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SECOND

作者:灰文鳥
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第一部
第二章
  第十三話『それくらいの責任』

 いつもの公園にほむらと翠と陽子が、魔獣狩りの為に集まっていた。そこへマミがやって来て言った。
マミ 「みんな、ちょっといい。新しい仲間を紹介するわね。春歌さん、こちらにいらして。」
 すると街灯の陰の暗闇から、詠が現れた。
詠  「どうも初めまして、春哥詠と申します。静沼中の二年生です。皆さん宜しくお願いします。」
 緊張気味の詠が頭を上げると、翠と陽子の姿が目に映った。二人があの時マミと一緒にいた子だと詠が気付くと、同様に翠と陽子もあの時マミに会いに来た人だと気付いた。
翠  「あっ、あの時の人ですよね。」
詠  「ええ、あなた方もやっぱりそうだったのね。」
翠  「はい、私は見滝原の一年で葉恒翠って言います。翠って呼んで下さいね。」
陽子 「私も翠ちゃんと同じクラスで空納陽子って言います。陽子でいいですよ。」
詠  「そう…」
 詠は何だか感慨深げに一旦目を閉じると、おもむろにそれを見開いてから続けた。
詠  「…それなら私も詠でいいわ。えーと、それで…」
 そして詠は暗にほむらに自己紹介を催促した。ほむらは髪を手で梳いてから答えた。
ほむら「私は見滝原二年で暁美ほむらって言うの。ほむらでいいから、宜しく。」
詠  「そうですか、皆さん見滝原の方なんですね…」
マミ 「通っている学校なんて関係無いわよ、春哥さん。それでは早速、春哥さんの初陣といきましょうか。」
 そして五人は魔獣空間の中に魔獣狩りへと繰り出して行った。

  ♢

 翌日、詠は普通に登校して来た。詠達の教室はとても落ち着いていて、まさしく平穏無事という体であった。唯は詠とクラスの雰囲気が急に変わった事に違和感を持った。休み時間になると唯は詠を教室から連れ出して問いただした。
唯  「一体どうなっているんだ!まるで事件自体が無かったみたいになってるけど、これが君の言った当ての効果なのか?」
 詠は唯が事件の事を覚えていた事に少し動揺したが、やはり当事者ともなると完全には記憶を消せないものなのだと自分を納得させ、あえて落ち着き払ったように言った。
詠  「ええそうよ。だから言ったでしょ、悪いようにはしないって。とにかくこの問題はもう解決したのだから、あなたも早く忘れてちょうだいね。」
 詠にそう言われたものの、唯はやはり納得出来ない。唯はクラスメイトの一人に尋ねてみた。
唯  「なあ、あの事件の事なんだけどさぁ…」
生徒 「事件って?」
唯  「ほら、この学校の近くで起きた殺人事件の事だよ。」
生徒 「はあ?殺人って…何言ってんのか分からないよ。」
唯  「そっそうか、すまん…」
 唯は助かったと安心する以上に、何か得体の知れないものに触れたような気がして不安になってしまった。

  ♢

 朝、登校するほむらは玄関でにこやかにまどかに言った。
ほむら「それじゃあ学校に行って来るね、まどか。カード置いて行くから、それを使ってお昼に好きな物食べてね。」
まどか「うん、ありがと。いってらっしゃい、ほむらちゃん。」
 まどかも笑顔で応えほむらを送り出すが、戸が閉まるとすぐに表情が曇った。まどかは朝食の後片付けを済ますと洗濯や掃除を始めるが、それはすぐに終わってしまった。やる事も無く、虚ろな瞳でテレビを見ているとお昼の時間になっていた。まどかはカップ麺を一つ取り出すと、お湯を沸かしてそれに注いだ。そしてカップ麺が出来上がると手を合わせ一礼した。
まどか「ほむらちゃん、頂きます。」
 蓋をゆっくりと剝がして食べ始める。そして食べ終わるとまた手を合わし一礼をする。
まどか「ほむらちゃん、ご馳走様でした。」
 そして再び、まどかはする事が無くなってしまった。まどかはソファーでぐったりとしてボーッとテレビを見ていた。そこへ突然、マミから電話が来た。
マミ 「もしもし、鹿目さん。私、巴マミだけど分かる?」
まどか「はい勿論です、マミさん。ええっと、まだほむらちゃん学校から帰ってませんけど、何かご用でしょうか?」
マミ 「うんうん、別にほむらに用って訳ではないの。あのね、組み立て式の小さなラックが余っているんだけど、あなた要るかなぁって。ほらこの前、あなた達先に帰っちゃったでしょ。私達あの後、家具とかも見て回ったのよ。」
まどか「あの時は、本当に申し訳ございませんでした、マミさん。」
マミ 「うん、それはもういいわ。それよりどお、必要かしら?」
まどか「はい、正直あると助かります。」
マミ 「そう、それなら今からそちらえ持って行くわね。いいかしら?」
まどか「えっ、はい。お願いします。」
マミ 「ではこれからお邪魔するわね、じゃあ。」
 ホームセンターの中にいたマミは、携帯を切ると近くにいた店員に声を掛けた。
マミ 「すみません、この組立式のラック頂けますか…」

  ♢

 程なくしてマミがやって来た。平たい大きな段ボール箱にビニール紐がたすき掛けられ、そこに取っ手が付いた物を持っていた。それはまるで今買って来たばかりにも見えた。
 とても運びにくそうなそれを持って来てくれてまどかはすまなく思ったが、それ以上にマミの来訪が嬉しかった。
まどか「マミさんいらっしゃい。今、お茶入れますね。」
マミ 「待って、それより先にラックの組み立てをしてしまいましょ。」
 二人は居間でラックを組み立てながら話し始めた。
まどか「今日、学校早く終わったんですか?」
マミ 「ええ、私は三年でしょ。だから今、進路面談とかの関係で早く帰れるのよ。」
まどか「そうなんですか。それでマミさんはどうなさるおつもりなんですか?」
マミ 「う~ん、そうねえ。また何食わぬ顔で三年生をするか、それとも一年生からやり直すか…違う学校に行くって手もあるわね。そうだ静沼中にでも行こうかしら。」
まどか「ははっ、マミさんって一体どれくらい中学生をやっていらっしゃるんですか?」
マミ 「そうねえ、随分長く中学生をしてるわね。おかげでもう中学生のプロみたいなものよ。」
まどか「それじゃあもう、テストの苦しみなんて無いんでしょう?」
マミ 「そうねぇ、テストはいいんだけど、同じような授業を何度も受けるのは結構辛いものなのよね。」
まどか「恋愛とかはあったんですか?」
 まどかは軽い気持ちで聞いたのだが、マミは手を止めて顔を伏せ声のトーンを下げた。
マミ 「そんな事をしていたら、とても持たないわね。」
まどか「…あの、すみません。私、余計な事聞いちゃって…」
マミ 「いいのよ、別に…。ただ恋をしている子って、みんな短命なのよね。」
 まどかはすぐにさやかの事を思い出した。この世界でも魔法少女と恋愛は相性が悪いようだった。気不味い沈黙が訪れたが、すぐにラックが組み上がったのでまどかはその沈黙を破った。
まどか「出来ましたね。今お茶入れてきます。」
マミ 「そう、ありがとう。」
 マミは辺りに散らばったゴミを集めながら、余ったボルトを摘み上げると、何気なくそれをポケットに入れた。まどかは予め用意していたので、すぐにお茶を持って来た。
まどか「マミさん、片付けは後で私がやりますから。」
マミ 「ええ、でも私って散らかってると気になっちゃう方だから。」
 まどかは急須から日本茶を湯呑に注ぎながら言った。
まどか「お茶請けが花梨糖しかなくってすみませんね。」
マミ 「あら、私、花梨糖って好きよ。やっぱり日本のお茶には和菓子が合うわよね。」
 マミは自分を落ち着かせるかのように、お茶を一口飲んだ。
マミ 「ねえ、鹿目さん。」
まどか「はい?」
マミ 「この間聞いた質問を蒸し返すようなんだけど…前の世界と今の世界とで違う所ってどんな所かしら?」
まどか「ええっと私が知る範囲では、今と比べると前は魔法少女の敵が魔獣じゃなくって魔女って所と、それと魔法少女が魔力を使い果たすと円環の理に導かれるって事かな。」
マミ 「前の魔法少女は力を使い果たすとどうなったの?」
まどか「それは…」
 まどかは何となく言いたくなかった。しかしマミに隠し事をするような真似はもっとしたくなかった。
まどか「前の世界の魔法少女は願いと引き換えに肉体から魂をソウルジェムに移されるんです。そしてソウルジェムからの魔力で骸となった自分の体を操って戦うんです。魔力を使う度にソウルジェムは黒く濁って行きますが、魔女を倒すとグリーフシードという真黒なソウルジェムみたいな物が手に入って、それにソウルジェムの濁りを吸い取らせてその輝きを維持させるんです。そして、濁りを吸い切ってもうこれ以上吸えなくなったグリーフシードはキュゥべえが回収します。」
マミ 「なるほど、この世界のカースキューブに当たるのが、そのグリーフシードって物なのね。」
まどか「でもグリーフシードによる回復がままならなくなってソウルジェムがその輝きを全て失うと、ソウルジェムはグリーフシードとなりその魔法少女も魔女になってしまいます。」
マミ 「それって…」
まどか「はい、魔法少女は魔女の素、魔法少女のなれの果てが魔女なんです。だから前の世界の魔法少女は自分達の先輩と戦っていたんです。魔女は呪いの塊となり人々に害をなします。でもその呪いは人を救いたいと願った祈りの代償なんです。」
マミ 「…」
 マミは沈黙し、自分の湯呑を見詰めた。そして暫く考え込んだ後、お茶を一気に飲み干して言った。
マミ 「ねえ、鹿目さん。あなたのソウルジェム、また見せて頂けないかしら?」
まどか「えっ、あっはい。構いませんよ。」
 まどかは服のポケットからソウルジェムを取り出すとマミに渡した。
マミ 「透かして見てもいいかしら?」
まどか「ええ、どうぞ。」
 マミはポケットから先ほど入れたボルトをそっと手に忍ばせると立ち上がり、背後にある窓の方を向いた。太陽光にソウルジェムをかざし、キラキラと輝くその中身を確かめた。
まどか「私の本体ってそのソウルジェムの方なんです。だから私、ソウルジェムが遠くに離れるとただの死体に戻って動けなくなっちゃうんです。勿論ソウルジェムが壊れれば完全に死んでしまいます。」
マミ 「そう…」
 マミはソウルジェムを眼前で見るふりをして両手で包むと、ボルトと一緒に強く握り締めた。手の中でボルトをジェムに擦り付けるように何度も強く握った。
まどか「…マミさん?」
マミ 「あっ、ごめんなさいね。とっても綺麗なものだから、つい見入ってしまったわ。」
 マミはソウルジェムを丁寧にまどかの手に持たせながら言った。
マミ 「こんな大切な物を、もう他人に渡しては駄目よ。」
まどか「…」
マミ 「ああそうだ。私、進路面談用の書類を書かなければいけなかったんだわ、すっかり忘れる所だった。じゃあ私これでおいとまするわね。」
 やや大仰にそう言うと、マミはそそくさと玄関へ行き靴を履き出した。それを追うようにまどかも玄関に見送りに来る。
まどか「マミさん、今日はラックを持って来て下さってありがとうございました。」
マミ 「いいえ、どういたしまして。では、またね。」
まどか「はい、またお会い出来る事を楽しみにしています。」
 どこか取り繕ったような笑顔を残して、マミは去って行った。玄関の戸が閉まると、まどかは呟いた。
まどか「やっぱりマミさんは責任感があるよね、この世界を守る為になら何でもするんだもの…」
 ほむらのマンションを出たマミはポケットからボルトを出すと、そばの植え込みの根元にそれを忍ばせるように捨て、去って行った。

  ♢

 唯は自宅でインターネットを使って事件の事を調べてみたが、何も情報は得られなかった。そしてため息を一つ吐くと、家を飛び出した。唯は事件現場の最寄りの交番を訪ねた。
唯  「あのー、すみません。この近くで中年の男性が石で頭を殴られて死亡した事件ってありませんでしたか?」
警官 「さーあ、私もここに配属されたのは割と最近だからねぇ。古株の人なら何か知ってるかもしれないけど…」
唯  「いえ、つい数日前の事なんですけど。」
警官 「ハハハ、そんな大事件は無かったねぇ…」
 苦笑する警官に一礼をして、唯はその場を立ち去った。唯が当ても無く街を彷徨っていると、偶然マミを見掛けた。マミを見た唯は頭に手をやって呟く。
唯  「あの人…会った気がする…確か…あの日…」
 唯はマミの後を付ける事にした。
 陽の落ちた公園に、ほむら、翠、陽子、詠の四人が集まっていた。そこへマミがやって来る。
マミ 「ごめんなさいね。今日進路面談があって遅くなっちゃったの。」
ほむら「そんな嘘を吐かなくてもいいわ、時間的にはまだ早い方だし。それよりマミ、ラックを有り難う。でもね、私がいない時を見計らってまどかに会うのは止めて貰えないかしら。」
マミ 「あら、見計らうだなんてそんな。私はただ…」
ほむら「いいから、もう止めて。」
 マミは微笑みながら胸に片手を当て、もう一方の手でスカートの端を摘み上げると、軽く膝を曲げお辞儀をして答えた。
マミ 「はいはい、仰せのままに。」
 そして五人は魔獣結界の中へと消えて行った。物陰に隠れていた唯は、消えた五人がいた場所に慌てて駆け寄って行った。しかし、そこには何も無かった。
唯  「あれは確かに詠だった…それにしても彼女達は一体…」
 唯は辺りを見回し、そして地面を調べた。しかし変わった所などどこにも無かった。
キュゥべえ「何かお探しかな?」
 突然の声に、唯は驚いた。

  ♢

 魔獣空間の中で、詠は先陣を切って生き生きと戦っていた。質も量も中程度の魔獣達は瞬く間に殲滅されてしまった。戦いが終わり、魔法少女達が集まる。
マミ 「春哥さん、あまり無茶をしないでね。チームワークも大切だから。」
詠  「マミさんすみません。でも私、とっても嬉しくって。何て言うか、こうして魔法少女として戦っていると開放感があって、それでつい。」
ほむら「それは少し危険な事だわ。早く落ち着いて欲しいものね。」
詠  「そうなんですか…これからは気を付けます…。」
 その時、五人とは別の大きな声が響いた。
唯  「やっぱりこの間の事は現実だったんだ!」
詠  「唯!?」
 詠は唐突に現れた唯に、思わず声を上げてしまった。唯はその声に反応して詠の方を見た。
唯  「詠、これが君の言っていた、当てって奴なんだな。」
 唯はそこにマミも見つける。
唯  「詠の隣の人さあ、あんたはこの前俺達を助けてくれた人なんだろ。礼を言うぜ、あんがとな。」
マミ 「いえ、どういたしまして…」
 さすがのマミも唯のキャラクターにはどうしていいのか判断が付きかねた。翠と陽子に至っては軽く怯えてる始末だった。
唯  「じゃあさ、キュゥべえ。俺もなるよ、その魔法戦士って奴に。」
 のこのことキュゥべえが現れた。五人はキュゥべえを恨めしそうに睨み付ける。
キュゥべえ「魔法戦士じゃなくって魔法少女だよ。それで君の叶えたい願いは何なんだい?」
唯  「そうだなぁ、大金持ちになるとか不老不死とか、そんな願いはどうなんだ?」
キュゥべえ「まあ、僕は構わないけどね。そういった願いを持つ子はそもそも魔法少女になる資質が無いようでね、今までにその類の願いを叶えた事は無いんだよ。それとも君がその手の願いの第一号になってみるかい?」
唯  「なんだかそれってカッコ悪いよなぁ。俺、カッコ悪いの好きくねぇんだよな。」
 ほむらは唯の言動に嫌悪感を抱いていた。相手の為ではなく、ただ仲間として受け入れたくないという理由で、ほむらが人を諫めるのはこれが初めてだった。
ほむら「言っておくけど、カッコの良し悪しなんて気にしているのなら、魔法少女になんてならない方がいいわよ。」
唯  「あん?」
 唯はほむらの方を睨んだ、ほむらも唯を睨んでいた。唯は暫くほむらと睨み合った後、視線を外して軽く横に首を振った。
唯  「ところでさあ、詠はやっぱ、あの事件の解決を願ったのかよ。」
詠  「ええ、私は今の自分を取り巻く全ての厄介事を、無くして欲しいと願ったのだけれども…」
 詠は歯切れが悪かった。当てが外れたような、落胆が混じったような物言いだった。
唯  「あのおっさん、生き返ったのか?」
詠  「いいえ。死者を蘇らせる事は無理なの。だから自然死とか事故死って事になって、みんなの記憶もメディアの記録も書き換わったみたいなの。」
 詠の突然の物騒な話に、マミを除く他の三人の魔法少女達は驚いて詠の方を見やった。
唯  「じゃあさ、あのおっさんの家族って生活とかどうなってんだ?」
詠  「それは…知らないけど…」
キュゥべえ「まあ保険は下りたようだけど、一家の大黒柱を失ったんだからね。子供もいるし、あんまり経済状態は良くないんじゃないのかな。」
唯  「そうか、親父がろくでなしでも子供には責任ねーよな。よし、決めた。あの死んじまったおっさんの家族の生活を良くしてくれよ。それが俺の願いだ、駄目か?」
キュゥべえ「…僕は構わないけど、本当にそれでいいのかい?」
 唯は下を向いて、押し出すように言った。
唯  「ああ、それくらいの責任は…あるだろうからな。」
キュゥべえ「どうやら本気のようだね。それじゃあ契約は成立という事で…」
 そして唯はもがき苦しみ出した。だがその通過儀礼が終わると、魔法少女に変身して子供のようにはしゃぎ出した。学ランに似た服装に日本刀のような武器を振り回すその姿は、まるで修学旅行で木刀を買って遊ぶ馬鹿そうな男子生徒のようだった。その様子を見て詠は大きなため息を吐いた。
 
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