯はほむらの前で腕を組み仁王立ちしていた。そしてまるでそんな事は自分で考えろと言わんばかりに、目をつぶってリズムを取るように小刻みに頭を揺らしていた。
ほむら「土下座でもして、謝ればいいのかしら?」
 その卑屈感のあるほむらの物言いは唯を狂喜させた。唯は罠に掛かって身動きの出来ない獲物を嬲るように言った。
唯  「いいねぇ、それ。是非ともやって頂こうじゃないですか。」
 詠はボウガンを構えながらも、そのやり方に嫌悪を感じていた。ほむらはゆっくりと膝を突き両手を地面に置くと、こぢんまりとひれ伏すように頭を下げた。そして何か魂が抜け落ちたように言った。
ほむら「申し訳、御座いませんでした。」
 詠はボウガンを構えるのを止めて立ち上がった。しかし唯は止めなかった。小さくうずくまるほむらの背中に片足を乗せると、上から怒鳴り付けた。
唯  「いいか、これは魔法少女としての責務を果たさなかったお前が悪いんだからな!これに懲りたなら、これからは心を入れ替えて義務を果たすようにするんだぞ!」
 詠はボウガンを下ろし二人のすぐ横まで来ると、わざと大きな声で言った。
詠  「唯、私はもう帰るから。」
唯  「詠、ちょっ…」
 詠は唯の確認など取る事なく行ってしまった。残されてしまった唯は、ほむらの上に乗せた足をぎこちなく引っ込めると、最後に捨て台詞を放った。
唯  「よく反省しておけよ!」
 そして詠を追うように、自分も魔法少女に変身してその場から消え去った。
 一人になったほむらだがすぐには動けず、それでも何とか老婆のように立ち上がると、よたよたと歩き出した。壁に体重を預けて擦らせるように伝いながらどうにか自分の部屋の前までやって来ると、まず踏まれた背中を手で払った。そして胸をドンドンと大きく叩いて深呼吸をした。おもむろに鍵を取り出して扉の錠を外すと、もう一度ドンドンと胸を叩いてから扉を開けた。部屋の中に入るとすぐに鍵を閉めた。そして更に深呼吸をしてから、それでも涙声になってしまいながらも言った。
ほむら「まどかー、大丈夫?」
 まず手を洗いそれから居間に入ると、まどかは泣き疲れてソファーで眠っていた。ほむらはそのまどかの寝顔をとても優しい表情で見ると、少しだけまどかの髪に触れ僅かに微笑んだ。そしてそのソファーの下に座り込むと、ほむらは静かにむせび泣いた。
 窓から差し込む夕日が居間の床を照らしていた。そこにキュゥべえの影が映っていた。
 
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